PHANTOM 18
「千葉、缶コーヒーを買うのにどこまで行ってたんだ」
人をおちょくるようなにんまりとした表情を浮かべる相葉先輩。
「1階エントランスまで。
行きたくて行ったわけじゃいですから。使い走りは、二度とごめんです」
コーヒー缶のそこでテーブルをぶち抜く気持ちでドンと置いた。
あそこで代表とつくし様に出くわす確率は宝くじに当たるより低いって思う。
それにぶち当たる俺って・・・
貧乏神が憑りついてるとしか思えない。
先輩の正面。
先輩と目を合わせない向きのまま椅子に腰かける。
自分のコーヒー缶を開けながら胸元に感じる違和感。
あっ・・・
つくし様から預かったままの封筒を思いだした。
これ・・・
代表に見つからないようにってことだったよな?
あの二人の状況でつくし様が一人でいることのできる時間って・・・
今日は無理なんじゃないのか?
内ポケットの封筒の中身を確認するように手のひらで抑え込む。
厚みのない封筒。
何が入ってるのか皆目見当がつかない。
代表に内緒の封筒の中身ってなんだよ!
やばくないか?
「千葉、何か持ってるのか」
身体を俺のほうに乗りだした先輩は遠慮のかけらも見せることなく俺の内ポケットからするりと封筒を盗み取った。
「なんだこれ?」
止める間もなく封筒から取り出したのは薄い長方形の紙きれ。
「おい、これ人気あって即完売の舞台のやつだろう?
よく取れたな」
チケット・・・?
意表をつくチケットの出現。
そこまで警戒する必要なしの判断にぽろっと気がゆるんだ。
「このチケット、誰に渡すんだ?」
「誰って、つくし様に・・・」
返さなきゃいけない。
「お前、誘われたのか!それやばいんじゃないの?」
「誘われてませんよ。預かっただけですから!」
代表にないしょって・・・
あっ・・・
代表にないしょってことは・・・
つくし様は誰を誘うつもりなのだろう?
誰だ!
男だったらどうする!
そっちのほうがやばくないか?
俺が悩んでもどうもできない。
チケット返さないほうが平和な気がしてきた。
先輩!
どうしましょ!
つくしちゃんがチケットのことを思いだしたころ預けられた千葉君も同時に思いだして、頭を悩ませるのでした。
SP物語シュートストーリーのあとは続きをぷちっと押してお楽しみください。
「どうした?」
「え?あっ・・・何でもない」
キョドッて瞳が落ち着かずに振動を繰り返す。
何でもないって口先だけだってすぐにわかる。
挙動不審じゃねぇか。
「こいつが現れたからって急にそわそわすんじゃねぇよ」
「そわそわしてないから!」
「してんじゃねかぁ!」
「してない!」
「それに公平は関係ないから、公平に八つ当たりしないでよ」
睨み合った視線は言葉を発するたびにその距離を詰める。
公平!公平って連呼するな。
胸糞悪い。
ククっと息漏れる音につくしと同時にその方向を見た。
「相変わらず仲がいいよな」
「このどこが仲がいいの」
喧嘩中と言いたげな荒い声を上げたのはつくし。
「だから、お前は邪魔なんだよ」
帰れの意味を込めた睨みを利かせる俺。
「それじゃ、またな」
軽く手を上げて松岡はビルの入り口へと向かっていった。
「おい、あいつじゃなきゃ、お前のその落ち着きのなさはなんだ?」
「何でもないから」
「それが何でもないって言う態度か?」
「本当に何でもない大丈夫だから」
反抗を見せる強きな態度は相変わらず。
強情つーか、こうなったらこいつから素直な言葉を引き出すには服を逃がせたほうが早いことを俺は知ってる。
直ぐにひん剥いてやろうか。
邪悪な俺の思いに気が付いてない表情はほっと一つ長く息を吐く。
「外に行くなら千葉さんとか相葉さんは呼ばなくてもいいの?」
つくしの珍しい問いかけに出しかけた牙が抜かれてしまった。
「珍しいなお前がSPを呼べって」
いつもなら仰々しいとか言ってSPをつけるのを嫌がるやつ。
自ら相葉と千葉の存在を気にすること自体が珍しい。
「突然道明寺が消えたら千葉さんも相葉さんも焦るんじゃないの?
ほら、二人の仕事がなくなっちゃうわけだから」
さっきよりこいつ焦ってないか?
ついでに饒舌。
俺が聞いてないことまでしゃべりだしてる。
そういや、こいつ・・・
さっきまで千葉といたんだよな?
あいつもつくしを俺のもとに送り届けるといいながら向かった先は1階って・・・
おかしいだろう。
「え?道明寺?」
「出口はあっちじゃ・・・」
くるりとつくしに背を向けて俺は元来たエレベーターの方向に向かう。
どたどたとした足取りでつくしは俺のあとを追ってきた。
お前を追及するより千葉を追及したほうが素直だからなッ。
お前を素っ裸にひん剥くのはそのあとからでも遅くない。
覚悟しとけッ!