unfair 1
はぴまりファンの皆様お待たせしました。
新連載開始します♪
いつもなら仕事が終わればすぐに家路をたどる。
そんな習性が付いたのはそう昔のことじゃない。
それでもここ数日ほっと一息つける場所を探してる。
帰ればまたギャーギャーとまとわりつくはずの千和。
あいつと一緒になる前はうっとうしく感じたであろう全然俺の好みと違うはずの彼女が恋しくなる瞬間。
これ、なんだんだろうな。
暗い照明に照らされたカウンター席に座り目についたバーボンを注文。
琥珀色の向こうに似合わないあいつの明るい笑顔が浮かんで、それを壊すようにグラスの中の氷をカランと揺らした。
「ここ、空いてます?」
グラスが空になる頃スレンダーな女がほほ笑みを向ける。
アイラインで縁取られた切れ長の目。
赤いルージュが誘うように濃艶な色合いを浮かべてる。
俺以外は空席のカウンター。
「より取り見取りですよ」
そっけない声は俺なりの拒絶。
それでも隣の席に腰を下ろす彼女の肩が俺の肩と触れる。
香水の匂いを嗅いだのは随分久しぶりのような気がした。
あんまりあいつは香水つけないからな。
バラの香りの香水から石鹸の香りを思い出してしまってる。
「間宮さんですよね?」
肘をついて顔をわずかに傾けて小さくつぶやく声。
その声でまじまじと女の顔を見た。
「覚えてません?」
問いかけの声は色っぽく女の表情を作る。
「あなたのような人に会っていたら忘れませんよ」
会社関係かの思考が動いて警戒心は社交辞令を口にさせる。
「俺を呼び出して、浮気か?」
縁なし眼鏡に無精ひげ。
医師という肩書にはそぐわない軽めの風貌は相変わらずの片桐先輩。
「冗談はよしてください」
俺の言葉に先輩は愉快そうに口の端を上げた。
「珍しく俺を誘うから面白い話でも聞ける予感がしたが予想以上かな」
彼女が俺の横に座ってすぐの登場。
俺と彼女のツーショットを目撃する前には先輩はこの店に来ていたはずだ。
「どこから見てたんですか?」
「言っていいのか?」
「俺に娯楽を求めても無駄ですよ」
「彼女が目撃したら随分にぎやかになるだろう」
「わざわざ嵐を作るほど先輩も暇じゃないでしょう」
一杯目のグラスが空になる頃まで大学時代の話から当たり障りのない雑談を繰り返してる。
久しぶりに会う先輩との話題には事欠かない。
「私がいること忘れてません」
背中を向けたままの隣の席。
気が強い性格をうかがわせる不服そうな表情。
俺たち以外の男性客は彼女の存在にひそかに色めき立ってるのがわかる。
そのことは十分承知してることは彼女の態度でわかる。
興味を示されることに慣れてる彼女の自尊心を傷つけたのは理解できた。
「あなたと話したい男はたくさんいるようですよ。
俺以外は」
俺の言葉に失笑気味に先輩は唇を震わせる。
顔色を変えた女は怒りのオーラを身にまとったままくるりと背を向けてパンプスのかかとで床を踏みつけながら俺たちから離れた。
「ほんと、好み変わったな」
先輩の笑い声と重なるように先輩のグラスの中の氷が涼やかな音を立てる。
「言わなくても察して理解する賢い女と付き合う。そんなタイプだったよな」
それは男も女同じ。
俺の言う前に察してすべてを語らなくても先を読む相手は楽だった。
今もあいつ以外は付き合う相手はそんな相手が多い。
先輩も例外じゃない。
相手が千和だと本当にめんどくさい。
全部言葉にしてやらない理解しないし、言葉にしても伝わらないことも多くてちょっとした食い違いから言い合いになって、
誤解と衝突を繰り返してあいつの機嫌を治すのにも骨が折れる。
うまくいってるのは俺の努力のたまものだぞ。
「なんですか?」
俺を凝視してる先輩に気が付いて首を傾げる。
「ニヤついた顔してるからなにを思いだしてるのかと思ってね」
「にやにや?」
先輩の言葉に思わず触った頬を引きつらせる。
めんどくさい千和とのやり取りは思いだすだけで俺の頬を緩ませるらしい。
「で、お前の幸せな結婚生活を俺に聞かせるために呼びだしたのか?」
目の前のグラスを見つめる退屈そうな横顔。
頬杖をついて話を聞いてなさそうなスタイルでもしっかり俺の話には耳を傾けてる。
俺の口元から深く吐き出した息がグラスに触れて白く曇った。
拍手コメント返礼
ココナッツ 様
週一のペースですが連載始めちゃいました。
お付き合いよろしくお願いします♪