DNAに惑わされ 46

青葉君よい味出してくれてます。

駿君も道明寺の御曹司として人に傅かれる生活には慣れてるはずだけど使い走りさせられることはないでしょう。

あっ!つくしとか舞ちゃんは使ってるかな?(笑)

「私のこと忘れたかと思った」

にっこりとほほ笑んだ唇の上で、目は笑ってない。

それでも十分に魅力的は鮎川は映画の女優たちにも引けを取らない。

櫻井監督の娘という血統書を全面に出さなくてもこの世界でやっていける気がした。

「何か言ってくれないの?」

鮎川にそう催促されるまで僕は菜花に見とれていたんだと気が付かなかった。

「菜花・・・」

伸ばした腕は鮎川を引き寄せるように腕をとる。

よそ見をしながら鮎川の近づいてきた男の接触から彼女を守るために。

「どうかしたの?

それよりっ・・・」

僕の言葉を待つ素振りを見せたのは数秒。

鮎川はたたみかけるように言葉をつづける。

珍しく鮎川が感情を表面に出した。

「見てたよね?」

鮎川の言葉を遮るように腹の底から一気に出した声にはため息が混じる。

鮎川の不機嫌な要素は・・・あれ・・・だよな?

河相香住に話しかけられたとこ。

密着した身体のラインにどきっとしたことばれてなはず。

青葉がいたお蔭で冷静さを取り戻して、今は何にも動揺してなかった態度を作ってられる。

あいつ意外と役に立つのかも。

「共演者として、あいさつしただけだから」

「そうなの?」

鮎川の返事は納得してないニュアンスで心なしか冷たい。

「別に気にしてないから」

ツンとした表情には気にしてるだろって詰め寄りたくなる。

「嫉妬してくれてるんだったらうれしんだけど?」

覗き込んだ鮎川の大きな瞳がかすかに揺れて僕を見つめる。

「嫉妬することないんでしょ?」

素直にうれしいとか、安心したとか言わないのは鮎川らしい気がした。

それでもうつ向くように僕から外した視線。

少しだけ頬が色づいたことを僕は見逃さなかった。

抱きしめたい衝動を抑えて、代わりに鮎川の手をぎゅっと握った。

「そういえば、さっき、菜花は僕にそれよりって言葉のあとに言いたかったことってない?」

河相香住との関係だって鮎川が言うとは思えない。

なのに鮎川の言葉で聞きたい気がした。

「青葉君にこき使われなくていいのかなと思ったから」

いたずらな瞳は僕を見つめたままクスッとした微笑みを見せる。

「ジュースが飲みたのなら、持ってきてあげるけど?

菜花が頼むんだったら頼まれてやるよ」

「頼まなくても気を利かせて持ってきてくれるよね?」

当然といった表情を僕は作る。

鮎川といるとたわいのない会話がきらきらと輝いて楽しくてしょうがない。

「本当のこと言わないんだ」

緩やかな感情の中、微笑みを止めたままようやく言いたかった言葉を口に出す。

「言わない」

彼女のことが気になったとは言いそうもない雰囲気。

そしてまた鮎川が見せる笑顔。

それがたぶん答え。

「彼女、可愛いよね」

「そうかな?」

なんとなく鮎川に主導権が移った気がするのは気のせいか?

「今、一番人気のある女優さんなのに?」

答え方によっては墓穴を掘りそうで怖い。

彼女にドキッとしたとこ見られてるとか・・・あり?

ひんやりとした冷や汗を背中に感じる。

あれはオトコしての自然な反応・・・

そう感じたのは一瞬で・・・

ばれてるわけでもないのに鮎川に悪い気がしてるのも事実。

これも鮎川のことが好きってことにならないか?

勝手な言い分とか思われるかな?

ドキッとしても抱きしめたいとかキスしたいって思うのは鮎川だけだから。

頭の中で言い訳がましい自分がのたうち回る。

え・・・と

ここはどう乗り切ろう・・・。

「今、呼んだ?」

右手にグラスを持った青葉が僕たちの後ろにいた。

今ならこいつにジュース100杯は持ってきてやる。