最上階の恋人 8
最上階にいるはずの恋人は下に向かうエレベーターに飛び乗って♪
最上階に向ってるはずの恋人は道草しちゃったことが仇となりどこかに連れていれています。
ビル内でのすれ違い。
もちろん出会えるのは最上階でのはず・・・(;^ω^)
ですよね?
今回はSP相葉さんの視点のお話です。
「えっ!」
「嘘ッ!」
「キャーッ~!」
驚きと疑う声のあとに悲鳴にも似た感嘆符付きの黄色い声が抑え気味に響く。
「おいッ」
テーブルが聞こえた声に驚くように飛び上がったように見えたのは、テーブルの上に突いた腕の力のかかり具合のせいだと気が付いた。
思わず前のめりになって影響のないはずの自分の目に前にあるグラスを両手で握りしめたのは咄嗟の行動。
ジロリと自分に向けられた視線の強さは驚くほど憤慨の感情を向きだしに注がれてる。
慌てて立ち上がった身体は直立不動に姿勢を正す。
敬礼が必要ならします。
それより土下座か?
「チッ」と舌打ちした口元は皮肉るように右の口角を上げる。
気難しそう見えた代表の横顔。
その視線は直ぐに代表の交友の深い西門総二郎、その人に注がれてる。
「F4の二人が見れるなんてすごいっ」
「F4のリーダーがうちの代表だからって見られないよね」
「何言ってるのよ。代表の実物だって、私は初めてだよ」
こそっと・・・でもない聞こえる話し声。
おもむろに取りだしたスマホから一斉に聞こえるシャッター音。
俺一人が撮るなと身体を張っても360度にわたる視界からは守りきれそうもない現実。
「牧野はどこだ」
「restroom」
英語で返した声はさわやかな印象で聞こえてくる。
「日本語で返せよ」
不満そうにつぶやいた代表はさっきまで彼女が座っていた席に腰を下ろした。
「食いもんで釣るんじゃねぇよ」
皿の上に置いてあったフォークを取り上げて見つめた一秒後にテーブルの上に投げだされたフォークがカランと音を立てて落ちた。
「牧野の食べっぷりいいよな。
俺たちの前で大きく口を開けて食べる女はいないからな。
牧野って、食べてるときが一番幸せそうな顔してるんじゃねぇの?」
「俺と一緒にいるときのほうが何百倍も幸せそうな表情を見せんだよ」
ムッとした表情を見せる代表を前に笑みを小さく吹き出す西門総二郎。
「相葉!」
怒号にもにた声は俺に背中を向けたままの代表から聞こえた。
「お前そこでなにしてんだよ。
牧野についているはずじゃねぇのか」
「すいません」
代表の威圧感は爆風ほど強く俺に襲い掛かってきた。
牧野様がトイレだから直ぐに戻るって言ってたんです。
なんて言い訳はとてもできそうもない。
普段なら女子トイレの前に張り付くのも仕事だから当たり前のようにやります。
ですが今回は護衛と言うよりは最上階までの道案内の危険性は全くない楽なものだったはずなのに、
こんな緊迫感漂うやり取りは全く想像すらできてなかった。
すぐそこのトイレですよ。
軽いノリで指をさせるほどお気楽にはなれない状況。
口を開こうものなら、テーブルの上に投げ出したフォークが口の中に突き刺さってきそうな雰囲気。
「司、落ち着けよ。
牧野もそろそろ戻ってくんじゃねぇの」
「それにしちゃ、遅いかな」
ちらりと左腕の時計に落とした視線を俺に向けた西門総二郎。
その声は俺の逃げ道を作ってくれ機転だと感じとる。
「見てきます」
これ以上代表の荒立つ声を聞くのは耐えられそうもない。
つーか。
こんな迫力ある代表初めてのような気がする。
いつも不機嫌さと人を寄せ付けないオーラは半端ないがそれに加わった怒り・・・
この場合嫉妬とというべきものなのだろうか。
彼女が他の男とこの場合は二人の知り合いの西門総二郎で・・・
知らない仲じゃない。
約束の時間まではまだあるわけだし・・・
ここまで不機嫌な代表にはもっと違う理由があるのだろうか?
仕事がうまく進まずにいら立ってるというほうが俺にはしっくりくる気がする。
トイレまで1分も要しない時間の間に俺は代表の感情の変化を読み解こうと必死に推理する。
わからねぇぞ。
女子トイレから出てきた女子社員とぶつかりそうになってしまった。
「すいません、中に学生の若い女の子いなかったですか?」
「もう、誰もいないようでしたけど?」
「え?ちょっとッ!」
驚く女子社員を押しのけるようにトイレに飛び込んだ。
この際女子トイレに男子は入れないなんて常識は論外。
「いない・・・」
個室をすべて確かめた俺は動揺で揺らぐ身体を壁で支えるようにして外に出てきた。
どこだ!
どこ行った!
俺が気が付いてないいってことは反対の方向に向かったとしか思えない。
ここで右と左を間違うッてどんだけ方向音痴なんだよ。
まだ時間はそんなに経ってない。
間違いに気が付いて引き返してくるかも・・・だよな?
普通なら間違うはずのない単純なつくりのビル内。
眺めた先には引き返して来てるような人影はなし。
代表のもとに引き返すよりはまずは牧野様を探しだして一緒に連れ戻したほうが得策だよな。
そんな判断で俺は代表のもとに戻るのは後回しで行動を移したのだった。