迷うオオカミ 仔羊を真似る 7
司だけではなく西田さんも登場。
一応司君視察というお仕事中です。
もう仕事どころじゃなくなってるでしょうけどね。
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視察だと西田に連れてこられたのは道明寺系列のホテル。
高級リゾートをイメージしたスパを備えたプール。
その反対側には家族連れにカップルをイメージしたアミューズメントを中心とした娯楽性の高いプール。
本館と別館を仕切る壁の左右で狙う客層は二つに分かれてる。
あっちのプールもこっちのプールも一人で来るには違和感があるんじゃねぇの。
「お相手は現地で調達されても構いませんよ」
西田にはらしくねぇ助言。
俺が牧野以外の女は興味もねぇこと知っていて寝ぼけたこと言うんじゃねぇよと睨みつけた。
時々聞こえる水の揺らぐ音。
泳ぐのを優雅に楽しみながら木々の自然が作る木陰にそよぐ風。
建物の構造で風の強さが調整できる作り。
避暑地にいる感覚を作りだしているのは予想通りの出来栄え。
タッグを組んだ建築家とはこれからもいい付き合いができそうだ。
目の前をこまごまと動き回る人影。
サングラス越しに見えたのは牧野。
トレーを持ってパフェをテーブルの上に置くのが見えた。
あいつ・・・
こんなとこでバイトか?
サングラスを少しずらして二度見したあとでサングラスを元の鼻の位置に戻した。
あいつにばれなきゃこの視察は成功。
・・・・
・・・・・
・・・・・・!?
つーか、西田のやつ言ったよな。
お相手は現地調達・・・って・・・。
これは西田の計らいってやつ?
それならそうと最初から牧野を俺の前に連れてきて一緒に視察でいいんじゃねぇのか?
なんかもめてねぇか?
下げた頭がなかなか上がらない。
どう見ても高飛車態度の女。
我儘な性格はしっかり女の表情に張り付いてる。
こんな女が一番嫌いなんだ。
まあ、あいつの場合あんな女に負けることもないだろうが、危なくなったらいつでも飛び出すつもりで眺めてた。
バシャッ!
高く飛び上がる水しぶきその飛沫が水上に落ちると同時に牧野の身体が水中に消える。
あいつ!飛び込んだのか!
過労とっても退院したばっかだぞ!
無理すんじゃねぇよ。
「牧野さん」
俺が走りだすまえに男が牧野に駆け寄るのが見えた。
出遅れたのは距離がある分だけの負け。
すぐに水面から顔を出した牧野にほっとする。
プールの深さは130cm~150cmの構造。
そうそう大人がおぼれる深さじゃない。
「おい、何やってる」
プールに浸かったままの牧野は幽霊でも見たような驚きの表情を俺に向ける。
そこまで驚く必要はねぇだろう。
豆鉄砲を食ってるハト?
相変わらずの面白い顔をを俺に見せるから飽きねぇよな。
「牧野さん」
「牧野!」
同時に読んだ名前と牧野の前に差し出された腕。
行動が重なった相手と互いに見合った。
牧野の手が触れてぐっと俺の腕を握る。
プールから引き上げた身体に張り付く白いT-シャツ。
素肌のラインのままの胸の膨らみもしっかり強調していて裸体を見るより艶めかしく相続力を高めるのはきっとこいつのすべてを知ってるから。
俺の視線に気が付いたのか牧野の手が緩んでもう一度水の中に身体を沈めた。
「見た?」
今にも泣きだしそうな瞳が俺を見上げる。
「今更、減るもんじゃねぇだろう。それ以上のもの見てるし」
バシャッ。
大きく両手を動かして救った水はしっかり俺の顔をめがけて飛んできた。
「人が助けてやろうしてやってるのに何するんだ」
怒鳴りつけてる俺の横で「牧野さん、これ」と男が牧野に渡すバスタオル。
それを受け取りないがら牧野はブールから這い上がった。
「ちょっと、濡れたじゃない」
ヒステリックに叫ぶ女は見ていて不愉快この上ない。
「プールにいるにしては濡れたうちにいらねぇだろう」
「失礼じゃない」
「失礼なのはどっちだ」
牧野をプールから助ける役目を奪われたムカつきは一気にこの女に向かう。
牧野に対するさっきの態度も我慢できないものだ。
ホテルから追い出すだけじゃ物足りない。
出入り禁止。
今での生活ができないようにしてやるのも可能ってことをいつ女に告げたら一番効果があるかを邪悪な感情が頭の中でうごめく。
「帰るわ」
強張った表情で足早に離れた女。
「このままじゃ済まないから」
捨て台詞は俺じゃなく牧野に吐き捨てられた。
「おい、待て」
俺の声にビクンと反応して動きを止めた女。
「ちょっと!」
俺を遮ったのは牧野でちっせー体が俺の前で仁王立ち。
「どういうつもりなの!」
俺の怒りを一瞬にして牧野に吸い取られた。
「牧野さん、まず、着替えてきたら」
険悪な空気の流れを仲裁するにはちょうどいい人のいい顔がぬっと俺たちの間に現れる。
厳つい顔が目じりを下げると何とも言えない味のある朗らかさ。
風船に針で穴をあけるようにぷっおっと気が抜ける感覚。
「それじゃ」
まだ怒ってるって顔は俺を見上げたまま足早にプールサイドを離れた。
「君って、牧野さんの彼氏だよね」
「え?」
「さっきの会話を聞いてたからなんとなく・・・」
ごっつい顔が赤らんでぼそっとした言い方で会話が途切れた。
「あのさ、悪いんだけど、牧野さんが帰ってくるまで手伝ってくれるかな?
一人じゃまわらないから」
手伝いってなんだ。
ちょっと待ってカウンターにいって戻ってきた男の手に握られた布きれ。
それを慣れた手つきで俺の腰に巻く。
黒い腰巻エプロン。
「そんなに長くかからないと思うから。あっ俺 高松。よろしく」
差し出された手のひら。
握手を求められてるって理解する前に強引に俺の手を握って握手をさせられた。
その俺たちの前を澄ましたままの表情の西田が通り過ぎる。
おい!
なんも言わねぇのかよ!
西田に向ける俺の視線は完全に無視されて西田はホテルの中に入っていく。
お前俺の秘書だろうが!
こんな仕事今日の予定には入ってねぇぞ。
これから牧野と客のふりしてプールでバカンス!じゃなくて視察だろうが!
一面のガラス張りの壁の向こうから涼しそうに俺を眺める西田が後ろで手を組むのが見えた。
あいつ・・・
完全に傍観者になってねぇか?
これも視察の一環だと思えばいいのです。
そんな西田の思惑が見えた気がした。
拍手コメント返礼
りり様
つくしのそばに司がいると事件は起こるというよりは大きくなるのよね~。
西田さんどこまでよんでいたかが気になるところですよね。
視察場所につくしがいるのはもちろん西田さんの手配です。
アーティーチョーク 様
西田さんの策はきっと司に対する愛情が基本。
だから何でもやってっていいよって安心があるんですよね。
最後までばっちり決めてほし西田さんの思惑。
え?
最後の流れはお持ち帰り?
そういえば最近とんとそんな甘いお話はご無沙汰ですね。(;^ω^)