門前の虎 後門の狼 16

うれし、楽しい同棲生活♪

困るといってるつくしも結局は楽しそうなんですよね。

司に流されていく~

この流れを止める怖いもの知らずなお方はもちろんあの方しかいないと私は思ってます。

さて、だれでしょう?

「お茶をどうぞ」

テーブルの上に置いた湯のみの中には、玉露に最適な温度に冷ましていれたお湯がきれいな茶の色を抽出で来てると思う。

100グラム数千円と跳ねあがる特選のお茶は茶の葉の色と香りでわかるようになった。

すぅと伸びた腕は湯呑を手のひらで包みこんで口元に運ぶ。

その一連の流れはリビングを茶室に変える。

「つくしさんもうまくお茶を入れられるようになったはね」

湯呑から外れた唇が小さく微笑む。

「ありがとうございます」と頭を下げる私の横で「お茶なんて、どうでもいいだろう」と、お母様から顔を背けた道明寺の足を反射的に踏んでしまった。

顔をイタイとしかめて私を睨む道明寺より私の神経は全部目の前のお母様に注がれてる。

私たちが一緒に暮らしてると聞いたら道明寺のお母さんが黙ってるはずないもの。

それにしても一緒に暮らし始めて2日目に現れるとは思ってもいなかった。

道明寺のお母さんが日本に帰ってくるの来週じゃなかったの?

食料品の買いだしに近くのスーパーに二人で出かけた。

特売品を狙う私に値段なんて気にせずに目についたものを買い物かごに頬りこむ道明寺。

100グラム1000円を超す国産牛のひれステーキなんてうまく料理できる自信はない。

コマ切れ特価の牛肉でつくる肉じゃがのほうがうまく作れる自信がある。

「買わない」

「るせぇな」

道明寺の選んだものをカゴから棚に戻すやり取りも楽しんでる気がした。

買い物を済ませてに持ちもちさせてる道明寺。

一緒に住む代わりにと宣言した道明寺をこき使う約束。

この約束がなくても道明寺は私に荷物を持たせるようなことはないって思う。

ただ一つ私が持っていた特売のティッシュペーパーも私から奪いとって持ってくれてる。

私たちの笑い声は消えたのは部屋の前のドアが体格のいい黒服の集団で取り囲まれてるのに気が付いたから。

「なんで、いんだよ」

すーと引いた黒服の合間から出てきたのは道明寺のお母様。

その場で追い払いそうな道明寺を制して部屋にお母様を招き入れたのは私。

私たちが一緒に住むことへのなんらかの苦言があるはずだと予測。

それに両手で荷物を持つ道明寺と軽い言い合いをしながら突っ込みを入れてた私はとんでもない未来の嫁だと思われた可能性もある。

誰に見られるともわからない外で静かに話せるはずがない。

特に道明寺の声は大きくて通る。

そこから数分後私たちはテーブルを挟んでソファーに座って向かい合ってる。

私の両手は膝の上、そこから両手が離れそうもない緊張感が今も続く。

「司が強引に事を進めたのよね」

さすが道明寺の性格をよく知ってるお母様。

そこは私も否定するつもりはない。

「牧野が大学を卒業したら結婚するわけだから問題はねぇだろう」

ピリピリとした相対する親子の睨み合い。

我儘横暴の支配者と一族を束ねる長の威圧。

どちらが虎でどちらが狼?

どちらについても怪我は避けられそうもない。

目の前の相手は息子とその母親。

威嚇しあうその雰囲気は血のつながりがある分遠慮がない。

私だけがおたおたしてしまう。

ここは冷静に・・・

って、一番冷静にならなきゃいけないのは私のような気がする。

「つくしさん」

お母様の視線は道明寺をとらえたままいきなり私の名を呼ばれて「ハイ」と返事した声はオセロのコマのようにきれいに裏がえってしまった。

「司があなたと一緒に住みたいならわざわざ部屋を借りる必要はないと思うのよ。

屋敷に住んでくれたほうが道明寺の嫁としての自覚ももてるでしょうし」

そう言って二口目のお茶をお母様は口に運ぶ。

洗練された仕草はそれだけで優雅で気品があって隙がない。

道明寺のお母さんが不満に思ってることって・・・

私と道明寺が一緒に暮らしてることじゃなくてこのマンションをわざわざ借りたってこと?

「できるなら、私は実家に帰りたいんですけど・・・」

意を決してつぶやく声。

「屋敷は使用人がうろうろしてっから落ち着いていちゃこらできないってこいつが嫌がるんだよ」

え?

道明寺の大声が私の声を飲みこんだ。

「いちゃつけないって嫌がってないから!」

それが屋敷じゃなくマンションを借りた理由にされちゃかなわない。

道明寺の不服そうな声よりお母様の反応が気になる。

「人に見られるのをお前は嫌がるだろうが!」

「それは道明寺がところかまわず私に抱き付いてくるからでしょう。

ほんと道明寺って羞恥心が砂の粒よりないから困るの」

「俺は自分の感情に忠実なんだよ」

ソファーから立ち上がった私を一回り大きい道明寺が上から威圧的に見下ろしてくる。

忠実なら別なところで示してほしい。

道明寺は自分の感情のままに推し進めるだけじゃない。

忠実の意味を本当にわかってる?

まごころをこめてよくつとめる ことだよ。

私に対する私利私欲をぶつけるだけぶつけてくる道明寺に忠実!誠実!忠誠!は意味が違う気がする。

「コホン」

聞こてきた咳払いに道明寺に向かっていた集中力は一気に地下に消えた。

きゃーーっ!

お母様がいたんだった。

「よく考えて行動しなさい」

ひゃーっ

もう顔も上げられない。

道明寺のバカ!

何がいちゃこらしたいだっ!

「すいません、すぐに解消します」

下げた頭が上がらない。

「つくしさん、司のことはあなたに任せてるから。

あなたのことは司より信頼してます」

以前の私ならお母様のその言葉を鵜のみにできたはず。

期待じゃなく責任を追わせられた重圧を感じてる。

「司、つくしさんに結婚の約束まで解消されなければいいわね」

部屋から出ていく間際に道明寺に向けられた微笑。

呆けたような顔を浮かべる道明寺を見てようやく私の心が和んだ。

拍手コメント返礼

スリーシスターズ 様

いつもの私のパターンならこの後はF3とかT3とか西田さんとかこのお話に登場したオリキャラのつくしの同級生なんですが、今回はちょっとひねりを入れました。

楓ママという意外性が楽しめるかもと・・・(;^ω^)

今回の楓さんはおちゃめでいこうと思ってます。

カテゴリから選んで読んでもらってるから新カテゴリー見つけてもらえたんですね。

なるほど!

そうか新しいカテゴリー名から別館のお話につながらなかったんですね。

「霧の中に沈む月」

静かというか暗いというかそんな題名。

何かが起こりそうな予感を感じてほしくてつけました。

開始は元旦からを予定してます。