最上階の恋人 9
ここ数日台風並みの強風でいろんなところに影響が出ていますよね。
皆様のところはどうでしょうか?
我が家では強風で自転車が倒れて車に傷をつけてました。
倒れないように対策はしてるはずのですが、ついうっかり対策を忘れていた様です。
こっちの強風は夜に吹き荒れているんですよね。
台風か!という風の音で真夜中に目が覚めてしまいました。
さぁ道明寺HDで巻きおこる騒動は嵐になっちゃうのか、それともこじんまりと落ち着くのか、どっちだ~♪
「最初からこれじゃ、困るのよね」
連れていかれたのは非常階段を一階下に降りた小会議室らしきつくりの部屋。
数組の長テーブルに10席ほどの椅子が並ぶ。
真新しいリクルートスーツに身を包んだ緊張してる表情の男女が5名が一斉に私を見た。
「インターシップの意味は分かってるわよね?」
「え?」
「あっ・・・まあ・・・」
大学生の就職活動。
大手企業や外資系の企業が取り入れてるいわゆる職業体験。
それくらいは知ってるけど・・・
大学に入学したばかりの1年生の私にはまだ早い話だ。
それに弁護士を目指す私にとっては就活より司法試験を頑張る方が有意義。
それなのになぜ私はこの場に連れてこられたのか。
リクルートスーツの彼らと対峙する私はラフな普段着の格好。
薄手のシャツ一枚に淡いレモン色のカーデガンを羽織って下はジーンズ。
道明寺に会えるから私なりのおしゃれはしてきたつもりだけど・・・
どう考えても場違いな格好に違いない。
私をトイレの前から否応なしで連れてきたおねぇさんは腕組みをしたまま私を値踏みするように足もとから頭の先まで視線を動かしながら呟いた。
「まぁ、高校生じゃしょうがないか」
高校生!
思わず目を大きく見開いておねぇさんを凝視してしまった。
「制服で来るかと思ったけど、きっと私服の学校なのね。
大目に見るわ」
勝手に解釈して私を席につくようにと促す。
「ちょっと待ってください、私はッ」
「いいから、そこに座る」
私の言葉を制してこれ以上は相手にしないって態度で何やらみんなに茶色い封筒を渡す。
もちろんその封筒は私の目の前にも置かれてる。
「封筒の中をそれぞれ確認して」
その態度は教壇から生徒を見下ろす教師のよう。
できの悪い生徒は相手にしないって態度で私のことは除外してるって感じ。
勝手に間違えておいて、私を連れて来て、無視する態度はいくら人のいい私でも『感じ悪るい!!」としか思えない。
それに高校生に間違われるなんてッ!
大学生になって大人の気分を味合おうって思ってた矢先の出来事は私を落ち込ませるには十分。
まだ高校生にしか見えないんだなぁ・・・。
「これから、社内を案内するから迷子にならないようについてくること」
それは参加者全員というよりは私一人に向けられた声。
シーンと静まる空気の中ほかの参加生の視線も一斉に私を捉える。
「ここは素直に返事しといた方がいいわよ」
隣にいたショートカットの女性が笑顔を見せる。
返事って言われても返事をする前に指導者の女性は颯爽と会議室のドアを潜り抜けてしまってた。
「高校生で道明寺HDのインターシップに参加できるって優秀なんだね」
「えっ・・・?
そんなことは・・・ないと思います」
「また、謙遜しちゃって。あっ、それともコネのある関係者の令嬢とか?」
興味津々に見つめる瞳。
無邪気な瞳を私に注いでくるその表情はそれは思ったほど不愉快じゃない。
育ちの良さというか、素直な印象を受ける。
高飛車な態度でぐんぐんと自分の間違いを押し付けて勘違いしたまま私を責めるあの指導者より好印象。
「うちはいたって平凡なサラリーマンです」
力を込めてつぶやく声にその女性は「よろしく」と私に握手を求める手を差し伸べてくれた。
握手してもいいのかな?
なんて戸惑うの腕をとってちょっぴり強引に握手をする。
「私、勅使河原 綴」
「牧野、つくしです」
綴さんの手のひらの中で遠慮がちな私の手のひら。
握力は断然、綴さんのほうが強い。
テシガワラ・・・ツヅルって・・・
大河原滋となんとなく似てない?
頭の中で浮かんだ滋の顔が目の前の綴さんの顔にかぶさってしまってる。
「ちょっと、急ごうか」
数メートル先を行くインターシップ参加者の後ろを綴さんの声に促されるままに足早に歩く。
この時すっかりカフェテリアに残してきた西門さんと相葉さんのことは私の頭から抜け落ちてしまっていた。