戯れの恋は愛に揺れる  31

ようやく再開できるぅ~

つくし姫、司皇子のもとから実家に帰ったところで中断。

何かが起ころないわけがないということで続きからどうぞ♪

「はぁ・・・」

小さく唇を揺らしたため息は揺らすはずもない御簾を大きく揺り動かすようにつくしには思える。

つくし姫のため整えられた調度品はどれも一級品ばかり。

嫁ぎ先が決まるということはどれだけ自分の待遇が変わるものなのかとつくしは思わずにいられない。

無理やりに地方の豪族に嫁ぎ先を決められた時は逃げだし、人里はなれた場所でつつましい生活を送らねばならなかった自分。

今の自分が夢で、目が覚めたらあの寂しい山奥での生活に戻っていそうな思いがある。

あの山での生活はそれはそれで楽しかったはずなのに今はなぜか物足りない思いが募る。

皇子が現れて、抱きしめられた瞬間につくし中でなにかが変わったのは確かだ。

一人でも生きていく強さがあったはずなのに今は一人では生きていけない思いが募る。

「姫」

突然現れてはやさしく笑いかける瞳。

無遠慮に抱きしめる力強い腕とその温もりを、数時間離れただけで恋しく思う自分がはしたないと思いつつ思わずにはいられない。

婚礼のその日。

輿入れのその時刻までつくしは実家で過ごすこととなっている。

つくしの部屋の次の間には、皇室との婚儀を聞きつけた今まであったことのないような、名前も顔も知らない親族からのお祝いの品が今日も届けられてにぎわっている。

つくしが帰ってきてから父親は転げるように部屋に顔を見せては「よかった」と何度も顔をほころばせる。

父の正室とは帰ってきた挨拶をしただけでそれから一度もつくしは会っていない。

それはそれで気楽でいいとつくし姫は思っているから気にも留めていなかった。

「姉上」

別れた時はまだ稚児の姿だった弟が今は烏帽子と直衣の成人男子の姿でつくしの前に膝をつく。

必死に大人に見せようとするその姿はつくしにはぎこちなく映っておかしさがこみあげるのを隠すのにつくしは必死だ。

「何か、おかしいだよね」

「何が?」

進には似合わない神妙なその表情になぜかつくしの心は和んでしまう。

まだ着慣れない直衣が勝手わるいとか思ってるとか?

「屋敷に人の出入りが多すぎるって思わない?」

唇を付きだすよう進がつぶやく。

「それは・・・

やっぱり・・・

私の嫁ぐ相手が相手だからでしょう?」

思いださないようにしようと思っていたつくしの頭の中に追いだせるはずのない皇子の姿がまたはっきりと思い浮かんで、つくしの声を艶やかに色づかせてしまう。

「本来なら、もっと警備を慎重にするべきなんだよ。

もしもだよ、姉上に何かあったらそれこそ政の問題にまで発展しかねないだよ。

父上だって左遷くらいじゃ済まない。破滅だよ」

「お父様を破滅させて誰が得するの?」

「あのね。姉上が東宮妃になって世継ぎの皇子を生むことになれば、そこには権力をめぐっていろんな目論見が出てくるんだよ」

のんきだなと言いたげな進の表情。

世継ぎって・・・

私が産むの?

司皇子の・・・?

今も妊娠してる可能性がないわけじゃない・・・

すでに皇子とは・・・そんな・・・関係・・・なんだし・・・

進の話の権力の言葉にたどり着く前に世継ぎを生むッて言葉の方につくしは反応して顔を赤らめてる。

「だから、姉上もしっかり考えて」

「うん、しっかり考える」

まだ・・・

懐妊したわけじゃないけど・・・

そこはしっかりしなきゃいけない。

「姉上の部屋に近づけるのは、父上と、僕と小鈴だけにしておくからね」

「大丈夫、知らない人には会わない」

もし体調の変化とかに気が付かれたら困るもの。

懐妊したらいきなりお腹が膨れるものなのかな?

つくしは思わず自分の腹部を確認するように手を当ててて確かめる。

進とつくしの考えはかみ合わないが会話だけは納得したようなつながりを見せる。

一日2回は進がつくしの無事を確かめるように部屋に顔を見せる。

「それじゃ、お休み」

寝る前の挨拶を終えた進はほっとした表情を見せて立ち上がる。

弟を見送りながら一人になった部屋はぽっんと取り残された寂しさに包まれてつくしは落ち着かなくなる。

山奥のあばら家でも、後宮での暮らしの中でも感じたことのない淋しさに包まれていく。

今日も寝れそうにない・・・

そんな思いが胸の奥にチクッとした痛みを感じる。

早く会いたい・・・

声を聞きたい・・・

皇子・・・

後宮では会えなくても一緒の屋敷にいるという安心感がつくしにはあった。

女官たちから聞こえてくる噂ばなしもつくしにわざと皇子のことを教えるように聞こえていた気がする。

見聞きするその話をつくしも愉し気に聞いていた。

今のつくしの生活は皇子の話どころか外部からなんの情報も入ってこない孤独さだ。

皇子なら、直ぐにでも無謀にこの屋敷に忍び込んできてくれそうなものだけど。

歌を贈るとか・・・

珍しいお菓子を贈るとか・・・

なにかしらあってもいいものだと思うけど・・・

宿下がりしてから全くなにも言ってこないつれない皇子をつくしは恨みたくもなる。

そんな思いを打ち消すようにつくしは寝床に身体を横たえ布団を頭からかぶる。

早く眠って朝が来ればそれだけ婚礼の日に近づく。

無理にでも眠るそんな気持ちでつくしは瞼を閉じた。

「んっ・・・」

息苦しさに目を覚ましたつくし。

口を押さえつける無骨な指先に寝ぼけていた感覚が一瞬で目覚める。

「静かに・・・

騒ぐと身のためになりませんよ」

聞き覚えのない声は鋭く皺がれて低く響く。

暗闇の中で必死に目を見開くがその顔はまだ輪郭さえも見えてこない。

「急げ」

誰かに指図する声が布団ごとつくしを巻き込んで身動きをとれなくする。

抱きかかえられ肩に担がれる感覚につくしは身を固く縮めて震えるしかなかった。

拍手コメント返礼

yumi 様

拍手コメいつもありがとうございます。

もちろん皇子にかっこよく助けてもらう予定ですよ♪。