SP物語(PHANTOM 番外編)

SP物語 (今日も貧乏くじ引いてます)

横道に入ってますが、気になるのは千葉君。

たまんないだろうな~と思いながら千葉君になってみたいと思うんですよね。

つかつくをまじかで見れる貴重な存在、脇役、オリキャラ

西田さんとはまた違った第三者目線。

続きよりお楽しみください。

道明寺HD本社ビル最上階執務室。

邸宅からここまでの護衛が済めば俺たちの朝の仕事は一段落。

最新の警備体制を突破してここまでたどり着ける不審者はいるはずもない。

執務室真向いのこの部屋でひと時の休憩。

張りつめていた緊張を解いて一息つく。

「一平、俺いつものでいいわ」

「またですか?」

相葉先輩お気に入りのコーヒーは数階下のフロアーの自動販売機にしか置いてない。

「あのコーヒーの味は格別なんだ」

悦に入る表情を缶コーヒーごときで浮かべないでください。

コーヒーの味じゃなく先輩の好きなタレントがCMしてるコーヒーだからって知ってるんですから。

代表の不機嫌のとばっちりが俺に飛んでくる可能性のないこのくらいの使い走りならやりますけどね。

そう思って気楽に引き受けたのが間違いだったと気が付いたのはそれから10分も経たないうちだった。

缶コーヒーを自動販売機の受け口から取り出して鼻歌交じりに軽く缶をポンポンと手のひらの上で弾ませる。

これが炭酸ならもっと激しく放り投げてるところ。

「フッ・・・ン・・・」

コツコツと走って近づいてくる足音にハミングしていた唇の動きがゆっくり止めた。

小さく高めに響く足音は男ものじゃなく女物の靴音。

これが路上で地下街から聞こえてくる足音と錯覚しそうな緊張感が漂う。

まさかな・・・

ここ会社だぞ。

会社で逃げまる女がいるか?

ないよな・・・・。

いた・・・。

息を切らして、上下する肩。

自分の来た方向を気にする横顔、そしてスローな雰囲気でその顔が振り向く。

ハッと息をの無表情は俺に気が付いた証。

つくし様・・・どうしてここに・・・?

つくし様の務める弁護士事務所にも代表のいる最上階にも関係ないフォロアー。

ここで出くわす確率は0に近いはず。

もしかしてまた、何かやらかしちゃったんですか?

それに遭遇?

ここで?

「どうかしましたか?」

違うの答えを期待して言葉を吐き出した。

「千葉さん・・・」

驚いた表情はそのまま緊張する趣の表情を作って俺の周りを落ち着きなく警戒的な視線が漂う。

代表を探してるってわかる仕草。

代表はいませんから。

見えない先の廊下から近づく人の気配。

焦ったように早くとつくし様の目が訴える。

え?

拒む間もなく一緒のエレベーターにのせられた。

この場合連れ込まれたに近い表現だと俺はお思う。

エレベーターの行く先に押されたボタンは1階。

「俺、最上階に戻らないといけなんですけでど・・・」

もう無理だな。

そう心の奥では思いながらも一応つぶやく。

つくし様が逃げる相手は、追いかける相手はただ一人あの方しかいないはずだから。

なんでここで出くわさすかなぁ・・・

俺のこの引きは天国か地獄かどっちがまってる?

「ここまで、コーヒーを買いに来たんですか?」

「この階にしか置いてない缶を先輩が飲みたいってわがまま言うんですよ」

コーヒーのことなんてどうでもいいのに聞きたいことを聞くのが怖くて当たり障りのない会話。

「なんで逃げてるんですか?」

一言聞けよ。

俺の左脳は告げるのに右脳が拒否してる。

「もうすぐおひるじゃないですか?

今日は代表とじゃないんですか?」

遠回しに聞けばいいかなんて思って我慢できずに言葉にした。

逃げ回ってる状態でランチなんてできるか?

ランチが嫌で逃げてるとか?

「千葉さんお願いがあるの」

まっすぐに見つめられるその瞳は純に澄んできらきらと輝く。

そんな瞳で見つめられたら・・・

断れない。

なんで聞いちゃったかな・・・

代表と一緒じゃないのかと・・・

すでに後悔し始めてる俺。

「この、封筒預かってもらえるかな?

私が返して言うまで、数日でいいから」

伸びてきた腕は俺の襟首をつかんでグッと引き寄せる。

スーツの襟元を押し開いて胸元にかかる息

「え?なにするんですかぁ!」

近すぎですよ。

これ代表に見られたら俺の命はなくなりますよ。

そして胸元をまさぐるられる感触は封筒を俺のスーツの内ポケットに押し込んで止まった。

この心臓のドキドキどうにかしてくださいよ!

女性に迫られて高揚した感情じゃなく、代表に見とがめられたらどうするんですかの恐怖感からの胸の高まり。

必要以上につくし様に近づかない。

これは俺と相葉先輩のつくし様の護衛の鉄則。

一番気を遣うんでるから。

「絶対道明寺には渡さないでよ」

聞かれてもたぶん代表には白を切るって思う。

つくし様に何か頼まれたってこと知れたらそれも代表の嫉妬に対象にされるって思いますから。

1階について開くエレベーターの扉。

そこには不愉快な表情をもろに浮かべる代表。

すでに俺を見る代表の視線は冷たい。

代表・・・俺たちよりどうして早く1階にたどり着いたんですか?

瞬間移動できるとか?

常識じゃ計り知れないなにかがことつくし様に関することに関しては代表にはある。

そのまま俺には目もくれず代表はつくし様をエレベーターの中から外に引き出した。

それはまるで石窯から出来立てのピザを取り出すような早業。

逃げる余裕はなし。

「手間かけさせんじゃねぇよ」

「別に追いかけてこなくても・・・」

「てめぇが逃げるからだろうが」

「道明寺が追いかけてくるからでしょう」

想定した内容で繰り広げられる会話。

近くにいた社員にははっきりと聞こえる激しい口調。

慣れてる社員は『あっ始まった的な』表情。

初めて目撃する社員は驚きの表情。

この差はいつ見てもフッとした笑みを漏らす瞬間。

「千葉、お前にしちゃ、気が利くじゃねぇか。よくこいつをつかまえてくれた」

代表に褒められた?

耳を疑う表情を浮かべてしまってる。

捕まえたわけじゃないんですけど・・・

捕まえられたのはどちらかといえば俺のほう。

ちらりと向けたつくし様の視線。

何も言わないでの哀願の表情。

嘘つくのは下手なんですけどここはしっかり乗っからせていただきます。

それが平和な対策だと信じて。

「エレベーターで偶然会っちゃったら、代表のもとに連れていきますって言うんだもん」

え?

その理屈だとおかしくないですか?

最上階に向かわなきゃいけない俺たちが1階にいるって、代表から遠くなるってことですよ!

感情の上では頭を抱え込んで座り込んでしまいそう。

代表に追求されたら・・・

俺・・・生きてられるだろうか・・・

「ちょっとっ・・・何して・・・る?」

バタバタとせめぎあう空気。

目の前で代表がつくし様を羽交い絞め。

「出せ」

「出せ?」

そんな会話の向こうに恋人特有の甘さが見えるのは俺だけだろう?

見てていいのだろうか・・・

「ねぇ・・っ」

ねぇっ?

代表がつくし様の身体をまさぐっていた理由って俺のスーツの内ポケットにある封筒?

確かめるように胸に触れた手のひらを慌てて背中に隠した。

代表が気が付いてないことにほっとする。

まあ、今の状態の代表が俺に目を止めることはほとんどなっていって現実が今俺を確かに救ってくれた。

「どっか落としたかな・・・」

「お前もあんな大事なもの落とすほど、そこまで間抜けじゃねぇだろう」

「大事なものって・・・知ってたの?」

バタバタとしたひと騒動が収まって空気の色合いが蒼から赤く染まっていく。

「道明寺・・・」

小さく動く唇は甘えるよう代表の名を呼ぶ。

「とに、俺に隠し事すんじゃねぇって何度言わせるつもりだ」

あっやっぱり・・・

代表の腕がしっかりとつくし様を抱き寄せる。

そしてゆっくりと代表の胸元に落ちる華奢な身体。

このパターンも見慣れてる俺。

気恥ずかしさはこのお二人より俺のほうが持ってる気がする。

ここエントランスですけど・・・

言えるはずのない俺。

封筒のこと覚えてます?

いつ聞けるのだろ・・・。

それはまだわからない。

封筒をつくし様に返すまで俺の苦労は終わらない気がした。