DNAに惑わされ 42
さて、最後の一番いい場面。
ここでは駿君の正体が青葉君にばれちゃっう!ってところでしょうか。
ばれるのかな?
さてその時の青葉君の反応はどうかな~。
「もう遅いんじゃないの」
「どうみてもあれは駿君呼んでるよね?」
壇上で右手を上げてクイクイと手招きしてる素振りの監督。
その手の先を折って首を後ろに向ける観客の視線はそのまま点を結んで一直線上に流れてる。
そう・・・僕の前まで。
「鮎川を呼んでるんじゃないの?」
耳元でつぶやく悪あがき。
「うちのパパ家族のことはそこまで世間に吹聴しないから」
近くの係員がしっかり僕のそばに寄ってきて「監督が壇上にとおっしゃってます」と直ぐ様僕の横で人ひとり通れる道を確保してる。
混雑で前に行けないなんて理屈は通りそうもない。
ここにとどまってるのも周りの注目と誰?だと僕の正体を気にする会話がちらちらと聞こえて来た。
「これって、もしかして鮎川のそばいる僕への監督の意地悪とか?」
「そうかも・・・」
クスッと笑った鮎川は余裕たっぷりに微笑んで僕の背中を押し出す。
「帰ったらしっかりパパに文句言っとくから」
「それじゃ遅い」
数歩歩く僕の背中に感じる鮎川の視線。
振り返ると余裕のある表情が少し不安そうに変わってがんばれって唇が動くのが読み取れた。
がんばれってどう頑張んだよ。
鮎川から離れたくない衝動。
このまま離れた場所に鮎川を一人にしておくのは気が気じゃない。
青葉もこの会場にはいるから油断できない。
制服以外の鮎川を見たいのは初めてじゃないしドレスアップ姿の鮎川を見たのも初めてじゃない。
鎖骨の見えるオーロラビジューの装飾で縁取る、広く開いたダイヤモンドライン。
華奢に印象つけるワンピースドレス。
シックな黒の色合いがいつもよりもまた大人びた印象。
長く伸びた足にヒールを履いた鮎川は並んだ僕にはちょうどいい高さ。
気まぐれに僕に甘い香りを降りそそぐ。
その香りは両手で手繰り寄せて何度もその香りを嗅ぎつくしたいと思ってしまう。
鮎川の温もりを直に感じたくて抱きしめたいって、何度思ったことだろう。
今日、鮎川を見た瞬間から浮き上がってる高揚感。
どれだけ冷静さを装うのに全神経を集中させたって思ってるの。
この会場にいるどの女優にも負けない煌びやかなオーラを鮎川ももってる。
一人にしておけないって思うのも自然な感情。
伸ばした腕は鮎川の手を取って、そして手のひらをつなぎ合わせた。
「なに?なんなの?」
「一人で置いておくと心配だから」
「子供じゃないわよ」
「子供じゃないから心配するんだろ」
つないだ手のひらにしっとりとした汗を感じてる。
緊張感が手の力をしっかりとしたものに変えて離れないようにグッと鮎川の手を握りしめてる。
「壇上のそばまででいいから、上がりたいなら壇上に上がってもいいけど」
「上がれるわけないでしょう」
ちょっぴりと非難気味な声。
それでも僕から離れようとはせずに素直に後ろをあるく鮎川。
壇上では主演者のインタビューが始まってた。
壇上横の階段の前でようやく鮎川と向き合う。
「僕の目のつくとこにいろよ」
「珍しく強引だね」
少しはにかんで見せる笑顔。
今日初めて鮎川より余裕のある自分。
このまま壇上に上がったらもったいない気がしてる。
鮎川が動揺するとこ、感情が素直に動く瞬間が見たいって思う悪戯心。
「ごめん、言ってなかった」
「ん?」
どうしたのってきょとんと見つめる表情は無防備に微笑む。
わずかな沈黙にドキンと心音が高鳴る。
それでも、いつもなら照れ臭くて言えないような言葉が自然と言葉になった。
「菜花、綺麗だ。
言ってなかったろ?」
そのままくるりと背中を向けて壇上を駆け上がる。
言った後から照れ臭さと達成感がせめぎあって急激に体温が上昇してるのがわかる。
鮎川の反応は舞台の上から確かめて見たい。
強がってみても今すぐに鮎川を見れそうもない。
今更弱すぎだろっ。
監督の後ろ、背中に隠れる位置に立つ。
出演者に主点を合わせたインタビュー。
明るく照らすライトは舞台中央を浮き上がらせるように照らす。
これなら今のとこ僕が注目を浴びることはないって思う。
「おい、娘に悪さしてねぇだろうな?」
顔を横に向けて小声の監督。
悪さって・・・
それを聞くためにだけに僕を壇上にあげたとか?
ドキッとした僕の目の前で監督の横顔がフッと小さく笑みを漏らす。
「駿、お前が出ていた場面、泣くなくカットするつもりだったんだが・・・
俺もプロだからな。圧力に負けてしょうもねぇ映画にはしたくなかったから。
お前、主役食ってるぞ」
え?
それって・・・
僕が出てるってわかるってこと?
僕の出てるとこはカットってことで事務所との話し合いはついてたんじゃないの?
壇上下一番前の席には美作のおじさん。
許せ。
そんな言葉を表情に貼り付けて僕を見つめる。
悪びれてない表情の美作のおじさんのこの余裕。
メディアに取り上げらるのは悪くないとか納得してそうな父さんの顔が浮かぶ。
美作のおじさんなら父さんを丸め込むのも苦じゃないだろうし・・・。
壇上に呼ばれてる時点で逃げるべきだった。
パーティーの前に終わってる試写会。
見られてると思ったのは気のせいじゃなくて試写会のあとの出演者としての注目度。
これだったんだ。
小さいころから見られることになれ過ぎての勘違い。
道明寺司の息子じゃなくて、芸能人としての僕だったんだ。
鮎川が招待状を僕に持ってきた時点で僕を壇上に祭り上げる事は決まっていたのだろう。
もう二度とCMも映画も出ないって言ってたんだぞ。
急速に頭の中をいろんな考えが渦を巻く。
そんな僕の前で監督がマイクを握ったのが見えた。