エロースは蜜月に溺れる 12
煩悩と戦う試練、荒行に突入した司君。
突入しちゃったら困る!
煩悩がなくなったら楽しみまでなくなっちゃいます。
そのほうが終わりは楽なんだよな・・・(;^ω^)
さらりとこの話も終われるはず?
けだるそうな表情はそのまま大きくあくびをこぼす。
「あら、司一人なの?」
にこやかな女性らしい微笑みを浮かべながら椿は司を出迎えてテーブルに誘う。
「あいつ、まだ寝てんだよ」
不機嫌に答えた低めの声はいっそう司の寝不足を強調する。
「少し、効きすぎたかしら」
椿の含みを秘めた声に何か感じとったように司の瞳に鋭さが増した。
「あの時の、飲み物か?」
司は部屋に召使が運んできたお茶の甘い香りを思い浮かべた。
司はほとんど口をつけなかったが、喉がからからとでもいうようにつくしは3杯はお代わりをしていた記憶が残る。
「熟睡してるつくしちゃんを襲ったりはしてないでしょうね」
念を押すように聞いてきた椿がクスリと司をからかうような笑みを浮かべた。
寝てる間に・・・
何度この誘惑が司を襲ったろう。
そのたびに意識を別なことに集中させようと試みた。
隣国との摩擦緩和で浮かんだ大臣。
そいつはつくしの父親を追い込んだ相手につながる。
少しでもつくしに関係のない遠い話題からもなぜかつくしにつながってしまう。
ハッとなったその時に背中に触れるつくしの寝息。
離れたはずなのになぜかすり寄るようにつくしの熱が触れる。
一気に身体の神経細胞が背中に集中してしまうようで落ち着けなくなった。
ようやくウトウトとなったのは窓の外が白み始めたころ。
陽の光の中、庭では小鳥のさえずりも聞こえてきたその中で感じるのは甘い温もり。
離したはずの柔肌はそのまま司の腕に収まって、絡まりつくように4本の脚が互いに絡みつく。
夢を見てるような甘い誘惑はそのまましっかりつくしの身体を抱きしめて離したくない欲望。
現実に感じるつくしの温もりに一気に目が覚めてベットから司は転がり落ちてしまった。
その物音にも気が付かないようにつくしは寝息を漏らす。
どれだけ、眠るつもりだ?
つくしの寝顔をじっと見つめていた司はプイと視線を外して立ち上がって部屋を出ていった。
これ以上ここのいたら何をしでかすか分からない。
その顔は耳まで真っ赤となって、いたたまれないような落ち着つきのなさ。
身の置き場がないこの感覚に司も狼狽えてしまてる。
落ち着かねぇ・・・。
自分の感情を持て余す感覚にどう対応していのか分からない不自由さ。
「そこまで、する必要あるのかよ」
拗ねた口ぶりの司に椿はクスリと笑みを見せるだけだ。
「邪魔をするつもりはないんだけどね。
しっかり、足元を固めて、誰にも何も言われないようにしなきゃつくしちゃんが肩身の狭い思いするでしょう」
つくしを助けてそれで終わりじゃない。
ここから先のほうが問題は山積みなのだ。
ようやく再会できた恋人同士の邪魔はしたくないがのんびりと蜜月を楽しめるのはまだ先なのだと椿は考えてる。
「誰にも何も言わせないようにすればいいだけのことだろう」
横柄に自信たっぷりに胸を張る司に椿は頭を指先で抑えこんだ。
司が一睨みすれば誰も口をつぐむに決まってる。
それは一時のことで司の前だけに過ぎない。
「あのね。いつも司がつくしちゃんのそばにいられればそれでいいんだろうけど、そうじゃない場合も想定しないと行けないの。
そうじゃなくても、司の周りにはお妃候補がうようよなんだから。
まずはそっちを片付けるのが先でしょう。
それまではつくしちゃんとべたべたできると思ってここに来ないように」
「べたべたしてねぇだろう」
そうさせたのは姉貴だろうといいたいのに正論を言われれば何も言えなくなる。
「それで少しは片付いたの?」
「興味はねぇよ」
司がお妃候補の女性に何も示さないことが、逆に誰でも妃になるチャンスがあると白熱してる一因となってることを全く理解してない弟に椿は苦笑するしかない。
「すいません、寝過ごしちゃって」
バタバタと足音を立てて勢いよくつくしが部屋の中に飛び込んできた。
司を見つけた瞳は狼狽えたように瞬きして耳まで真っ赤に色を変える。
「なに、赤くなってんだよ」
そんな司もつくしに負けないくらいに色づいてる。
「昨日はなかなか眠れなくて・・・
初めてで・・・その・・・疲れちゃったのかな・・・」
首を横に傾けて考え込む仕草に残るあどけなさ。
「初めてで・・・疲れるって・・・?」
椿が意味深な表情を司に向ける。
「わぁっ、バカ!勘違いされそうなこと言うなッ!」
つくしを黙らせようと司がつくしの顔を後ろから手で覆う。
こいつの言う初めてはキスだから!
「いきなり、なにッ」
司の手から顔を抜けださせてつくしが仰ぐように司を眺めた。
「余計なことしゃべるんじゃねぇ」
何を言っても今はつくしとのことで姉貴のからかう対象にされそうな気がする。
「まだ、何もしゃべってないでしょ。
朝の挨拶もしてないのに」
不服そうにつくしの口が尖る。
「とにかく、食事にしましょう」
これ以上ほっといたら喧嘩になりかねないと椿が二人の中に入ってゆっくりとほほ笑んだ。