下弦の月が浮かぶ夜19
*雲一つない吸い込まれそうな青い空。
上を見上げながら吐きだした息が白く見える。
そのまま落ち込みそうな心も一緒に天上まで持って行ってくれたらいいのにと本気で願った。
「まーきの」
間延びした様な感じで私の名前を呼ぶのは一人しかいない。
その響きの中の優しさは私を落ち着かせる。
振り向いた目の前には整い過ぎた美貌。
1番光を放っているかのように見えるビー玉のような瞳が私を見つめてる。
「久しぶりだ・・・ね」
花沢類につられる様に笑みが浮かんだ。
「元気ないね」
「そんなことないよ」
落ち込みかけた気分を振りはらうように虚勢を張る。
唇の形のままにクスと花沢類の口元がわずかに動く。
花沢類の両手がゆっくりと動いて私の頬を包み込んだ。
「俺の前で強がらなくてもいいのに」
額と額が触れ合いそうな距離。
言葉が途切れた後で長い睫毛に彩られた瞳が躊躇なく私を見つめてる。
近過ぎだよ~。
焦った様にドクンと心臓が騒ぐ。
私の方が我慢できなくなって瞳をそらした。
「あきらとの噂、聞いてるよ」
「噂って・・・どこまで?」
「あきらの今度の相手が牧野ってことになってること」
「結構広がってるんだ」
「牧野の落ち込みはその噂だけじゃない様だけど」
「笑ってそれで終わりってことにはならなかったんだよね」
ハーと息を吐いて、これまでのいきさつを素直に花沢類にぶちまける。
最初から花沢類に内緒にできるほど私はウソがうまくない。
会って追求されれば素直にしゃべらされるに決まってる。
「それじゃあ、あきらとの噂につきあって恋人の振りを続けるんだ」
「よく、司が許したな」
口の中で呟く様に言った花沢類の言葉が何とか私にも聞こえた。
「条件付きだけどね」
「あきらにつきあうんだったら俺にも付き合えって」
「俺より長い時間を他の男と一緒にいるなんて許さないって決着がつくまで一緒に住めって言うんだよ」
言葉の最後のところでエネルギーが充満してきた。
ブスッと不満が顔に出てしまった。
「ブハハハハ」
突然笑い声を上げる花沢類。
笑い声上げられるようなこと言ったつもりはないんですけど?
きょとんとなったままの顔で花沢類を見つめた。
「ごめん、クッッッ」
笑いを止めようと努力してるのは分かるが収まらずに喉元がわずかに上下を続けてる。
「牧野が、気分を落ち込ませてる原因はあきらの恋人役するってことじゃなくって、司の強引な条件を付けられたところなんだろう?」
「笑っちゃ悪いけど、司が・・・グフフフ」
収まりかけていた笑いがまた盛り返した。
花沢類が笑い上戸だったの忘れてた。
「ねぇ、牧野」
「どっちにしてもあきらの件を片付けるのが先決だと思うんだけど」
無邪気な笑いを落とした花沢類の表情は大人っぽく真剣な表情へと変わる。
「牧野があきらの恋人役やるの俺もいい気分じゃないから」
「えっ?」
思わず大きく目を見開いてごくっと息をのむ。
「司だけだから」
耳元に寄せられた唇からささやく声。
空気を伝ってわずかに感じる花沢類の体温。
触れ合ってるわけではないのに抱きしめられている様な感覚に陥りそうだ。
「司だから譲ったんだ」
言葉だけじゃなくてそう心が叫んでいるのが分かる。
このままじゃ心臓が持たない。
抗いたいのに逃げだせそうもないままギュッと目を閉じた。
「そんなに緊張しないで」
「ンッ」
軽く鼻をつかまれて慌てて瞼を開ける。
目の前で花沢類がわずかにほほ笑んだ。
拍手コメント
b-moka様
類も絡んできてこのお話ややこしくなってます。
どうしてこう・・・いつも・・・話を難しくするのか(^_^;)
自分で自分の首を絞める展開。
どうなるのでしょう