ANSWER 27
佑君が~薫子ちゃんを可愛いって~~~~~
言ってるよ~舞ちゃん。
これ聞こえたらどうなるのかしら?
黙って背を向けたままのその姿はすべての存在を拒否してる。
大部屋のプライベートを守るために備え付けられらてるベッドを囲むカーテン。
まだそのカーテンで遮られてない分がまし。
「暗くならないうちに帰れ」
ぶっきらぼうな声は不機嫌に病室内に低く響く。
いいから帰れより柔軟になってる気がした。
なんだ、大内いい奴じゃん。
気にかけてる素振りは全然見えないのに暗くならないうちにって、気を使ってる。
足を怪我してなければ本城を家まで送ったかもな。
そんなことを想像して頬が緩みそうになる。
感情をうまく表現できない不器用な奴。
似てるタイプ・・・身近にいなかったか?
トントンとノックをする音が響くドア。
そのドアが少し開いてひょこっと覗き込む顔。
今の病室には大内の俺と本城の3人。
この顔わせに覗き込んだ相手は意外そうな表情を浮かべた。
その後ろから伸びてきた腕はスルーとドアを開く。
舞の後ろから長身の男性。
舞の兄貴の道明寺駿。
「名誉の負傷としては物足りないかな?」
人懐こい笑顔で守ってくれてありがとなとつぶやく声。
その声は俺から奥の大内に視線を映す。
「俺は舞には何もできなかったから」
「そうは聞いてないけど、
佑が声をかけてくれたからがれきの下敷きにはならなかったって舞は言ってたよ」
パイプ椅子にまたがるように座った駿にいは落ち着いた笑みを浮かべる。
舞に直接聞くよりも胸の中にしみこんでくるような温かさ。
じーんとしたのは駿にいの人柄だって思う。
穏やかに包み込む雰囲気は舞の母さんに似てるかも。
そして人目を引きつけて魅了する艶やかな雰囲気は舞の親父さん譲り。
「大内くんだっけ?
君のおかげで舞は泣かなくてすんだらしい」
「お兄ちゃん」
不服そうに舞が大きく声を上げた。
「あのね。そんなこと言ってないから」
「いや、舞が一人で閉じ込められてたら絶対泣いてただろう。
それに一人じゃなくて心強かったって言ってたじゃないか」
舞のほうを振り返って明るく笑いを含む駿にいの声。
舞に手をさし伸ばせなかった最悪感。
本城を助けたことを後悔してるわけじゃない。
あの時はそれが最良の策だったって今でも思ってる。
それは、舞が助かったって現実があるからにほかならないってことも。
「よかったよな。みんな無事で」
悩む僕を見透かしてるような瞳。
父さんにしても駿にいにしても回りくどいことは言わずに俺のことを見透かすように心の中にスッと入り込んでくる。
それは単に慰められてるっていうよりは素直に今の自分を受け入れられるような温かさが俺を包み込む。
今までの重かった感情は少し軽くなった気がした。
舞のふくれっ面が見れたことも今日一日の終わりにしては上出来だって思う。
「あの・・・どなたですか?」
遠慮がちに本城が軽く会釈した。
「あっ、私の兄なの」
「お兄さん・・・?初めまして」
丁寧なお辞儀。
見知らぬ相手が舞の兄だとわかってすっかり警戒心を解いた雰囲気で本城は自分の自己紹介を始めた。
「恭様、今日はもう帰りますけど明日また来ますから。
これ以上恭様に心配していただいたら申し訳ないでですもの」
はにかんだ笑顔はうれしさを遠慮がちに見せる微笑ましさ。
「俺は心配なんてしてない、早く帰れって言っただけだ」
相変わらず、大内は背中を向けたままで、拒絶のオーラーが包み込んでる。
「わかってます。迷惑だって言われてもまた明日来ますから
美作君も今日は本当にありがとうございました」
腰を折って重ねた両手は膝まで届く丁寧なお辞儀を俺にも向ける。
雅やかな雰囲気は上質の香り。
それはこの子特有の雰囲気。
大内の不機嫌な態度にびくともしない強靭さ。
お嬢様のか弱さは見せかけで実はかなり芯の強い女の子じゃないかと僕は見た。
「お姫様は、僕が送っていこう」
駿にいはそう言って本城と肩を並べる。
本城と舞が入れ替わって病室には舞と俺と大内の三人になった。