PHANTOM 14

一番人の入れ替わりが多いであろう道明寺HDエントランス。

以前の作品でコーヒーショップを入れてたような気が・・・(うろ覚えですいません(;^ω^) )

コーヒー飲むのも忘れて見られてる気がする。

本編に行く前にちょっと一コマ

「ご注文のカプチーノでございます」

・・・・

・・・・・?

一向に商品を受け取らないお客。

「お客様?」

「う・・・うん」

返事はあるものの商品を受け取る気配はない。

首を360度回転させそうなキツイ体勢ののまま店の外の先の一点を見つめてる。

さっきまでの客の会話のざわつきのある店内がシーンと静まり目の前の客だけじゃなく席に座るお客の視線も同じところに向かってると気が付く。

なに?

店員はその視線の先に何があるのかとカウンターに覆いかぶさるように身を乗り出した。

「あれって、うちの代表だよな?」

意識を突然取り戻した勢いで復活した客が焦った表情で店員に詰め寄る。

「何事にも動じなさそうなクールなタイプと全然違うぞ」

「時々必死すぎる代表見れますよ。素敵ですよね」

「素敵なの?」

「親近感がわくというか、可愛いじゃないですか。相手は奥様ですからね。

代表が追いかけてくれるんなら私なら手を広げて待ってるんですけどね」

「喧嘩でもして代表が慌てて追いかけてるんじゃいですか?」

「そうなの?」

「ハイ」

「会社で?」

「ハイ」

「噂には聞いてたけど、俺目撃したの初めてだわ」

「今日はラッキーディーかもしれませんね」

ようやく店員からカプチーノを受け取った男。

まだ半信半疑の表情でコーヒーショップを出る。

そこは日本有数、いや世界有数の大企業道明寺HDの本社ビルエントランス。

そこで数多くの社員が目撃者となる珍事。

仕事の雰囲気とは一気に変わる道明寺司の姿。

「笑ってる・・・」

「鼻歌歌いだしそうな機嫌のよさの代表って・・・何があった?」

「人を寄せ付けないオーラ丸出しの威圧感ないよな?」

そんなレアな代表が見れる頻度は確実に上がっている。

そう・・・

それは・・・・

道明寺司が牧野つくしと結婚してから。

道明寺HDは今日も平和だ。

「STOP」

しっかりとした意思を持つあいつの声。

俺の胸元を駐車場の警備員が車を止める仕草で両腕を押しだした。

「道明寺がそばにいるだけで目立つのに」

お前のこと知らねぇやつも道明寺の社員の中にはいないと思う。

しっかり俺の妻だという地位をいまだに自覚してねぇやつ。

きょろきょろと周りの視線を気にするように落ち着きをなくしてる。

時々視線があった社員がにっこりほほ笑むから見る間に耳まで真っ赤になった表情が「道明寺!」と、恨めしそうに睨む。

お前に睨まれても痛くもかゆくもねぇよ。

違った・・・

今はこいつを拗ねさせるわけにはいかなかったんだ。

何としても例の物をこいつの手から奪わなきゃ危機は脱出できてないのだから。

俺に対する不満ってなんだよ。

別れようと思うような重要なことあったか?

「なぁ、つくし、お前が俺の嫌いなとこってどのくらいある?」

「え?嫌いなとこ?

いっぱいありすぎるからな」

つくしが考える表情を浮かべたのは一瞬。

そしてすげーにこやかな笑みを浮かべていっぱいって・・・

そんなに不満あるのかよ。

「わがまま、横柄、乱暴、独占欲強すぎでしょ。それから人の言うこと聞かないしで自分勝手に話進めちゃうし。

協調性にかけるんだよね」

あのな、それは付き合う前から変わってねlだろうがぁ。

結婚前からわかっていたことだよな。

「嫌いなとこいっぱいあるし、なおしてくれないかなって思うこともあるけどそれを全部ひっくるめた道明寺が道明寺だしね」

「なんだよ。それ」

ほめてるとこ一個もねぇぞ。

「嫌いって思うことはそれだけ相手を意識してるってことでしょう。

不満があってもそれがなくなるくらい幸せなこともいっぱいあるしね。

お互い様だと思うし・・・

道明寺は私の嫌いなとこってある?」

「素直じゃねぇこと。俺にたてつくこと」

俺の思い通りになれねぇ厄介すぎるやつ。

それでもこいつが喜べば俺も笑えて、喜べて幸せな気分にさせくれる大事なやつ。

「離婚届用意してるとこ」

「離婚届?」

きょとんとした表情は離婚の意味も理解してないように俺を見つめてる。

「知らないフリすんじゃねぇよ」

「離婚届なんて持ってないけど?」

「持っただろうが、昨日の夜それ見てため息ついてたし、今日も事務所出ていくとき持ってたろうが」

一気に勝負をつけるつもりで追及。

ここであやふやにされてたまるか。

「離婚って・・・私が自分の用意してると思ってるの?」

「そうじゃねぇのかよ」

確認気味の声を俺の返事を聞いたと同時に眉を吊り上げて険しい表情と変わった。

「あのね。私の仕事考えてよ。

弁護士!弁護士なの!」

弁護士を何度も強調しなくてもそれくらい知ってるぞ。

「今離婚調停の仕事をしてるからその依頼者の離婚届を持っていただけなの」

え・・・っ?

そうなの?

ここまでの俺の悩みどうしくれるんだ。

ホッとしたら誤解させるような態度を俺に見せたこいつに向かついてきた。

「紛らわしいことすんじゃねぇよ」

「紛らわしいって、そっちが勝手に勘違いしたんでしょう」

大きく目を見開いたつくしが遅れも取らずにおれに食いつく。

「大体、どうして私が道明寺と別れたいって思ってるって勘違いできるわけ!

私そこまで道明寺に勘違いされるような態度とかとっていた?冷たくしたことってないと思うけど」

「俺が勘違いしたんだから責任はお前だろうが」

「普通、勝手に勘違いした道明寺の責任だと思うけど、道明寺の勘違いの責任まで負わされちゃたまったもんじゃない」

「その思考回路ついていけないわ」

怒りを吐き捨てるように目の前でつくしが大きく息を吐く。

「代表・・・・」

「あの、代表・・・」

遠慮がちに俺を何度も呼ぶ声。

「千葉、どうした」

「あの・・・ここの場所では落ち着かないと思いますが・・・」

時間が止まったようなよどみのない空間。

誰もが動きを止めてその中心にいる俺たち。

視線を周囲に俺が向けた瞬間に時間が慌てて動きだした。

エントランスにいたのすっかり忘れてた。

ほんの数十秒のうちに周りにいた姿は入れ替わって動きだす。

俺たちのことは見てないというように1Fフロアーは元の落ち着きを取り戻していた。

動揺しまくりのやつを一人残して・・・。

俺は自分の勘違いがおかしくなって緩みそうになる唇に手のひらを当てて押さえこむ。

そうだよな。

つくしが俺と別れるなんて一生あるわけがない。