十六夜の月は甘く濡れて 16
そろそろ司君出番ですよ~
早くいかなきゃ大変なことになっちゃうよ~
困ったことにそんな緊張感ないですね。(;^ω^)
*着実に敵の正体は姿を現している。
さほどの時間を労せず俺たちの想像通りのことが浮かび上がってきた。
「俺は、身に覚えはねぇよ」
俺に興味を示すやつらは道明寺の名前に媚びるやつばかり。
そんなやつ覚えてたらきりがない。
「そんなことは分かってるってさっきから言ってる。
司が牧野にしか興味を示さねぇのは今に始まった事じゃないしな」
俺のことは知り尽くしてる。
そんな落ち着いた表情を浮かべるあきらは俺の右肩をぽんと叩く。
「好かれるのも、嫌われるのも司の知った事じゃない」
「で、いつもそのトラブルに巻き込まれるのが俺たちってわけだ」
迷惑そうな表情は総二郎の本音じゃない。
頼まなくてもお前らが勝手に手を貸すんだろうがぁ。
信頼感は崩れることのない仲間。
だからって俺と牧野で遊びすぎだろうが。
「お前らのほうが俺より女に好意を寄せられたり恨まれたりしてるだろうが」
荒げる口調ほど心情はイラついてない。
俺よりよっぽど女との付き合いの多いこいつら。
振って恨まれる数なら俺より多いだろうって誰でも思うんじゃねぇの?
「俺たちの場合はスマートに付き合うし、スマートに別れるからこれまでトラブルらしいトラブルに巻き込まれたことはないんだよ」
自信たっぷりの鼻持ちならない表情を俺に向ける総二郎。
俺は牧野以外誰ともつきあってねぇよ。
トラブルが勝手にやってくんだよ。
それも逆恨み的な一方的なやつ。
今回も俺に恋人を取られたと思いこんだ男の復讐劇。
同じ思いを俺に味あわせたいって、最初から無理だつーの。
牧野に自分で近づいて自分に振り向かせようとしたらしいらしが牧野は全く無頓着で時間がかかりそうだからと断念。
類か総二郎にあきらの誰かの偽物を仕立てて誘惑させたほうが早いって短絡的な思い付きでの犯行計画。
結局、骨格と声が似ていた類の偽物を作って牧野を誘惑。
その前に類やあきらにばれてしまったというお粗末さ。
それなら牧野を巻き込む前にかたをつけろ。
「このままお前が飛び出したら収まるものも収まらなくなる」
屋敷を出ようとした俺を追いかけてきたこいつらはヘリの準備ができるまで時間があるだろうと直ぐに玄関横の部屋に俺を連れ戻した。
ヘリの到着を外で空を眺めなら待っていたらお前の不機嫌のボルテージは上がりっぱなしで危ないって、俺は危険物注意の爆弾なみの取り扱いだ。
玄関前にはダークスーツの体格のいい男たちが肩を並べて取り囲んでいた。
ここで無駄に体力を使うほど俺も無鉄砲じゃない。
「しかし、今回の逆恨みの相手は自動車会社の御曹司だったとわね」
「手の込んだことができるわけだ」
俺を野放しにしてない分総二郎とあきらの態度に余裕がある。
「本気でつぶすつもりならもっと早くかたがつく」
感情だけならすでにぶっ潰してる。
経営者としての理屈じゃ日本有数の企業を弱らせるメリットはどこにもない。
今回は息子の不始末にどうけりをつけても文句は言わないって約束だけ取りつければ十分。
俺たちの前に二度とその息子が姿を現すことはないはずだ。
「おっ、敵は何も知らずに孤島の別荘に向かったみたいだぞ」
情報はいまも的確にあきらの携帯に届いてる。
「空が騒がしくなってきたな」
プロペラの音を響かせるヘリの機体がゆっくりと庭に設置されたヘリポートに降りてくるのが見えた。
「行くぞ」
今度は俺を止めるものは誰もいなくなった。