PHANTOM 12
道明寺HD本社ビル最上階からの逃亡劇。
捕まれば生命の危機。
手に汗握る攻防戦。
タイムリミットまで秒読み開始。
あっ・・・そんな緊張感もってるの司君だけだった・・(;^ω^)
「代表」
一歩足を横に身体をスライドさせた西田ともう少しで激突するとこだった。
「俺を止められると思ってるのか」
「止めようとは思ってません。
つくし様に頼まれましたから形だけです」
そう言いながら澄ました表情は今だに俺の目の前。
「どけ」
時間のロスはほんの数秒。
俺が西田を腕で払いのける一歩手前でくるりと背を向けた西田は自分のデスクにもどり何やら電話をかけ始めた。
拍子抜け・・・。
つーか早くあいつを追いかけなきゃ姿を見失ってしまう。
執務室を出て向かったエレベーター。
エレベーターが動いてる形跡はなし。
エレベーターに乗ると見せかけるならどこでもいいから階数を押して動かしておけよ。
残るは非常階段だとすぐにあいつの考えが読めた。
ポケットから取り出した携帯を鳴らす。
かすかに聞こえる呼びだ音。
空調の風の音に乗って聞こえてくる。
ガチャリとドアを開けたその先に廊下からの光がかすかに差し込む。
非常灯の薄明かりに浮かび上がった一階下の階段を駆け下りようとする姿。
ドアの開く音に気が付いて振り返った表情は焦ったまま俺を見つめる。
「追いかけてこないでよ」
「てめぇが逃げるからだろうが」
2つ飛ばしに階段を駆け下りる俺。
わずかだがつくしとの距離は詰めてる。
逃がすか。
階段の柵を腕でつかんで勢いよく両足で飛び越えてつくしの目の前にひらりと着地。
「あっ・・・」
驚きの表情が「すごい」と感嘆の声を漏らす。
運動神経はいいんだよ。
「見せろよ」
「今見せたら今までの苦労が水の泡なの!
時期が来たら見せるって、道明寺にも関係ある大事なものなんだから」
「そんな時期は一生こねぇよ」
離婚届見せられたらびりびりに破いてやる。
「一生こないって・・・」
思案気味に眉間に寄せる眉。
「ねぇ?何か勘違いしてない?」
「はぁ?勘違いもくそもあるか!俺はこの目で見たんだからな」
「見たって何を?」
「だから、お前がッ」
「お前が?」
「ほら、ここ数日元気なかったって言うか悩んでたろうがぁ」
そして昨日は離婚届を眺めてつくため息。
おかしいって気が付かないほうがバカだろうが。
「気づいてたんだ・・・」
意外そうな表情は嬉しそうに微笑む。
そうだ俺はお前が思うよりお前のこと見てるんだぞ。
だから今すぐに離婚届を俺の前でいらないと破けよ。
「でも、もう少し待って」
ガチャリという音が壁際から響いてそっと扉が開いた。
その隙間から覗き込む顔が一つ。
俺が誰だか気が付いたように顔色を変えて「あっ」の口の形のままで固まった。
「ごめん」
ドアの前に立つ男性社員をすいませんと押しのけてつくしが逃げた。
この野郎、なんで逃がす。
つくしを止めるくらいの配慮はねぇのか。
「邪魔だ」
「え?」
「どけっ!」
「ひゃー」
頭のてっぺんから飛び出す悲鳴。
そのまま床にしりもちをつく社員。
すげー邪魔。
助走をつけてそいつを飛び越した。
今日は何度スタントマン並の動きをさせる気だ。
筋肉痛になったらどうする。
つくしまでの距離10メートル。
相変わらず逃げ足だけは早い。
俺が走ればあいつが走る。
ギャーとか叫ぶんじゃねぇよ。
何事かと立ち止まって俺たちを見つめる視線。
「代表・・・」
「きゃー、うそ、走ってる」
別に俺が走ったからって珍しくもねぇぞ。
犬が二足歩行で走ってるような驚きの表情が連なって俺たちを見送ってる。
左に曲がって一瞬つくしの姿を見失う。
この階のつくりはどうなってる?
ほとんど最上階とつくしの事務所とエントランス程度の位置情報しかわからない。
この先が行き止まりならつくしは袋の鼠。
「おい、いつまで世話を焼かせるつもりだ」
角を曲がった先でつくしに向かって大きく声を出す。
返事のないままに誰もいない廊下が長く伸びてる。
まっすぐ先には開いた窓。
え?
いない・・・
左右には扉のしまった部屋がいくつか規則的に並んでる。
あいつ・・・
どこ行った?