迷うオオカミ 仔羊を真似る 2
短期集中連載、予定では10話を目標としてます。
このお話と迷う羊を惑わすオオカミの番外編?と想像されるお方も多いようして・・・
位置づけとしては一緒です。
もちろんオオカミは司 で羊はつくしちゃん。
でも塚原さんは出て来ません。
たぶん・・・(;^ω^)
今回迷うのは羊じゃなくてオオカミさん?
真似るってオオカミが羊をどう真似る?
その辺を楽しみにお付き合い願えればうれしいかな。
Pw申請も多くいただいてます。
ありがたいと本当に感謝。
ほぼすべてに返信はしてます。
届いてない方はお手数ですが再度ご連絡をお願いします。
クールで清涼感のある染み透るようなローズマリーの香り。
疲労してるときにはピッタリの香り。
最近疲れ気味なのは否定しない。
プールでの監視員のバイトも1週間。
私と同じ年代の若いカップルよりも小学生の子供が多い児童プール。
室内プールで日焼けの心配もない。
「ここなら、坊ちゃんも文句を言わないでしょう」
きらりと光る銀縁の眼鏡のその先の瞳は道明寺が嫉妬を見せる相手は排除してますの先手を見せる。
いや・・・
道明寺なら小学生でも本気で怒るから・・・
西田さん本当に道明寺のこと理解してます?
それでもこのバイト紹介してもらったのは助かった。
下手に道明寺系列のホテルのバイトとか紹介されたらそれはそれで落ち着いてバイトなんてできなかったはずだから。
ここなら道明寺どころか英徳つながりの坊ちゃんお嬢様が来るはずはないから知り合いに会う可能性は皆無。
そして思ったより体力の消耗を避けることはできそう。
私・・・
プールサイドを歩いてたら走ってきた男のことぶつかって・・・
水の中に落ちて・・・
足がつっちゃって・・・
プール監視員が準備運動不足だなんて話にならない。
薄れ行く記憶の中で強く抱きしめられて助かったって思ったところで記憶が途切れた。
そしてローズマリーの香りが今私を包み込む。
「気が付きましたか?」
え!
西田さん!
思いがけないその声にばっちり目覚めた。
「どうして?」
起き上って気が付くそこはベッドの上。
広々とした部屋の上質なベッド。
そのベッドの枕元に置かれたブザー。
そのブザーでこの部屋が病室だってわかる。
それも超がつく特別室。
その部屋にいるのは私と西田さんの二人だけ。
本当ならプールの救護室に寝かされてるとかじゃないの?
それとも私が目覚めなかったから救急車で運ばれた?
それなら普通の救急病院で私のそばにいるのはママのはずだよね。
どうして西田さん?
道明寺ならまだわかるけど・・・
携帯の履歴で一番残ってるのは道明寺のはずだもの。
「護衛から連絡を受けたので」
こともなげにそうつぶやく冷静な声。
護衛って・・・SPだよね・・・。
いたの?
私のバイト代より護衛の代金のほうが断然高い気がするんですけど・・・
驚くより飽きれた表情で西田さんを私を見つめてるって思う。
私に害が及ぶ心配はないって思う。
普通の一般人で大学生で守ってもらわなきゃいけないようなことは何もない。
いつもSPが周りに目を光らせる道明寺ならわかるけど、私に何かあっても影響なんてたかが知れてる。
おおげさだなぁ。
「代表のフィアンセの立場がありますから。
本当はプールに落ちる前に助けるのがSPの本来の仕事なのです」
SPの仕事を解説する西田さんは自分の失態だとでもいうようにため息を一つ付いた。
道明寺のフィアンセ。
西田さんの声で聴くとほかとは違った響きが聞こえる。
それは・・・重圧・・・
道明寺のお母様よりは軽いけどそれに次ぐ重さを感じる。
道明寺の俺の婚約者だろうの甘酸っぱく感じる響きとはまた違った色合い。
「それじゃ・・・私を助けってくれたのってSPの人ですか?」
「同じ監視員のバイトが飛び込んだ様です」
力強い腕と身体に張り付く黄色いT-シャツが記憶に残る。
T-シャツは私も来ていたものだから、確かにあれは同じバイト仲間ってことになる。
誰?
女の子は私を入れて3人で・・・残り6人が男子で・・・
あの胸板の暑さは男子だって思う・・・
私・・・おぼれそうだったから無我夢中で抱き付いた記憶が残る。
そう・・・
道明寺以外の男の人に・・・
お礼を言わなきゃいけないのお礼・・・言えるかな?
今すぐ道明寺が病室に飛び込んできそうでドアから視線が離せない。
「つくし様を着替えさせたのは護衛につけていた女性SPですから」
あ・・・
そうだよね・・・
しっかり着替えさせられてるし・・・
そんなことは全く頭になくて・・・
西田さんの言葉にもうつろな返事しかできないかった。
「疲労が重なって気を失ったってことですから一晩ぐっすり寝れば大丈夫とのことでした。
代表には知らせてませんので、ゆっくりできると思いますよ」
私の視線の先と西田さんの視線が重なって聞こえた声。
「このバイトは代表には内緒です」
バイトを紹介する前にそう告げられた西田さんの言葉を思いだしていた。
内緒なのは私を守るため・・・
じゃない気がしてきたのは私の思い過ごしだろうか・・・
少し不安になってきた。
西田さん!
何か画策して・・・ない・・・ですよね・・・
ドアから視線を西田さんに移して見上げた。
鼻筋の通った横顔。
小鼻の上に乗っかる銀縁眼鏡。
中指が鼻の上の眼鏡縁をツンと位置を直すように動く。
飄々とした目元からはどんな感情も読み取ることができなくて・・・
背筋を思わずピンと伸ばしてしまった。
「それでは、お休みなさいませ」
お休みって・・・まだ明るいんですけど・・・
窓からは照りつける西日が差しこんでいた。