DNAに惑わされ 40
さてこのDNAのお話し意外といろんな場面が絡み合ってるんですよね。
舞ちゃんカップルに間違われて写真を撮られたり、駿君CMに出たり、そこにあきらくんが事務所の社長として登場して
駿君モデル業に絡んできたりそこからの流れの鮎川パパの翔五郎さんとのつながり。
覚えてます?
覚えてない場合はDNAで苦悩するからの復習を推奨させていただきます。
そう言ってる私も読み返してしまった・・・(;^ω^)
いつもと変わりない朝。
「おはよう」と飛び交う声は無駄に元気だ。
その声を上回る明るさで教室に現れた蒼は直ぐに機嫌のいい笑顔を僕に向ける。
「昨日はあれからどうしたのかな~駿君」
背中から肩に回して密着してきた蒼が耳元で声を潜める。
「ただ送っただけだよ」
ファーストフォード店から鮎川を送っただけの短いデート。
「えーーーっ、せっかく二人きりにしてやったのになんにもなしかよ」
あのなっ!
何を期待してるんだか。
「あっても、しゃべるわけないだろう」
「なんかあったのか?」
興味本位の表情は期待を込めた瞳で遠慮なしに僕を見つめてくる。
「別れ際のキスとか、抱擁とかさ」
蒼は自分の腕で自分をギュッと抱きしめて瞳を閉じて口をつきだす仕草を僕に見せる。
「勝手にやってろ」
丸めたノートでポクッと軽く蒼の頭を殴った。
「いい音、大丈夫蒼君?」
屈託のない笑みを浮かべて鮎川が僕らに交わる。
いつからだろう。
鮎川が感情を素直に見せるようになったのは。
たぶんそれはまだ限られてた手にだけってことはわかってる。
それでも鮎川が笑顔を見せる機会は確実に増えてきたって思う。
ついでに鮎川のファンも増殖してるっておまけが付いてきてる。
元から人気はあったけど他人を寄せ付けない雰囲気の鮎川は大人びて高校生には近寄りがたくて遠くから眺めてるやつらが大半だったはずで・・・
それが、最近はどうだ。
青葉みたいなやつが鮎川の周りをうっろちょろしてるから僕の悩みも増えてる気がする。
「鮎川、本当に何もないの?」
「何もって何?」
「だからさ、駿とさ」
そう言ってまた自分を抱きしめる仕草を再生中の蒼を形が完成する前に僕はもう一発丸めたノートで殴った。
さっきより一回りいい音が教室に響き渡る。
「暴力はだめだぞ~」
お前のも言葉の暴力、セクハラだぞ。
「あのさ、これ」
くすっと笑ったままの鮎川が僕に差し出した四角い封筒。
「え?ラブレター?」
手元を覗き込む蒼に見るなと無言の威嚇。
「お邪魔しました~」
おどけた声を残して蒼は別なクラスメートの中に入っていった。
「これ何?」
「パパから頼まれたの。駿君に渡せって」
ノ糊付けの封筒の中には二つ折りの招待状。
開いた中には完成披露パーティーのご招待の文字。
しっかりと道明寺 駿の文字が印字されてる。
「これって・・・」
鮎川の親父さん櫻井翔五郎監督の映画最新作。
頼み込まれてちょっとだけ出演させられた。
すっかり忘れていた初出演作品。
もう二度とカメラの前に立つってことはないって思う。
CM出た時でさえ大変だった。
似てるねって声に、よく間違えられるって答えられるようになるまで半年はかかった。
「主役より存在感があるってすごく評判がいいんだって」
「出番は削ったんじゃなかったのか?」
美作のおじさんがうまく手回ししたって聞いていた。
騒がれるのは道明寺 財閥御曹司の駿であって今の僕じゃない。
静かに高校生活を送るのが今の僕の望み。
「完成した映画は私も見てないからわからないけど・・・」
「パパの映画ってあんまり興味なかったけど今回は見たいかも。
それに、君が行ってくれなきゃ、困るんですけど」
いたずらっぽく微笑む鮎川。
「私も行くことになってるから、駿君が行かないとつまんないし」
お願いとつぶやく鮎川を振りほどけるほど僕は強くない。
このパーティー、僕を知ってる顔が一つ二ついてもおかしくはないって思う。
僕の正体をばらされるのは最小限にとどめたい。
美作あきらこと事務所社長に連絡を取って手を回してもらわなきゃな。
そんなことを考えながら鮎川には「一緒に行こう」と返事をした。