ユーリの受難

「ユーリ!足に怪我をしているではないか!キックリ、至急医師を呼べ!!」
足を挫いたらしく座り込んだまま、動けなくなっているユーリを抱き上げながら、カイルは指示をだす。
「たいした事ないよ。お願いだから降ろして!」
ユーリはあわてふためき腕の中から、もがき降りようとする。
「左足をひどくくじいている。無理をしてはいけない」
「でも!!」
「でも 何だ。」
「だって。だって、だって・・・」
だんだん消え入りそうなこえで
「だって・・・あたし・・・重いし・・・」
ユーリは、顔を真っ赤にしながら言った。 
日本生まれ、日本育ちのユーリにとって、人前での(人前でなくても)『お姫様だっこ』は、当然なれていないし、かなりはずかしいものがある。
カイルは、初めきょとんと目を丸くして、すぐ合点がいった様にクスクス笑いながら
「前にも言っただろう。お前は痩せ過ぎだと。逆に軽すぎるくらいだよ。」
ユーリに口づけを交わす。
「お前は私の妃。大人しく私の側にいればよい」
「でも・・・・」
「それはそうと、ユーリ、どうしてこんな所にいるのかい?」
「あっ・・・それは・・・」 やば~。ユーリは心の中で舌打ちをした。
ここはカイル皇太子殿下の宮、大きな木がある城壁のそば・・・ そう!ユーリが宮をお忍びで脱け出す時のルートになっている。
いつも?のように街へ出掛けようとしていた所、カイルが戻って来るのを見かけて、あわてて木に登ったところを降りようとして、着地に失敗し、足をひねったのだ。
「ユーリ?」
心なしか(絶対だろう)少し怒った様な琥珀色の相貌が答えを求める。
「ごめんなさい。」
ここは観念した方がいいようだ。素直にユーリは謝った。
「悪い子だ。少しお仕置きが必要だな。だが、その前に治療が先か・・・」
ユーリを抱きかかえ部屋にむかいながら、カイルは言った。
「あら!ユーリ様。どうかなさいましたか?」
さわがしい様子に気がついた三姉妹があわてて駆け寄って来る。
「ハディ、ユーリが怪我をした。医師を呼んだのでベッドの用意を」
「まぁ!ユーリ様がお怪我をなさったのですか?はい、ただいま。」
双子達が走って行った。

部屋に着くとすでに用意が整っており、有無を言わさず即座にベッドへ寝かされる。
体を拭いてもらい、夜着に着替えた時にタイミング良くキックリに連れられた侍医が飛び込んできた。
「よく、こんなになるまで我慢しましたな。かなり酷く捻ったみたいです。直るには相当時間がかかります。これでは骨折した方が楽でしたな。」
ほめられているのか、あきれかえられているのか分からない言葉に、ユーリはただ
「はぁ・・・」としかいえなかった。
横ではカイルが、怖い顔をしながら黙って侍医の言葉をかたむけている。その後ろでは、ハディ達が、あぁやっぱりユーリ様から目を離すのではなかったとショックを隠しきれない様子でうなだれながら控えている。
「今夜あたりから相当熱が上がるはずですから、しばらくは絶対安静に願います。湿布は腫れがひくまでは3時間おきに変えるように」最後にそう言い残して医者は帰っていった。

「ユーリ。分かっているとおもうが、完治するまでは絶対安静。外出禁止だからな!」
カイル皇子の言う所の『外出禁止』は外に出られないんじゃなくて、ベッドから一歩もだしてくれないんだよね・・・まぁ自分が悪い訳だし・・・ユーリはため息をついた。

暇だ・・・ユーリの予想どうりベッドから一歩も出られない状況がだいぶ続いていた。
でも、暇なのはまだ我慢ができるんだけど・・・・

お風呂に入りたいと頼めば
「風呂にはいりたい?まだ熱も下がってないだろう。駄目だ。大人しく寝ていろ」
「汗かいたし、頭も洗いたい。熱だって微熱程度だよ。」
「だめだ」
「もう大丈夫だよ。」
「絶対安静といったはずだ。」
「でも・・・」
「汗掻いたというのなら、わたしが体を拭いてやろう。」
「ちょっ・・ちょっと、カイル皇子?!」
カイルはユーリの肩に手をかけ、夜着を脱がしていく
「いいよ!自分でやるよ!」
ユーリは顔を真っ赤にしながら、服をおさえる。
「無理してはいけない。」
「無理してないってば!」
「体を拭くだけだ。怪我人をどうこうする趣味はない。安心しなさい。」
「そうそう、着替えもしなくてはいけないな。」
それからというもの、カイルがユーリの体を毎日ふき、着替えさせている。カイルはとてもうれしそうだ。(ハディ達にしてもらいたい。といっても、無視されてしまった。)

食事といえば、寝たきりなので、当然お腹があまり空かない。食べないでいると、
「ユーリ、食欲が無いのだって?それはいけないな。どれ、私が食べさせてあげよう。」
カイルに口移しで、食べさせられる。(やっぱりカイルはうれしそうである)
「寝て、起きて、運動もしないで、食べてばっかりだと太っちゃうよ!」
ふてくされながら、抗議すると
「太る?それは大変結構じゃないか!お前は痩せ過ぎなんだから。安心して太りなさい」
「そりゃ、胸とかに肉がつけばいいけど、お腹とかについたらどうするのよ!」
「大丈夫だ。わたしが保証する」
「何の保証よ!」
「いいから黙って食べろ。それとも口移しがいいのか?」

・・・と、全てがこんな調子でカイルの手を借りなければならないのが我慢できない。
いくら二人きりとはいえ、かなりはずかしい。
あたしは皇子とちがって人に常に見られるって事に慣れてないし、慣れる気も無いんだからね~!!!羞恥心という言葉を知らんのか!ユーリは心の中で叫んでいた。
本当は口に出して言いたいのだが、言ってみたところで聞き入れられやしないという事をよ~っくユーリは知っていたからである。
やれやれ・・・あとどれくらいこうしていなきゃいけないんだろう?
ユーリは深いため息をついた。(もちろんその間ユーリを独り占めしていたカイルは上機嫌である)

1週間後熱が引いた。
「まずは、一安心ですな。少しくらいなら、外に出てもよいですよ。」
ようやく医者から待ち望んでいた一言。
一番よろこんだのは、言うまでもなくユーリである。
やっとこれで寝所(カイル)から開放される。そう思えば顔も自然とほころんでくる。
しかし、カイルはこれくらいで開放するほど、甘くはなかった。
にっこり笑いながらカイルは言った。
「ユーリ、熱が下がったとはいえ、まだ足が腫れているではないか。外に出てはいけないよ。」
「えっ??」
「捻挫はくせになりやすいんだ。よく治して置かないと後が大変だよ。」
「だって、お医者様が、少しくらいなら、外に出てもいいって・・・」
「わたしは、完治するまでは絶対安静だといったはずだ。」
鶴の一声ならぬカイルの一言でまた寝所に縛りつけられる生活が再開した。
いつまでこうしなきゃならないんだろう・・・ユーリは、がっかりした。

それから3週間後。
「もう、大丈夫。何をしても大丈夫ですよ。」
医者からやっとお墨付きをもらった。
今度こそは・・・!やっとこれで寝所(カイル)から開放される。
ユーリは、心の底から喜んだ。

しかし、やっぱりカイルは甘くない。意地悪そうな表情を一瞬だけみせて
「ユーリ、お前は宮を脱走しようとした罰をまだ受けてないだろう?ちょうど良い機会だから、宮廷マナーをしっかり身に付けてもらおう。マスターできるまでは外出禁止だ。」
本当に嬉しそうにユーリに告げた。
「そんな~そんなの詐欺だ~」
やっとこれでカイルから開放されると思ったのに・・・
ユーリは、目の前が真っ暗になった。
ユーリの本当の受難?はこれからスタートするようだ。