愛を叫べ! 21
つくしちゃんが仕事のことも、玲子さんのことも思いだす余裕がないくらいに司に頑張ってもらいましょう。
そして最後に愛を叫ぶのはどちらでしょう?
司かつくしどちらがお好みでしょうか?
ちらりと上げた目線。
俺に見られてるのを避けるように目の前の皿の上に慌てて落とした視線。
誤魔化すように料理をフォークが口に運ぶ。
何でもおいしそうに食うやつ。
見て飽きねぇ。
その食べっぷりがおかしくて、愛しくて、目の前のフルーツの盛った皿をつくしの目の前に「ほら」と、さしだした。
「食べないの?」
「お前を見てるだけで腹いっぱいだよ」
無理やりに口の中の食べ物を胃の中に押し込むようにごくりと喉が上下するのが見えた。
「どこか行きたいとこあるか?」
少し悩んだ表情は俺に意見を求めるように疑問符で締めくくる。
「ありきたりだな」
「道明寺は行ったことある?」
左手にフォーク、右手にナイフを持ったつくしの手の動きがピタッと止まった。
「観光する暇なんてねぇからな」
返事によってはそのフォークとナイフが俺を襲ってきそうな気配。
身構えてどうするつもりだ?
「道明寺も行ったことないんじゃない」
つまらなそうなつぶやきとともにつくしのフォークが動いて食事をとるのを再開。
「あのな、西田と観光地巡りやって何がおもしろいんだよ」
プライベートというよりは外国に行くのはほぼ仕事。
俺のそばにいるのは対外西田。
あいつと仕事以外で一緒にいたいって思えるか!
「プッ、確かにそれは面白くなさそう」
つくしの口元からこぼれた笑み。
「早く食え」
そのほほ笑みにつられるように俺も笑う。
食事を終えてホテルから街に出た。
異国人の俺たちを気にかけるものは誰もいない。
その開放感は日本では味合えない格別なもの。
「道明寺」
道すがら見つけた明るい色合いのテントの並び、そこに駆け寄るつくしのあとを追う。
山積みに高く積まれた食材が並ぶ街でよく見かける小さな市場。
お前、今食べたばっかだぞ。
日本では見慣れない果物を手に取って匂いを嗅ぐ仕草。
「おじさん、これいくら?」
日本語で話しかけてそれで通じたように小太りのおっさんが紙に書いてある数字をつくしに見せてる。
買うのかよ。
紙袋いっぱいの果物は柑橘系。
行く当てもなく歩く俺たち。
二人で過ごせればそれでいい。
空いている右腕を俺の左手に巻き付けてきたつくし。
肩に寄り添うようにつくしの頭が触れる。
歩きにくいはずなのに触れあう温もりは心の奥まで温めてくれる。
日本じゃ目立つと言って絶対こいつから俺に触れてこねぇし。
俺から離れようとする確率のほうが高い。
「もっと寄れよ」
浮かれたように俺は牧野の肩を抱いて引き寄せた。
さっきより歩きにくいはずなのに足取りは軽い。
太陽が真ん中に上る時間。
いつもより時間が過ぎるのを早く感じてる。
小さな街の小さなレストラン。
店の外にある二人がけのテーブル。
常連らしき男が新聞を広げて座っている。
野良猫がその男の脚にすり寄っている。
それはどこか古い映画の中で見たようなワンシーン。
二人で入った店先。
入った途端に「司」と連呼されて白いエプロンを巻き付けた男に抱き付かれた。
「え?知ってるの?」
「お前ならこんな気さくな店のほうが好みだろ」
もう離せというように俺が腕で押しのけたのはこの店の主アベル。
このまま好きなようにさせていた頬にブチュッと分厚い唇を押しつけられるから早く逃げるに限る。
偶然見つけたレストラン。
こじんまりとした店の大きさと愛嬌と安さが売りの庶民派の店。
つくしを見つけたアベルが司の彼女かと聞いてきた。
もちろんそこは妻だと答える。
そのとたんあふれんばかりの喜びでアベルはつくしに抱き付いた。
何が起こってるわかってない様子でつくしは目を白黒させる。
突然の抱擁でつくしは倒れそうになる威圧感に必死で両足を踏ん張ってる。
こら!おっさん!離れろ!
俺の不機嫌さは関知せずに相変わらずの愛嬌のある笑みで俺におめでとうの連発。
そしてそのおめでとうのままにつくしの手を取って握った腕を上下におおげさに揺らす。
このおっさんに何を言っても通じねぇんだよな。
「二度と俺の妻に抱き付くな」
俺のいらだつ声に両手を広げて軽く手を上げて降参のポーズをアベルが見せる。
顔はふくよかな笑みをこぼして全然反省してねぇ。
店の中心のテーブルに案内されて席につく俺たち。
すぐにアベルの奥さんや娘に息子に取り囲まれた。
俺よりつくしに興味津々。
こいつ・・・
フランス語わからねぇから・・・
それでもつくしの周りにと飛び交うフランス語。
つくしとかしっかり名前を教え合ってる。
まぁこの辺はなんとなく雰囲気でわかるよな。
次はいくつかった聞かれてるぞ。
見た目よりは大人だからと俺が横から答える。
俺より一つ下におどかれことはつくしに訳さないでおこう。
「ねぇ、みんな驚いてるけど・・・」
「ここの娘、16歳だけどお前が自分より上ってことが信じられねぇみたいだ」
「え?そうなの」
自分より年下と聞いて今度はつくしのほうが驚いてる。
賑やかな中運、運ばれてきた料理。
込み合いだした店の中でようやく俺たちは二人でゆっくりと食事を楽しむことができた。
「道明寺がこんな店に連れて来てくれるって思わなかった」
スキップ気味に俺の前を歩くつくし。
やっぱその姿は大人には見えねぇよ。
「おい、俺から離れると迷子になるぞ」
「大丈夫、もしもの時はホテルはわかってるんだから」
人の意見聞けよ。
わざと俺から逃げるつもりじゃねぇよな。
駈け出すつくしを見失わないように追いかける。
腹いっぱいの時に走らせんな。
「どこに、目つけてるのよ」
聞こえてきた怒鳴り声。
路肩に広がってるのはさっきつくしが買った果物。
睨み合う相手は若い男。
あの野郎。
間に身体を入れこませて俺はつくしをかばうように立つ。
「道明寺!邪魔!」
邪魔?
俺の前に這い出てきたつくし。
「ぶつかって来たのはそっちだから。
おばあさんを突き飛ばしてそのままなんてありえないから」
つくしの吹っかけてきた言葉に相手の男もひるまずにフランス語で返してる。
フランス語と日本語で喧嘩してる。
罵詈雑言って言葉は通じなくても通じるらしい。
って!
感心してる場合じゃねぇ。
「やめろ」
叫んだ声につくしと男の声が止まった。
拍手コメント返礼
スリーシスターズ 様
今回は司君つくしの性格をよんで頑張ってるんですけどね。
つくしちゃんトラブル引き寄せてますからねなかなか愛が叫べない。
セーヌ川のほとりで恋人同士の甘いひと時、周りのいちゃこらするカップルに負けない甘いキスに行きつかせたいんですけどね。
ここまで司につくしちゃんをもってこられるように頑張らせなくては!
歩くみかん箱 様
つくしと司、どこを歩いても二人でいれば楽しいでしょうね。
司なりのデートプランがあると思うのですがつくしの負けん気の強さがこの後どうなるか!
司がいるから大丈夫とは限らないかも~
続きそろそろ書かなきゃぁ~。