側近物語

(イル・バーニ 編)

「陛下!!皇帝陛下は何処ですか!!」
今日も朝から、王宮中にイル・バーニの声が響く。
カイル皇帝陛下とは長い長いお付き合いの、乳兄弟でもある優秀な側近だ。
しかし、このイル・バーニ。
いつでも皇帝陛下のことを思ってはいるのだが・・・・・。
「陛下!!」
実は今、悩んでいることが・・・。

それは、親愛なる皇帝陛下の事。
皇帝陛下は、ずっと前から「自制心、自戒心をもった正妃」を探していた。
そして最近、その女性を見つけ、結婚なさったばかりなのだ。
しかし、そのせいで・・・。
皇帝陛下は、政務をやらなくなってしまったのだ「ユーリ様!!ユーリ様は何処ですかぁ!!」
「イル・バーニ。私ならここだけど・・・・。」
陛下は見つからないから、ユーリ様の所だろうかと思ったんだが・・・。
あぁ、この方が、陛下の御正妃。
この方は、とても素晴らしい方なのだが・・・・。
「陛下を知りませんか?私がちょっと目を離した隙に、いなくなったんです!!」
「えっ!?カイルは、政務が終わった・・・・あっ!!」
「・・・ユーリ様、陛下の居所、ご存じですね?」
ぴくぴくと、額の青筋が動く。
「・・・・・・・・カイル、出てきて。うそつき!!」
陛下は、ユーリ様のお部屋から渋々出てきた。
なんだか一人でうれしそうな顔をして・・・・。
「やぁ、イル。どうしたんだ?」
「「どうしたじゃない(ありません)!!!!!!!」」
イル・バーニと、ユーリのダブル攻撃。
カイルは、渋々と政務室に戻っていった。

「全く、カイルったら。イル・バーニ、陛下をよろしくね」
ユーリ様はそういって、どこかへ去っていった。
あぁ、結婚したら少しは落ち着かれると思ったのに・・・。
まだまだ、私の苦労は続くのか・・・。
ふと、ハディがいったことを思い出した。
「陛下も、ユーリ様も、おひとりならば100のお力を持っているのに・・・。
 お二人そろうと、100+100=200にはならずに、100+100=0になってしまうんですね」
しみじみといっていたハディの気持ちが、ようやく分かった。その通りだ。
「イル!!早く政務をするんだ!!ユーリに会えないだろう!?」
私の苦労は、いつになったら終わるのやら・・・・・・・・・。
                                          (イル・バーニ編・完)     

 


(ハディ 編)

「ユーリ様、今日はこのようなお召し物はいかがですか?」
「ん~・・・パス!あたしはこれでいいや。」
と、いつものように男の子用の服を身につける。
せっかく、ヒラヒラドレスを用意したというのに・・・(ちっ)
ユーリ様が御正妃になられてから、まともなドレスを着たのは数えられるほど。
普通の方なら、もっともっと催促なさるのにぃ~~~~~!!!!
これでは、私の女官の腕の見せ所がないではないか!!
「・・・ねぇ、ハディ。なんでみんなは私にドレスを着せたがるの?」
ふとした質問。
何・・・?
「そうですわねぇ・・・それは、ユーリ様がお美しいからですわ!!」
本当なんですよ、ユーリ様。
ユーリ様は着飾りがいがありますのに・・・・。
最近では、お召し物も、湯殿もすべて一人でなさってしまって・・・。
私達はつまらないんです!!

「ハディ!!ねぇ、ねぇ。ちょっと一緒に出掛けようよ!!」
いつものユーリ様の脱走。
まぁ、今回は声がかかったからいいものの・・・・・。
「では、陛下にも報告してから・・・・・。」
「いや!!だ~め、内緒!!」
ユーリ様がこのようにいうときは、たいてい陛下とけんかなされたときだ。
そういえば、朝、何となく雰囲気が違ったな・・・・・。   このような時は、とりあえず聞いて差し上げて同情すれば、収まったりもするのだ。それで収まらない時もあったが。
「ユーリ様、陛下と喧嘩でもなさいましたか?」
「喧嘩なんかじゃない!喧嘩だったら私も悪い事になってしまうもの。あれは、絶対にカイルが悪いの!!だって、今日は、絶対に、ひらひらドレスを着て、一日中部屋にいろって言うんだもの。いやって言ったら、これは、皇帝命令だなんて言い出すし。」
「まあ」
陛下もいったいどうしたというのだろう。そんな事をユーリ様に仰っても素直に聞かれるわけがないのに。
「ね、だからカイルに内緒でちょっと一緒に出かけようよ!」
「しかし…いつもはそんな事仰らないのに、今朝は仰っていらしたのであれば、せめて今日は出かけない方がよろしいのでは?」
どんな理由があるにせよ、ここで脱走を食い止めないと、例のごとく、陛下に当たり散らされるのは、私共側近なんだから!
「イーヤ!何でそんな自分勝手な言い分に従わなきゃいけないのよ!何が何でも脱走する!いいよ、ハディがついて来てくれないんなら、私だけで行くから。絶対陛下に告げ口しないでよ!」
うーん、どうしよう。このままだと、いつもより、当り散らされるのは必至だし。私もご一緒して、気晴らししちゃおっと。
「いいえ、お一人でなど危険です!私もご一緒させていただきます。」
表向きは、ユーリ様お一人では危険という事にしておかないと、後で、帰るときに、陛下のお怒りが恐ろしい・・・。


話は、ちょっとハディから離れて執務室。
「なぁ、イル。ちょっと早めに休憩にしないか?」
「いーえ、まだ早すぎます!休憩までは、あとたっぷり2時間はありますし、第一、今日は執務室に来られてから、ちっとも御政務がはかどっておられないではないですか。さーあ、御政務御政務。」
「ちっ」
ユーリは部屋にいるんだろうか?あいつの事だ。十中八九、部屋にはいないだろう。今朝は、その事で喧嘩になったし。せめて後宮内ならいいのだが、脱走などしていないだろうな。今日は私の誕生日だから、せめて今日位心配などさせてほしくなかったんだが・・・。




話はハディに戻って、市街地の中。
「ねえ、ハディ。あっちのお店見てみようよ。面白そうだよ。」
「ほんとですわね。ちょっと覗いてみましょうか。」
「これとか可愛い!」
「私はこっちの方が・・・」   正直言ってハディは、今日は何か特別な日だったのではないか・・・と、思っていた。
しかし、陛下に関する特別な日はユーリ様が決めたのだから忘れるはずはないし・・・。
まぁ、今の時代。
カレンダーもないのだから日にちがこんがらがってしまうのも無理ないが。
「ねぇ、ハディ。カイルは、どんなものがいいかな?」
「え?」
「だーかーら!!プレゼントだよ。今日はカイルの誕生日って決めたでしょ?
 ヒラヒラドレス着ろっていったのもわからなくないけど・・・とりあえず、カイルが政務やってる
 二時間のうちにプレゼント決めなきゃ!!」
そうだ!!
今日は陛下の誕生日ではないか!!
ユーリ様が、私達側近全員の誕生日まで決めて下さった。
そうだそうだ!!
じゃぁきょうは、早めに帰って支度を・・・・・。
「ハディ!!帰ろう。」
プレゼントが落ち着いたらしく、ユーリ様はご機嫌だ。
「では、ユーリ様。戻りましょう。」

「なぁ、イル。休憩まで後どのくらいだ?」
「あと、一時間と四十三分です。先ほどから、五分も経ってませんよ。」
カイルには、その五分が二時間に感じた。
ユーリのことが心配で心配でたまらないのだ。
「ですから陛下。お願いですから、おとなしくしてください。」
イル・バーニ、今日もまた苦労の日となった。

「リュイ!シャラ!ごちそう作るわよ!!」
「「はい!!姉さん!!」」
「いい?湯殿にはこれを・・・あっ、それは寝室に・・・・そうそう、それでここは・・・・・。」
妙に張り切っているハディ。
今日もしっかりと幸せになっていただきますわ、ユーリ様。
そうと決まれば、まずは湯殿からですわね。
久しぶりに、フルコース完璧にやらせていただきましょう!!