第2話 つくし誘拐さる!?

*つくしが大学に入学して2カ月

 司もNYから帰ってきて、幸せな二人の大学生活始まるはずだったのに・・・

 つくしの誘拐事件勃発!

 司どうする?

*

-From 1 -

道明寺がNYに行ってから2カ月が過ぎた。

以前、道明寺がNYに行っていたときは半年ほどで音信不通になったけど、今度は絶対そんなことはないと私は信じてる。

私はというと、大学生活にも慣れ新しい友達もできた。

相変わらず高校からの進級組のお嬢様達とは馬が合わないけど・・・。

なんとか、大学生活をそれなりに楽しんでいると思う。

今も校内のベンチに腰掛け、次の講義の予習に余念がない。

4年で大学を卒業し、司法試験に合格という無謀な?目標が私にはあるのだから。

他のチャラチャラしたお嬢様達と一緒に遊んでなんかいられない。

ここに道明寺がいたら、俺との結婚は?と突っ込んでこられそうだが、道明寺との結婚なんてまだまだ先の話で、実感なんてまだあるわけないのだ。

「まーきーのー、 なにしてんの?」

「あっ、 花沢類」

物思いにふける私の背中越しににこやかに花沢類が声をかけてきた。

大学でも花沢類、西門総二朗、美作あきらのF4残り3人が、私のことを高校同様、何かと気にかけ世話を焼いてくれる。

「牧野に悪い虫がつかないよう司に頼まれている」

なんて美作さんが冗談めかしに言っていたけど、最近はなんだか本当に道明寺が頼んで行ったんじゃないかと思える節が、すくなからずあるようにも思える。

「もうすぐ司、帰ってくるんじゃないの?」

「えっ、 一昨日電話で話したけどそんな話してなかったよ。2,3日電話できないとは言っていたけど・・・」

なんでそんなことを聞くのかと不思議そうにしてる私にお構いなく、花沢類は自然なしぐさで当たり前のように私の横に腰掛けるといつも通り私には読解不能の本を開いて読み始めた。

私はたまらず自分から聞き返す。

「何か知ってるの?」と花沢類の顔を覗き込む。

「イヤ、何となくそんな気がしたから」

本から視線を外すことなく花沢類は答える。

これは絶対何かある。

知っていて言わないんだから。

それじゃ、答えになってないでしょうと追及しても、「司が言わないんじゃ俺からは言えないでしょう」

なんて返答が返ってくるのが薄々わかる。

「まあ、帰ってきてくれればうれしいけどね」なんてあやふやに返答するしか私には手がないのだ。

「今日、講義が終わったらみんなで会わない?」

「みんなって、西門さんに美作さん?」

ちょっとふてくされぎみの私を気遣ってか?

それとも話をそらせるためかわからない突然の花沢類の誘いだが、みんなで会えるのは久しぶりだ。

私の機嫌も少し上向く。

時々校内で会うこともあるけど立ち話程度、ほとんどあいさつ程度で終わってしまう。

みんなで集まる雰囲気はなんだかホッとして安らげる空間だ。

そこに道明寺がいればもっといいというのが本音だけどね。

「そっ、司と離れ離れでそろそろさびしくなってきてるんじゃないかと思って、3人で慰めてやろうかってね」

「もう、さびしくないよ。前と違って今のとこ電話もつながるし、大丈夫だよ」

強がって笑って言ってみても3人の心使いは涙が出るほどうれしい。

花沢類の誘いに断る理由などない。

「今日はバイトも休みだから、OK」

私は笑顔で人差し指と親指で丸を作った。

「それじゃ、4時に校門で待ち合わせ」

それだけ言うと、花沢類は読んでいた本を閉じ、立ち上がると講堂のほうに歩いて行った。

講義が終わり、私は待ち合わせの校門に向かう。

校門は講義を終えた学生たちが行きかって、ちょっとしたにぎやかさだが、私に目をくれる学生は皆無である。

どうやらF4のみんなはまだ来てないようだ。

もし、F4の誰かが校門の前で人待ち顔に立って、私がそこに現れたなら蜂の巣をつっついたような騒ぎになることは明白からだ。

後でF4から声かけられれば、結果は同じなんだけど・・・。

「つくし」

校門の前の車道を挟んで私の名前を叫んで大きく手を振る男性がいる。

誰?と思い悩んでいると、車が来ないのを確かめ車道をあっという間に渡り、人影は私の前に現れた。

「久しぶり」

比較的目鼻立ちの整ったすらりとした長身の男性がにこやかに声をかける。

F4を見慣れてる私でも結構イケテルと思ってしまう。

「失礼ですが、どなたですか?」

相手は私の名前を呼んだのだから知らないはずはないのだ。

それもつくしと呼び捨てで・・・。

いろいろ記憶を探るが思い出せない。

私は思い切り首をかしげ聞き返した。

「覚えてない?僕のこと」

「3年?いや5年ぶりくらいかな?浩一郎だよ」

「えっ、嘘っ。浩にい」思わず声が裏返ってしまう。

それは数年ぶりに会う親戚の牧野浩一郎だった。

「前会った時は、つくしがまだ中学生だったもんな」

「あんまり変わってないから、すぐつくしだってわかったよ」

「それって、まだ子供だって言いたい?浩にい、私に喧嘩売ってるでしょう」

「いやいやとんでもない、昔のままのつくしでうれしいんだ」

やさしい目をして私を見つめる浩にいの笑顔は昔のままだ。

一気に数年の距離が埋まる。

私が中学校の頃までは夏休みにパパの田舎に毎年帰っていたものだ。

小さい頃から5歳年上の浩にいは、私や進の面倒を見てくれて遊んでくれていた。

私にとってはやさしいお兄ちゃんて、感じの存在で頼りになるのだ。

久しぶりに見た浩にいは、Gジャンからスーツ姿に変わり大人の男性という感じでちょっとびっくりしてしまった。

「仕事でこっちに出てきたんだ。おじさんの家に顔出したら、つくしはまだ学校て聞いて、散歩がてら迎えに来た」

「つくしがどんな女の子になってるか楽しみだったからね」と浩にいはつけたし、私に軽くウインクする。

どうやらF4にしても、浩にいにしても、私はいいようにおもちゃにされてるような気がしてならない。

周りが少しザワツキ出したとき、突然聞き覚えのある声が響く。

「てめえ、何さっきから、つくし、つくして呼び捨てにしやがってーーーー」

「道明寺?」

いったいいつからそこにいたのか、突然私たち二人の間に割り込むように私の目線を道明寺の背中がさえぎる。

「本当に、道明寺?なんで?」

「なんでて、俺が帰ってきちゃ都合でも悪いのかよ」

中越しにでも道明寺の怒りが伝わる。

「俺もまだおまえを名前で呼んだことないのに、なんであいつが呼び捨てで、おまえの名前連発してんだ」

なに?

道明寺が怒っているのはそれ?

私が男の人と仲良くおしゃべりしているのを見てではないの?

気にするとこが違うんじゃない?そこが道明寺らしいと言えばそうなんだけど。

「突然現れていきなり嵐作らないでよ。浩にいは私の親戚のお兄ちゃんなんだから」

ため息交じりに私は浩にいを紹介した。

「えっ、親戚」

ようやく背中越しに私を振り向いた道明寺の怒りのボルテージがちょっと下がった。

「君が噂のつくしの婚約者?よろしく」

浩にいが右手を差し出す。

婚約者っていうフレーズに機嫌をよくしたのか、さっきとはうって変わった態度の道明寺も手を差し出し軽く握手を交わした。

こんなところは相変わらず単純だ。私が呼び捨てにされているのも、もう、気にならないらしい。

そう思ったのもつかの間で、なぜか浩にいが大戦の口火を切りだした。

「つくしとは長い付き合いでね。赤ん坊の頃から良く知っているんだ。なんせ、つくしのおむつを替えたこともある仲だしね。

あっ、もしかしたらつくしの大事なとこ見た男って俺が初めてかもね」

真面目な顔で言い放つ浩にい。

「お風呂も一緒によく入ったよな」

「おにいちゃんとじゃなきゃお風呂入らない~なんて、つくし騒いで、あんときゃかわいかったよな。あっ、今もかわいいよ」

「ちょっと、浩にい、そんな昔のこと私は覚えてないよ」と顔が真っ赤になる。

「大事なとこ?お風呂って?おれはまだだぞ」

道明寺のマユが吊り上ってるのが判る。

さっきより怒り心頭て感じだ。

ちょっと待って、そんな昔の子供の頃のことでまた切れるの?思わぬことの展開にすっかり道明寺に会えたうれしさなんて私の頭から吹っ飛んでしまった。

-From 2 -

「あーあー、折角の再会に、なにイライラしてんの司」

「そうそう、もっとムードある演出しなきゃな」

道明寺を真ん中に軽く肩に手を触れて美作さんと西門さんが私たちの中に割って入る。

ナイスフォローと私は神の助けと二人を拝みたくなる心境だ。

「さっき、ちょっと聞こえたんだけど、なに?まだ牧野とは・・・な・・・関係なわけ?」

小声で道明寺に耳打ちする美作さん。

「ウルセー、関係ねえだろう」

はっきり私には聞こえないけど、何を耳打ちしてるか道明寺の顔が真っ赤になる様子を見れば一目瞭然だ。

「いったい、今まで何やってたの?中坊でも先行くぞ」と西門さん。

それはあんた達二人だからでしょうと突っ込みたくなる。

「まあ、牧野と司ならあり得ない話ではないなぁ」

と美作さんがしみじみ言う。

「胸は触ったことあるぞ!?そのあと投げられたけどな」

妙に語尾が小さな声になる道明寺。

美作さんたち道明寺をからかって、遊んでる・・・。

道明寺も、道明寺だよなんでそうペラペラ話すんだ。

胸だって偶然で、服の上から当たってただけで、投げたのもあんたが手をいつまでもどけなかっただけでしょう。

そう思ったら、私は恥ずかしさを通り越して、だんだん腹が立ってきた。

「もう、今日は帰る。行こう、浩にい」私は、浩にいの腕を掴んで大股で歩き出した。

「つくし、大丈夫なの?彼氏ほっといて・・・」

私に連れられてる格好の浩にいの声が聞こえる。

「別にどうでもいい」

実際どうでもいいわけはないのだけれど・・・。

道明寺のことは気にならないはずはない。

たぶん今日、大学が終わる頃現れて、道明寺は私を驚かすつもりだったのだろう。

F4の残り3人と示し合わせて・・・。

今は、浩にいに顔を見られたくない。

2か月ぶりの感動の再会になるはずが浩にいの出現で、もろくも崩れ去ったわけなのだから。

きっと、浩にいを怨めがましく見てしまうような気がするから。

「まあ、俺が悪いんだろうけどね」

「ちょっと大人げなかったな。でも、俺も安心した」

「えっ?」

いつの間にか浩にいは私の横に並びながら歩いていた。

「財閥のおぼっちゃんが、どんな奴か気になったからね」

「あの反応じゃあ、つくしにベタ惚れなのは間違いない。単細胞的なところは案外つくしと似合いだよ」

「もしかして、心配してきてくれたの?」

「それだけで上京したわけじゃないけど、大事な妹のことだからね」

「早く仲直りしたほうがいいんじゃない?」

「浩にい、ありがとう」

最近どうも私の涙腺は緩んでいるようで、すぐ涙目になってしまう気配がある。

浩にいのやさしい言葉で今までのことをすっかり白紙にしてしまうあたり、浩にいの言うように私も道明寺と似合いの単細胞なんだろうね。

「ほら、うしろ」

浩にいが顎で歩いてきた歩道の先を示す。

道明寺が気まずそうな表情で数メートル離れた所から私たちの様子をうかがっている。

立ち止った私の耳元で、「俺、先に帰っているから、しばらくはつくしの家で世話になる予定だからよろしくな」そういうと私に背中を向け足早に浩にいは遠ざかって行った。

-From 3 -

「なあ、お前ら昨日の話、聞きたくねえ?」

大学のラウンジであいつらを見つけて俺は機嫌良く声をかけた。

「どうせ、昨日牧野と仲直りできたとかいう話でしょ」

やけに朝からハイテンションな俺を、いかにも迷惑だというような類の口調だ。

俺が機嫌がいいのは牧野がらみであることは高校時代から変わりがない。

「ついに牧野と大人の関係にでもなったかー」と総二郎がからかう。

「そうなのか」とあきら。今はこいつらになに言われようと俺は機嫌を損ねることはない。

「いや、そうじゃない」もしそうなら俺は今頃ベットの中でまだ牧野を抱きしめてるはずだとなぜか確信できる。

「じゃあ、なんでそんなにご機嫌なの」 

「昨日な、あれからすぐに牧野と仲直りしてもうNYにはいかないことを告げた。

そして一緒の大学に行くことを言ったら、あいつ・・・」

「どうしたと思う?」

俺の質問に誰も答えようとしない。

呆れていることは重々承知だ。

そんなことはお構いなく俺は続けた。

「ぶんなぐられた」

「「「殴られた!」」」

なんでこんな時だけ声が揃う。

三人ともそれでなぜ機嫌がいいのかと言いたげだ。

「そんで・・・あいつ・・・俺に詰め寄りながら『ずるい、そんな大事なこと今まで黙ってるなんて』てしおらしい声で言うんだぜ、それも俺の胸に顔うずめながら・・・」

俺は声色を高めに変え牧野の口調をまねて見せた。

昨日のことを思い出すだけで俺は、牧野への愛おしさがこみ上げてくる。

「それで?」

「それでって・・・それだけだ。悪いか」

確かに殴るというフェイントのあと牧野にそんなことされりゃ司にとってはKOだろうなとあきらは思う。

やっぱり司と牧野はお子様だわと、口にこそ出さない3人だ。

「相変わらずだね司は・・・」と類は苦笑した。

俺達4人はそれからもラウンジでとりとめのない話を繰り返す。

誰からともなく「今日まだ牧野見てないね」と話が出た瞬間、俺は右頬に鈍い痛みを感じ、椅子から転げ落ちた。

「何しやがる」倒れた格好で見上げると、こぶしを握り締めた浩一郎が顔面蒼白で立っていた。

「つくしをどこにやった?」

周りが止める間もなく司に馬乗りになった浩一郎は司の首を締めあげる。

「昨日からつくしが帰ってない。最後に会っていたのはお前だろうがーーー」

ラウンジは突然の暴行者の出現で騒然となった。

「俺たちは何も知らない、冷静に話せ」

あきらは激高している浩一郎を両脇から抱えるように司から引きはなす。

慌てて駆けつけた警備員を総二郎が問題ないと追いはらい、ラウンジは少し落ち着きを取り戻した。

俺は浩一郎の言葉の意味が全く理解できていなかった。

つくしが帰ってない?

なんで?

あの後、家の前まで送ると言う俺に「今日はちょっと恥ずかしいから」と牧野は言い、家の近くの公園で別れた。

俺は笑顔で手を振り何度も振り返る牧野の姿を見えなくなるまで見送って・・・

司はようやく起き上がると床に座り込んだ状態で慌てて上着のポケットから携帯を取り出しながら、お押し慣れたボタンを押す。

ツゥーツゥーと意味のない非通音が流れるだけだった。

「通じねえ・・・」

司は力なくつぶやいた。

-From 4 -

22時を過ぎても帰らないつくしを家族は司と一緒ならと考えていた。

だが何の連絡をして来ない娘に徐々に不安になりながら朝を迎える。

つくしの携帯に何度かけても携帯からつくしの声が聞こえてくることはなかった。

司の連絡先がわからないことも家族の不安を増長させる。

何かあったのだろうかと考えていた時、ドアの郵便受けに「ポトリ」と何か落ちる音がした。

それを取りに行って戻ってきた進が不安な表情でポツリとつぶやく。

「お姉ちゃんのバック・・・」

急いでドアを開け浩一郎は家を飛び出したが、家の周りには犬一匹見つけることは出来なかった。

「おじさん、俺、あいつに会ってきます・・・道明寺にまずは話聞いてこないと・・・」

浩一郎はタクシーに飛び乗りつくしの父に教えてもらった道明寺の屋敷に向かった。

屋敷では道明寺は大学に行ったという。

再度タクシーに飛び乗り大学へ急がせる。

途中車の渋滞に巻き込まれ思う様に進まないタクシーにもどかしさを覚える。

待ち切れずタクシーを飛び降りるようにして浩一郎は走りだした。

大学までの道すがら浩一郎はすごい形相をして走っていたのだろう。

行きかう人がすべて浩一郎をよけて通る気配だ。

なんであいつと一緒にいてこんなことになる。

俺がつくしを連れて変えればよかったと、大学に近づくにつれ道明寺に対する怒りで激高していくのが自分でも抑えきれない。

にこやかに友と雑談してる司がその怒りに油を注ぐ状態となった。

そして気がつけば司を殴ぐり倒していた。

いったいここはどこなのだろう・・・

気がついた時、つくしはセミダブル程度のベットに寝かされていた。

それも全く見覚えのない生活感のない空間がつくしの目の前に広がっている。

だだっ広い部屋にはつくしの寝ているベットと2人掛けのソファーにガラスのテーブルが置かれているだけだ。

確か昨日、道明寺と別れて・・・

社宅のビルが見えてきた時、私の横をスーと黒塗りのセダンが一台通り過ぎた。

この辺ではあんまり見かけない高級車だなと思いつつ・・・

ふと、道明寺ことを思い出す。

別れた直後なのにまた会いたくなったかなとちょっと笑みがこぼれる。

その直後、誰かに後ろから声を掛けられた。振り向くと同時に口をハンカチのようなもので突然ふさがれる。

抵抗する間もなく意識が遠のくような感じに襲われた。

そして、通り過ぎたと思ったセダンが止まり、中から誰か出てくるのを見たような気がする。

嗅がされた薬のせいなのか少し頭が重い。

それが誰だったのか、知っているようで知らないような私の記憶も今一つあいまいな感じがしてならない。

この部屋に私以外に人の気配を感じないせいか、この状況に不安はあるものの不思議と恐怖感は襲ってこない。

まずはここがどこなのか確かめる必要がある。

私はゆっくりベットから起き上がるとカーペットの上に一歩踏み出した。

ふかふかのカーペットの感触が素足に伝わる。

えっ、なんで私素足なんだ?良く見ると昨日着てた洋服とは全く別のものを身をまとっている。

素材もつくしが持っている洋服とは正反対の高級感を感じる肌触りのドレスだ。

そういえば以前、道明寺に同じようなことなされたことあったっけ。

勝手に私の体を着飾らせ「1億ぐらいかけた」とかなんとか言っていたことを思い出す。

あのときの道明寺は私にとって最低、最悪の奴だった。

今は最愛の人だけど・・・。

でも、今さら道明寺がこんな手の込んだことするとは思えない。

私は慎重に部屋の中を探り出す。

ドアにはかぎがかけられ内側から開けることはできなかった。

窓は・・・簡単に開けることができた。

が、窓の外には断崖絶壁の高波の押し寄せる海の風景が広がっていた。

一瞬にして私の期待が絶望へと変わる。

何の手がかりも見つけることの出来ないまま私は力なくカーペットの上に座り込んだ。

しばらくして「がちゃがちゃ」と部屋のカギを開ける音が聞こえた。

-From 5  -

落ち着きを取り戻した浩一郎を無理やり連れだし司達F4と共に司の家に向かう。

あきらがまずは情報を集めることだと、かったっぱしから自分の力を最大限に利用して連絡を取り始めた。

こういうときは誰よりも美作の家の力が頼りになることを司は知っている。

だが、頭ではわかっていても気持ちが落ち着かない。

今にもつくしを探しに行きたい衝動が司を襲う

「まだ、なんの連絡もないのかよ」

「何言ってるんだ、情報を集めだしてまだ1時間も経ってないぞ、少しは落ち着け」

その言葉に突然、総二郎の胸ぐらをつかみ司が詰め寄る。

「落ち着けだと!?この間にも牧野が安全だという保証はないんだぞ!?」

「だからってヤミクモに動いてもどうにもならないことだって司、本当はわかってるでしょう。ここにいるみんな気持ちは一緒なんだから」

類の言葉に司は握りしめていた総二郎の襟首を解放しソファーに座り込んだ。

「ぼっちゃん、今こんなものが届けられました」

ソファーで司が頭を抱えていると秘書の西田がA4程の大きさの封筒を差し出す。

西田は道明寺に関連する方向で牧野の行方を追っているが、こちらもまだ何の手がかりもつかめていない。

司宛てに直接屋敷に封筒などが届くことはあまりない。

ましてや封筒にはただ道明寺司と宛名が書かれ、差出人の情報は何一記されてない。

普段ならこんなものは司の手に届くことなく処分されてしまうのだが、時期が時期だけに西田の判断で司に持ってきたのだ。

司は西田から奪い取るように封筒を受け取ると1秒でも早くと手でビリビリと破り封筒の中身を取り出した。

カギが開けられる音に一瞬ビックとなり身動きもせず、つくしはドアのほうに目をやった。

ドアが静かに開けられ、細身の男がつくしの前に姿を現す。

男はもとのようにドアを閉めると座り込むつくしの前にゆっくりとした足取りで近づいて来た。

つくしは思わず身を固くしてその男性の様子を観察した。

「手荒な真似をしてすまなかった。こんなつもりではなかっただがね。ちょっとした手違いで、こんなことになってしまった。」

比較的目鼻立ちの整った顔だちをしているが、どこか冷たさを感じ、神経質そうな印象をつくしは受けた。

年は20代後半というところか。

「人をこんなところに押し込んどいて、すまないですむわけないでしょう」

他人事のような言い方に、思わず怒鳴るように言い返してしまう。

「一体誰なの?何が目的?」

つくしの気の強さが災いして、つい反抗的な態度をとってしまった。

しかし、ここで相手が気を悪くしたらどうなるかなど全くつくしの頭の中にはない。

「君の質問もわからなくはないが、僕が自分から名乗って目的をしゃべるとでも思うのかい?」

男はつくしの態度に表情を変えることなく話を続けた。

「まあ、僕は君を連れ去ることには反対してたんだがね、どうも先走る奴が君を車で連れ去り、ここに押し込めたというわけだ」

突然、男の携帯音が鳴る。

「失礼、電話だ」

男はつくしに背を向け小声で電話の相手と短めに会話して切った。

「全く困ったもんだ、君をさらった奴からの電話だよ」

「君のことが気になるらしい。君のことは僕に任せたはずなんだがね」

「2、3日ここで我慢してほしい。こんな別荘に君をいつまでもおしこめておけるとは僕は思ってない。道明寺の情報網を考えれば長くて5日程度が限界だと思っている。」

「君が置かれている立場を良くするも、悪くするも道明寺の次第てところかな」

「まずは君に一つ手紙を書いてほしい。君が今どんな状態か道明寺に示す必要があるからね」

「結局目的は道明寺てこと?」

「普通に考えれば誰でもすぐにわかることだと思うけどね」

「私が素直に書くとでも思っているの?」

つくしは折れそうになる気持ちを奮い立たせるように男を睨みつけながら声を絞り出した。

「ああ、君は書くさ、いや書かざる負えないよ。

もし拒否すればどうなるか・・・

「君のことはすべて調べてある。家族や交友関係も・・・。迷惑かけられないだろう」

「それに、自分から今の状態をこれ以上悪くしたくはないだろう?」

男はつくしを見下ろしながら冷笑を浮かべた。

-From 6 -

封筒の中には数枚の写真と手紙らしき紙が入っていた。

ベットに横たわるつくしの数枚の写真。

それと司宛てのつくしの手紙だった。

「ウォー」

つくしの手紙に目を通した司は突然叫び声をあげると手紙を丸め床に殴りつけるように投げ捨てた。

その手紙を拾いあげた総二郎がくちゃくちゃの手紙を伸ばしながら目を通した。

道明寺へ 

私は大丈夫、心配しないで。  

そして、私のことは忘れて。

「なんだこれ」

「確かに牧野の文字だけど本心じゃないでしょう」

「こんな手紙意味あるのか?」

「司を冷静でなくす効果は少なくともあるよ」

部屋にある椅子や机に蹴りを入れながら当たり散らす司を3人は見つめた。

「しかし、この写真、いかにも牧野らしいよな。無邪気な顔で爆睡て感じで・・・」

つくしの写真を手に取り総二郎がつぶやく。

「貴様ら、何のんきに構えてるんだ。そんな写真意味ねぇじゃねーか」

怒りもあらわに総二郎から写真を奪い取りながら司が叫ぶ。

「目が覚めて、こんな手紙を無理やり書かされてる牧野の身を考えろ」

「司、そう熱くなるな。そんなに興奮したら見えるものも見えなくなっちまうぞ」

「今のとこ牧野に危害は加えてないという相手方の意思表示だと俺らは思うけどね。この写真は・・・」

「あきら、「今のとこ」とはなんだ!結局牧野が危険な状態なのには変わりがないてことだろうがぁ」

「もう、お前らには頼まねえ、俺一人で助け出す」

司はソファーの背もたれにかけてあった上着を乱暴に手に取ると部屋を出て行った。 

「やっぱり、こうなったか・・・」

その姿を見送りながら誰からともなくため息が漏れる。

「パソコンあるか?」

突然、浩一郎が口を開いた。

司の家に着いてから浩一郎は一言もしゃべろうとしなかった。

ソファーに座り、身動きもしないその姿は考え込んでいるようにも、ふさぎこんでいるようにも思え存在を全く感じさせずにいた。

その浩二郎がいつの間にか送られてきた写真を見つめ何かに気がついたように立ち上がる。

部屋にいたみんなの視線が一斉に浩一郎に注がれた。パソコンに、送られてきた写真を取り入れ浩一郎は何やら真剣に操作し始める。

数分後写真を見るように浩一郎が声をかけた。

一斉に3人がパソコンを覗き込む。

「ソファーの拡大部分だ」と浩一郎が説明する。

パソコンの画面に大きく映し出された画像にはかすかに何か読み取れる文字が浮かびだす。

「Poltrona Fran・・・  ポルトローナフラウ?」

「なんだそれ?」

「イタリアの高級家具メーカだ」

さすがは、ソファー好きの類だなと総二郎は妙に感心せずにいられない。

「こっちのほうから探ればいいということか・・・」

「確かに、このくらいの高級家具の販売元は限られてくるし購入者もすぐ割り出せるかもな」

3人は顔を見合わせ、うなづきあった。

「それじゃ、後は頼む。俺もちょっと思いついたことがあるから一人で行動させてもらうう」

「写真一枚借りていくから」

浩一郎は3人の返事も聞かないまま司の後を追う様に部屋を出て行った。

「どいつもこいつもなんでこう勝手なんだ」

愚痴るようにあきらが言う。

「後のことは冷静に対処できる俺らだけでやりますか」

類の言葉にいつものことかと苦笑するしかない総二郎とあきらであった。

-From 7 -

怒りにまかせて屋敷を飛び出したもののどこをどう探したらいいのか見当なんてあるはずない。

ただ牧野が心配で、あいつのことを考えたらじっとして待ってることなんてできなかった。

良く考えろ!

司!

・・・・と、自分で自分を奮い立たせようとする俺。

やっぱり切羽詰まってるのは隠しようがない。

大体なんで牧野が誘拐されたんだ?

それも俺がNYから帰ってきたその日に・・・

別にもう少し俺が落ち着いたころを見計らってでもいいだろうと考えるのは俺の勝手な解釈か?

うちに手紙が届いたことを考えれば狙いは俺だよな?

牧野脅しても金とれるはずねえし。

でも金の要求は今のとこない・・・

道明寺財閥がらみの仕事の怨恨か?

それとも俺自身?

牧野を盾にされたら俺は太刀打ちできねえ。

でも俺と牧野の関係て・・・

まだ、そんなに世間に広まってるはずはない。

なんせ、ついこの間も『セレブの気になる若者たち』なんて特集にF4が大々的に雑誌で紹介されていた程だ。

それも彼女も婚約者もいない御曹司と解説付きで・・・

もしかして・・・

バァバァが裏で糸引いてるてことはないよな?

まさかな・・・

その考えを俺は必死に打ち消す。

一応あいつのことは許してくれているはずだし、結婚も大学卒業してということでOKをもらってる。

今さらこんな手の込んだことしねえはずだ。

あーーーー気になりだしたらきりがねえ。

街で行きかう誰もがみんな疑わしく思えてくる。

なんでこう牧野のことになると思考が働くなるのだろう。

自分で自分がなさけなくなってくる。

きっと今の俺は冬眠から覚めて空腹状態のクマのように気が荒く凶暴になってるに違いない。

立ち止ってしばらく動けずにいた俺の上着の内ポケットから、携帯の呼び出し音が聞こえてきた。

美作あきらと着信名が表示される。

「なにかわかったのか?」

俺は冷静さを装いながらあきらからの返事を待った。

その時、俺の横に一台の黒色のベンツがスピードを落とし近づくと音もなく止まり、後部座席の窓が静かに開いた。

「道明寺の司さんですよね。こんなところでお会いできるとは思いませんでしたわ」

車の中から見知らぬ声が聞こえてきた。

俺は携帯を耳にあてたままちらりと声の主を見た。知らねえ中年の女が見えた。

こんなときに・・・

ばぁばぁの知り合いか?

今の俺には牧野以外に関することは鬱陶しいだけで相手をする気にもならねえ。

年上キラーの人妻専門のあきらならうまく扱うのはお手のものだろうけど・・・

相手を無視ししたままあきらとの会話を続ける。

「私のこと、見覚えありません?樺月と申しますのよ」

俺の態度を無視するように女はほほ笑む

「牧野をさらったのはどうもKAZUKIグループが裏で動いてるらしいぞ」

カ・・・ズ・・・キ・・・

「おい・・・司!聞いてるのか?」

俺は目の前でほほ笑む女を凝視したままあきらからの電話を切った。

「てめえか!牧野をさらったのは!」

開いている助手席の窓から上半身をつ込んだ形で女の腕を無理やり掴んだ。

「人聞きの悪いことはおしゃらないでください。私の別荘に招待しただけですわ」

女が俺の腕を振り払った瞬間、俺の体がすんなり車の中にすっぽりと入りこむ。

「あら、乗りたければ車のドア開けましたのに」

女は、俺の怒りなど全く鼻にもかけない態度で言葉を続ける。

この手の女はどうも扱いにくい。

うちのばぁばぁにしてもこの女にしてもいつも自分が正しくて反抗は許さないという感じが見え見えなんだ。

「あんな手紙を牧野に書かせておいて、良くそんな白々しいこと言えるな。俺を馬鹿にしてるのか!」

「あら、あの手紙はあのお嬢さんが素直に書いてくれたものですのよ」

「今頃は、あの別荘でうちの息子と楽しく過ごしてるんじゃないかしら」

俺はこの時初めて知った。

怒りが頂点に達すると人間は言葉が思う様に出てこないことを。

まるで酸素を探す金魚のように口をパクパクするだけだ。

「それじゃ、すぐにでも牧野に会わせろ!」

俺は腹の底から絞り出すようにようやく言葉を発することができた。

こいつが男だったら今頃半殺しの目にあわせているという思いを押し殺しながら。

-From 8 -

「司・・・携帯切りやがった」

「俺は樺月の名前しか出してないぞ。なんでそれだけで、携帯が切られる?」

いくらリダイヤルしても全く携帯に出ようとしない司に、少しばかりのいら立ちをあきらは覚える。

「樺月グループになんか心当たりがあるんじゃないの?」

「心当たりがあったとしても牧野が連れ去られた場所までは普通思いつかないだろ」

「司の行動パターンからしたら後先考えず樺月に乗り込む感じだよな・・・」

3人は顔を見合わせ納得するように頷く。

わずかの沈黙の後、司の部屋の扉が開いた。

「あら、みなさんまだこんなところにいたの?」

現れたのは道明寺楓だった。

そそして、その後ろにはなぜか牧野浩一郎が立っている。

なんで浩一郎が司の母親と一緒なんだという疑問が三人の顔に現れる。

「なぜ私と浩一郎さんが一緒か不思議そうね?」

「考えられる組み合わせじゃないのは確かですよね」と類

「3か月前のパーティー覚えてる?確かあなた達も司と一緒に来ていたわよね?」

親の付き合いで無理やりに参加させられるパーティなんてたいして何の記憶も残ってないことがほとんどの3人だが、確かにあの時のパーティーはある意味で忘れられるものではない。

付き合いの長い3人も今までに見たこともないほど、とにかく司が上機嫌だった。

そう・・・

3人が呆れるくらいに・・・・。

いつものことだがF4が集まるところでは娘の売り込みが始まるのがお決まりの風景となっている。

司の周りにもすきを見つけては、ハイエナのようにそういう連中が近づいてくる。

いつもは適当にあしらうのに、その時の司は違っていた。

娘を紹介しようとする親に対して、自分は惚れた女がいる。

まだ正式に婚約は発表してないが、近いうちにするつもりだとか説明し始める。

そこまでなら、まあ普通に笑って聞いていられるが、そばで聞いている俺たちが見ていられないような呆けた顔で牧野自慢がそこから始また。

聞かされるほうはたまったものではない。

牧野が聞いてたら絶対蹴りいれられるぞ!と、俺たちは思った。

そして、牧野を連れてくるべきだったと後悔したことは言うまでもない。

後から司に聞いた話だとその前日、牧野の家に行き結婚の許しをもらったという。

その話も長くなりそうなので俺たちは司を適当にあしらい無視することに決めた。

そしてパーティーでの司の能天気振りに納得したのだった。

「でも、なんでこれで牧野の親戚が出てくるんだ?」ますます混乱する。

それを見透かすように楓が話を続ける。

「あのときは、私もあんなに恥ずかしい思いをしたのは初めてでした」

思い出したくもないという楓の雰囲気にF3も今回だけは同情的だ。

「今まで、いくつか司に縁談があったのは知っているわよね」

もちろん知ってます。

あなたが無理やり司に婚約さっせたことも・・・とは口にせず黙って3人が頷く。

樺月グループからはあのパーティーの1週間ほど前から司との縁談の申し込みがあったが、その頃には、司とつくしの交際を渋々ながら認めていたので丁寧に断りを入れている。

だがどこをどう勘違いしたのか、樺月会長の妻である樺月玲子はあのパーティ会場でもうすぐ自分の娘と司が婚約すると吹聴していたらしい。

その同じ時間を刻む空間で、司がデレデレと他の女性と婚約してたと言いまわっていたのだから、樺月玲子のプライドはズタズタだったに違いない。

「樺月以外にも不穏な動きをするいくつかの情報をつかんだので司にも注意はしていたし、普段はSPがいるからそう心配はしてなかったのよ」

「司はつくしさんのことは世間にあんまり知られてないと思っているようだけど、司があの調子じゃ、この業界ではもう有名な話よね」と俺たちに相槌を求める。

牧野にSPを付ける事を楓は申し込んだらしいが、牧野は納得せずきっぱり拒否した。

確かに牧野の性格じゃ「まだ道明寺の家のものではありません」とか何と言って突っぱねるだろうけど・・・。

そこで難なく牧野に内緒で護衛できる人物として、警視庁の公安警察に所属していた浩一郎に白羽の矢を立てたというわけだ。

警察官を簡単に個人の護衛に使えるのはさすが天下の道明寺と言えなくもない。

ただ、状況をみるために挨拶のつもりで牧野を訪ねた日に事件が起きたのは予想外だったと浩一郎が告白した。

「とにかく大体の状況はつかめた」

結局、もとをただせば司が今回の原因と言うわけだ。

牧野も苦労するよな・・・。

でも一番の被害者は俺たちかもしれないと、誰からとなくため息がもれる。

「それじゃ、牧野のいる別荘に行てみますか?」

「ああ、司が暴走する前にな」道明寺楓を一人残しF3と浩一郎は司の部屋を後にした。

-From 9  -

窓辺に西日が差しこみ夕闇が海を映し出す。

つくしが連れ去られて半日以上経っている。

道明寺は心配してくれているよね。

でもきっと助けに来てくれるはず。

だから私は平気で待っていられる。

別れの手紙を書けと言われた時、とにかく悔しかった。

「この手紙で君たちが本当に別れるとは僕は思っていない」

「だけどこの手紙で満足する人物がいるのも事実だから気軽に書いてくれればいい」と私を脅した男は言った。

簡単に言うけど、嘘でも別れるなんて書けるはずがない・・・

「私を忘れて」と書いたのは私にできる最大の抵抗だった。

それでもきっと怒ってるよね。

ソファーに体を持たれかけ時の過ぎ去るのを待つのは、それだけでつくしは苦痛を感じる。

逃げ出すなんてやっぱり無謀だよね・・・

私って・・・・

どのくらいまでこの部屋でじっとしとくの我慢できるかな・・・

「今、連絡が入った」いつの間に部屋に入ってきたのか、つくしの目の前に昼間の男が姿を現した。

道明寺司がここに来るそうだ」

「うちの母親と一緒ね」

思わずつくしはソファーから立ち上がった。

「僕の母親は君が道明寺を諦めて、僕の誘いに乗ったと思っている。話を合わせてもらえるとすんなり君を解放できると思う」

「さっ さっ さそい!」

つくしは思わず、どもっりながら言葉につまずく。

「うちの母親は以前、道明寺司に恥をかかされたことがあってね。

つまり今回の君のことは意趣返しというわけだ」

「僕はもっと長期的ビジョンで仕返しを考えていた。ちゃんと理に乗っ取った方法をね」

「でも僕の母親は君の存在を調べ上げて、君の心変わりを見せつけるほうが手っ取り早いと思ったようだ」

「すぐに道明寺を連れてやってくるのを考えると君の心変わりを僕の母親は確信しているみたいだ」

確信て・・・

なんであの手紙だけで・・・

そこまで信じられるの?話合わせるなんて出来るはずないじゃない。

道明寺を目の前にしたらきっとすぐに抱きつきそうになるはずだから・・・。

道明寺が、こんなに早く来てくれるなんて思ったら、体中に熱い思いがあふれ出るのを感じられずにはいられない。

私を連れ去った理由に戸惑いを覚えながらもうれしさを隠すことなんてできない。

そんな私に「樺月尚吾だ覚えといてくれ」と男が自分の名を告げた。

一枚の写真を私に渡しながら・・・。

なに!・・・

この写真!

思わず写真に見入ってしまう。

ソファに座り肩を抱かれ寄り添うように二人並んでいる写真だ。

男性の顔は上半分写っていないが明らかに樺月尚吾。

そして横に写っているのは・・・・

わ・た・し?

眠っているときに撮られたんだと気がついた。

目をつぶってるせいか見ようによっては恍惚てき表情に見えなくもない。

確信されたのはこの写真のせい?

そのためにこの装いに私替えられたの?

「もしかして・・・この写真道明寺も見た?」

私は恐る恐る樺月尚吾に聞いてみた。

「ああ、たぶん」と樺月尚吾はにっこり笑った。

結果は聞かなくてもわかっているのに・・・

道明寺の怒り狂った顔を想像し私はがっくり膝を落とした。

-From 10 -

道を曲がりくねりながら車を走らせ、ようやくつくしの連れ去られた別荘がカーブの隙間から姿を現し始める。

この女の面を見てると俺はどうなるかわからねえ。

そんな思いから司は徹底的に樺月玲子を無視してだんまりを決め込んでいた。

思いはただ一つ牧野を無事に助け出すことを願いながら。

別荘の周辺は海と木々に囲まれ別荘の住人以外の侵入を阻むように閑散としている。

別荘入り口で自動的に門が開くとベンツが吸い込まれるようにそこを通り過ぎた。

別荘の前に車が止まるのを待ちかねたように司が車を飛び降りる。

玄関に突き進むとドアを足で蹴破るように開け放した。

牧野の名を叫びながらあたりを見回す。

らせん階段を若い男に連れられる格好で降りてくるつくしを見つけた。

つくしはその男の手を振り払おうと必死に抵抗を続けているが、おとこの力は難なくつくしの力を抑えつけている。

「道明寺・・・」

自分の名を必死に叫ぶ司の姿がつくしの瞳に映る。

「道明寺!」心の底からあふれ出すようにつくしは叫んだ。

「てめえか!牧野を連れ去ったのは!」

はき捨てるように司が叫びながら握りこぶしを作り、樺月尚吾へと向かってくる。

「何しやがる!」

樺月尚吾の顔面に拳が届くまであと数センチのところで司の体が動かなくなる。

数人の屈強な男たちが司の体を後ろから羽交い絞めしにして動きを束縛していた。

司は相手とのボディーの格差をものともせず両足を蹴りあげると目の前の男の体にヒットさせた。

「もう少し大人しくしてもらえないですか?これじゃ何も話せない」

怒りを爆発させるように抵抗を繰り返し、樺月の護衛を倒していく司に尚吾が言う。

「話だと!てめえと話すことなんて何もねえ!大人しく牧野を返せばいいだけだ!」

そう言いながら司は尚吾を睨みつけた。

「道明寺の御曹司ともあろう方が、たかが女一人のためにみっともない姿ですこと」

「なんだと!」

声のする方を振り返ると冷ややかに樺月玲子が司を見つめている。

「結局は贅沢に暮らせればうちの息子でも誰でもいいような女ではないの?こんな女にうつつを抜かすようじゃあ道明寺も終ね」

玲子は司を蔑むように高らかに笑った。

「たかが女だと・・・贅沢な暮しだ・・・と」

お前らに牧野の良さが判ってたまるものかぁ!

自分の感情が沸々と湧きあがるのを司は感じられずにはいられない。

「こいつには道明寺の名前も財産も関係ねえ。嘘も駆け引きも通じねえバカみてえに真っ正直なやつだからな」

「だから・・必死で今まで自分の思いだけをこいつにはぶつけてきた。道明寺の力でこいつを縛ったら俺は牧野に愛されることはなかったはずだ」

「てめえらに牧野の何がわかる!」

司に威圧され玲子の笑いが止まる。

「うちのSPは何をしてるの!」司の激高する姿に玲子は初めて恐怖を覚えた。

「お宅のSPにはそうそうにおネンエしてもらいましたよ」

残りの護衛を涼しい顔で排除してF3と浩一郎が姿を現す。

「お前ら来てくれたのか」司の表情にかすかに笑みが戻る。

「姫を助ける王子様につき従う三銃士ですからね。俺たちは・・・」と類

「いや、今日はこいつがいるから四銃士てところかな」とあきらが浩一郎に視線を移す。

「いい加減一人で暴走するの止めてもらえると、俺たちとして非常に助かるんですけどね」と総二郎がおどけてみせる。

「形勢逆転というわけか」

自分の体を抑制する尚吾の力が緩んだ瞬間をつくしは見逃さず待ちかねたように司めがけてかけだした。

司は自分の胸に思い切り飛び込んできたつくしを両腕で力いっぱい抱きしめる。

怒りが静まったように思えた司が思いだしたようにつくしをF3に預けると尚吾めがけて飛びついて行った。

倒れこむ尚吾の頬を司の拳がさく裂する。「今回うまくいかなかったのは母親のせいだ、自分ならこんな失敗はしないさ」

尚吾は口の中に広がる血の味を吐き出しながら司をにらみつけた。

「もういいからやめて!」

再度尚吾に殴りかかろうとするの司の動きを止めるように、つくしが全身で司の背中に抱きついた。

「なんで止める!こいつはお前に何をしたかわかってるのか」

「私は大丈夫だから・・・それに暴力は嫌い」

司はつくしを見つめながら上がる息を整え、怒りの矛先を沈めようとフッーと息を大きく吐いた。

「これだけで済んでありがたく思えよ。牧野にかすり傷一つ付いていたら、お前の家ごと全部ぶっ潰すつもりだった。二度と俺たちに姿見せんな」

司は立ち上がるとつくしの肩を抱き、呆然と立ちつくす樺月親子を残し別荘を後にした。

家までの帰路リムジンの車の中、司はつくしとは二人っきりの時間を過ごした。

「あいつら気を利かせてくれたな」

穏やかな表情でつくしをそっと抱きしめる。

対照的に緊張した面持ちの牧野が口を開いた。

「あの・・・怒ってない・・・」

「なにを?」

一体俺が何を怒ると言いたいんだ?

今は牧野を助けることができた最高の幸せをかみしめてるとい言うのに・・・

「あの写真・・・」

牧野がすまなそうに小声でつぶやく。

あいつに肩組まれてとられた写真を気にしているのかと納得がいった。

「そんなこと気にするな」

「俺様が2度も同じ手に引っ掛かるもんか。高校の時桜子にやられたことあったろう。あれで免疫が付いた」

「今度お前のあんな顔・・・俺以外に見せたらそいつをぶっ殺すけどな」

牧野を見つめながら俺は自分の唇であいつの唇をそっとふさいだ。

なんとか終わりました。

一時は無事書き上がるか不安でした。

ちふゆ様usausa様お二人の励ましのコメントのおかげで思ったより順調にUPできました。

お礼申し上げます♪私って乗せられて書くタイプなんだとしみじみ実感♪さあ第3話はどうなる事でしょう

拍手コメント返礼

ラム肉様

拍手コメントありがとうございます。

初期の頃の作品にコメントいただけるとまた違ったうれしさがあります。

まだまだ作品は増え続ける予定ではありますがお付き合いいただけるとうれしいです。

AN様

オリキャラの息子はこの後出てこないですね。(;^ω^)

kachi様

ドラマの総集編見られたんですね。

最近総集編を見た方が遊びにきてくれることが多くなってます。

以前はドラマ見てらっしゃらなかったのこと。

今回はまた違った楽しみができると思います。

ほぼドラマのイメージで書いてますので~♪