DNAに惑わされ 43
パンパカパーン♪のフィナーレとともにいよいよ駿君の正体が!
驚くのは青葉君だけでしょうけど・・・
駿君の学生生活が騒がしくなるのは間違いないでしょうね。
折角英徳から離れたのになぁ。
「あのおっさん、相変わらず偉そうだな」
「お前が言うと嫌みにしか聞こえない」
舞台上に並ぶのは有名な監督と俳優陣。
この顔触れに不機嫌な様相を浮かべるのは道明寺HD代表 道明寺司。
俺のガキの頃からの腐れ縁。
「早かったな」
「お前が俺を呼びつけるのは珍しいからな」
恩着せがましい表情。
駿が絡まなきゃ呼んでも来なかったはずだ。
いい父親やってるとこを俺たちに見せたくない天邪鬼な態度。
俺たちが知らないはずないだろう。
ライトの影に隠れても輝くオーラは一品もの。
人目を引く華々しさは主役にも負けてない存在感。
使いたいと監督が思うのも無理はないって思う。
「あいつ、よく壇上に上がったな」
まんざらでもない表情は目を細めて一点を見つめてる。
司が来てることに気が付いたように駿は気まずい表情を浮かべてるのは対照的。
「あきら、言っとくがあいつが、いやだって言えばこれ以上勝手に使うんじゃねぇぞ」
いつもの傲慢な口調の中に父親の姿がはっきりと浮かぶ。
「俺も駿は可愛いんだ」
今回のことはいろいろ経験させるのは悪くないと意外と簡単に司から了承を得た。
親に黙って日本を飛び出していった罰だといたずらな表情を浮かべる司は久しぶりに見た。
罰だと言いながら罰にはなってないって俺は思う。
「信じる」
短い言葉を発した司は片手をスラックスのポケットに突っ込んだまま壁際に背中をもたれながらわずかに微笑みを浮かべる。
司、お前も十分壇上でイケるぞ。
「牧野は?」
「あいつが来ないわけねぇだろう」
一気に不機嫌な感情が司の顔に出る。
俺、なんかまずいこと聞いたか?
「この映画に出てる俳優の名前を見て興奮してたからな」
誰でも知ってる若手俳優、今確かこの映画の主役は人気上昇中。
見たいとか、会いたいとか思うのはファンじゃなくても一般的な反応だぞ。
牧野にしてもその程度だって思う。
司の前じゃ通用しないってこと牧野も理解してるはずだ。
「あっ、いた」
人ごみをかき分けるように小柄な身体は泳ぐように俺たちの前にやってきた。
「お前の好みの俳優はもうしゃべったぞ」
「そうなの?」
別に気にもとめてない生返事。
俺の思った通り牧野の熱中度はそんなもん。
嫉妬するのもバカらしいとか司も思えよ。
「駿がいる」
壇上の興味はさすがに自分の息子に早速食いついてる。
「駿はなにかしゃべった?」
牧野のドキドキ感は身体からあふれてる。
「しゃべってねよ」
今壇上では監督がマイクを持ってる。
ちらりと後ろを気にするように時々視線を送るから自然と会場の視線は監督を通り越して駿にも集まる。
壇上に上げるまではこの俺も許したがそれ以上のことは許可してない。
もし一言でも駿に求めてたらこの映画の配給元にはすべて手を引かせて上映する映画館はないって脅してる。
しゃべらなければそこまで注目はされないだろうと思っていたのは俺の誤り。
やっぱ、そこのいいるだけで目立つぞ駿。
それにあの監督抜け目ねぇわ。
しっかり注目が駿に行く態度とってるし。
何も言わないだけ、だれだという興味を会場の中に埋め込んでしまってる。
壇上から降りた駿の周りには主役よりも多い人だかりができていた。
「やられたな」
俺の失敗に気が付いたように司がつぶやく。
嬉しそうに笑ってる司は俺を責めてる気はいはない。
俺の失敗を喜んでる表情。
「何が?」
無邪気な表情で交互に俺たちに視線を向ける牧野。
「あれだけ目立てば周りがほっとかないだろう」
「目立つって・・・駿?」
「あの子嫌がるわよ」
無邪気な表情は母親の顔になって駿を見つめてる。
もみくちゃ状態の駿が必死に人ごみの中から逃れようともがいてるのが見えた。