ANSWER 26
そろそろ、大人には帰ってもらって落ち着いた夜を~
過ごせるわけないか・・・(;^ω^)
「一般病室ってなんもねぇな」
くるっとあたりを見渡した表情はそんなことを言いながら微笑んだ。
白いシーツに包まれたベットはしわ一つ作らずにピンと整えられたまま。
横の柵に備え付けられた自動式でベッドを上下させるリモコンが一般のベッドとの違いを見せる。
病院特有の消毒液の匂いと清潔感漂う病室を艶に変えてるのは俺の父親とその仲間たち。
艶やかさの中にも落ち着きを感じるのは舞の両親の影響は多大にあるって思う。
「とにかく、みんな大した怪我じゃなくてよかったよ」
「司にしたら舞に擦り傷一つついただけで大ごとだろう」
「猛獣使いがいるから調教されてるんじゃねぇ?」
確かに笑って冗談を言えるのはあの事故からしたら奇跡に近いって思う。
でもその冗談に付き合えるほどの心の余裕はなんてなくて、笑みを浮かべることなんてできそうもない。
「俺たちは帰るからおとなしく寝とけよ」
すれ違いざまにポンと肩に手のひらで叩いて病室を出ていく西門のおじさん。
「佑はあきらに性格も似てるからそんな心配はいらないんじゃないの」
花沢のおじさんは西門のおじさんが言った言葉を軽く打ち消すように微笑みを見せる。
腕組みをして押し黙ったまま二人会話を父さんは聞いてる。
二人が病室を出ていったそのあとを追うように父さんも足を動かした。
「あんまり悩むな・・・って言っても無理か。
俺の息子だからな」
スライド式のドアに手をかけて出ていく一歩前の仕草で背中を向けたまま聞こえた声。
親父の表情なんて見ることのできないままに閉められたドア。
ぽつんと落ちて心の水面に広がるしずくは一滴。
すべて見透かされてるような気持ちになるこそばゆさ。
力が向けるようにベッドの上に腰を落とす。
体重で上下に振動するベッドの軋み。
今日起こった出来事が全部夢のような気がした。
目の前で動けななくなった彼女を見捨てて舞を守っていたら・・・
そしてベッドの上に横たわってるのが彼女だったとしたら・・・
舞を救えたとしても罪悪感は胸の中に芽生えてるはずで・・・
あの時、舞のそばにはあいつがいるのには気が付いていた。
舞は大丈夫だって直観。
それは一瞬の判断だったって思う。
思った瞬間俺の身体は方向を変えて舞から遠ざかってた。
俺、自分でも気が付かないうちにあいつ・・・大内のことを認めてる。
感情の奥のくすぶるもやっとした思いはたぶんこれ。
あやふやにして気づかないでいたほうが楽だったって思う。
床から天井を眺めるように見上げた。
唇から自然と漏れたため息。
その深さがそのまま白く、生暖かく自分の顔に降り落ちてくる気がした。
閉まってるはずの入り口からかすかに入り込んできた冷たい空気の流れ。
「いいから帰れ」
ゆっくりと開きかけたドアは途中から勢いを増して全開に開く。
松葉づえをついた大内。
それを支えようとするように手を伸ばしてた本城の腕がピクリと震えたのがみえた。
「松葉づえのほうがお前より役に立つ」
三本目の脚とでもいうように器用に使って身体を支えてる。
左の足首からは白いギブスがちらりと見えた。
大内のいうように介助の必要性はなさそうだ。
ちらりとも俺を見ないままに素通りして大内は窓側の自分のベッドに戻る。
「心配なんです」
何かを決意するようにキッと唇を結んだ本城は大内を追いかける。
俺に気が付いた本城は足を止めて頭を下げてまた顔を大内に向けた。
大内の表情は感情を動かさない冷ややかな横顔を見せる。
それは完全拒否の本城がそこにいないような冷たい態度。
「松葉づえに心配することはできないでしょう」
真剣さを秘めた横顔は必死。
って・・・松葉づえが心配って・・・
表情の必死感と言葉のギャップがすごっ。
張りつめた空気感が一瞬で緩んだ気がした。
この子・・・舞より天然・・・・。
大内を必死に思う姿は可愛いじゃなか。
返事してやれよってマジに思った。