DNAに惑わされ 45

本命馬!いえいえ、駄馬の登場。

噛ませ犬にもなれないと思う青葉君。

どんな働きを見せてくれるのでしょうか。

愛すべき迷惑キャラに進化できるのかどうかが楽しみの一つではあります。

「しかし、まいるよな。さっきから妙に人の視線をちらちらと感じるんだ」

「ほら、今も・・・」

迷惑というよりはまんざらでもない表情の青葉は勝手にしゃべり続ける。

「俺くらいの男になると、周りが放っておかなくてさ」

確かに感じる視線。

それは僕がようやく逃れた人の波からも続いてる。

一瞬僕と目があった若い女性がにっこりと会釈を返すのが見えた。

「ほら、あの子も俺に気があるんだぜ」

「・・・すごいね・・・」

何がすごいってそう勘違いできる青葉がすごい。

「ところで、お前は誰と来たの?」

「鮎川」

「菜花ちゃんねぇ・・・」

青葉、お前がちゃん付けでも名前を呼ぶな。

先に僕が呼ぶべきだった。

菜花と名前で言えば僕たちの関係を青葉に印象付けられたのにと後悔。

名前を呼ぶことにまだ慣れてないし、菜花の文字を頭に浮かべなき鮎川って呼んでしまう不慣れさ。

自然と菜花って呼べるようになるにはどのくらいの時間が必要なのだろう。

父さんたちも随分長い間「道明寺」と「牧野」って互いを呼んでいたって言ってたもんな。

「鮎川って、櫻井監督の娘だもんな」

「知ってるんだ」

意外だと思う表情を浮かべて僕は青葉を見つめた。

高校でも鮎川と櫻井翔五郎監督の関係を知ってるやつはそんなにいないはずだ。

鮎川自身も自分の両親が誰かを知られることを極力避けてる。

その気持ちはたぶん僕と一緒。

僕らの付き合いの中には家のしがらみや大人たちの権力は無縁で付き合いたい。

本来の自分で認めてほしいから。

鮎川の場合は一人が好きって雰囲気をしっかり作ってるけど。

その気持ちも分からなくはない。

「好きな子のこと調べるのは当たり前だろう。まあ、親父のコネは利用させてもらったけどな」

悪びれないどころか、自慢する態度で、お前には無理だろうけどなんてぽんと肩を叩かれた。

まあ、鮎川の親父さんのことが学校で話題になってないことを考えればこいつもそのことをほかのやつらにばらすつもりはないってことで、そこは評価できる。

「駿~」

明るい声が近づいて腕に感じる柔らかな感触。

華奢な腕が僕の腕に巻き付いて胸元が開いたドレスからは胸のふくらみがわずかに見える。

腕に押し付けられた胸のふくらみは見える胸元のラインから容易にその大きさが想像できる。

僕だって健全な男子だ。

興味がないって言ったら嘘になる。

「やっと会えたね」

大きな瞳はきらきらと輝いて本当にうれしいそうに笑った。

「えっ・・・かかかか・・・」

カラスのような鳴き声が僕の横で響く。

映画で共演した今売り出し中の女優、河合香住。

10代では抜群の演技力と評価も高いらしい。

撮影中も年が近かったせいかよく会話した相手。

撮影が終わって会うことも、思いだすこともなかった相手。

「香住」

マネージャーの呼ぶ声に不満を漏らすように膨れた頬が直ぐにはじけて「ちょっと待ってて、後でまた会おう」と笑った。

「おい、また、会おうって」

すごくテンションの高い喜びの声を青葉が上げる。

「悪いな、お前をダシに使って・・・」

ダシって・・・

彼女・・・青葉を見てたか?

一ミリも視線は僕から外すことなかったような気がしたんだけど・・・

「この俺も緊張してきた。

何か飲みものとって来いよ」

「え?」

「いいから、ほらあそこにある」

数メートル離れたテーブルの奥を青葉が視線でしめす。

どうして僕がお前の下僕にならなきゃいけない。

「自分で取ってこい」

青葉に背を向けて僕はテーブルと反対方向に歩く。

その視線の先に何か言いたそうな表情を浮かべた鮎川がいた。