最上階の恋人 12

おはようございます。

すれ違いの二人の行く先は?

まだそこまですれ違ってないはず。

とことんすれ違わせることも考えましたが、どうも最近自分が司君にやさしくなってる気がするのです。

さぁ!見つけられるのか!

自分から息切らせて司のもとにつくしちゃん行けるのかどちらでしょ?

「何、見てんだよ」

下に向けられた総二郎の視線は俺の一言でまっすぐに俺を見つめる位置に変わる。

「別に」

微動だに動かない涼やかな目元。

そして、うっすらと笑みを浮かべた唇が独り言のようにそうつぶやく。

手すりを乗り越えて下に向けた視線。

天井から差し込む光が浮かび上がらせるエントランス。

幾人もの立ち止まったまま上に向けられた視線。

集中した視線を集めてるのは、間違いなく自分だと気が付くのにそう時間はかからなかった。

えっ?今、目が合ったよね?

感動を浮かべたいくつもの高揚した顔が隣の似たような顔とうれしさを共有するように浮かび上がる。

「手でも振ってやれば?」

俺の横に立った総二郎が俺と同じように地上を見下ろす。

歓声にも似たざわつき。

どっかの誰かのコンサートホールと勘違いしてんじゃねぇぞ。

その歓声になかに混じるように見えた華奢な後ろ姿。

肩を覆う長めのストレートヘアー。

見慣れてきた安物の私服。

牧野に似てねぇか?

あいつトイレに行った後になんでエントランスにいるんだ?

誰かに腕を掴まれたままに消えた姿。

一瞬捉えただけなのに網膜に記憶された後ろ姿は、間違いなくあれな牧野だと俺に訴える。

「今の、牧野だよな?」

「ん?」

半身を乗り出した総二郎が俺の視線の後を追う。

「どこ?」

「もう見えねぇよ」

「どうして、司に会いに来た牧野がエントランスにいるんだよ。見間違えねじゃないの?」

「俺が牧野を見間違うわけねぇだろう」

「もしかして、牧野、司に会う気がなくなったとか?」

総二郎と会話をするうちに絶対こいつも牧野がエントランスにいたことを確認してると思えて来る。

飄々とつぶやく総二郎の声には俺をからかう感情が丸見えで面白くねぇ。

総二郎の挑発にノセられて怒鳴るのも大人げねぇし。

「あいつ、またしょうもねぇことに首突っ込んでるんじぇねぇの」

相葉が牧野から目を離したのはトイレに行った数分間だけ。

短時間でエントランスまで引き返せるのはもう特技としか言えない気がする。

「総二郎、お前の挨拶を受けるのは牧野を捕まえた後にする」

エントランスまではエレベーターよりエスカレーターを駆け下りたほうが早い距離。

3階から邪魔な前列者を飛び越えるように一気にエスカレーターを駆け下りて下に向かった。

牧野が姿を消したその場所の反対側に降りったっていうのが時間のロス。

「どけっ!」

目の前を横切ろうとした男がムッと見せた表情は俺だとわかった瞬間にこわばりを見せたまま固まって動かなくなった。

その男の身体を横にずらすように伸びた腕はそのまま男を俺の視線から隠す。

俺に追いついてきた相葉が息を整えるように大きく息を吐いた。

牧野を見た場所まで一気に掛けつける。

「くそっ、いねぇ」

どこ行った?

見渡せるはずのエントランスから牧野の姿がまた俺の前から消えた。