ある日あの時ある考えで

第1話 ある日、ある時、ある考えを・・・。
 「あ~あ、暇だな・・・。何か楽しいことないかなぁ・・・。」
ある日の、後宮での昼間のこと。
暇をもてあましたユーリが、つぶやいた。
「カイルは執務中だし、三姉妹は忙しそう・・・。
 あ~!こんな天気のいいひは外に遊びに行きたい!・・・そうだ!」
何を思いついたんだか、ユーリはこっそりと後宮を出た。
途中で見つからないように、こっそりとアスランの小屋まで行って・・・。

「あ~、やっぱり外はいいな!!」
ユーリは、脱走をした。
脱走なんてしたことがなかったのだが、今日はどうしても外に出て遊びたかった。
後宮って、あんまり運動できないからなぁ・・・。そうだ!アスラン、街まで行こ  う!」
ユーリはアスランをとばして、城下町まで急いだ。

そのころ王宮がパニックだったのを、ユーリは知らない。
ユーリ自身、買い物を楽しんでいたのだから。

第2話 悩むイル・バーニ

「ユーリ!!ユーリはどこだ!?」  
「どこにもいらっしゃいません陛下!!」
王宮に響きわたる声。このユーリを呼ぶ声を王宮で働くものたちは何度聞いたことか・・・                                   「まったく!!あのじゃじゃ馬め!いったい何度わたしを心配させれば気がすむんだ!?」                                   半ばあきらめたような顔をしてそう言ったカイルは、すばやくマントを身につけた。
「陛下!?いったいどちらへいかれるんですか!?」
「そんなこと決まっているだろう?イルバーニ。ユーリをつれもどすんだ。キックリ! 馬をひけ!」                                「は、はい!ただちに・・・」
「皇帝陛下!?おまちください!陛下にはたまったご政務があるのですよ!?」
「だからなんだというのだ?ユーリをつれもどすのが先だ!」
イルバーニがとめるのも聞かず、カイルはさっさとユーリを探しに行った・・・  
「まったく・・・陛下ときたらユーリさまのことになるとまわりがまったく見えなくなるときた・・・こんなことならやっぱり、ユーリさまではなくほかの方をご正妃にむかえるべきだったか?いやしかしあれほどのご正妃の器量をもつ方はこの世に二人といないし・・・」                                 「イルバーニさま!そんなに悩むとハゲますわよ。」
悩むイルバーニの後ろからハディのそんなセリフが聞こえたとか・・・  

第3話 お買いものいこっ
「お買い物なんて久しぶりかも・・・」
王宮でハディがイルのかみの毛の心配をしていることなどまったく知らないユーリは、
アスランをつれて露店めぐりをしていた。
「うーん。これといったものはないなあ・・・・っとぉ?」
ユーリの視線の先には怪しげな店が・・・
看板には『異国のものあります』とかかれている。
「異国?おもしろそう。」
ユーリは迷わず店に入っていった。
    * * * * 
店の中には、いろいろなものが並んでいた。
「なにこれ・・・・賞味期限切れのハンバーガーにインスタントラーメン・・・・
それから育毛剤(男性用)??全部日本の物じゃない。」
よく見れば、商品のパッケージも日本語である。
「どーゆうこと?」
ユーリがそうつぶやくと、店の奥から死んだはずのナキア王妃が出てきた。
「ふっふっふっ。それはわたしがじきじきにニホンとやらから取り寄せたのだ。」

第4話 ユーリさがし

「あっ!あなたは・・・!?でも、日本から取り寄せたって・・・?」
「わたしの魔力を持ってすれば、簡単な事よ!!」
ほほほほほ~~~~~
高らかな笑い声。人を見下したような笑い声・・・・・。
「そっかぁ。でも、私は日本と断ち切れたのよ!だいたいこんな店、怪しいわ。」
ユーリは店を出ていった。
あとに残ったのは、まだ笑い続けている・・・ナキア(??)だけ・・・。
        *              *
「おい!ハディ!そっちにはいたか!?」
町中ではあんまり目立つことのできないカイル達。
それに比べてユーリは変装してしまえば、結構正体がばれないから・・・。
「いえ、いません。・・・全くユーリ様、どこにいってしまわれたのでしょう。」
すっ・・・どん。
「あっ、すみません。」
ユーリを必死に探しているハディに、マントをかぶった女性がぶつかった。
「いえ・・・ってあら?」
その女性は、すぐに消えてしまい・・・・・・・。
「なんか声色がユーリ様に似てらしたけど・・・気のせいね!」
本人だったのは、いうまでもない。
「あ~、危なかった。でもまだ、買い物できるぞ~~。」


第5話 カイルの思惑

ハディがユーリとすれ違ったその頃、カイルは、キックリを連れて必死にユーリを探していた。
「ったく、あのじゃじゃ馬め!一体どこへ行ったのだ!!キックリ!まだユーリは見つからないのか!!」
「は、はい。申し訳ございません。あの~総出で探していますのでまもなく見つかるかと・・・ですから、今しばらく・・・。」
(心の声:ユーリ様が脱走なさったら一番迷惑をこうむるのは私共側近なのに・・・その事をもう少しユーリ様にわかっていただきたい・・・。でないと、私なんかは、精神衛生上非常に良くない。)
(カイルの心の声:ユーリの奴・・・私をここまで心配させたのだから、見つけたら今晩は一晩中お仕置きをしてやらなくては…(にやり))

第6話 のびのび

「ん~。もうお昼かぁ。こんなにのびのびしたの、久しぶり~。
 さっき、ハディ達にあったけど気づいてなかったみたいだし・・・・。らっき!」
ユーリは、特に当てもなくぶらぶらと街の中を歩いた。
お店を見て回ったり、草原に座り込んだり・・・。

「きもち~!カイル達がいると、こんなにのんびりできないしぃ。
 後宮の中も居心地が悪い訳じゃないけど・・・。やっぱり、こっちのがい~。」
のびのびと、日の光を浴びて・・・そろそろ、眠くなってきたユーリ。
大きなあくびを一つして、眠りに落ちてゆく・・・・・。

「おい、ユーリはまだ見つからないのか?そろそろ、私達の正体が・・・・!」
変装しているといっても、カイルの容姿は目を引く。
あんまり長い時間外にいるわけにはいかない。
「ユーリは変装しているはずだ!・・・くっそ~!ユーリ!!」
その頃ユーリは、ひとりですやすやと夢の中・・・。

第7話 目覚めたら

すやすや眠るユーリをカイル達が見つけたのは、彼らの正体がばれる
寸前だった。
 
「早く連れ帰らなくては!」そう言って、ユーリに近づき起こそうとし
た時、そばに控えていたハディが小声で
「陛下、ユーリ様を起こされないで下さいませ。イルバーニー様からの
ご伝言がございます。ユーリ様が見つかったらユーリ様に気づかれる前
に陛下にお伝えするようにと申し付かっておりました。」
「いったい何を・・?」

 肌寒い風がユーリの肌にふれ、その寒さがユーリを目覚めさせた。
「うーん~。よく寝た。なんて気持ちよかったんだろう。
 あれ!!もう薄暗いじゃない!大変!皆、心配してるよね・・・
 急いで帰らなくちゃ」
  
 何も知らないユーリはのんきに王宮への道をかけていった。

第8話 つめたい

「たっだいまぁ~!!!・・・ってあれ?」
いつもなら、ユーリが帰ってきたとたんに三姉妹が飛びついてくるのに、
今日はダレもいない。
おかしいなぁ・・・と、思いつつもとりあえず部屋に戻ってみる。
「なんだ、三姉妹。ここにいたの!ただいま!」
「・・・おかえりなさいませ。」
一言だけそういうと、三姉妹は去っていった。
「・・・何?なんかすっごく冷たかった気がするんだけど・・・・・。
 そいえば、カイル、どうしているかなぁ。」
いつもの足取りで、政務室に向かったユーリ。
ドアを開けて、カイルにただいま!と挨拶する。
いつものカイルならここで、ユーリに抱きついてくるのだが、今日は違った。
「あぁ、ユーリ。ちょっと忙しいんだ。湯殿にでも行ってなさい。」
ふいっと言い放つと、また政務に戻っていった。

「なんかみんな、今日は冷たいなぁ・・・。どうしてだろう・・・・・。」
「夕食の時間です。」
三姉妹が、声をかけてきた。
なーんだ、かわってないじゃん。ユーリは思った。
しかし、いつもなら一緒に夕食をとっていく三姉妹は、
「仕事が残っておりますから・・・。」といって、いなくなってしまった。
いつもは、仕事があったって夕食は一緒に取るのに・・・。
なんかみんな、冷たい・・・。もしかして、嫌われた!!
「食欲なくなっちゃった。部屋戻ろう。」
ユーリは食事をそのままにして、部屋へ帰っていった。

第9話 作戦

「陛下、三姉妹。いかがですかな、その後は。」
「ちゃんと言われたとおりにしておりますが・・・。ユーリ様に、あんな態度をとるな んて・・・。」

ここは、ユーリの部屋。
毛布にくるまって、じっと座っているユーリが一人。
「はぁ・・・。やっぱり、嫌われちゃったとしか考えられない・・・。
 三姉妹にも、カイルにも・・・。」
ぽろっと、一筋の涙が流れた。
三姉妹に嫌われた。カイルに・・・最愛の人に嫌われた・・・。
「どうしよう。嫌われているって分かっているのに、普通通りになんて生活できない  よ・・・・。」

「イル・バーニ。こんなことをして、本当にユーリは脱走をやめるのか?
 脱走を止める前に、嫌われないよな・・・・。」
「大丈夫ですよ、陛下。私の作戦に、狂いはありませ~ん!!」」
狂ってるっつーの。

第10話 先読み

ここはユーリの部屋…。
「アレ…?待てよ。なんかおかしいような…。いくら嫌われるっていっても、こんなに急にの筈はないし、脱走したからって言うんなら、既にそうなっているはずだし…。……もしかしてイルバーニあたりが、私が二度と脱走しないように仕組んでるんじゃ…。…イルバーニは、前から私が脱走するたびに政務が全然進まないって言ってたし、三姉妹たちも、カイルに振り回されてさんざんだったろうし…。…それなら、イルバーニの裏をかいてやろうっと。まずは一番崩しやすそうなカイルから…。」

所変わってこちらはカイルの部屋。
「ですから、今日はお一人でお休みください。」
「な…!そんな事、私が我慢できるはずがないだろう!!」
「では、陛下はユーリ様が、また脱走なさってもよろしいのですか?」
「そんな事は言っていない!!確かに脱走して欲しくないが…もう少し、他の方法はないのか?」
「色々と考えてみましたが、これしか方法が無いように思われます。」
「う~ん、一晩だけなら…しかし…。」
「これを逃したら、ずっと脱走し続けるかもしれませんよ?」
「…わかった…。」


こんこん……「カイル。入っていい?話があるの。」
「ああ。」(話ならいいだろう。ずっと話もしないのは我慢できん!)
「!!」ユーリが入ってきたとたん、カイルは驚いた。いつもユーリが着ている服とは違う、妖艶なドレスを身につけていたのだ。


第11話 手遅れ

「ユ、ユーリ!?どうしたんだ、何かあったのか!!
 あんなにいやがっていたドレスを、着飾っているなんて・・・・。」
カイルは、ユーリの見慣れない姿にしばし呆然。
ユーリのたくらみは成功か!!
「うん、気分転換でもと思って。ねぇ、カイル。どお、この格好?
 もしカイルが似合うって言ってくれるなら、私、毎日こんな格好しようかなぁ。」
「・・・あぁ、似合う!!凄くよく似合っているよ、ユーリ。」
カイルはふらふらとユーリに近づいていって、抱きしめた。
こうなってしまえば、イル・バーニの言った作戦などどうでもいい。
しかし、ユーリは違った。
ここでいつもの通りvvになってはいけない!

「ねぇ、カイル。聞きたいことがあるの・・・。あたしのこと、嫌いになった?」
「なんでそんなことを言う!!私が、お前を嫌いになるはずないだろ!」
カイルはユーリをきつく抱きしめる。
「・・・じゃぁ、さっきはなんであんなに冷たい態度をとったの・・・?」
「それは私の本心ではなく、イルが・・・・・あっ!!」
「そう、イル・バーニが・・・何?」
ようやくユーリの魂胆に気がついたカイル。
手遅れか、ごまかしはきくのか!?


第13話 いい訳

「い、いや、その・・・そう、イルが仕事をいっぱいにいれるからちょっと疲れて機嫌が 悪かっただけなんだ。うん、そう。そうなんだ。決して、私がユーリを嫌いになったとかじゃないんだ」
カイルはしどろもどろになりながらそういった。
「ふ~ん・・・」
ユーリはもちろんカイルの言葉を信用していなかった。
(ちっ、やっぱりそんなに簡単には認めないか)
「そうそう。だから、ユーリ、もう、一緒に寝よう」
そういってカイルはユーリを抱きかかえようと手を伸ばしたが、ユーリはそんなカイルの手をすっと擦りぬけた。
「そうだ。じゃあ、あたしが今からイル・バーニの所へ行って、カイルのお仕事がちょっとでも少なくなるように頼んであげる」
ユーリはそういってにっこりとカイルに笑いかけた。
「いや、何もユーリにそんな事してもらわなくっても・・・それに、イルだって、私をいじめているわけではないのだし・・・忙しいのは今日だけだろうし・・・そう、これも皇帝の勤めだし・・・」
カイルは言えば言うほど言い訳っぽくなっていることにも気づかずに、言葉を続ける。
「でも、あたしはカイルのことが心配なの。体でもこわしたら、あたし・・・」
ユーリが潤んだ目で、カイルを見る。
カイルはそんなユーリを見て、だんだんと騙していることが心苦しくなってきた。
まさか、潤んだ瞳も自分を心配する言葉も演技だとは知らずに・・・
「ユーリ・・・その・・・」
「だから、あたし、やっぱりイル・バーニのところに行ってくる」
カイルのセリフを最後まで聞かずにユーリは部屋を出て行く。
「お、おい、ちょっと、待つんだユーリ。あっ、しかもその服のまま私以外の人の前に行くんじゃ・・・」
カイルはユーリの後を追いかけた。

第14話 うまくいかない

「はぁ~…姉さん 本当にこれでユーリ様の脱走をお止めできるのかしら?」
「何言っているのよ リュイ イル・バーニ様がお立てになった作戦よきっとうまくいくわよ」
「でも 何だかこんなことをして私達ユーリさまに嫌われないかしら」
「やなこと言わないでよ シャラったら ふぅ~」
三姉妹が後宮の柱の影で考え込んでいると、ひらひらドレスの裾をひるがえしながら、ユーリがイル・バーニの部屋へ駆けて行くのが見えた。
その後を、なんと皇帝陛下が謝りながら追いかけていく。
「ユーリ! 待ってくれ! 嘘をついて悪かった! 私は、お前がいなくなると心配で、心配でいても立っても要られないんだ」
三姉妹以上にユーリに嫌われたくないカイルは、必死に追いかけてそのままユーリを抱きかかえると自分の部屋へと連れて行った。
「はぁ~~~~~~~~~」
後には、溜息をつくしかない三姉妹が残された。

翌朝、もっと深い溜息をつくしかない男がいた、イル・バーニである。
「陛下!!聞いていらっしゃるんですか! どうして貴方様とあろう方が、こんなに解りやすい罠にご自分からはまるのですか!!」
「うるさい! もっと良い方法を考えろ」
さすがに、この騒ぎを聞きつけたユーリは、2,3日は、大人しくしていようかな? と 少しは、反省していた。

第15話 ユーリの作戦

「・・・イル。ユーリはこの頃脱走していないようだよ・・・。
 それになんだか、夜眠るときユーリの視線が冷たいんだ・・・。」
カイルは、ふうっと大きなため息をついた。
イル・バーニの立てた作戦は確かにユーリの脱走をくい止めている。
しかしなんだか、以来、ユーリの視線が冷たい。
いつもと変わらぬ笑顔、仕草なんだけど・・・。
「イル・バーニ様。それは、私達も思っていました。なんだかこの頃、ユーリ様
 視線がいたいんです・・・。やっぱり、嫌われてしまったんでしょうか?」
き・ら・わ・れ・た・・・・・・・・!!
”嫌う”の三文字に、しかも、ユーリから発せられるその三文字にはカイルは耐えられない。
途中でちゃんと説明したのに・・・・・。
もしかして、嫌われた・・・。
「イル、教の政務は中止!ユーリの所へ行って来る!」
「お待ち下さい、陛下!へ~い~か~!!!!」
カイルは早足で後宮へと向かう。
「ユーリ!」
「あ、カイル。早いね。」
にこっと向けられる笑顔。しかしやはり、視線は冷たい。

ユーリは、カイルがおろおろしているのが分かった。
「「ふふ。ちょっと冷たい視線で見たら、カイルったらすぐにうろたえるんだもん。
  おもしろ~い。私のこと、罠にはめようとした罰だよ!」」

第16話 なんとかしなくっちゃ

「ユーリ、私のことを、どう思っている?」
「大好きよ、カイル」
「・・・本当か?」
「本当だってば」
「・・・嫌い、とか思ってないか?」
「嫌われる心当たり、あるの?」
「・・・やっぱり、嫌いだと思ってるだろう」

「・・・どうも、いけませんな」
 皇帝の寝室の隣の部屋でコップに耳を押し当てながらイルがうなった。
「好きだと言いながら、ユーリ様、口調が冷たいんですよね」
 同じく、壁にコップを押し当てて、ハディが同意する。
「それに、ユーリ様って、陛下と…の時も、以前よりおとなしかったりするんですよね」
 リュイが、やっぱりコップに耳をつけてうなずく。
「以前って・・やだリュイ、盗み聞きしていたの」
 シャラが、リュイをにらみつける。が、やっぱりコップをもっているあたり、どっちもどっちだ。
「べつに、盗み聞きってわけじゃ・・ほら、聞こえたりするわけよ、隣にいると」
「確かに、少々壁は薄いようだな」
 イルは壁から離れると、腕組みをした。耳の周りに丸く型が付いているが、ハディは指摘するのはやめた。自分にだって付いているはずだからだ。
「ユーリ様は一見、以前と態度が変わらないようにお見受けする。だが、どうも我々、そして陛下に対して、なにか壁を作っておられる」
 それを敏感にカイルが感じ取るもんで、政務に滞りがでる。
「なんとかして、以前のように戻っていただきませんと」
 ハディ達にも、結構こたえているのだ。
「小細工を嫌う方だ。・・・双子たち、もういいだろう」
 壁に張り付いたまんまのリュイとシャラに声をかける。
「まって、ほら・・」
「今から、いいところ・・」
 ハディが、無言で妹たちの頭をはたいた。
「~~~姉さんだって、聞いてみてよ」
「絶対、前と違うんだから~」
 イルが無表情に、再びコップを取り上げ、壁にひっついた。

「ユーリ、愛しているよ・・私にはお前だけだ・・どこにも行かないでくれ・・」

「なるほど、陛下は非常に熱心に懇願されておられますな」
「・・・それはいつものことですけど」
 イルはますます、難しい顔をした。いつの間にか、コップの型は二重になっている。さっきの時とは、位置がずれたらしい。
「いっそ、ユーリ様に媚薬でも盛るか。そうすれば、陛下は政務をすっぽかすことはなされないだろう」
「薬が切れた後、私たちがユーリ様に恨みを買います!!」
「ユーリ様がご自分から、陛下に愛情を示していただければ」
 イルは、ぽんと手を打った。
「よし、陛下にはハットウサを離れていただこう。お二人を、引き離すのだ」


第17話 墓穴

「イル・バーニ。いったいなんだ、私に話とは・・・・・。」
「これは、陛下。実はこの頃ユーリ様が冷たくなったという事なので・・・。
 私達側近一同。頭をひねって案を考えました!!」
いつの間にかその部屋には、イル・バーニだけではなく、側近達が集まっていた。
「そうか!!・・・で、どうすればいい?」
「陛下が、ユーリ様からお離れになればいいんです!!」
そうか!!私がユーリから離れて、ユーリを悲しませるという・・・・・
ん??ちょっとまてよ・・・。
確かそれをやって、今の現状に至るんじゃ・・・・・。
「大丈夫、陛下!今度はですね、浮気も入れるんです!」
「浮気!?もちろんふりだけだろうな!!」
「あたりまえです。・・・では、行き先はこちらで・・・・えっと・・・・・。」

数日後。
カイルは、三隊長を連れて出掛けた。表向きはこうだ。
『ハレブにいる兄上から、宴の呼び出しがあったので行って来る』
しかし、それにもユーリは、いつもとかわらず・・・
「いてらっしゃい、気をつけて。」
と、冷たくあしらったのだ。
しかし!!ここからが本番!!
王宮に残った、イル・バーニと三姉妹がどれだけユーリを不安にできるかにかかっている。
カイルが王宮を出発してから、半日後。
「そういえば、陛下が出席する宴って、テリピヌ殿下が気を使ってのことなんでし   ょ?」
「えぇ、なんでも新しいお后様をお選びになるとか・・・・・。」
わざと、ユーリに聞こえるようにいう。
ぴくっ。ユーリの表情が動く。
『よし!!もうすこし!』
「そういえば、姉さん。陛下も結構乗り気だったわね。」
「えぇ、なんていったって、陛下のお好みの女性ばっかりですもの。」
ぴくぴくっ・・・。
「ねぇ、ハディ。」
『よし!きた!!』
「陛下は、そのお話に乗り気だったんだね・・・?」

第18話 悪化

「そういう事なら、ちょっと第三神殿にいって来るね!」
「第三神殿に何か御用ですか?」
「うん。カイルが、私以外のお妃を迎えるんだったら、私、日本に帰る。」
「ええ!?」
私が、ちょっと冷たい目線で見ただけであんなにうろたえてたカイルが、私以外のお妃を迎えるのに乗り気になるわけないもの。最近、カイルは政務も真面目にやってたみたいだし、それを条件にイルバーニに知恵でも貸してもらったんでしょう。また、ちょっと脅かそうっと。
「ちょ、ちょっとお待ちくださいユーリ様。お、お帰りになるにしてもせめて陛下のお帰りを待ってから・・・。」
「私以外のお妃を迎えようとしてる人なんて待ってる理由なんてないじゃない。」
(ごにょごにょ)
「イルバーニ様、少しご計画と違うのでは?」
「少しどころか、根本的に違うではないか!こんな筈では・・とにかくこうなっては仕方がない。陛下に、至急戻っていただくように書簡を。理由も添えてな。あの皇帝陛下の事だ。理由を知れば、飛んで帰ってくるだろう。まあ、私もお叱りを受けるのは必至だが、背に腹は変えられない。」

第19話 思わぬ一言

「皇帝陛下、只今、ハットゥサから書簡が届きました。」
「ごくろう。(どれどれ、ユーリが嘆いているという書簡かな。)
 ・・・・・なんだと!?ユーリが国に帰る!?」
そう。
その書簡は紛れもない、イル・バーニからの報告書簡。
 ”皇帝陛下。計画が、ずれました。至急お戻り下さい。
   ユーリ様が、国に帰るとおっしゃっています”
カイルはあわててテリピヌに礼を言い、ハットゥサまで走った。

そのころの、王宮では・・・。

「ユーリ様、せめてもう少しお待ち下さい!・・・ほら、ユーリ様をお返しするのには
 神官が必要でしょ!?そうですよ!!」
「・・・カイル以外にも、神官はいるよ。もう止めないで。」
ユーリは、日本に帰る(ふり)支度をしていた。
日本から着てきた服に着替えて、そして、準備万端だ。
「・・・イル・バーニ、三姉妹。それじゃぁね。」
「ユーリ様!!おまちください!!!!!!!!!」
ハディや、他のものが止めるのも耳を貸さないユーリ。
実のところ、少し腹が立っていた。
「なんなのよ、カイル。確かに作戦なのかもしれないけど、ウソでも私以外の妃を
 とるなんて・・・・・・・・。そんなこと、いうなんて・・・。」
ユーリは、第三神殿の柱の影で泣いていた。

第20話 汗を流すって美しい

「ユーリ!!」
 戦車を止めるのもそこそこに、飛び降りるとカイルは第三神殿の階段を駆け上がった。
足が長いもんで4段とばしだ。
入り口付近にいた神官や参拝客がびびっている間に、至聖所まで突っ走る。
「ああ、みなさま、申し訳ない」
 律儀に謝りながら続くのはキックリ。突き飛ばされた人間を起こしたり、まき散らされた供物を拾ったり、怒っている老人をなだめたり、忙しい。
 被害者は、キックリに詰め寄り文句を言う。
まさか、礼儀をわきまえない今時の若者(老人談)が、現皇帝だなんて、思いもよらない。
 ここでばらすと、おさまるだろうが、そうすれば皇帝の威信に傷がつく。
 忠臣キックリは、とにかく謝る方を選んだ。

「ゆぅぅぅりぃぃぃ!!」
 カイルが体当たりで至聖所の扉を開くと、高齢者揃いの神官のために存外に華奢に作られていた扉は吹っ飛んだ。
神官長は嘆くだろうが、ユーリさえ取り戻せるのなら新しい扉の一つや二つや三つや四つ(一つでいいって)いくらでも新調するつもりだった。
 請求書を見たときのイルの顔はあえて考えない。
「ゆぅぅりぃぃどぉこぉだぁぁぁ!!」
 咆哮する。至聖所の中ほど、祭壇の前に大きな穴が穿たれていた。
カイルはのっしのっしと歩み寄る。かなり、冷静でない。
「ひぇっカイル!!」
 ひょっこり顔を出したのは、日本の服を着たユーリ。
初めて出会ったときのように、少し息を切らしていて・・・かわいい。
 はっとカイルは頭を振る。いかん、ついうっかり懐かしみモードに入ってしまった。
「カイル、いつ帰ったの!?」
 警戒心むき出しで訊ねるユーリは、なぜか泥まみれで、おまけにスコップを握っていた。
「何をしている・・・」
 穴を掘っているように見えるが、一応難しい顔で問う。
よく見れば、穴の底には三姉妹と、ルサファもいる。泥まみれで。
「なにって、泉を掘り返してるのよ、あたし日本に帰るの!!」
 とたんに、ルサファがわっと泣いた。しっかり掘りなさいよと、ハディが叱咤する。
「帰る、だと!!私にことわりなしでか?ことわったところで、帰す気はないぞ!!」 仁王立ちでにらみつける。威嚇して、どうするのだろう。
「いいじゃない、カイルはさっさと再婚するんでしょ!!」
 ユーリも負けじとにらみ返す。一度ならず、二度までもだまされた恨みは深い。
「再婚はせん、離婚もせん!私から逃げられると思うか!!」
 スッポンか、ヒルのような執念深いセリフを吐くと、カイルは穴に飛び降りた。
そのまま、ユーリの胸元を掴んだ。
「こんな服、こうしてやるぅ!!」
 びりりり・・・
「きゃああ陛下!!」
 胸元がはだけ、ユーリがまけじとカイルの手首を掴んだ。
ハディが叫び、ルサファが目を覆い、リュイが興奮し、シャラが穴から這い出ようとした。
「陛下!!ご無体なことを!!」
「離してよぉ!!」
「わ、私は何も見てません!」
「夫が、妻の服を脱がせてなにが悪い!!」
「場所柄をわきまえてください、ここは神殿ですよ!!」
「姉さん、あたし誰か呼んでくる!!」
 穴の中は大騒ぎになった。押し合いへし合い、どろどろにもつれ合いながら、それぞれが声を張り上げる。
「・・・泥仕合、ですな」
「イル・バーニ様・・・止めて下さいよ」
 キックリが穴の上からのぞき込みながら、非難する。事の起こりはイルの入れ知恵だ。
 あんなにどろどろになって。
これじゃあ、どっちがリュイでシャラなのか、分からない・・・(普段でも分からないが) 

第21話 らぶらぶハタ迷惑

「やめてよ、カイル!!」
 泣き叫ぶユーリを肩に担ぎ上げ、泥だらけになりながら、カイルは穴から這い出た。
「陛下!!」
 傍観を決め込んでいたイルが、非難がましい声をあげる。
 皇帝は泥だらけで、皇妃はもっと泥だらけで、おまけに半裸に近い状態だ。
「どけ、イル・バーニ」
 強い視線がイルをとどめた。そのまま、大股に部屋を出てゆく。
 壊された扉のあたりからおそるおそる中をうかがっていた神官達がわっと散った。
「リュイ~シャラ~どうなってるんだ~」
 キックリが、穴から双子を引き上げている。
「陛下ったら、無茶なさるんですもの」
「いたたた・・・」
「ルサファ、スコップ忘れないでね。貴重な鉄製よ」
 ぞろぞろと、泥まみれの4人が這い出してくる。
「お前達、ユーリ様の泉掘りに手を貸すなど、陛下の御勘気を覚悟しておくのだぞ」
 言ったイルに、ハディがしかめっつらをする。
「かまいませんわ、私たちがお仕えするのはユーリ様ですから!!」
「ユーリ様を思うなら、お止めするのが務めだろう・・・さっさと、穴を埋めるんだ」
「ええ~せっかく掘ったのに~」


「離してよ~」
 暴れるユーリを担いだまま、カイルは神殿の湯殿の入り口を蹴り開けた。
 神事の際に身を清めるための部屋だ。
 無言で、ユーリを浴槽に投げ込む。
 ばしゃ~ん!!
「きゃあぁぁ」
 いったん沈み、あわてて浮き上がったユーリがカイルを睨み付ける。
「もう、信じられない、乱暴な!!」
「信じられないのは、お前の方だ!!」
 言うと、自身も泥だらけの衣装を脱ぎ捨て、浴槽に足を踏み入れた。
 あらあらしく、ユーリの手首を掴む。
「私を、置いて国に帰る、だと!!」
「だって、カイル他の人と結婚するって言うじゃない!」
「・・・あれは、嘘だ」
 きっぱり、えらそうに言い切ったカイルを見て、ユーリは呆気にとられる。
 嘘だとは分かっていたけれど、もっと誤魔化すかと思っていた。
「嘘って・・・」
「お前が最近冷たいんで、ヤキモチを焼かせようと思っていたんだ」
「冷たいって・・・元はといえば、カイルがだましたんだよ?」
 自分のしたことを、棚に上げて。
「お前が、すぐに王宮からいなくなるからだ。
お前がいなくなると、気がヘンになる。この上国に帰られたら、死んでしまうかもしれない」
 カイルの真剣な目に、ユーリはうなだれた。
「・・・だって、嘘でもカイルがあたし以外のヒトを選ぶって・・・ひどいよ・・」
「すまなかった。でも、お前も私の心臓を止めかけたんだから、おあいこだ」
 近づいてきたカイルの顔を見て、ユーリは笑った。
「カイル、泥だらけだよ?」
「お前もだ」
 唇が重なった。仲直りの、キス。
「・・・ごめんね、カイル」
「・・お互い過ぎたことを水に流すために、風呂にでも入ろう」


「で、仲直りなさったのですね?」
 泥まみれで、ハディが言った。
あれから、穴を埋め戻し、神官長に謝り倒して来てみれば、皇帝夫妻は風呂に入ってさっぱりし、着替えまで済まして王宮に戻ったという。
今頃は、寝所に籠もっていることだろう。
「・・・よかったわ、姉さん。これでユーリ様もご帰国なさるなんておっしゃらないわよね」
「まあ、じゃあ、いつものらぶらぶなお二人に戻られて!!」
 泥だらけで、どっちがどっちか見分けのつかない双子が言った。
「らぶらぶ?はためいわくって言うんです、あれは」
 イルが珍しく泥だらけで不平を言う。神官長の怒りの前に、全員が復旧作業にいそしむハメになったのだ。
「・・・明日、動けるでしょうか・・」
 キックリが情けなさそうに言う。鍛えてはいても、穴埋めとは使う筋肉が違う。
「・・問題は、明日より、明後日ね」
 ハディが暗い声でつぶやくと、全員がなんとコメントしてよいか分からずに、黙り込んだ。
  
第22話 予言通り

神殿での騒動から2日後。
ユーリとらぶらぶな状態に戻ったカイルは、上機嫌でユーリを遠乗りに誘った。

「ユーリ、遠乗りに行こう!今日は邪魔者もいないぞ!」
「嬉しい!外出してもいいの!
 カイル、今日は執務はいいの?」
「ああ、誰も、まともに動けないようだから、今日は執務は休みだ。
 私と一緒なら、外へ行くのもかまわないんだよ」
「優しいね、カイルは。なのにあたしってば脱走ばかりして・・・ごめんね。」
カイルはユーリにキスで答えた。

一方、ハディの予言(?)どおり、穴掘り、穴埋めをした側近達は動けなかった。

特に、普段、粘土板を持つくらいしか、筋肉を使っていたないイル・バーニーは、ト
イレにすら行けない状態のため、水分を控えているそうだ。
もちろん食事もしていない。
キックリやハディ達はもう少しましだが、カイル達の脱走を止めることなどできる状
態ではなかった。
ハディは腰にきたらしく、立つことすらできない。
リュイは首の筋を違えたらしく首が右にしか回らない。
シャラは首が左にしか回らない。
キックリは、腕が上に上がらず、何も持つことができない。
ルサファは歩くたびに足がつるので、まともに歩けない。

いつも、『政務をしろ!』と追いかけてくる側近達(主にイルだが)も今日は敵じゃ
ない!
「さあ、ユーリ行くぞ!」
「あ、うん。待って~~」

体をさする側近達の耳に、幸せそうな皇帝夫妻の声が聞こえてきた。

第23話 災難て続くものですね

「はぅ!!こ、腰が・・・・・。しかし、陛下をお止めしなければ・・・っ!」
いつでもカイルのことを気にしているイル・バーニは、苦しいながらも立ち上がった。
そして、一所懸命歩いた・・・つもりだった。
しかし、イルが歩いたのはほんの数ミリ。
他の側近達は、もう半ばあきらめている。
「イル・バーニ様、ほっておかれるのがいちばんです。」

そんなこととはしらず、カイルとユーリは遠乗りを楽しんでいた。
きゃぁ、きゃぁとはしゃぐユーリ。
それに答えるカイル。
誰が見ても、皇帝夫妻だとは思わないだろう。
「カイル、久しぶりだね。こうやって遠乗りに来るの。」
「あぁ、この頃忙しかったからな。つまらなかっただろう、ユーリ。」
「うん!でも、私だって我慢したんだよ。脱走しなかったし・・・・・。」
「あぁ!!今日は思う存分遊ぶといい。」
湖まで来ていた2人。
そして2人で仲良く水浴び・・・・・・・。

「では、いってまいります。」
歩兵隊長ミッタンナムワ。戦車隊長カッシュ。近衛副長官ルサファ。
いつも動いているこの三人は、比較的軽い筋肉痛だった。
そして、一番に動けるようになった。
「た、頼んだぞ・・・・・・。」
イル・バーニはあれから、何度も立ち上がった。
しかしそのせいで、ぎっくり腰になってしまったのだが・・・・・。


第24話 立ち入り禁止

「ほ~ら、ユーリ!!」
「きゃっ!冷たいよぉ、カイルってば!!」
 二人で仲良く水かけっこをしているのは、この国の皇帝夫妻だ。
「え~いっ!!」
「あっ、やったな!!」
 きゃあきゃあ歓声があがる。なんという、ほほえましさだろう。本人達にとっては。
 ユーリが、びしょぬれの服をつまんで、唇をとがらせる。
「んもう、カイル!こんなに濡れたじゃない」
「私だって、濡れてるぞ・・おあいこだ」
 カイルが悪戯っぽく笑うと、ユーリの身体に手を伸ばした。そのまま、水の中に引っ張る。
「きゃああ!!」
 派手な水しぶきを上げて、倒れ込んだ。非難しようとして顔をあげたユーリは、もう一度水の中に引き込まれた。
 やがて二人は、笑い声を上げて、水の中を転がった。
「こんなカッコじゃ、ハットウサに帰れないよ」
「乾かして行こう。あそこの木の上に、広げておけばすぐ乾くさ」
 カイルは、さほど離れていない木を指さした。確かに、日当たりも風通しも良さそうだ。
「でも、服を乾かしている間、どうしてるの?」
 カイルの指が、下がる。日当たりの良さそうな木のしたには、こんもりとした茂みが上手い具合にあった。
「・・・・」


 イル・バーニの命を受けた三隊長達が、皇帝夫妻の護衛をすべく駆けつけたとき目にしたのは、木の枝にはためく皇帝夫妻の服と、がさがさと揺れる茂みだった。
 おまけに、聞こえる。
「・・・んっ・・・はぁ・・・」
 くるりと、回れ右を三人はした。
「・・・お、お、お、おい、どうする?」
 みょうに裏返った声でミッタンナムワが言った。
「ど、ど、ど、どうするって、やはり失礼だろう」
 ルサファもなんだかトーンが高い。
「し、し、しかし、お側を離れるわけ・・には。そ、その、陛下方は、い、いま、む、無防備な状態でお、おられるわけだし・・」
 カッシュが、言う。
「・・・ああっ・・ううん・・」
 ルサファが耳をふさいだ。今日という日は、一生忘れることが出来ないかもしれない。
「と、とにかく、人払いだ」
 がくがくと同意に頭を振りながら、三隊長は茂みから同心円上(警備に支障がなく、聞こえない場所)に散った。

第25話 どうしよう

3隊長たちは皇帝夫妻を取り囲むようにして警護することにした。
三人バラバラになってもまだ心臓がドキドキしている…
それこそ姿は見なかったものの、これでユーリの裸でも見てしまったら
きっとカイルに殺されていたに決まっている

(東を警護のミッタンの心の声)
ああ~ビックリした。ったく陛下たちもあんな所で何やってるんだよぉ!
離れて警護しなくちゃならなくて、声もかけられないんだぞぉ!
少しは自粛しろよ~

(北を警護のカッシュの心の声)
ウルスラ…おまえの願いどおり陛下とユーリ様はラブラブだぜ
おまえがお風呂作戦で失敗したこともあったな…俺はあの時おまえのこと何て恥じらいのない奴だと思ったんだぜ…けどよ…あのお二方を見てると…おまえって結構甘かったんだよな…

(南を警護のルサファの心の声)
私は何も聞いてません!見てもいません!
そう思っても…ああ!ユーリ様のあの声が耳に焼き付いて離れない!
うう…陛下…なんて羨ましい…

その時だった…
「クシュン!」
(ユーリ様がくしゃみをしていらっしゃる!寒いのでは!?)
さすが恋するルサファはクシャミがユーリのものと気づいたらしい
「寒いかいユーリ?」
(これは陛下の声だな…)
「うんちょっとね…もうちょっとしたら乾きそうだね」
「ああ…日の関係でここも日当たりが悪くなってきた…ちょっと南の方に移動しようか?」
(ゲッ!!)
ルサファは慌てている、こんな所に自分がいるのが分かったら…というかあんな姿のユーリを見るなんて、ユーリを慕うルサファは絶対嫌だった
(ヤバイ!早く逃げないと…)
ルサファは慌ててマントを抱えて剣を手に持って茂みの中を東へと移動する
しかし焦れば焦るほど茂みの枝が引っ掛かって前に進めない
皇帝夫妻の声が大きく聞えるってことは、そうとう近くまで来ているってこと…
ルサファは自分のいた場所から慌てて東側に飛び移ったと同時に今まで自分が居た場所でドサッという音がした…
「んもう…カイルったら」
「いいじゃないかユーリ」
どうやら皇帝夫妻のようだ…
(はあ…間に合った…)
ルサファが目を凝らすと装飾された鉄剣の鞘が見えた…
(なんだ…陛下は剣を持っておられたのか…なら安心だ…少しミッタンナムワの所で様子を見よう…)
こうしてルサファは東で護衛をしているミッタンの所へ行った  

第27話 まだまだ続く

「なんか、気持ちいいね。」
ユーリは空を仰ぎながらいった。
「そうだな。ついでにもっと気持ちよくさせてやろうか?」
カイルはまだまだいけるらしい。
「んもぅ、カイルってば。カイルはこのヒッタイトの皇帝なんだよ。
それなのに一糸まとわぬ姿でこんなことしていていいの?
イル・バーニや、三隊長がこの姿を見たらなんていうか・・・。」
「こんなこととは心外だな。私にとっては大事なことだ。
そしてヒッタイトの国にとっても、私とユーリの子供が増えることは喜ばしいことだ。
みなのためにいつでもどこでも子孫繁栄を考えているんだぞ、私は。」
いたずらな目をしてカイルがいう。
「おいで、ユーリ・・・。」
カイルはユーリの腕を引き寄せて膝の上に座らせた。
「カ、カイル・・・。」
急にまた甘い雰囲気になる。
近づいて来るカイルの顔を意識しユーリはほほを赤らめた。
「私と愛を交わすようになってずいぶん経つのに、いつまでも恥じらいを見せるんだな。
私はおまえのその顔がとても好きだ・・・。」
「カイルってば・・・。」

南側から2人を警護しているミッタンナムワとルサファがため息を漏らした。
「おい、また始まったみたいだぜ・・・。」
ミッタンがいう。
「始まったって・・・。
おい、ミッタンナヌワ、始まったことがわかるって言うことは、おまえずっとお二人を見ていたのか?」
ルサファが慌てていう。
「ん?チラッと・・・・な。」
「だめだ!見てはいけない!ミッタン、見るなぁ~!」
ルサファが暴れ始めた。
「何をするんだルサファ。それじゃあ警護ができないじゃないか。」
ミッタンの目に自分の手を被せて視界を遮ろうとするルサファを必死にどかす。
「おまえの耳は何のためについているんだ!物を聞くためだろう。おまえの目は?
陛下達の露な姿を見るためについているのか?」
鼻息の荒いルサファ。
「そうだ、そして頭は陛下のテクニックを勉強するためについている。」
まじめに答えるミッタン。
「なんて事を・・・・。」
しばらく見つめあう2人。
「ふぅ~。」
「はぁ~。」
同時にため息を漏らす。
「しかし、このままじゃまずいよな。どうする?これから・・・。」
「とりあえず、陛下達にはこのラウンドで終わってもらわないとな・・・。」
「だな・・・。」
かすかに聞こえるユーリの悩ましげな声を背にもう一度大きなため息をついた。

第28話 またしても


どれくらいしたか、ユーリのけだるげな声がした。
「ねえカイル、そろそろ服も乾いたし、帰らないと。みんな心配するよ」
「そうだな、帰るか」
 ミッタンとルサファは安堵した。どうやら、キリがついたようだ。
頃合いを見計らって登場し、お供を申し出ればいい。
「あ~あ、カイル。あたし汗でべたべた。なんだか泥もついてるし」
 そりゃね、地面の上だったから。
「そうだな、ひとつ水浴びでもしていくか」
「・・・もしかして、この格好で?」
「どこの世界に、服を着て水浴びするヤツがいる。おいで、洗ってやろう!!」
 そうして、唐突に皇帝は茂みの中から立ち上がった。
 ミッタン、ルサファは反射的に地面に伏せた。
「もう、カイル。誰かに見られたらどうするの?」
「誰もいやしないさ」
 ・・・ここにいます。
 地面になれ、地面になれ。心の中で唱えながらミッタン、ルサファは土に顔を押しつけた。
 一方、カッシュはのんびりと辺りを見回していて仰天した。
 茂みから全裸の皇帝が現れ、その上その後ろからやっぱり全裸の皇妃が現れたからだ。
二人は楽しそうに笑い交わしながら、水に入って行く。
 手近な木の幹に張りついて、カッシュは息を殺した。見つかればえらいことになる。
 なにしろ、皇妃は裸だ。
 すぐに、二人は水から上がって服を着るはずだ。そのときまで、隠れ続けなくては。
 三隊長の希望的観測は希望的観測にしか過ぎなかった。
 最初、真面目に(?)身体を洗っていた皇帝夫妻は、やがて水の中でふざけ始めた。
 ふざけるだけなら。
 今度は隠れる茂みもない。
 なんとかしてくれ。
 三隊長はそれぞれに、地面になりたいとか、木になりたいとか願い続けた。

第29話 天女の羽衣

「わーい、とっても気持ち良いね♪」
ユーリが子供のようにはしゃぎながら言う。
ユーリのそんなほほえましい姿を見ながらカイルも上機嫌だ。
「ナキア皇太后に、ここにつれてこられる頃、水がすっごく怖かったんだぁ・・・。」
ふとユーリがつぶやいた。
「ユーリ・・・。」
まるで壊れ物でも扱うかのようにカイルかユーリを抱きしめる。
「これからはおまえを傷つけたり、おまえをおびやかすものすべてからおまえを守って見せる。」
ユーリの顎に手をかけこちらを向かせ唇を重ねた。
「カイル・・・、んっ・・・。」

「ハァ~~~・・・・。」
草むらから大きなため息が漏れる・・・。
「おいおい、このラブラブファイヤーの火が消えることはないのか・・・?」
ミッタンが言う。少し(かなり)うらやましそうだ。
「水の中に入ってもまだ熱いんだから、当分消えないだろうな・・・」
あえて、皇帝夫婦を見ないように努めるルサファ。
「まぁ、そろそろ日も落ちるしそうしたらいいかげんに諦めて出てくるだろう。」

「ねぇ、カイル、見てみて-!!」
「ん?なんだ、ユーリそれは・・・?」
水しぶきを上げてはしゃぎ回るユーリをカイルが不思議そうに見つめる。
「これはねぇ平泳ぎって言うんだよ。そしてこれがバタフライ。
 私水泳得意だったんだぁ。」
「ずいぶんと面白い泳ぎだな。どれ、私にも教えてくれ。」
全裸のまま川で水泳教室が始まった。
カイルはさすが皇帝。すぐに泳ぎをマスターし得意げになっている。
「これが背泳ぎだよ。」
ユーリは背泳ぎをして見せた。
水面に浮かぶユーリ。
そしてそこには二つのなだらかな丘。
「おおっ!ユーリ、その泳ぎ方はとても気に入ったぞ!ハハハッ」
更に上機嫌になるカイル。

「さすがユーリ様。」
カッシュは感心していた。
あのような何の特にもならない不思議な泳ぎ方を沢山知っている。
背泳ぎ、平泳ぎはまだ良い。
あのバタフライというのはいったいどんなときに使うんだろう・・・。
あまりの奇妙な泳ぎについ自分のおかれた状況を忘れて魅入っていた。

「もうだいぶひだ落ちてきたな…。」
ユーリを後ろから抱きしめたまま、カイル言う。
「そうだね、そろそろ帰らないとね。つい楽しくて遊びすぎちゃったね。」
二人は服のかかった木を見つめながら話している。
服が風に吹かれてパタパタとなびく。
「天女の羽衣みたい・・・。」
笑みを浮かべてユーリが言った。
「ん?天女?なんだそれは・・・?」
「私の国にある昔話でね。それから羽衣をまとった天女が降りてきて、水浴びをしている の。そこを通りかかった人間の男に見られちゃって、その人に一人の天女の羽衣が盗ま れちゃうんだ。天女たちが空へ帰るときになって羽衣を取られた天女だけが
 帰れなくなっちゃうって言う話。」
「天女というのは女神なのか?」
「う~ん、微妙に違うような気もするけど、まぁ、そんなものかな?」
「なるほどな・・・。それでは誰かがあの服を盗んでしまったら私たちも
 王宮へは帰れなくなる・・・、、ということだな。」
にやっと笑いながらカイルか言う。
「そうだね。って、カイル何考えてるの?!」
ユーリが何かをたくらんでいる様子のカイルを見て声をあげる。
「いや、あの服には何もしない。しかし、帰れなくなるじゃなく、出れなくなるという手もあるんだな、と・・・。」
「え???」
カイルが何を言っているのかよくわからないユーリはきょとんとしている。
「まぁ、良い。そろそろ帰るとするか・・・。」
カイルはユーリを抱き上げ服をかけている木へと向かった。
(ユーリの服を全部隠してしまえばもう脱走することもなくなるな。
 その上、いつユーリにあっても身体のすべてが見られる・・・。フフフ・・・。)
カイルはなんともバカなことを考えていた。
そんなことをしようものならユーリが黙っているはずないものを・・・。

第30話 探し物

翌朝、ユーリはカイルの腕の中で目覚めて、奇妙な事に気がついた。
昨夜、着ていた服がベッドの傍にないのだ。確かに、このあたりにあったはずなのに…。
そっとカイルの腕の中から抜け出すと、シーツを体に巻きつけて服を探し始めた。
が、いくらもしないうちに、カイルが目を覚ました。
「ユーリ、何を探してるんだ。」
「私の服がないの!昨日、確かにこのあたりにあったと思ったんだけど。」
「こっちにおいで。ベッドの中にずっといれば服なんていらないだろう。」
「そんなのやだ。脱走とかできな…(しまった!)」
「脱走なんかしなくていい。」
そう言うと、カイルはユーリを強引にベッドの中に連れ戻した。そして、口づける。
「ほら、こうしていれば、服なんてなくてもいいだろう。」
まさか…ユーリは、昨日のカイルの言葉を思い出していた。
『帰れなくなるんじゃなく、出れなくなるという事もあるんだな』
「もしかして、カイルが私の服を隠したの!?」

第31話 お・あ・ず・け

ない、ない!服がない!!
もしかして、カイルがあたしの服をかくしたの!?
いままでカイルと暮らしてきて早数年・・・
たいがいのことは許してきたものの、今度ばかりは頭に血がのぼってきたユーリ。
「も~~~許さない!!」
だいたい服を隠すなんてそんなくだらないことまさかするとは思わなかった!!
今度ばかりは許さない! 
そうよ!少しこらしめなきゃ・・・
「ん・・・ユーリ?・・・」
ユーリがそんな決心をしているとも知らず、愛しい寵姫を自分のもとにたぐり寄せ、
バラ色のくちびるに口付けをしようとしたとき・・・
「ねぇ、カイル・・・」
めずらしく甘い声。
「聞きたいことがあるんだけど・・・」
「ん?なんだ?」
「あのねぇ・・・あたしの服、どこへやったの?」
顔は笑っているが、その声は冷たい。そんなユーリに恐れをなしたのか、
カイルの顔色が一瞬変わった。
「さ、さあ。なんのことだ?」
あくまでしらを切り通そうとするカイルに対してユ-リはあきれていた。
ここでなにを言っても水かけ論になると思ったユーリは次の行動に移った。
「そうよね、カイルが知るはずないもんね。じゃあ、あたしの服どこに行ったんだろう?」
しらじらしい声。犯人は絶対カイルなのだ。それ以外考えられない。
「ユーリ、そんな格好でいると寒いだろう?こっちへおいで。」
そういってカイルはユーリをベットに押し倒す。
「だめよカイル。もうすぐ政務の時間でしょう?あたしもすぐいくからさきに
行ってて。」
「もう少しいいだろう?それにおまえ、服がないのにどうするつもりだ?」
(自分で隠したくせによくいうわよ!いいわ、そっちがその気ならこっちにだって考えがあるもん!)
「どうするって、もちろんこのままで政務をするよ。」
とんでもない言葉がユーリの口から飛び出した。
「ユ、ユーリ?今なんと・・・」
「だーかーらー!このままで一日過ごすっていってるの!」
「な、なにをいってるんだユーリ!」
自分以外の男にユーリ美しい身体を見せるなど、とんでもないとでもいうように
顔を青ざめさせるカイル。
(まさかこいつ、わたしがユーリの服をかくしたことを気づいたのか!?)
「だって服がないんだもん。しょうがないでしょう?」
とうとう観念したというようにカイルは白状した。
「ユーリ!わたしが悪かった!だからその姿をわたし以外の男に見せるなどやめてくれ!」
「・・・やっぱりカイルがかくしたのね!!もう、今度という今度は許さない!!
バツとして、しばらくカイルとは一緒に寝ない!!」
「ユーリ!!」
さあ、おあづけをくらったカイル。どうなることやら・・・

第32話 お願いだ!!


そんな・・・!!!
「ユーリ!お願いだ!怒らないでくれ!もうしないから!わたしがお前なしで生きていけないってことくらいしっているだろぅ??」
いきなりのユーリの発言に、とまどい、あわててユーリに許しを請うカイル。
だがユーリは許そうとしない。
無視し続ける。
なおさらあわてたカイルは言った。
「ユーリ!なら、、お詫びにななんでもしてあげるから!だからそんなこと言わないでくれ!な!?」「・・・・・なんでも?」
ユーリがやっと口を開いた。
「ああ!!もちろんだ。お前が望むなら、わたしはなんでもする!!」
やっとゆーユーリが口をきいてくれたから、ほっとするカイル。
もちろん、、カイルは嘘ではなく、、ユーリの望むことならなんでもしてあげようと思った。
だが、、ユーリが望んだものは、、宝石などではなかった・・。
。「じゃぁ、、あたしに外出の権利をちょーだい。
政務がない日。
もちろん夜にはかえってくるわ。
だから、これから勝手に外出しても、ほっといてくれる?それなら、夜は・・・。どう?」
な・・何!?カイルは困った。夜ユーリが一緒に寝てくれないと困る!
だが・・・・・ユーリがいないのも・・・困る!
もし、、外出してる間に何かあったら???
そう思うと政務なんてできなくなる・・・。
でも!ユーリと一緒に寝れないなんて、、耐えられない!今のわたしに、、ユーリの体は必要だ・・。どぅしよぅ!!??悩むカイル。
「・・・・・・いいだろぅ」とカイルは言った。
思いついたのだ。
こっそり護衛をつければいいのだと。
「だが、行くときは必ずことわってから いけ。いいか?」
「うん!わかった。明日さっそく遊びにいくね☆」
かいるは急いでイル・バーニ達を集めて言った。
「明日から、ユーリに秘密で、ユーリが外出するとき護衛をつけようと思う。
だれかやってくれないヵ!?」すると、いきなり誰かがいきなりカイルたちのいる部屋に入ってきてこういった。「おれがやろぅ!」・・・・ラムセスだった!!!

「それならば、私達が護衛をしますわ。」
そう言って、ハディ達3姉妹が申し出てきた。
「私達ならば、ユーリ様に気づかれたとしてもお暇を頂いてお店を見にきているのです。
といったら信じてもらえると想いますし、運がよければ一緒に行動が出来るかもしれませんから・・・・。」
ユーリ様に秘密は無理だと思いながら・・・