記憶 パートⅢ

*このリレー小説は記憶 パートⅡからの11話目から分岐しています。

パートⅡを読まれた方は12話目からお読みください。

第1話   記憶                            作 あいきさん

「ちょっと出掛けてくるね!!」

いつもの脱走。おきまりのこと・・・。

でも、今回はいつもと少し違っていた。

予定の時刻を過ぎても、ユーリが帰ってこなかったのだ。

「・・・ハディ、ユーリはまだ帰ってこないのか?探しに行く!」

心配になったカイルは、ハットゥサ中を探し回った。

そして・・・。

「ユーリ!」

ある民家の前で、水くみをしているユーリを発見した。

ユーリはきょとんとして、こちらを見ている。

「・・・あなたたち、誰?」

最愛の娘、ユーリから発せられたそんな言葉。

誰・・・・?だと・・・・・。

「あなたたち、わたしをしってるの!?」

バシャン。

水が、ユーリの手から、滑り落ちた。

「わたしのことをしっているのね!?誰?あなた達は誰?」

何も、答えられない・・・。

ユーリ、記憶をなくしたのか・・・・・・・!

第2話            家              作 ひろきさん

「・・・あの、失礼なんですけど・・・。あなた方誰ですか?」

ユーリの記憶がないと分かって、みんなが呆然としているときだった。

ユーリは、なぜ黙り込んでしまったのかが分かっていない。

「あの、とりあえず中に入りませんか?・・・で、お話聞かせてください!」

「あぁ、そうさせてもらうよ。」

何とか正気を取り戻したカイルは、ユーリの言葉に従った。

今のユーリに何を聞いてもワカラナイ。

それならば。

「おばさん、あのね、この人達私のこと知っているみたいなの」

「え?だれだい・・・?お嬢ちゃん、お茶でももってきな」

ユーリはおばさんの言ったとおりに奥に引っ込んだ。

この様子からして、おばさんはカイルに気がついたらしい。

「やっぱりあのお嬢ちゃんは、イシュタル様かい?陛下」

「・・・そうだ。世話になったらしいな、礼を言おう。

 ユーリを連れて帰りたい」

「あぁ、それが一番いいんでしょう」

ふぅ・・・。

大きなため息一つ。この女性は、何か知っている・・・?

「どうしてユーリは記憶をなくしたんだ?」

「・・・事故だよ。私がもっていた水をね、彼女がここまで運んでくれて・・。

 それで、帰りがけに目の前に飛び出してきた馬車に驚いて頭を打ったんだ」

頭を打った。

他には特に外傷はなかった。ユーリのことだ。

うまく身を翻したのはいいが、足を滑らしたのだろう。

「では、ユーリは連れて行く」

カイルはそういうと、かたんと席を立った。

第3話       帰れない                      作 ひー

「ユーリ帰るぞ」

ちょうど奥の部屋から御茶を戻ってきたユーリにカイルが声をかける。

「ちょっと待ってよ、なぜ私があなたとかえらなくっちゃならないの?

私はここにいるわよ、今はここが気に入っているんですもの」

「お前は私の妃だ、本当に何も覚えてないのか」

そういってユーリを抱きしめるカイル。

「ちょっと止めて下さい、本当に何も覚えてないんです」

「急に妃ていわれて、ハイハイてついていける訳ないでしょう」

カイルの腕から逃れて、おばさんの後ろに隠れるユーリ。

「大丈夫だからこの方たちについていってください、イシュタル様。少しの間でしたけど一緒に過ごせてうれしかったです」

「もうイシュタルとかユーリとかみんなで勝手に話を進めないで、私おばさんの息子が帰ってくるまでここから離れないんだから」

そう言っておばさんを抱きしめカイルをにらみつけるユーリ。

「帰らないって・・・ユーリ様・・・」

ユーリにつめよるハディを制してカイルが口を開いた。

「息子が帰らないとは・・・なにか問題がありそうだな?」

やれやれ、記憶が無くなっても何かのトラブルに巻き込まれているらしい・・・

平静を装いながらもカイルは心の中でため息をついていた。

第4話   問題&帰宅              作 あかねさん

「息子は、数ヶ月前に猟に出たまま帰ってこないんです。ただ、それだけのこと。 ですが、その、ユーリ様は・・・・。」

ユーリは、ぎゅっとおばさんにくっついてはなれない。

王宮には帰らないと言うし・・・。

「・・・ユーリ、女性の息子が帰ってくれば、私と一緒に王宮へ来るか?」

「・・・・・・・・そこに、記憶のヒントがあるならね」

ぷいっと、顔を背けるユーリ。

さっきいきなり抱きしめたのがいけなかったらしい。

「ふぅ、では、そのむすことやらをさがすか。なーに、すぐに見つかるさ」

ユーリは、きょとんとしていた。

今のユーリには、カイルが何者なのかさえ分かっていない。

「そんなにすぐに、見つかるわけないでしょ」

「まぁ、みてろ」

ー 数日後 ー

カイルの言葉通り、おばさんの一人息子は見つかった。

猟をしている途中道に迷い、帰れなくなっていたのだ。

「陛下、ありがとうございます、陛下!!」

「いや・・・。さて、ではユーリ。一緒に王宮へ行こうか」

おばさんと息子の隣でむすっとなっているユーリの手を、カイルは強引に引いていく。

そして、ひらりと抱き上げると馬に乗せる。

パカパカパカ。

急ぐわけでもなく、馬を進めるカイルご一行。

「ねぇ、貴男は何者?」

記憶のないユーリには、自分の愛した男でさえもわからない。

「・・・今から行くところへ行けば分かるけど・・・。私は、カイル・ムルシリ。

 このヒッタイトの皇帝であり、お前の夫だよ。ユーリ・イシュタル」

ユーリは馬から転げ落ちそうになった。

自分に、旦那がいる!?しかも、皇帝ですって!?

そんな突拍子もない話を聞きながら、ユーリ達は王宮へ帰ってきた。

第5話     戸惑い                 作 マユさん

記憶を無くしたままのユーリを連れてカイルは王宮に戻って来た。

ユーリはカイルが自分の夫と知り戸惑いを感じていた…

カイルはヒッタイトの皇帝だという…つまり自分は妃なのだ…

自分が一国の皇帝の妃?

何か違和感がある…

「さあついたよユーリ…疲れただろう湯殿に入ってゆっくりしておいで」

ユーリは3姉妹に連れられて湯殿に放り込まれた。

もともと埃っぽかったのでユーリは湯殿でくつろいでいた。

「う~~ん!気持ちいい~」

カイルが自分の夫だと言う以上、ユーリは信じていた。

カイルが人を騙すような人とは思わなかったから…

すっかりくつろいてせいたところに3姉妹がやって来て、服を着させられる。

「ねぇ…この服、嫌なんだけど…」

「あらどうしてですか?よくお似合いですわよ」

ユーリが着させられたのは脱がしやすそうなスケスケのドレス。

いくら記憶がないといえ、服の好みは変わってないのだ。

「まあよろしいではありませんの。これくらい着飾って陛下をお喜ばせになった方が良いでしょう」

「よ!喜ばせるって何であたしが!!」

「何で?って陛下とユーリ様はご夫婦ではありませんか」

(そ‥そっか…あたしとカイルは結婚してるんだっけ…あたしカイルの奥さんなんだよね…つまり…その…いや~恥かしい!!)

ユーリの顔は赤くなっていく。

「ユーリ様?お顔が赤いですけどお湯加減熱かったですか?」

「何でもないよ」

ユーリは笑ってごまかすしかなかった。

「ではどうぞこちらへ」

ハディに言われユーリはカイルの部屋に入る。

「ではお休みなさいませ」

ハディは扉を閉めて遠ざかっていく。

(どうしよう…カイルが来たら完璧に2人きりじゃない!あたし心の準備がまだ出来てないよ!!)

 キィーーーーーーーーー

「あ…カイル…」

振り向けばカイルが立っていた。

とても楽な夜着に身を包んでいる。

(いや~~どうしよう!!)

ユーリの鼓動はますます早くなっていく。

そしてカイルは・・・・

第6話   少しだけ                    作 金こすもさん

「どうした、ユーリ? 」

真っ赤になり硬くなったユーリに、カイルは笑顔で接した。

「あっ、あの~。あたしたち夫婦だから、その~。愛しあわなければ、いけないの? 」

「そうだな。おまえしだいだな。私のことは、すべて覚えてないんだろう? それならば、仕方ないさ。ゆっくりとお休み、ユーリ」

カイルは自分の望みを抑えて、ユーリを安心させ眠らせてやるつもりだった。

時がたち王宮での暮らしに慣れれば、ユーリは落ちつき、きっと記憶を取り戻せるだろうと考えていた。

ユーリの顔が、哀しげに微笑んだ。

カイルから受ける優しさがわかり、ユーリはそ~と身体を投げかけた。

「ごめんなさい、陛下。あたし、早く思い出す。もう、いいよ~。陛下を、信じます」

「ユーリ、陛下とは呼ぶな。私の妃は、カイルと名を呼んでくれたぞ」

暖かいユーリの素肌に触れると、カイルは今までの決心を鈍らせていった。

「カイル、ごめんなさい」

華奢な身体に、大きな両腕がのび抱きしめた。

甘い香りと象牙色の肌のなかで、いつしかカイルは望みのままに愛しんでいった。

ユーリは、思いもつかない身体の反応のなかで、少しだけカイルへの記憶を取り戻していった。

この人は、こんなに自分を大切にしてくれていたのだと・・・・。

そして自分も、こんなに愛していたのだと・・・・。

第7話  カイルの願い?                        作 匿名さん

夜明け前、カイルは腕の中のユーリの寝顔を見つめていた。

いつもと何一つ変わらない寝顔。

なのにユーリの記憶の中に私はいない?

そんなバカなことがあるわけがない。

きっと、これは悪い冗談だ。

ユーリが目を覚ませば、「ごめんなさい。脱走したのを怒られたくなかった嘘ついちゃった。

ほんとうは、記憶をなくしてなんかいない。」と言ってくれる。

カイルは、そう思いたかった。そう思いたかったけれど、現実は・・・・・

「ん・・・」ユーリがゆっくりと目を開ける。

その瞳に浮かぶのは困惑の色。ユーリやっぱり私がわからないのか?

「わたし、この何日かものすごく不安だったの。自分が誰なのかもわからなくて。

まだ、なにも思い出せない。思い出せないけどこの腕の中にいるだけで、落ちつく。

もう少しこうしてもらってていい?」

返事をする代わりにカイルはユーリを抱きしめた。

後宮の奥深く閉じこめておきたい何度もそう願った。

今ならその願いが叶えられるかもしれない。

第8話   ずるい                 作 あかねさん

「・・・・ん?もう朝・・・。あっ!」

記憶をなくしているユーリにとっては、カイルの側で寝ていると言うことがまだ、信じられなかった。

「おはよう、ユーリ。」

平然としているカイル。

でもこの人は、私のことを心配してくれている。

なんでこんなに平然としていられるの・・・?

「ユーリ、いいか?勝手に外に出てはいけないよ。今日は、私は政務があるから、

 あんまり会いにはこれないけど・・・。いいか、この部屋から、出てはいけない。」

「・・・わかりました。」

政務室に行く途中、カイルは思った。

自分はずるい奴だ・・・・と。

ユーリの記憶がないことをいいことに、ユーリを閉じこめている。

自分の願いを叶えている。

ユーリには、「お前は記憶のあるときから、こうしていたんだ」と、

ウソを突き続けている。

自分は、ずるい奴だ・・・。

第9話  いいのかな?                    作 しぎりあさん

「ねえハディさん・・あたし、このままで・・いいのかな?」

 ユーリがぽつんとたずねた。

後宮では、毎日、食べきれないほどの食べ物。

たくさんの綺麗な衣装と宝石と、なにかあればすぐに手を貸してくれる侍女に取り囲まれている。

皇帝・・カイルは、これは全部あたしのものなんだ、という。

 皇帝の正妃としては、当然の事なのかも知れない。

でも。

「あたし、自分が正妃だったなんて、信じられない。なにも思い出せないの」

 正妃らしいことができるはずもない。

義務を果たさず、権利だけを享受していていいのだろうか。

「まあ、ユーリさま。ユーリ様が皇帝陛下の御正妃であることは、みんなが認めていることですよ」

 ハディは、にっこり笑う。

記憶の中から、自分の姿が消えてしまったのは悲しいことだけれど、皇帝陛下のご心痛に較べれば、なんのことはない。

最愛の方に忘れられていまうのですもの。

「みんなの認めている御正妃って、いろんな事が出来るのでしょう?政務とか・・あたし、なんにもできないよ」

「ユーリさまは、皇帝陛下のことを、どうお思いですか?」

突然、きかれて、ユーリは口ごもる。

「どうって・・いい人だと思うよ・・親切だし・・やさしいし・・」

「お好きですか?」

ええっ!?ますます、ユーリは赤くなる。

「・・・う・・ん・・好き・・かもしれない・・」

ハディの表情が、ぱあっと明るくなった。

「それなら、十分です。皇帝陛下を愛されて、皇帝陛下に愛されて・・他の誰にも出来ない、御正妃様だからこその役目ですよ」

それが、役目なの?皇帝に愛されて、皇帝を愛して?

あたしは、確かに、皇帝であるカイルに惹かれている。

でも、あたしのどこに、愛されるにふさわしいところがあるというの? 

第10話   矛盾           作 ひねもすさん 

あの人に愛されるふさわしい女性になりたい。

そうすれば愛し、愛されることが不安じゃなくなる。

それには、何かしなくてはいけない。でも何をすればいいのか分からない。

『ただ、陛下を愛すればいい。』

ハディはそう言うけれど、愛すればその人の役に立ちたいって思うものじゃないかな?

ただ、この部屋の中で待ち続けることが、あの人の役に立つことだったのかな?

ユーリは腑に落ちないことがあった。

以前の自分は正妃としての仕事をこなしていたはずだ。

なのに、カイルは私がずっと部屋で過ごしていたという。

公式の式典以外は外へは出なかったと言っている。

正妃と言うのは式典に出るくらいしか仕事がなかったのかしら?

いいえ、今、陛下は正妃の分まで仕事をこなしてる。

だから忙しいんだ・・・・・。

では、なぜ、私に正妃の仕事のことを教えてくれないのかな?

陛下の私への態度は矛盾している。

記憶を取り戻して欲しいと言いながら、正妃としての仕事に関しては思い出して欲しくないみたいだ。

なぜなんだろう・・・・・?

疑問に思うユーリの後ろから皇帝の声が聞こえた。

「ユーリ、遅くなってすまない。」

第11話  誤解          作  美音さん

愛されるだけの女はイヤ!あたし記憶はないけど、分かるの・・・。

カイルのこと、言葉では言い表せないくらいあいしていたって・・・。               

だからあなたの役に立ちたい、愛する人の助けになりたい。

そう思うのは当然だよ。

「ユーリ、気分はどうだ?」

カイルが政務の間をぬって、あたしのご機嫌伺いに来るのは毎日の事。

「カイル、どうして?」

カイルの琥珀色の瞳を見つめる。

「あたしにお仕事教えてよ!政務を手伝いたい。少しでもあなたの助けになりたいの。」

あたしが強い口調で言うと、カイルはあきらかに困った顔をして無理に微笑む。

「おまえは何もしなくていいんだ。ここに・・、わたしの側にいてくれれば。」

 

どうして、どうして、どうして?

あたしのカイルに対する疑惑は、どんどん大きくなっていった。

第12話  悪あがき                 作 匿名さん

これ以上、ユーリを閉じこめておくのは無理だな。

カイルは考えていた。

記憶を失ってもやはりユーリはユーリだった。

自分の足で立って、自分自身で輝く。

自分で考え、行動する。そういうところは、変わらないようだ。

このままでは、私を信用してくれなくなるだけのようだ。ならば・・・

「文字が読めなくては、皇妃の仕事はできないよ。文字の勉強から

始めようか。」

文字の勉強ならこの部屋でできる

少しでも長く、後宮だけに閉じこめようとしている自分がいる。

お前の気持ちが私以外のモノに向いて欲しくない。

お前の瞳に映るのは私だけでいい・・・・・

第13話  焦り                     作 しぎりあさん

真剣な顔で、粘土板に文字を刻みつけているユーリを見ながら、カイルは言いようのない焦燥感の中にいた。

一度、学んだものだ。上達は、速い。

それは、傷ついて保護した鳥が再び空に帰るために羽ばたき始めるのに似ている。

「どう、かな?」

おずおずと、差し出された粘土板を受け取ると、さっと目を走らせる。

「ああ、上出来だ」

「ほんと!?」

喜びに紅潮した頬に、口づける。

「今日は、ここまでにしておこう」

「え、でも・・・」

「急に、無理をするのはよくないよ」

調子いいのにと、唇をとがらせるユーリを見て、ほほえむ。

そんなに急がなくていい。

一日でも飛び立つのを遅らせるつもりだ。

優しげな表情とは裏腹の、暗い考えに囚われながら、ユーリを見守る。

「ああ、いい天気!ねえ、外に出ていい?」

「だめだ!!」

窓に駆け寄ったユーリが、強い語気に驚いて、振り返る。

怯えさせてしまったかもしれない。後悔が、押し寄せてくる。

「あ・・つまり・・その・・これから執務室を見せてやろうかと思っていた・・」

「執務室、行っていいの?」

ユーリの声が、はずんだ。

「良かった、一度行ってみたかったの、カイルがお仕事する部屋!」

後宮から執務室の方へ移動する途中で、それは起こった。

「おお、イシュタル様、体調がすぐれないとお聞きしていたのですが、いかがですかな」

みれば、高位の文官だった。皇帝の前で、叩頭することなく立って礼をすることが許されている。

ユーリは不思議そうにその顔を見返す。

「ねえ、あなた・・・えっと、名前は・・」

「ユーリ、ゆくぞ」

カイルが、腕をひくとユーリがよろめいた。

「おお、危ない」

文官の腕が差し出され、ユーリのあいた方の手を取った。

「!!」

嫉妬で目が眩みそうだった。

今の今まで閉じこめて誰の目にも触れぬようにしていたのに、こうして人目にさらしてしまったばかりか、言葉を交わしあまつさえ他の男に手を取らせた。

以前のカイルなら、気にもとめないことだっただろう。

ユーリは自由に駆け回り、誰の間でも入り込んでいた。

閉じこめるのはユーリをたわめることだと知っていた。

けれども、数日の間にユーリを占有することを覚えてしまった。

閉じこめ、他の男には会わせず、外界との接触を断ち、ただカイルの帰りだけを待ちわびるように仕向けた。

離れている間も、ただひたすら自分のことだけを考えるようにするために。

間違ったことをしているとは思わない。

自由に飛び出したユーリは、傷つき、カイルを忘れた。

二度とそのようなことを起こさないために、ユーリを守らなくてはならない。

「陛下?」

いぶかしむ文官を無視すると、ユーリを抱え上げる。

「きゃあ、ちょっとカイル!」

そのまま、後宮に続く廊下を歩き出す。

抗議するのにかまわず、元の部屋へ戻った。

「ハディ!ハディ、いるか!?」

「は、はい陛下。こちらに・・」

平伏するハディの前にユーリを下ろした。

「ユーリを、着替えさせろ」

「は?」

「すぐにだ!」

他の男の目に触れた衣装など、いつまでも着せていたくはなかった。

「すぐに、お召し替えの準備を」

「どういうことなの、カイル!?」

ハディが退出すると、ユーリが詰め寄る。

理不尽な扱いへの怒りのためか、象牙色の肌が上気している。

「お前は・・・私以外の男と、口をきいた」

「えっ?」

「私以外の男に、この肌を見せた・・・」

ゆっくり頬をなぞる。

尋常でない光に射すくめられ、ユーリの身体がこわばる。

「他の男の視線になど、さらしてよいものではない。お前は私のものだから・・」

手の甲で首筋から肩口へたどる。

丸い肩を包み込むと、次の瞬間、一気に衣を引き裂いた。

「!いやあぁぁぁ!!」  

第14話  理性と望み                作 マユさん

引き裂かれたユーリの衣装が床へとゆっくり落ちる。

一糸纏わぬ姿になったユーリをカイルは腕の中に引き寄せる。

「いやっ!カイル何をするのよ!」

ユーリは必死にカイルの腕から逃れようとする。

「何をする?決まっているだろう…おまえは私以外の男と言葉を交わし そしてその肌を私以外の男に触れさせた…だから今から罰を与えるのだよ…」

カイルの理性はすでに切れていた。

カイルはユーリの両腕を片手で掴むと寝台に倒れこむ。

手を象牙色の肌のすべてに這わせ唇で自分がユーリの所有者である証を刻みつける。

ユーリは泣きながら身をよじる。

「カイルやめてよ!!」

「おとなしくしろユーリ!!!!」

カイルの怒声にユーリの身体はビクッと震える。

カイルはその隙にユーリの脚の間に身体を滑り込ませる。

「カイル!いやっ!!」

「…………………………」

「…!!!!…やめてよ!ああっ!」

「……………………」

「……………」

コンコン…

「誰だ!!!」

「陛下…ハディでございますが…着替えを持って参りました」

「ああ…ちょっと待て」

助けが来た!と即座に感じたユーリだがカイルの方が一枚上手であった。

彼は昔一度魔が指した時にハディに邪魔されていたので、今回もどうせ止められるのが分かっていたのだ。

何時の間にかカイルの手には布が握られている。

今までの事から疲れて大きな声がでないユーリ。

「お願い…ハディ…助け…んんっ!!」

何と!カイルは愛するユーリの口に猿ぐつわをしたのである。

これではユーリは声も出ない。

ユーリが驚いている隙にカイルはユーリの両手も布で縛るとベットの淵に縛り付けてしまった。

これではユーリはハディに助けを求めることも出来ない。

「待たせたなハディ」

「あら?陛下 ユーリ様はどちらに?」

「ああ…ユーリは疲れて横になっている。着替えは私が受け取っておく。もういいから下がれ」

「…分かりました。では、お休みなさいませ。」

ハディはユーリのことに気が付かず自分の部屋に下がっていってしまった。

これではもう助けを呼ぶことも逃げることもできない。

そして…ユーリは一晩中カイルに罰を与えられ続けた。

まどろんでいく意識の中でユーリは思った。

(どうしてこの人は…私が他の男の人と会うのが嫌なの?)かと。

第15話  変質                作  しきりあさん

焼けただれたような痛みが、身体の奥にあった。

あれからユーリは、暁光の一筋が寝台の垂れ幕をほの白く染めるのを目にするまで、カイルの憤怒を受け続けた。

カイルは、眠っている。

その力強い腕を戒めのようにユーリの身体に巻き付けて。

その激情を繰り返しユーリの中に打ちつけながら、何度も繰り返した言葉。

「お前は、私のものだ」

「私が愛しているのが、どうして分からない?」

これは、愛ではない。

暴力だ。

室内を満たし始めた光の中、見える限りの肌には、生々しい痕が残る。

手首には指の形、胸元や肩口には不定形の血の色をした花びら。

哀訴も懇願も通じなかった。

ただひたすら、嵐が蹂躙し過ぎ去るのを待つしかなかった。

(愛してるなら、どうして許してくれないの)

そもそも、許しを請うようなことをした覚えがない。

ただ、すれ違った文官・・男性と話をしただけ。

ただそれだけのことで、優しかったカイルは豹変した。

いたわりも情愛も感じられない硬い指でユーリの身体を開き、貪りなぶった。

記憶を失ってから、ただ一人頼っていた男性に裏切られた。

記憶を失う前のユーリは、一人の供もつけず平民のような服装で農家にいた。

(あたしがあそこにいたのは、カイルから逃げるため?)

それでは、平穏だった日々、彼の腕の中にいるたび感じられた幸福感はなんだったのだろう。

わずかな隙間を許さぬように、カイルの腕がユーリをきつく抱え直す。

「お前を・・離さない・・」

夢の中での言葉なのか。

ユーリの身体がすっと冷えた。

もう、信じられない、なにもかも。

第16話 豹変                  作 友美さん

次の日からユーリは誰も信じなくなっていた。

カイルはもちろん、ハディ達腹心の側近たちもだ。

「ユーリ様・・。どうかなさったのですか??ここのところずっとお部屋にこもりっきりではございませんか」

ハディが聞いても「べつに、なんでもないわ」

と冷ややかな人を疑う目でみるようになっていた。

((もう・・、誰も信じない。もう・・どうだていい・・・。あんな人・・・・信じた私がバカだった・・・・))

「ユーリ元気か???」

ユーリが、外出しなくなってカイルはっごきげんである。

「元気なわけないわ。私の前からさっさと消えて。」

((そう・・・こんな人・一度でも愛した私がバカだった・・・。とっととわかれてしまいたい・・・。いっそのこと・・死んでしまおうか・・・ふふ・・人には簡単に死ぬな!なんていってるわりには・・・モロイもんなのね・・))

第17話  蒙昧                 作 しぎりあさん

カイルは頻繁にユーリを訪れる。

政務の合間を縫い、わずかばかりの時間を見つけ。

昼も夜も足繁く通ってくる。

いつもユーリは部屋にいる。

周囲から心を閉ざし、あの誰もを惹きつける笑顔がその顔を彩ることはない。

それでも、カイルはそのことに気がつかなかった。

気づかないふりをした。

手を伸ばせば、いつでも欲しいモノが手に入る。

そのことに夢中になっていた。

ハディは、ユーリの変化に憂えていた。

食事の量が目に見えて減った。

それを皇帝に進言しても、食事のたびに抱き上げたユーリの口に食べ物を押し込むだけだった。

根本的な解決にはならない。

(陛下は、ユーリ様の変わり様に気がつかないふりをしておられる・・・)

人形のように従順なユーリを風呂に入れ、着替えさせる。明るい声で話しかけるが、帰ってくるのは心のこもらない相づちだけだった。

(せめて、お外にお連れできたら・・・少しはお気も紛れるでしょうに)

後宮から出ることは許されていない。

外気に触れるのは、囲まれた中庭だけだ。

カイルは、後宮から全ての男性を遠ざけ、周囲を兵で固めた。

張りつめたような見せかけの平安が日々過ぎてゆく。

そんな中で、ユーリの変調にハディは気づいた。

顔色が悪くなり、頻繁にもどすようになる。

典医を、と何度も懇願してやっと、カイルは神殿付きの女医をよこした。

王宮付きの典医はすべて男性で、後宮へ入ることを許さなかったからだ。

女医の弾んだ声が懐妊を知らせたとき、ユーリはぼんやりと顔をあげた。

周囲のことは、どうでも良くなっていた。

しきりに話しかけてくるハディたち女官の声は聞き流し、夜毎求めてくるカイルには無抵抗に身体を預けた。

一切の感情を放棄していた。

命を投げ出せないのなら、精神を殺してしまいたかった。

女医の言葉は、そんなユーリの心を久しぶりに波立たせた。

「・・・赤ちゃん・・」

「ええ、3月におなりです」

3月前といえば、記憶を失ってはいなかった。

今のユーリにとっては、思い出せもしない時のことか。

記憶にないところで、身体は命を宿していたのだ。

喜びにわく周囲の中で、ユーリは身震いした。

その感情は唐突に身体の奥底から突き上げてきた。

(いや!産みたくない!!)  

第18話  懐妊                    作 友美さん

「ハディ・・、皇帝陛下に離縁状をお届けして」

ハディに相談があるといってハディの部屋に行っていた思いがけないユーリの一言だった。

「ユ・・ユーリ様!!何をおっしゃるのですか!!!そのおようなこと・・・」

「私は、あのヒトを愛していないわ。そんな状態で・・・子供を生んだらこの子がかわいそうだわ・・。」

「ユーリ様・・・・・・。」

「ふふ・・いいことしえてあげるわ・・・・・。私は・・あんなサイテー男見たことないわ!!!!あんなやつの側にいるだけで虫唾が走るわ!!!!」

今のユーリはみなを惹きつけた笑顔ではなく、ただ憎悪に燃えている顔であった・・・。

そのとき・・・・・・

「離縁はせぬ!!!おまえはどこにもいかせん!!!!」

その時カイルがいきなりはいってきた。

「聞いてたんだ・・・。あんたがどういおうと・・・私は出て行くわ・・・・。」

「ならぬ!!!衛兵!!!ユーリを正妃の部屋に閉じ込めろ!!!!」

「-・・・冗談じゃないわ・・・・・。あんなトコに閉じ込められるなら・・・・・

この子と一緒に・・・死んだ方が・・・・・マシよ・・・」

バン!!!とハディの部屋のドアを開け中庭に降りる階段(推測しても15Mはある)

の方に走った・・・。

そして「「ふわ」」っとテラスから飛び降りた・・。

「バイバイ・・・・みんな・・・・・・」

「皇帝陛下!!!陛下は・・・このことをどう責任をおとりになるのですか?!!」

ユーリに忠誠を誓っているハディがカイルに泣きながら詰め寄る。

「これはあまりに御無体にございますわ!!!ユーリ様を何だとお考えなのですか?」

ハディと同じく忠誠を誓っている双子も泣きながら言う・・・。

「幸い・・・母子ともにご無事でしたからよろしいものを・・・・。ユーリ様は人形ではございません!!一人の人間でございますわ!ちゃんと感情はございます!!」

カイルは黙ったままである・・・・。

「ハディで過ぎた事をもうすな・・といいたいところですが、今回は私もハディに賛同いたしますな・・・。まったくこれが皇帝のする事ですか?!?!?!」

乳兄弟のイル・バーニも珍しく大声である。

「さっきから何もめてんのかしんないけど・・私は今すぐ後宮を出てくよ・・・。

子供は一人で育てる・・・。もっとも私が愛した人はもう死んだ・・・。ここにイル理由はないからね・・・。」

「お前は後宮から出さん!!!!」

「勝手に言ってなさい!!!私は出て行く・・・。私は・・・あんたの所有物ではないわ。」

第19話  ねじれる              作 しぎりあさん

「離してよ!!」

叫ぶユーリを引きずるようにして、部屋に連れて行く。

窓のない小部屋だ。

「言っておくが部屋の中では女官が四六時中見張っているし、扉の外には衛兵もいる。出て行こうという気はおこさないことだな」

吐き捨てるように言うと、カイルは部屋をあとにする。

「ユーリ様・・・」

心配そうなハディの前で、ユーリは寝台に身を投げた。泣き出す。

常に誰かがそばにいて、命を捨てることさえ許されない。

そして、今度は、日の光すら射さない部屋に閉じこめられる。

いったい、これからどうなるのだろう。

「ど、どうか、お嘆きにならないでください・・」

ハディの声さえ耳に届かない。

あらん限りの大声を上げて、ユーリは泣いた。

寝台で身をよじり、腕を叩きつける。

どのくらい、そうしていただろう。

不快感を、感じた。

ハディが、背をさすっている。

ユーリは泣きはらした顔をあげた。

のどから、かすれた声がもれた。

「ハディ・・・」

「はい?」

「・・・おなかが・・・痛い・・」   

すぐに医師が呼ばれる。

寝台の上に丸くなりながら、ユーリはうめき続けた。

「ハ、ハディ」

「はい、こちらにおります!」

差し出された手が、強い力で握られる

。汗を浮かべながら、ユーリがかすれた声で訊ねる。

「あたし、死んじゃうの?」

「とんでもありません!ユーリさまも御子も、必ず助かりますとも」

悲鳴が上がった。

駆けつけた医師が指示を出し、丸まったままのユーリを仰向かせる。

双子が足を押さえた。

忌まわしい夜を思い出したのか、ユーリが抵抗した。

膝を押さえながら、夜着のすそをまくり上げた双子が息をのんだ。

腿の内側に、太い何本もの血の筋があった。

「すぐに、お湯を!!」

手を握られたままのハディを見て、双子の片割れが飛び出して行った。

足を解放されたユーリは、再び身体を丸めた。

いまや赤い染みは、敷布の上に広がりつつあった。

「ユーリさま、ユーリさま?」

意識の遠のきかけたユーリに、必死に呼びかける。

うつろに目が開かれ、視線がさまよう。

「ハディ」

「お気を確かに!」

「助けて・・あたしと・・カイルの赤ちゃん」

弾かれたように振り返ったハディに、医師が首を振った。 

第20話  霧中                作 ひねもすさん

痛い、お腹が痛い、前にもこんな痛みがあった・・・。

あれは・・・・・・海の中。

口の中に塩辛い水が、入ってきた。

お腹が痛くて、苦しくて・・・

あれは・・・あの痛みは・・・・。

そう、赤ちゃんが。私とカイルの赤ちゃんが!

そんなの嫌だ!

苦しい、誰か助けて・・・

何も考えたくない。

何も知りたくない。

何も知らなかった頃に還りたい。

そうすれば、苦しくないはず。

ママとパパに甘えていたあの頃に還りたい。

幸せだったあの頃に。

「夕梨、大丈夫か?」

「夕梨、怪我はない?だから、一人で海に入っちゃダメだって言ったでしょ!」

パパがあたしを抱っこしていた。

ママがあたしの顔を心配そうに覗き込んだ。

そうだ、あたし溺れたんだ。

「ママ、パパ、恐かったよ!」

泣きながら、あたしは言った。

「もう大丈夫よ。パパもママもいるから」

「うん」

ママとパパの声は魔法のようにあたしを安心させた。

「さあ、少し休みなさい。後で起こしてあげるから。」

「ママ、眠るまで一緒にいて。」

「甘えん坊ね。もう小学生になったのに」

そう言いながら、ママは優しく微笑んで私の髪を掻き分けた。

「ずっと、側にいてあげるわよ。だから安心してお休みなさい」

あたしは、なんて幸せなんだろう・・・・・

「ユーリ、気が付いたのか?」

「ユーリ様」

目が覚めると、いつものベットの上じゃなかった。

知らない男の人と、髪の長い女の人が心配そうに私を見ていた。

誰だろう?外国の人みたいだ。

パパとママはどこにいるんだろう?

あたしはとても不安になった。

寝る前に、ずっと側にいてくれるって約束したのに。

「パパとママはどこにいるの?ここどこ?」

第21話  琥珀                 作 しぎりあさん

体を動かすと、とてもお腹が痛い。

お腹だけじゃない、背中や頭まで痛かった。

どうして、パパやママはいないの?

あたしは泣きたくなった。

「パパ、ママどこ?」

部屋を見まわす。

ベッドからおりようとして、髪の長い女の人に押しとどめられる。

「まだ、動いてはいけません・・・ご自分が誰か、分かりますか?」

その顔を見上げる。

知らない人だ。

「うん。あたし、鈴木夕梨。丘の上小学校の2年3組よ」

女の人はとても驚いた顔をした。

それから、振り返って、別の人に何か言ったみたいだった。

もう一度あたしの方を向いたとき、女の人はとてもやさしい顔をしていた。

「そう、きっちり言えたわね。ユーリ・・ちゃんはご病気なの、だからもうしばらくゆっくり休んでいましょうね」

「パパとママは?ここ、病院なの?」

お祖母ちゃんが入院したときに何度もお見舞いに行った病院とは全然違ってたけど、なんとなくそんな気がした。

頭の方にいる男の人はお医者さんみたい。

「パパもママすぐ来られますよ、今はゆっくり眠りましょうね」

「うん」

もしかしたら、あたしは救急車に乗ったのかも知れない。

ママはパジャマなんかを取りにお家に帰っていて、パパはこれから会社からやってくるのかも。

お日様の匂いのするふかふかの布団にもぐりこみながらうなずいた。

お腹はすごく痛かったけど、病院だから大丈夫だね。

それから、あたしはそばに立っている男の人を見上げた。

背が高くって、髪が薄い茶色ですごく綺麗な外国の人。

この男の人の眼の色は、ママが大切にしているブローチとおんなじ色をしていた。

「お兄ちゃん、だあれ?」

男の人はなにも言わずに、じっとあたしを見ていた。

言葉、分からないのかな?

その時、男の人のブローチ色の眼がきらきら光った。

きらきらは、ころころ転がりながらベッドの上に落ちた。

あたしはびっくりした。

大人の男の人が泣いたのを初めて見たからだ。 

その男の人の涙があたしの頬をつたう。

あなたは誰?

どうして泣いているの?

そのキレイな涙は誰のために流しているの?

ユーリ、ユーリ!

たのむからわたしのことを思い出してくれ・・・

その瞳でわたしをみてくれ!

もう、我慢できない・・・

ユーリ!ユーリ!

もう一度、その瞳でわたしを・・・

第22話  後悔                  作  マドさん

何て身勝手なのだろう。

自分でそう思った。

全ては自分の犯した罪なのに、今になってこんなに後悔している。

後悔・・・・・?

その後悔さえ、身勝手すぎる。

愛してると言いながら、無理矢理抱き、守ってやると言っておきながら、部屋に閉じ込めた。

その結果がこれか?

自分の子供を殺し、ユーリの心までも殺してしまった。

それでも、元に戻りたいと思ってしまった自分自身に、殺してしまいたい程腹が立った。

どうしてこんな事になってしまったのか。

結論はいつも出ない。

ただ、自分の犯した罪だけが自分自身を苛ます。

ユーリの懐かしい笑顔にも似た、無垢な少女の笑顔が私のしてきた罪の全てを私自身に見せ付けた。

そして、ユーリ笑ってもいいよ。

お前を傷つけていたのは自分だと今になって、お前を失ってやっと気づいた。

お前を本当に失った事も・・・だ。

私を見つめていたユーリの顔が急に曇った。

何事かと思って頬に手をやると、涙だった。

笑ってもいいよ、ユーリ。

人前で泣くのは、初めてだったんだ。

第23話   結果           作 こまきさん

「おにいちゃん、何でないてるの?」

「おっきなお兄ちゃんが泣いちゃダメだよぉ。」

ユーリはカイルをなでた。

その言葉を聞いたとたん、カイルはもっと泣いた。

大きく、声を上げ、狂ったように泣いた。

カイルは最初からこの結果になると判っていたのだろうか。

いまさら「わたしがいけなかった」と言っても誰も信じなかっただろう。

記憶がなくなって小学生に戻ったユーリはとうてい何もおぼえていない。

これから何をすれば良いんだろうか。

もう一度何か同じ事をすれば記憶は戻ると聞いたがまた赤ん坊を産むには、また抱かなければならない。

どうやって?

子供なのに?

何かユーリが覚えている人・・・・

ユーリの知っている人は・・・・・

そういえば、「ヒムロ」がいたな、前の恋人だとかいっていた。

しかし、どうやって?ほかにはいないのか、強く、印象的に残った人物・・・・・

・・・!ラムセス!!

ラムセスならきっとおぼえている!よし!

ユーリの体が安定したらラムセスに合わせに行こう!

―――数日後

「ねえねえおにいちゃん。今日何処へ行くの?」

「ああ、きょうはな、エジプトというところに行くのだよ」

1日前にエジプトに書簡を送っておいた。

この書簡を見たラムセスはおこっただろう・・・

「俺の方がユーリを幸せに出来た!」とでも言うだろう・・・

いや、いわれててあたりまえだ。

前の記憶に戻ったら、ラムセスにユーリをしばらくユーリあずけよう。

「陛下!着きました!」

「そうか!ラムセスのところへ向かってくれ!」

早速ユーリをあわせてみた。

「おにいちゃん、どこかであったことなあい?」

――!!おもいだしたのだ!

ユーリは!

第24話  for you             作 こまきさん

「おにいちゃん?」

「ユーリ・・・・」

2人ともため息をついた。

「お兄ちゃんって何処であった?えっと・・・たしか・・・ヒッ・・・ヒッタイ・・・

ヒッタイト・・だったけ、あれれ?ハットゥサ・・・?なんだったけ、そのどっちかからきたんだっけ・・・?え?でも、私は日本から・・・?あ、あれれ?」

「!?」

「ユーリ、ちょっとこい」

「はい?おにいちゃん?」

ラムセスはユーリを自分の部屋に連れて行った。

「ユーリ、自分が記憶を無くしたのは知ってるよな?教えてもらったな?」

「えええええ!?私って記憶なくしたの!?」

「ユーリ・・・。」

ラムセスはユーリを抱きしめた。

「ユーリ、しばらくこの部屋に居ろ。世話は侍女にたのめ。なんなとしてくれる。」

ラムセスは、怒りを隠せなかった。

もしや、ムルシリ、記憶をなくして前の記憶を変えようと思ってるんじゃ・・・・!

「ムルシリ!!!」

「なんだ?」

「お・・・お前、ユーリの前の記憶を変えようとしたんじゃないんだろうな!前もそれに失敗してユーリに怪我を負わせたのだろう!!!俺はお前を絶対許さない!!あのひ弱な体に何をしたんだよ!?お前の力じゃ死ぬぜ?ユーリに何かあったら、俺が引き取るからな!いいな!」

ラムセスはカイルに怒鳴ったあと、ユーリの居る部屋に戻った。

「おにいちゃん、お兄ちゃんと何してたの?怒ってたの?ユーリが記憶を戻さないからなの?」

「いいや、違う。今日は俺のとなりに空き部屋があるからそこで休め」

「うん・・・・。」

(ユーリ:なんだろーおにいちゃんたち怖い顔して・・・ユーリがいけないの?)

その夜はよく眠れた。

翌朝、ユーリは朝早く部屋を抜け出し・・・カイルのとこへ向かった。

効果音:コンコン・・・

「おにい・・・ちゃあ・・ん」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」

「・・・お・・・にいちゃあ~ん?」

「・・・・ん、・・・ユーリ・・・?」

「お兄ちゃんおきてる?」

「あの、あの、思い出したの・・・前のこと・・・」

「何!?」

カイルは飛び起きた!

「きゃあ!」

あ・・・・そーだった・・・服着てなかったのね・・・

「すまん・・・・」

「あのねあのね、前わたし、もっと年上だったと思う!でもってかいるにいちゃんと、

らむせすにいちゃん私ことすきだった・・・・?」

かおを赤くしていった・・・

「ああ・・・ユーリはもっと年上だったし私のことを愛していたよ。」

「あの・・・あの・・・・それで・・・私・・」

顔を前よりも真っ赤にした。

「あの・・・その・・・・」

「抱いたかったってか?」

「・・・・・・・」

コクン、とうなずいた。

「・・・あと、あと、らむせすにいちゃんともなかったかな・・?」

げ!よけーなこと思い出しやがって・・・・・。

カイルな内心そう思っていた。

「あ・・・あのね、私もね、カイル兄ちゃんとラムセス兄ちゃん両方好きだよ・・!

どうすればいいのかなあ・・・・」

「ええええええ!?」

どないしよ~。

「で・・・あの、あの・・・私のこと抱けるかな・・・?」

「!?」

「なにいってるんだユーリ!いまは子供なんだぞ!?いいのか・・・?」

「いや・・・そのそっちのだくじゃなくて、ぎゅっっと抱きしめるとかキスとかあ・・・・・・」

「ならいいんだが・・・ハッ・・・・!もしかして!ラムセスもか?」

「あたりまえだよ、ラムセス兄ちゃんも大好きだもん!」

がーんガーンGA~NNがああああん・・・・

「おはようのキスしてくるね!」

「・・・・・・・。」

手をあげたまま止まったカイル・・・(そりゃあそうだ)

たたたたたたたたた!

「ラムセスにいちゃんおはよ~chu!」

あ~あやっちゃった・・・・

その頃カイルは悩んでいた・・・・(ナットク)

第25話   帰国              作 ちいこさん

カイルはその日のうちに帰国する事を決めた。

これ以上エジプトにいたところで、どうにかなるものではないと判断したからだ。

初めのうちこそ、ユーリのためだと思って、ラムセスと逢うことも我慢してきた。

けれどもそれは、カイルの理性が許さなかった。

一度は閉じ込めて、ユーリの全てを支配しようと願った。

ユーリを元に戻すために何でもしようと思った。

実際、ユーリは思い出しかけている。

だが違う。それはラムセスに逢ったからだ。

ラムセスによって思い出された記憶など、カイルは嫌だと思った。

「おにいちゃん、ユーリはもう帰るの?」

ハディが帰国の支度をする側で、ユーリは不思議な顔でカイルを覗き込む。

「・・・そうだ。もうこれ以上ここに用はない」

ユーリを、閉じ込めていた時の自分に、戻りそうな気がした。

でもラムセスの目が、まだユーリを手放さないと物語っている以上、カイルはここにいたくなかった。

「じゃあ、また馬に乗るのね。ユーリ、馬に乗るの怖くないのよ」

無邪気に喜ぶユーリを見て、カイルはエジプトを離れる安心感と、少しの罪悪感に包まれていた。

屋敷の前で帰り支度をする一行に、ラムセスは大きな荒々しい足音をさせて近寄ってきた。

「帰国というのは本当か。ユーリの記憶はまだ戻っていないんだぞ」

カイルはラムセスの言葉に耳を貸さず、ユーリを馬の上に抱き上げた。

「聞いてるのか!?連れて帰っても同じことの繰り返しだぞ!おれのそばにいた方が思い出すかもしれないじゃないか!」

「・・・おにいちゃん?」

ユーリはラムセスの話にびくともしないカイルを不信がって、おびえた目をしている。

「・・・ユーリは私の女だ」

「なんだと?」

「私が必ず記憶を取り戻してみせる」

カイルはそう言うと、手綱を引き、ユーリの後ろにまたがって馬の腹を蹴った。

一向が緩やかに動き出した。

「待てよ!」

ラムセスは駆け寄って、ユーリを抱き下ろそうとした。

「おまえがやって無理だったんなら、おれがやる」

「何だと・・・?」

「ユーリ、おれと一緒にいろ。そのほうが楽だ」

カイルがユーリの腰をしっかりと支えていたので、ラムセスはユーリを下ろせなかった。

もちろん、カイルが手放すはずはない。

「いや・・・やめて・・・!」

ユーリはおびえた声を出したが、男達には聞こえなかったようだ。

「・・・いや・・・」

と、そのとき、ユーリの体はぐらっと傾き、落馬しようとした。

「ユーリ!」

とっさにカイルはユーリを抱きかかえて、そのまま落馬し、ラムセスもユーリを護ろうと下敷きになる形になった。

「陛下!」

側近たちが駆け寄る。

「ユーリ、大丈夫か!?」

「ン・・・」

体をゆっくり起こし上げ、どこにも怪我が無さそうなのを確認すると、ユーリは、「カイル!」と言ってカイルの首に抱きついた。

第26話   奇跡              作 こまきさん

――思い出した!?

思い出したのだ。

まァ、どッかにこんなシーンがあったような・・・

「あ・・・・・あれりゃ?」

「ユーリ!!!」

「あれれ?ここどこ?」

「?ラムセす?」

「ユーリ!」

ヒッタイトへ帰ろう!」

「ムシがよすぎるぜ!ムルシリ2世!」

そこにユーリがわって入った。

「私はどっちのところへも行きません」

「ユーリ!?」

「思い出したけどカイルは最低だし、ラムセスはもともと嫌いだし・・・」

ガガーン。

ショックを受けた二人。

「私はどっちのところへも行きません。自分のことは自分でしますので私にはかまわないで下さい。」

どうして・・・・?

第27話  まだ・・・            作  みよさん

記憶を取り戻したといっても、たぶんユーリは『記憶を失う前の記憶』を思い出していないようだ。

「陛下、わたしはあなたの正妃ではいられません。離縁してください」

「ユーリ!?」

カイルの顔がこわばる。

「ならユーリ、俺と・・・」

この期に及んで、ラムセスが横槍を入れる。

しかしユーリはラムセスを睨んで言った。

「・・・あなたのことは少しだけ覚えています。でもあなたと一緒にいる理由はありません」

そういうと、ハディに馬の用意をさせて、ユーリは帰国の準備を始めた。

「どうするつもりなのだ、ユーリ!!」

カイルの叫ぶ声が聞こえたが、ユーリは耳を貸さない。

「ユーリさま?」

ハディも驚きを隠せないようだ。

「わたしの事はもうほっといてください。

陛下、とりあえずわたしはハットゥサに帰ります。

あなたの正妃として帰るのではなく、あなたと離縁するために帰るということを、お忘れなく」

――つかつかとあるいていくので、ラムセスもついていった。

「お・・・俺も行くぜ!」

「邪魔なだけよ!」

ユーリの冷たい一言。

これもすべてお前のせいだムルシリ。

といわんばかりにラムセスはカイルを睨んだ。

数時間後ハットゥサへ到着する。

冷たいユーリの表情には誰にも声をかけれなかった。

勇気を振り絞ってハディたちがかけよった。

「ユ・・・ユーリ様!お帰りなさいませ!」

「ハディ、私はここへ陛下と別れる為に着たんだよ、それに様って呼ぶのやめてくれない?」

あまりの事態にハディも同様を隠せなかった。

第28話   望み            作 ちいこさん

ユーリは記憶を取り戻したが、まだ全ては思い出していない。

それに落馬したときに見せた素顔は以前のままだった。

あれは、まえにユーリがラムセスに捕まったとき、戦車から飛び降りようとした彼女をカイルとラムセスとで受け止めて、そのときにカイルの首に抱きついたしぐさと同じだった。

まだ、望みはある。

かならずユーリの記憶を取り戻してみせる。

カイルは、誓った。