PHANTOM 17
お仕事ほッぽりだして大丈夫なのかな司君?
「俺がいなきゃできないようなダメな社員はいらねぇよ」
といいつつ「俺がいなきゃだめだのワンマンぶりも健在だと思うんですけどね。
気になるのは西田さんの出方、それに忘れちゃならないあのお方♪
公平君の再登場あるのと思います?
言いだしたらきかない。
人の言うこともきかない。
俺様街道が道明寺エントランスを突き抜けて玄関を通り抜け大通りにまっすぐに続いてる気がしてきた。
今のこの状況で道明寺の行動を遮ることができる人物は皆無に等しい。
私の言葉すべて道明寺には届かない気がする。
どこに連れていくつもりよ。
眺めのいい最高級の席をリザーブ。
店を貸しきりの食事なんてやめてほしい。
軽めのファーストフードのお店でワンコインのランチ。
お昼どきの混雑の中に道明寺が現れたら現れたで騒ぎになって落ち着いて食どころじゃなくなる。
これも何度かすでに経験済みだ。
先週、お昼にいるはずのない道明寺が今スパゲティーを食べようとホークを麺に突き刺した瞬間に現れた。
私が気が付くより先にざわついて熱がこもる店内。
まさかって思いに緊張が走る。
「これでもヘリで急いで帰ってきたんだからな」
恩着せがましい声はそのまま同席してた甲斐さんをテーブルからすでにとびたたせてしまってる。
甲斐さんのランチを横取りして道明寺が平らげた。
今日は誰も追い払われることはないだろうけど、私の昼からの仕事の時間を取り上げられた。
今日中に読みたい資料あるんだからね。
ここはなんとか踏ん張って社内に閉じ込めておいたほうが無難じゃないんだろうか。
ここまでの騒ぎも少しは落ち着いてくるだろうし、興味本位で注目を浴びることには慣れてきた。
道明寺と一緒に社員食堂の席に陣取ることも最近はみんな慣れてる気がするもの。
事務所からエレベーターまでグイと腕を引っ張られたままの私。
「それじゃ、遠慮なく」
って、遠慮なんて道明寺はもともと持ってないじゃないか。
食事が終わったら帰しての声もむなしく響く。
「休め」
すでに命令調。
「お前が悪い。俺は悪くねぇし」
どうにもならない自己中心的思考
わかっちゃいるけど言わずにいられない無駄な反論。
「そんな俺に惚れてんじゃねぇのかよ」
まじかに迫る道明寺の涼やかな微笑み。
完全に自分の手中に私を収めて熱のこもった瞳がまっすぐに私を見つめて甘くささやく。
「惚れてるよッ!」
やけくそで言いそうになるなる言葉をぐっと喉の奥に閉じ込めた。
ここできゅんと高鳴る胸の奥を見せたら負けだもん。
途中停泊の鈍行エレベーター。
最上階から直通の重役専用エレベーターは私の事務所のある階は素通り。
最近一般社員が乗り込むエレベーターが事務所の階に止まるとエレベーターの中の社員に緊張が走るらしい。
扉が開いて代表が乗り込む確率はガチャのレアなおもちゃが出てくるより確率がいいと評判らしい。
社員のみなさん楽しむところ違うから・・・。
止まったエレベーターの中には人影は一つ。
面積大目に白い壁が見えた。
「あっ・・・」
小さくどちらからとも漏らした声。
「チッ」
道明寺から聞こえる舌打ちの音。
「まだいたんだ・・・」
エレベーターの中で公平からわずかな距離をとって横の壁に身体を寄せた。
3点二等辺三角形ができそうな形。
友達の距離より遠慮がちな距離、それでも他人と無視するほど遠くない微妙な距離。
エレベーターの中のわずかな時間。知り合いでも知り合いじゃなくても気まずい空気の流れを感じることはある。
今日の場合は道明寺も一緒にいるって現実がピリピリと刺激的な感情を放出してる。
「今、帰るとこ。
まさかまた会えるとは思わなかってけどな」
屈託ない微笑みは公平の飄々とした性格をやさしく表してる。
「さっきはありがとう」
チケットを無事に届けてくれたお礼。
公平の機転がなければせっかくの舞台のチケットは離婚届けの用紙と勘違いした道明寺にゴミにされてるところだった。
「こいつに、礼なんて、言う必要ねぇだろう」
横柄な口調で道明寺が私の言葉を遮る。
「確かに、俺に礼なんて必要ないよ」
煽ってると思ったのか道明寺の眉がピクリと反応。
道明寺に媚びない公平の態度は今に始まった事じゃないけど、ここは穏やかない行きたい。
これ以上道明寺の機嫌が悪くなったら私はますます仕事に戻れなくなるよ。
玲子さんにも知ったりチケットのお礼を伝えてないし・・・
チケット・・・
あっ・・・
私・・・
何か忘れてない?
公平にお礼を言って抜け落ちた記憶がよみがえる。
「あっ!」
チケット千葉さんに預けたままだった。