迷うオオカミ 仔羊を真似る 9

なんとか羊を真似してるオオカミさんまではたどり着きました。(笑)

このオオカミさんまだ迷ってないな・・・(;^ω^)

公約の10話まであと2話。

いけるか!

「道明寺に接待業ができるなんて意外だわ」

それ、ほめてんじゃねぇよな?

落ち着きをなくすとき瞬きが多くなる瞳。

心の奥を隠すようなあわただしい声。

ちょっとむくれた頬に浮かぶ戸惑いの色合い。

子供が拗ねてわざとそっぽを向く感じ。

俺のこと素直に認められない可愛げのなさ。

だがそれが可愛いいって思える俺。

貴重だぞ。

「いつもお前の見てたからな。

お前のやってた通りの真似をしてるだけだ」

今じゃ仕事中のお前の次の行動も予測できるくらいの完璧さ。

お前のやる通りやってれば何とかなるだろう。

決められたマニュアルって感じ。

席に案内、水を持っていって注文を聞くこの単純な流れを何度となく眺めていた。

伊達に一流の店を利用してたわけじゃない。

接待を受ける側からの視点と合わせれば上等なものが出来上がってるはずだ。

俺の言葉に狼狽えるようにますます落ち着きをなくした牧野。

意表をつかれたようなその表情は見る間に赤くなって嬉しそうに笑う。

俺、お前が喜ぶようなこと言ったっけ?

「西田君 これ頼む」

高松ってやつに咄嗟に答えた名前。

道明寺っていうわけにはいかないのは偵察中ってことを忘れてなかったから。

西田じゃなく牧野でもよかったんじゃねぇかと気が付いたのはそのあとだった。

西田って呼ばれた俺に背を向けた牧野の肩が笑ってる。

笑うんじゃねぇよ。

舌打ちして高松からトレーを受け取る。

「牧野さん、彼すごいね。英語もペラペラだし、外国人にも慣れてるみたいだから、ほんと助かった」

牧野、俺を称賛する声をしっかり聞いとけよ。

まあ、このくらい当たり前だけどな。

スワヒリ語以外なら大体の日常会話ならわかる」

「うそ!」

すっとんきょうな声を上げたのは牧野。

「ばーか、嘘に決まってるだろ」

俺の言葉を冗談としっかり受け取ってる高松が牧野の反応にクスッと笑みをこぼした。

「俺の仕事はこれで終わりだからな」

了解だというように片手を上げて俺に合図を高松が送った。

「お待たせしました」

これで終わりだと思うと作り笑いも本気で笑みが作れる。

もうこれ以上は限界。

牧野の真似はもって10分。

人に世話されてるのに慣れてる俺が人を世話することには慣れてないんだ。

頬の筋肉の疲労感は半端ねぇぞ。

「ねぇ、何時に上がるの?」

は?

紙のコースターを裏返して書きこまれる10ケタの数字。

これで何枚目だ?

ハイと目の前に差し出されてもさらさら受け取るつもりもない。

「御用がないなら失礼します」

グイと腕をとられてその拍子に揺らぐ身体。

胸ポケットに押し込まれたコースター。

さっき、受け取らないと突き返そうとしたらテーブルを倒す勢いで立ち上がった女。

消えろ!ブス!

言われねぇだけでも俺として上等。

牧野の真似!

あいつの態度を思いだして対応。

お客様に不愉快な思いをさせちゃだめなの。

こっちに非がなくても頭下げなきゃいけない理不尽なこといっぱいあるだから。

説教じみたあいつの顔が思い浮かぶ。

「道明寺で慣れてるからたいていのことは我慢できるんだけどね」

一言多いあいつにムカつくより笑ってしまう。

話を聞く俺に幸せそうにあいつが微笑むから自然と心が緩んじまう。

「失礼しました」

下げたくもない頭を一応下げる。

女の指先は俺の胸のポケットから離れがたいように、ゆっくりと、ゆっくりと、ミリ単位に浮いてポケットの入り口を弾いて落ちた。

誘うような微笑。

俺にはなんお効力もないのに、自信を浮かべた濃艶な笑み。

胸と腰のくびれを強調するように足を組んで身体を少し横に向けた姿勢。

ゾゾとした悪寒が背中に走った。

俺と入れ替わるように牧野がテーブルの周りを動き始める。

目で追いながら俺はトレーをカウンターの高松に渡す。

「助かったよ」

こいつの言葉は気持ちいい。

俺様を使うやつ西田意外にこいつが初めてじゃないか。

「ねぇ、あの人・・・

道明寺・・・」

ちらちらと俺に気が付いいた視線を投げる女性の二人組。

「西田君お疲れ」

女性聞かせるようなわざとらしい大きな声を高松が発する。

「やっぱり人違いよ。

それにこんなとこで働いてる理由はないって。

道明寺財閥の御曹司だよ」

ひそひそと話す声はクスッとした笑いを織り交ぜながら俺から遠ざかる。

まさか・・・

高松ってやつは俺のこと気が付いてるのか。

この俺のことを打ち消すタイミングの良さは器用すぎだ。

「お疲れ」

おっ!

いつの間にかドアップで牧野が俺に迫る。

「びっくりさせんな」

「なに、動揺してるの?」

「動揺なんてしてねぇよ。

それより、お前の仕事は何時まで?」

「どう・・・西田に教える必要ないと思うけど」

いつもより棘のある態度の牧野。

俺の名前を言いかけて西田と言い変えるから気が抜けて仕方ねぇ。

「なに、膨れてんだよ」

「膨れてないけど、そっちこそ鼻の下伸びきってるけど」

「伸ばしてねぇよ」

ギロリと光る目つきで牧野の手が俺の胸に伸びてきた。

やめっ。くすぐってぇ~

二本の指で挟んで目の前につきだされた円形のコースター。

あっ・・・

それ・・・

捨てるの忘れてた。

グイッと胸のポケットに押し込んだ牧野のむくれた顔がそっぽを向いた。

おい!

興味ねぇから!

誤解すんな!

つーか・・・

これって嫉妬だよな・・・

「ニヤつくな」

振り返った牧野の不機嫌な意味に気が付いた俺は怒れねぇよ。

拍手コメント返礼

みや様

お久しぶりです。

覚えてますよ♪

5年目のお祝いコメをいただいたことも覚えてます。

みや様西田さんお気に入りで、たしかこのコメでも楽しんでもらってると頂いた記憶が残ってるんですよ。

今回は西田さん影の主役ですからね。

坊ちゃん観察日記あるかもです~