迷うオオカミ 仔羊を真似る 1

連載も一つ終わって新連載に行く前に短編でのお話しを短期集中で予定。

夏のひと時に一息つく楽しいお話をお届けしたいと思っています。

最近ご訪問された方に推薦!!

それでは続きからどうぞ♪

寝ぐせのついた髪。

寝汗で額に張り付いた髪を無造作に掻き上げた。

ぼぅっとしてるのは寝不足のためだ。

30度を超す熱帯夜。

さすがに窓を開けて寝付くことなんてできなくて、唯一我が家に設置されたクーラーのある居間で家族四人雑魚寝で過ごす。

数日前は道明寺のところで暑さなんて感じない過ごしやすく調整、管理された空調の心地いい空間で過ごした。

道明寺にくっついて寝ても過ごしやすくて、肌の冷たさが徐々にまじあって同じ体温になっていく心地よさ。

抱き合って眠るだけならいいんだけど・・・

夜の運動って!あれは運動じゃないから!

体力が付くどころか体力が奪われる。

道明寺と家族とどっちといても寝不足になるのだから辛い。

道明寺の屋敷で手足を伸ばして心地よい睡眠を貪りつくせたらそれが天国だって本気で思ってる。

「俺がいないほうがいいって言うのか!」

眉毛を45度につ吊り上げて不機嫌になるから道明寺には言えやしない。

バイトに行かなきゃ・・・

寝不足の頭を必死に起こして洗面所で顔を洗う。

夏休みのバイトは大学生になった今はいい収入源。

「バイトなんてするな。俺に頼れ」

道明寺の最近の口癖になってる。

婚約してもすべて道明寺に任せるのは何かが違う。

私は道明寺に養ってもらうためにあいつを好きになったわけじゃない。

「お前に使う金なんてたかが知れてる」

と、ほざく道明寺。

それなら思い切り使って無駄遣いしてやるからと頑張った私が無駄だった。

道明寺に連れていかれたお店には値札なんてついてなくて、「これ全部家に届けてくれ」なんて涼しい顔で右から左に指を流す

道明寺に心臓が止まりかけた。

私の金銭感覚じゃ道明寺を困らせることなんて一生無理。

「ほかに何がほしい?」

私の部屋にクーラーがほしい。

きっとこの服の一枚よりクーラーのほうが安い気がした。

装飾より食糧の我が家。

今日のバイトは我が家の食費。

鏡の中に映る私はぼさぼさの髪。

その髪を無造作に一つに束ねて整える。

ショートに髪を切らないのも美容院に行く間隔を長くできるから。

今日も頑張るぞ!

カツを入れるようにパンと頬を叩いて鏡の中の私はニコッと笑顔を作った。

「どこに隠した」

「人聞きの悪いことを言わないでいただきたい」

道明寺HD本社オフィスビル最上階。

気持ちを落ち着かせ冷静さを装う俺と対峙するのは秘書課室長、道明寺代表第一秘書西田。

普通の社員なら震える鋭さを増した声に少しも表情を崩さない。

「夏休みですからご学友とバカンスなど・・・」

「あいつが夏休みを遊びで過ごす女なら俺は苦労しねぇよ」

ふてくされた態度を西田に見せたことをすぐに後悔。

自分の表情を隠すように椅子を半回転させて背中を向けた。

俺がデートに誘ってやってるのにバイトで断るやつ。

この俺様の貴重な時間をくれてやるつーのに断るやつはあいつくらいだ。

企業の重役に政治家を筆頭に俺とつながりを持ちたくて何日もコンタクトをとって会える時間はやっと5分。

この俺となんの約束をなく会えるのはあいつだけの特権。

それがどんなに貴重なのかあいつわかってんのか。

数日電話で話すだけで会えやしねぇ。

昨日の朝からは電話にもでやしねぇし。

俺が探して見つからないってことは西田!お前が絡んでるとしか思えだろう。

俺の不機嫌を解消できるのは牧野だけ。

その秘密兵器がどこで何してるか24時間情報集めてたよな?

「寝不足のようでしたから、つくし様の喜びそうなことを提供させていただきました」

知ってんじゃねぇか!

って・・・

西田が俺を責める目つき。

牧野の寝不足って・・・俺が原因?

あっ・・・

頬が熱くなってくるのを感じて開いた口を閉めるのさえ忘れてしまった。

西田!

お前を見て赤くなったわけじゃねぇからな!

勘違いすんなよ!