最上階の恋人 11

今年もゴールデンウィーク始まりましたね。

べつにどこにも行く予定は立てないのに忙しいんですよね。

貧乏暇なし!

なんか面白いつかつくネタを突っ込みたいと思っています。

最上階から遠ざかるように降りて来た1Fエントランス。

指導員の言葉はほとんど私の頭の中には残ってない。

ちらりと見えたのは、さっきまで西門さんといたカフェテリア。

エントランスから3階まで吹き抜けになってるビルのつくりはオフィスビルらしからぬにぎやかな雰囲気。

仕事の効率を上げるために憩いの場的なつくりになってると聞いたことがある。

ビルから出ていかなくても一日中過ごせるコンセプト。

柔らかな雰囲気には程遠いピンと張りつめた空気が漂う一角。

見なきゃよかった。

そんな考えが私を支配した。

壁際に追い込まれているのは相葉さん。

その相葉さんを完璧に脅してるのは道明寺。

キャーとか聞こえた声が何なのか分析するのにかかった時間は私が息を飲む数秒間。

道明寺のあの冷ややかな表情は派手なオーラに打ち負かされてしまってる。

道明寺の感情の起伏を差し引いたとしてもこのビル内での道明寺の存在感自体が彼女らを魅了するらしい。

「道明寺様~」

さっきまで私を見下していた指導員まで今は自分の仕事を放棄してしまってるもの。

「見れるとは、思わなかったけど、実物さすがだね」

ため息交じりにつぶやいたのは同じインターシップに参加してる勅使河原 綴さん。

あっ・・・私は同じじゃない!

私はインターシップに参加してるわけじゃないのだから。

早ここから抜けだして道明寺のとこに行かなきゃいけない。

あのままほっといたら道明寺の機嫌の悪さはそのまま私への態度につながっちゃうもの。

頭の上から怒鳴り声を被るのは避けたい。

つーか、人の話も聞かずに一方的に非難されると素直に謝れないんだからねっ。

「私、道明寺HDに絶対入りたくなった。

つくしちゃんもそう思わない?」

「いや・・・私は・・・就職とか会社がどうとかじゃなくて・・・」

私がなりたいのは弁護士で・・・

就職先を考えるより司法試験に受かる方が先決。

そう答えたいのに、自分に共感してくれる反応を期待する瞳が私を見つめてくるから、思わずうなづいてしまった。

「きゃー」何度目かの聞こえた悲鳴。

そしてカベに沿ってずり落ちた相葉さんの姿がみえた。

まさか道明寺殴ったの!

蒼白気味の相葉さんの頬には殴られた跡が見えないことに安どのため息が口を突く。

「女性じゃなくても腰が砕けるのわかるかも。

私が変わりたいよ」

「代表の壁ドン・・・

されなくても見るだけでも価値があるよね」

「写メ撮った?」

設置された舞台をぐるりと取り囲んで見つめる観客のような熱がいたるところで上がってる。

スマホの画面を見せあう光景はそのまま画像を交換し合う状況にまで拡散中。

相葉さんと道明寺の状況はまったく違う状況に置き替えられてしまってる。

道明寺の怒りを全身で相葉さんが受け止めたって正解には誰もたどり着ていない。

唯一知ってるのは西門さんだけだろうな。

その西門さんがじっと私を見てる視線とぶつかった。

「はやく、戻れ」

西門さんの唇がそう読み取れる。

これ以上相葉さんに迷惑はかけられない。

道明寺をこれ以上不機嫌にさせたら困るのは私だもの。

「あのすいません」

意を決して指導員に声をかけた。

ここはしっかり勘違いをただして道明寺のもとに急ぐしかない。

全然反応がない。

「西門総二郎もいる・・・」

放心状態で聞こえた声は指導員のもの。

「F4の半分がそろうってよくあるんですか?」

きゃぴっとした声を返したのは勅使河原さん。

「私も初めて見た・・・」

指導員の反応はいまだにこころここにあらずの状態。

インターシップの参加者と同化してしっかり視線は艶やかな光を放つ方向に向けられてる。

もうっ!いいや!いっちゃえ!

このままここを離れて3階まで行っちゃえばあとはどうにかなるだろう。

くるりとインターシップのメンバーに背を向けるように方向を転換。

えっ?

グイッと腕を握られた重圧が私を引き戻して足が進めない。

「抜けがけはだめよ」

振り向いた私の目の前で勅使河原さんがにっこりと笑みを浮かべる。

「そばに行きたいのわかるけど。

そんな暇はないだろうしね。

それに、あの指導員にまた目を付けられちゃうわよ」

それは先輩的立ち位置での勅使河原さんの忠告。

そのまま何事もなかったように私はメンバーの中に引き戻されてしまった。