十六夜の月は甘く濡れて 14

つくしちゃん類君に押し倒されているんですけど・・・大丈夫かな?

私ならドキドキしすぎて鼻血ものです。

司に見られなきゃいいけど・・・(;^ω^)

*

「ここまで、司が静かだと不気味だよな」

テーブルをはさんで3点のソファーに腰を下ろして黙ったままこいつらの話を聞いた。

怒鳴りたくなるのをぐっと押さてればその言いぐさ。

類の偽物?

そんな奴いるか?

類の偽物を仕立ててそいつに牧野を誘惑させて俺と別れさせる計画。

現実味がないつーか成功率低すぎだろう。

捉えてる類そっくりの男をみてその企みが本当なんだと納得できた。

クルージングのパーティーで牧野を誘惑した類は本物。

ここで主犯がわかればそれで事件は解決して牧野が連れさられることはなかったと説明されて納得できるのか?

出来ねぇよ。

船の中で牧野と類を見た瞬間。

頬を染めて類を見つめる牧野と愛しそうに見つめる類。

あいつら抱き合ってたんだぞ。

全身の血が逆流する感情は抑えようがなかった。

類が牧野を好きだと俺に宣言したあの日の俺は・・・

あいつに別れを切り出していた俺は・・・

牧野と距離が類よりも遠くて。

それでも、牧野とやり直せると信じてた。

その時の不安な思い。

蒸し返された気がして・・・

それが許せなくて・・・

牧野にそのいらだちを全部押し付けた。

過去の自分の過ちを認められるほどまだ大人じゃない。

それをあいつは全部受け止めてくれるから甘えてるのは俺かもな。

あいつら、まさか俺が見てるの知ってた?

だからあの時も牧野は抵抗も見せずに俺を受け入れたのか・・・。

それじゃ俺が一番バカじゃねぇか。

「もしかして、牧野も知ってたのか?」

返答次第じゃこいつらも容赦しない。

「そんなわけねぇだろう」

「すぐ感情が顔に出る牧野に演技なんて無理だ。ついでに司にもな」

「まあ、類が牧野を本気で口説いていたのか演技なのかはわからないけどな」

「あいつが俺を裏切るわけねぇだろう」

「あいつって、牧野?類?」

「どっちもだよ」

こいつらの喋りは俺を煽る。

それにつられるように自然と口調が激しくなる。

「おっ、いつもの司だ」

落ち着けっと俺をいつも抑えながらイラつかせんじゃねぇよ。

そう思いながらも正直本気じゃ怒ってない俺。

こいつらのやり取りが意外と俺を冷静にさせてくれるから不思議なものだ。

「で、司心当たりあるのか?」

「なにが?」

「何がって、さっき説明したろ」

「相手の正体はわからないがお前に彼女を取られたって息巻いてる感じだったらしいぞ」

「お前らならありふれた話だろうけど俺は牧野以外に興味を持った記憶はねぇよ」

「だよな」

簡単に納得する総二郎とあきら。

俺に確認すること自体が時間の無駄。

「勝手に女たちが勘違いして彼氏をフルってこともあるからな」

腕組みをしたまま考え込む素振りをあきらが見せる。

「司の場合は勘違いさせるような態度も取らないって思うけどな」

深くソファーに腰かけて優雅に背中を背もたれにもたれかける総二郎。

「つーことは勝手な思い込みってやつ?」

「一番厄介なんじゃねぇ。

相手絞りけれねぇぞ」

行き着いた結論に二人が身を乗り出して顔を突き合わせた。

勝手に結論付けんじゃねぇよ。

「おい、類から連絡が来たぞ」

受信したメールには一枚の写真。

水平線の映る画像はきらきらと海が輝くのどかな景色。

「ここにいるってことか?」

「これだけじゃわからないぞ」

「今は結構便利な機能が付いていてな、画像で撮影された位置が正確にわかるんだよ」

あきらがスマフォを操作して目の前に差し出した画面。

写真の位置は都道府県だけじゃなく番地までしっかり確認できる。

「半径200キロ程度だとは思っていたけどな。

ここから相手を探るか」

こともなげに言ってあきらはシャツのポケットに携帯をしまい込んだ。

「司、まだ動くなよ」

帰り際俺に釘をさす口調で総二郎がつぶやく。

お前の指示に従う俺じゃねぇよ。

さて、ここからどう動くか・・・だな。