迷うオオカミ 仔羊を真似る 8

ギャルソン風のイケメンの店員登場でプールサイドの女性が色めき立つ。

道明寺司ってばれちゃったら視察はどうなる?

そんな心配より坊ちゃんの接待力が気になるのは私だけかなぁ・・・(;^ω^)

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張り付いた服は水分を含んでる分だから数倍は重い。

脱ぐのもいつものようにパッと脱げるわけじゃない。

早く着替えて戻らなきゃいけないのに脱ぎかけの腕は脇のあたりで動きを止める。

どうして道明寺がいるのよ!

さっきから何度も、何度も頭の中でこの考えが洗濯機のスピード洗浄並みに渦を作る。

今の時間なた道明寺HD本社ビルの最上階であいつはふんぞり返ってるはず。

道明寺系列のホテルにいても不思議じゃないけど、そんな場合は仰々しくSPやホテルの重役引き連れて目立つ大名行列でホテル内を案内されてるんだったら意味がわかる。

西田さんがいたから勝手にここにいるってわけじゃないんだろうけどね。

何しに来てるの?

一番妥当な考えは私に会いに来たってとこだろうけど・・・

お客を装って四六時中居座ってお客に威嚇とか一緒に働く男性まで迷惑をかけることも以前はあった。

あっ・・・

高松さん大丈夫かな!

急意で着替えないと!

道明寺の変な嫉妬で迷惑かけてなきゃいいけど。

着替えて中途半端に乾かした髪は目立たないように一つで結んで更衣室を出た。

更衣室からプールサイドにつながる長い廊下。

磨かれた広い大きなガラスの壁。

ガラスの中に映りこむ私。

着替えたはずの服の向こうに水で張り付いてあんまり自信のないラインをうきあがらせていた自分が浮かびあがる。

本当に恥ずかしかったんだから。

もう少し自分の身体に魅力をモテたらこんなことじゃ落ち込まないんだろうけど。

「見た」って私に「今更、減るもんじゃねぇだろう。それ以上のもの見てるし」って、あいつは嬉しそうに目を細めてるし。

見られたら恥ずかしいって私の気持ちをもっと恥ずかしさを上乗せしてくるから耐えられなくなる。

あんなときは着ているシャツをでも脱いで渡してくれて「見てねぇよ」なんて言ってくれたらドキンとなるのに。

とにもう!

きっとあの時点から道明寺は高松さんに私たちの関係を認識させるつもりだったんだと思う。

あの会話はないよ。

頬が熱いのはガラス越しに差し込む太陽の光だけの熱じゃない。

ため息で揺れたガラスのわずかな曇りは直ぐに消えた。

「つくし様」

軽く会釈して私の至近距離に姿を見せたのは西田さん。

道明寺の見える位置に西田さんがいたのは確認済み。

「今回は代表は視察で来ています」

どうして道明寺がいるんですか?

私がそう聞きだす前に西田さんが私に告げる。

「それも、身分は隠して一般客としての接待を評価していただく必要があるんです」

それって・・・無謀なかけ?

あの容姿と威圧感は隠しようがないような・・・

すぐに道明寺だってばれちゃうよな気がするんですが・・・

変相もしてない様だったし・・・

あの道明寺は私が見慣れた道明寺そのもの。

水戸黄門的な、暴れん坊将軍的な、最後で身分をばらすって手法が通用するとは思えない。

社員だけじゃなくF4のネームバリューは高校の時から半端ないんですけど・・・。

うまくいくんですか?

そんな思いを込めて西田さんをじっと見つめる。

「うまくいくようにそこはフォローを期待してます」

成功を確信してるとでも言いたげな表情で西田さんが私を見つめる。

「では、私はほかに仕事がありますので」

ではって!

私もバイトがあるんですけど!

そう叫んで西田さんを追いかけたいのに追いかけることができなくて西田さんの背中は遠ざかる。

あっ!そうだよ!

今は道明寺をおとなしくさせることが先決だった。

身分を隠した視察なら高松さんに道明寺の正体がばれたらそこでおしまいってことだ。

やばいっ!

全速力で廊下を駆け抜けてプールへと戻った。

あれ・・・?

なに?

どうして・・・道明寺が働いてるの?

花柄のパラソルの下、4人掛けのテーブル。

艶やかな水着を着た女性3人。

ちらちらと視線を移すその先には白いシャツに黒いスラックスそしてギャルソン風の腰巻エプロン。

キュッと結んだ腰ひもが腰の細さを強調。

そこから伸びた長い脚。

スタイルの良さはモデル並み。

「あの人かっこいいよね」

「あんな従業員がいるなんて泳ぐだけじゃなく目の保養もできるんだ」

熱い視線と媚びるようなまなざし。

テーブルの合間をスルリと抜けていくその動きは優雅で隙がない。

「ご注文は?」

笑みを浮かべた柔らかい口調。

わずかに腰を折ったぶんだけ視線が下がった分だけ女性との距離が近くなってる。

あれ、わざとだよ。

小さな声でわざと聞き取りにくい声でウエーターと距離を詰める。

胸の奥がざわついて落ち着きをなくしてる。

道明寺が接待できてる意外性に驚いたのはほんつかの間。

道明寺がモテるのは慣れてるはずなのに・・・。

横柄にあしらって、無関心で冷たく無視する道明寺にハラハラしっぱなし。

今、目の前にいる道明寺は私の知らない道明寺で・・・

知らない女性にやさしく話しかけて微笑んで・・・

その優雅な物腰とタッチペンを持つ長い指先の先端の動きまで見入ってしまいそうな艶を惜し身もなくふりまいてる。

注文を聞き終えたカウンターに戻る道明寺を落ち着かない気持ちのまま目で追っていた。

「今戻りました」

真っ白くなりそうな頭を振り戻して高松さんに告げる。

そのよこで「おせぇよ」の道明寺の機嫌のいい声。

「お前、いつまで機嫌が直んねぇんだよ」

「別に機嫌悪くないから」

「俺はな、お前の代わりに働いてやってんだからな」

押しつけがましく言ってるわりには道明寺の言葉ほど機嫌が悪そうじゃない。

「道明寺に接待業ができるなんて意外だわ」

自分でも可愛くないって思う。

いつもは俺様な道明寺が見せる意外な一面。

それは予想外の完璧さ。

「いつもお前の見てたからな。

お前のやってた通りの真似をしてるだけだ」

私の横に肩を並べる道明寺が照れくさそうに笑った。

道明寺の言葉がすんなりと胸の奥に溶け込んでくすぐったくて、暖かくて、私の方が照れくさい。

こんなに完璧に覚えるまで道明寺は私を見ていてくれたのだろうか。

「西田君 これ頼む」

カウンター越しに聞こえた高松さんの声。

返事の代わりに飲み物ののったトレーを受け取ったのは道明寺。

西田君って道明寺だよね?

西田って名乗ったんだ。

西田って西田さんの西田?

視察の事は忘れてなかった道明寺に感心するのと同時に笑いをこらえるのに必死になってしまってた。