いつもの風景 その3

* 注)いつもの風景  第3話からの分岐点からのリレー小説です
   いつもの風景をお読みになった方は3話からどうぞ

 第1話いつもの風景             作 ひー  


夜が白みはじめ、小鳥のさえずりが聞こえ出す頃、目覚めたユーリは自分を優しく抱くその腕の中からそっと抜け出した。
「もう起きたのか?」
自分の腕を外されたことに気がつき目覚めたカイルは不満そうに言った。
「ごめん・・・起こしちゃった?」
「今日は政務も少ないからもう少し寝ていよう。」
謝るユーリをカイルは強引に引き倒そうとした。
「ほんとにごめんなさい、今日は私忙しくて・・・」
その腕からスルリと抜け出しユーリは、寝室から出てさっと行ってしまった。
薄情な妻の後姿を見つめながら、もてあました身体をベットに投げ出し、カイルは舌打ちした。

第2話 いつもの風景その後           作 匿名さん

「ユーリ、今日は忙しいと言っていたが、何をしているのだ?
ユーリのしていることは私は全部把握していると思ってたが・・・・」とカイルは、ユーリの匂いの残るベットの中で体を横たえた。
それから、カイルはフト目を覚ました。
すると目の前にいつも見なれた瞳が二つ覗いていた。
カイルははっと息のを飲み、我を忘れた。
「カイル、御誕生日オメデトウ」
すると部屋の中がざわざわと騒がしくなった。
「皇帝陛下、お誕生日おめでとうございます」
イル・バーニ、キックリ、ハディ、リュイ、シャラ、カッシュ、ミッタンナムワ、ルサファ、ギュゼル姫、ジュダ皇子、そしてラムセスとラムセスの妹の姿も・・・・
「おいっ!何をぽか~んとしてるんだ。
こうして俺様がわざわざエジプトから妹と一緒に祝いに来てやったんだぞっ!御礼の一つでも聞かせてもらてないもんだなっ!」
と、ラムセスがカイルの横に立ち、肘でカイルのわき腹を小突いていた。
それを見ていた、ユーリはくすくすと笑っていた。
いつぞやは、あんなにオリエント覇権の為に戦っていた二人が、今はこうして・・・・・
ユーリの目から一粒の涙がこぼれた。。。。
「さぁさぁ、ユーリ様、おめでたい席で涙は禁物ですわ。
さぁ涙をふいて皇帝陛下の誕生日をあんなに盛り上げようっておしゃってらしたでしょ」とギュゼル姫がそっとユーリの目から涙を拭いてくれた。

第3話 パーティー開催                 作 ひー

にぎやかにパーティーがはじまった。
「まさかお兄様の元婚約者が、ヒッタイトの皇妃様に納まってるとは思わなかったわ」
そう言ってユーリに話し掛けたのはラムセスの妹であった。
「久しぶりね、ネフェルトさん、おかわりなくお元気そうで・・・」
ユーリは懐かしそうにネフェルトと軽く抱き合った。
「おいおい女たちだけで盛り上がるとは薄情だなゆーり」
「元婚約者に再会のキスでも贈ってくれないか」
そう言ってラムセスはニヤリと笑いユーリの手をとった。
「ばか・・・何言うの」
そう言ってユーリの手のひらがラムセスの頬をかすった。
「相変わらずの反応だな」
「相変わらずはお前の方だ、人の妃に手を出さないでもらいたい」
カイルとラムセスの間に再度火花が散っていた。

第4話 仲良し、こよし?                作 あかねさん

「人の后たって、もしかしたら俺の物かもしれなかったんだぞ」
ラムセスと、カイル。
おめでたい席だというのに相変わらずけんかばっかり。
そんな2人をはじめはみんな無視していたのだが、一向に終わる気配はない。
「何を言っているんだ。ユーリがお前なんかを選ぶはずないだろう」
「はっ!わかんねぇーじゃねーか」
「今はわたしの后だ!」
「じゃぁ、あと一年したら俺の后な!」
2人の間には、火花がバチバチ・・・・・。
そんな2人を見るに見かねたユーリ。
「もー、けんかは止めなよ。おめでたい席なんだし・・・」
「「いや!こいつをしとめるまでは!!」」
ユーリは2人に向けて、ふと言葉を放った。
「けんかするほど、仲がいいってね」


第5話  永遠に・・・                   作 金こすもさん

「冗談じゃない! ユーリ」
「そうだぞ~、ユーリ。
この喧嘩は、本気なんだ。おれの輝かしい未来を賭けているんだ~。
それなのに、仲良しとはなんだ! 」
ふたりの険しい表情に、ユーリは小さな舌を出して笑った。
「だって! おふたりさん。顔を見合わせれば、楽しんでいるんですもの。
あたし、 うらやましいな~と思ってさ」
「・・・・・! 」
見つめあったふたりは、ふんと顔をそらし、共にワインカップを持ち高くかかげた。
「おれたちの女神、ユーリに乾杯! 」
「おまえは関係ない。私の永遠な后ユーリに乾杯!
 イシュタルの愛とご加護が、我らヒッタイト帝国に注がれるように~」
「永遠な后か。ちぇっ、キザな奴。おいユーリ。
明日おれは帰るが、おまえを連れて行くつもりだからな。用意しておいてくれよ」
「きさま~!! 」
ふたりの大いなる喧嘩は、永遠に続いていくようだ。
ユーリもネフェルトも、側近たちも深い溜め息を吐いていた。

第6話 仲好し2                      作 友美さん

「あほらし・・・・・、かってにいってなさいよ・・・。まったく・・・・・。
ねえ、ネフェルトさん、ハディ達と向こう行って,はなしましょう。
おばかさんたちはほっといて。」
「そうね、ユーリ様、兄様と、皇帝陛下は、2りでなかよくやってるから、ほっといても大丈夫よね」
「ユーリ様、ネフェルト様、あちらのほうに、お席をご用意しております。
どうぞ、あちらへ」
「おいこら、俺を無視するなっ!」
わすれられて、怒るラムセス・・・・。
「そうだっ!ユーリ!おばかさんとはなんだ!すくなくとも、おまえよりかは、頭は良いつもりだっ!」
「ごめん、冗談よ・・・・・。ごめん、カイル。」
「わかればいいんだよ・・・・かわいいやつだな・・・・・・・」
「いやだわ、みんないるのに・・・・。」
みんないるのに、イチャつく、二人・・
「あほくさ・・・・、おいこらっ!ムリシリぃ!俺のユーリと、
 いちゃつくんじゃねえっ!」
「だれが、おまえのユーリだっ!」
「だれが、あんたの、ものなのよっ!」
こえをそろえて、怒る二人・・・・・・。
「相変わらず、なかがいいわね、カイル・・・・・。おぼえてますか・・・・・?
 母よ・・・・・・。」
「・・っ母上・・・・、どうして・・・・・・・・・ここに・・・・・・・・・??」

第7話  ・・・はじめまして・・・              作 あかねさん


「・・・まずは、初めまして。そして、久しぶり。
今日、わたくしがここに 現れたのは・・・ちょっと、あってね。」
カイルが『母上』と呼んだ存在を見るのは、ユーリはもちろんエジプトからの2人もはじめてだ。
しかし、それ意外の人たちは、声をそろえて呼んだ。
「ヒンティ・・・皇妃様・・・。」
と。
「わたくしはもう、”皇妃”ではありません。・・・ユーリ、初めまして。
 そして、カイル。久しぶりですね。」
みんな、唖然としていた。
とっくになくなったはずの、前々帝の皇妃、ヒンティーが目の前にいるのだから。
特に、唖然としていたのはカイルだった。
「・・・母上・・・。どうして・・・・。」
「今日はあなたの誕生日でしょう。
・・・わたくしからも、特別にプレゼントをもってきましたの・・・。
ユーリ、カイル。いつまでも、幸せに。・・・そして、側近の
方々・・・。いつまでも、2人をよろしく・・・・ね・・・・。」
そういうと、ヒンティー皇妃は消えてしまった。
なにがおこったかわからない、その場にいた人たち・・・・。
呆然としていて、何分経ったかもわからない。はじめに口を開いたのは・・・。
「母上に、もう一度会えた。そして、ユーリを見せることができた。それだけで、
 わたしにとって何よりのプレゼントだ・・・。」
カイルは、目を潤ませながら言った。

その何日かご、ユーリ・イシュタルはムルシリ2世の子を懐妊した。

第8話 デイル皇子ご誕生                   作 まゆさん

「ずいぶん大きくなったな」
カイルは大きくなったユーリのお腹に耳をへばりつけてそう言う。
そう…ヒンティ皇妃が現れた数ヵ月後ユーリはカイルの子を妊娠した。
そして3日後には出産予定日である。
「おっ!動いた!!元気がいいな」
嬉しそうなカイルにユーリも微笑む。
「ユーリ…よくここまでがんばったな」
「ありがとうカイル…あなたの子供が産めるなんて私しあわ…っつ!!」
ユーリは急にお腹を抱えて苦しそうなうめき声を上げた。
カイルはハッと気が付くとすぐにユーリを抱き上げた。
「まさか陣痛なのか?」
「う…ん…もうすぐ産まれてくるみたい…」
カイルは慌ててユーリを寝室に運び3姉妹を呼びつけて侍医を呼んだ。

「ユーリがんばれ!」
カイルはユーリの手を握り締めて言う…カイルは自ら立会い出産に望んだ。
仲睦ましい夫婦を引き離すわけにもいかず侍医も産婆も3姉妹も黙っていた。
そして…
「ほぎゃゃ!ほぎゃゃ!ほぎゃゃゃ!!」
(産まれた?……)戸惑うカイル。
「陛下!おめでとうございます男の子でございますよ!」
産婆が産まれた赤子を母体と離し湯で洗い産着を着せてカイルに渡した。
カイルは産婆に言われたとおり…赤子の首に手を当てて腕に抱いた。
可愛らしい母親似の黒髪…
瞳の色は漆黒…
皇太子デイル・ムワタリ誕生。
初めての我が子の泣き声にカイルの瞳からは嬉しさからの涙が落ちている。    


第9話 知らなかった               作 ヒロさん

赤ん坊がこんなに手がかかるものだったなんて。
ため息がでる。
カイルは知らなかったのだ。

二人で食事をしていてもデイルが泣けばユーリは「デイルが泣いているわ」と、とんでいってしまう。デイルがいつまでも寝なければ、ユーリはなかなか寝室に、戻って来てくれない。
侍女はたくさんいる。
でも「私できる限り自分の手で育てたいの」とユーリは言って、ほとんどのことは、自分でやっている。それは、かまわない。かまわないのだが・・

デイルを抱いてあやしながらカイルは言った。
「なあデイル、今日はとうさまにかあさまを貸してくれないかなあ」
デイルは不思議そうな瞳で父親を見つめていた。

第10話  妻から母へ               作 ひめもすさん 

「まだ赤ちゃんなのよ。なに言ってるの?!」
ユーリは呆れ顔でカイルに言った。
「ユーリ、そこにいたのかい」
愛妃の姿を見て微笑むカイルであったが、ユーリはデイルをカイルの手から取り上げると、
「お父様は子供みたいね~~。デイルはうんと甘えていいのよ。
お母様がずっと一緒にいてあげるから!(ちゅ)」

妻から母に変わってしまったユーリは、カイルのことなど二の次である。
少なくともカイルはそう感じていた。そして今、ひしひしと実感している。

あぁ・・・。帝国の安定のためには皇太子が生まれたのは嬉しい限りだ。
いや、帝国の安定なんて関係ない。
デイルが生まれた事は本当に幸せだ。
「でも、でも!!!!!!」悩む皇帝の政務は当然はかどらない。

一番の被害者はいつものメンバー。
イル・バーニーは、子持ちのキックリに尋ねた。
「子供が手がかからなくなるのはどのくらいになってからだ?」
「え?うちは二人母親がいますから~。
 そう、手がかかるようには見えませんが・・・。
 でも、子供はいくつになっても手がかかるものですよ。
 そこが可愛いいんですけど。(でれ)」
「・・・・・《ぶち》
 そうか、手がかかっても幸せか!
 それでは手のかかる政務をお願いしようじゃないか!!!」

切れたイル・バーニーは叫ぶキックリの声を背にして執務室から出て行った。

第11話 ユーリ争奪戦!?            作  妃 瑠佑華さん

「カイル、イル・バーニが、カイルが政務しないって困ってたよ。
政務しに行ってきたら?デイルが可愛いのはわかるけど。」
「確かにデイルも可愛いが、お前の方がもっと可愛いよ。
だから、今ユーリを独り占めしてるデイルに、ユーリを貸してくれるように頼んでるんだよ。
政務より、お前の方が大事なんだ!」
「な、何言ってるのよ!////ね、政務終わったら今日だけは、三姉妹たちに、デイルを任せるから…。
政務してこなきゃ、そうしないよ。」
「本当だな!!後で嘘だったなんて言わせないからな。
じゃあ、政務しに行ってくる。あ、そうだ今夜は寝かせないから覚悟しておくんだな。」
「もう…////」
相変わらずの2人である。
一方、カイルの執務室では・・・
「陛下、どうなさったのですか?喜ばしい事に、陛下が、自分から政務をバリバリこなされるとは…
皇妃陛下が立后なされてからというものの、皇妃陛下に没頭されて、デイル様がお生まれになってからは、お二方に没頭されて、私が引きずってこなければ、自分から政務をこなされた試しがなったのに。」
「うるさいぞ!イル。ほら、政務はこれで終わりじゃないだろう。次は?」
「「さては、皇妃陛下が…。」」
「こら!また余計な事を考えていただろう。」

第12話 気持ちの問題                   作 あかねさん

・・・時間は刻々と過ぎていって・・・夜。
カイルは今日、凄いスピードで政務を終わらせた。
これも、すべてユーリのお・か・げ・・・?

「ユーリ、デイル。」
後宮のユーリの部屋へ一直線に向かったカイル。
そこには、愛しい姫と愛しい子供の姿が当然のように・・・・なかった。
「~~~~!?ユーリ、ユーリはどこだ!」
とうぜんぱにくるのはあたりまえのこと。
カイルは後宮中を探し回ろうとした・・・・が・・・。
「ユーリ様でしたら、デイル様を連れて陛下のお部屋にいますよ」
・・・ほっ。
なんだ、先に自分の部屋に帰っていれば良かったのではないか。
そうと決まったら、すぐに自分の部屋へと戻る。
ばたんっ。
「ユーリ、デイル」
「カイル、おかえりなさい!」
今度はちゃんと、2人ともいてくれた。
「ユーリ、ちゃんと政務は終わらせたよ。・・・約束は、守ってくれるよな?」
「(//////////////)そりゃ、まぁ・・・」
「そうと決まれば、三姉妹!デイルをよろしく!!・・・さぁ、て、ユーリ」
ユーリは思った。
「「カイルって、何か目的があるとちゃんと政務ができるんじゃない。
  気持ちのもんだいよ~!!」」


第13話   反省してね                    作 しぎりあさん

「ユーリ、会いたかった・・」
 抱きつこうとするカイルから逃れると、ユーリは用意した粘土板を取り上げた。
「・・・なんだ、それは?」
むっとしてカイルが訊ねる。
今日一日、どれほど頑張ったか。ご褒美くらいくれてもいいだろうに。
「ね、カイル、誓約書、書いて」
せいやくしょ?」
 いったいなんの誓約だ?
不承不承、渡されたそれを手に取った。
なんの誓約でもいいから、とりあえずさっさと済ませて、ユーリとの時を楽しむつもりだ。
「ん~とね、『私、ヒッタイト皇帝カイル・ムルシリは、公務をしっかり果たします』」
「ユーリ?」
 なんの、冗談だ。カイルの眉がつり上がる。ユーリは澄ました顔で続ける。
「『公務の最中は、後宮を覗きに来たりはしません』」
「別に、公務の最中ってわけじゃないぞ」
「『息子にヤキモチ焼いたりしません』」
「ヤキモチだと?
違う、お前があまりデイルにかかりっきりで、私の妃としての役目を忘れているのではないかと・・・」
「とりあえず以上のことを守れないと、私、デイルを連れて出て行っちゃうからね」
出ていく、という言葉にカイルが反応した。
「出ていく、だと?そんなことは、許さん!」
粘土板を投げ捨てる(あ~あ)。
粘土板は生だったので、ぺちゃっという音をたてて床にへばりついた。
「あっ、ひどい」
かがみ込んで拾おうとしたユーリの身体をやすやすと抱き上げると、そのままベットに連れ込む。
「ひどいのは、どっちだ?私の心臓を止める気か?」
「・・あのね、カイルが政務をほっぽりだすと、私が『皇帝を堕落せしめた』とか、言われちゃうんだからね」
ユーリは、カイルの両頬をぶにぶに引っ張った。(おいおい)
「お前となら、落ちてもかまわない・・」
「違うでしょ~っ!!」
叫んだユーリの声に被さるように、大きな声・・・。
「・・・まさか・・」
の、まさか、赤ん坊の泣き声だ。
「・・デイル!」
言うが早いか、ユーリはカイルのそばをすり抜けて戸口に駆け寄った。
「ハディ、どうしたの!?」
取り残された皇帝陛下は、シーツの中に沈没した。 


第14話  強硬手段                    作 ひねもすさん

デイルの泣き声で部屋を飛び出たまま、ユーリは明け方近くまで戻ってこなかった。
戻ってきて後も、すぐに眠ってしまったのだ。

一人、悶々とする若き皇帝は、強硬手段に出ることにした。
なんと言ってもカイルはこの国の最高権力者である。

次の日、カイルは勅書を出した。
『皇妃は、皇帝の許可なく皇子に会うことはできない。』

賢帝とも思えぬ勅書であるが、皇妃以外の人間にとっては何の害もない勅書のため、反対する者もいなかった。
当の皇妃を除いては。

勅書を見たユーリは激昂して執務室までやってきた。
「カイル、この馬鹿げた勅書は何なの!母親と子供を引き離すなんて、あなた何に考えてるのよ。」臣下の前であるのも忘れて夫婦喧嘩の臨戦体制に入っている。
「おまえが昨日、約束を破るのが悪い。」
「本当にデイルと私を会わせない気なの!?」
怒りのため声が低くなっているユーリ。
しかし、昨日のお預けにかなり不満のあったカイルは動じなかった。
「皇帝の命だ。おまえだとて従ってもらう。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・分かりました。
 許可していただけるまで、デイルには会いません。そして陛下にもね!」

ユーリはそう言うとその場を離れて行った。
離れ、離れて、アリンナまで行ってしまったのだ!!!


第15話  ため息                  作 匿名さん


イル・バーニはため息をついた。
いったい、どうしてこんなことになってしまったんだ。
人の上にたつ器量、自制心、自戒心を持った女性を皇妃に迎えれば帝国は安泰だと思っていたのに。
皇帝が皇妃を愛しすぎるのがいけないとは、言えないが限度というものがあるんじゃないのか?
そういえば・・・・とイルバーニは思い出していた。
デイル皇子が生まれたときも、子供のことよりもユーリ様のことを心配していたっけ。
「お生まれになりました」と告げた医師は当然「男か女か」と聞かれると思っていたのに、
「ユーリは無事か」と聞かれて驚いていた。
はあ 再びため息をつく
歴代の皇妃は、こんなに子育てにかかわろうとしなかったしな。
ユーリ様は自分で育てるのが当たり前のように思っておられるが、・・・
もう少し陛下のこともかまってくださらないと・
ユーリ様、デイル皇子も大切でしょうが、陛下のこともお忘れなく・・・・・

第16話  サイテー!!!!!          作 友美さん

「なんなのよっ!!陛下は!!!
子供が泣いたら母親は普通は飛んでいくわよっ!!!
バカじゃないの!!!!あーもー何考えてんだろ・・・あの人は・・・・・。
それより・・・・ディルはどーしてるかなー・・・・・
(何よ・・・やっと無事に生まれてきた子なのに・・・・・陛下は嬉しくなかったの・・・・・)」
「ユーリ様。大丈夫ですわよ。
後宮には沢山の女官がおりますもの。
それにしても今回の陛下のなさりようは非道ございますわね。」
一緒に付いてきたハディが言う。
「ですから,陛下のかご自分の過ちに御気づかれるまで,
アリンナでゆっくりお過ごしくださいませ・・・・・。」
リュイとシャラが声をそろえて言った。
「そうね。でも・・・サイテーナ考えを,間違えって気づかなかったら・・・・・・
私・・・、ディルといっしょにアリンナでお世話になってもいいかなー?????」
「それはかまいませんが・・・って・・そんなことありませんわ。大丈夫!!
陛下は絶対気づいてくださいますわよ。」
「-・・わかんないよ・・・。ハディ、ほんッッとに気づくと思ってんの????」

第17話  なんとかに、つける薬          作 しぎりあさん

カイルは、切れそうだった。
ついでに、泣きそうだった。
けれど、皇帝が泣くわけにもいかないので、ただ執務室の中をうろうろ歩き回っていた。
 イル・バーニは切れかけていた。
泣き言をいう余裕はすでになかった。
ただ、黙って、無言で皇帝を圧迫しつつ、本日のノルマを積み上げていた。

「・・・陛下」
「なんだ!!」
 冷たく危険をはらんだ空気に、部屋にいた書記官は本当に泣いていた。
泣きながら、記録を取っていた。
「ご裁可を」
「・・そんなもの・・」
適当にやっておけ、と言いそうになって、カイルは次の言葉を飲み込んだ。
考えてみれば、現状を打破する策は、イルぐらいにしか出せないだろう。
ここで、彼の機嫌をこれ以上そこねるのは、よろしくない。
「う、うむ」
 どっかりと腰を下ろすと、涙で顔をゆがめた書記官からタブレットを受け取った。
泣きたいのはこっちだと思いながら(泣かせたのは、誰だ)。
 小麦の輸送についての許可証に印章を押しながら、イルを盗み見る。
平然としているように見えて、じつは青筋がたっている。
なんとかして、イルをなだめて、ユーリを取り戻すのだ。
そうでないと、ヒッタイトは大丈夫かも知れないが、自分がほろぶ。
「あ~イル・バーニ」
「陛下。今日中に、すべて、目を通してください」
 きっぱりと、イルが言った。あまり、きっぱり言われたので、かちんときた。
「皇妃が不在なのに・・・国政が滞り無く済むと思うか?」
「皇妃陛下は、ご不在ではありません。
アリンナの太陽神殿にて神事の執行と、鉄の管理をなされておいでです」
 書記官が耐えきれなくなって、椅子から転がり落ちて、床に突っ伏すと、声をあげて泣き始めた。2,3日うちに辞表を出すかもしれない。
「皇太子は幼い、皇妃は宮中にあるべきではないのか?」
「陛下の許可なくば、皇太子殿下には拝し奉れないのであれば、皇妃陛下が宮中にあらせられる必要もない、と存じ上げますが?」
 慇懃無礼な態度に、タブレットを投げかけたが、カイルは秘かに10数えて、耐えた。
ユーリを取り戻すためなら、どんなことにも耐えて見せよう。
砕けんばかりにタブレットを握りしめると、吐き出すように言う。
「…もうよい、イル。ユーリを連れ戻す方法を、考えろ」
「政務を、済ませられましたならば」
「策が、あるのか?」
「・・・陛下次第ですな」

第18話 とりあえず、情に訴えてみる。       作 しぎりあさん

翌日、ハットウサの城門からアリンナに向けて華々しい行列が出発した。
 美しく彩色された戦車を鹿毛の馬にひかせ、赤と白銀の馬具を輝かせるのは、若きヒッタイト皇帝。すらりとのびた長身と端正な顔立ちは、沿道の見物の娘たち(老いも若きも)を夢中にさせるには充分すぎた・・・
背中におんぶひもで赤ん坊を背負っていなければ。
「・・・イル・・私はアリンナに着くまでデイルをおぶっていなくてはならないのか?」
 騎馬で従うイル・バーニがにこやかに、答える。
「もちろんです、陛下。大切なのは、いかに陛下が皇太子殿下と仲むつまじくしておられるか、アピールすること」
「ぶ、ぶ~」
「ほら、殿下も父君とご一緒で喜んでおられる」
 デイルが笑いながらカイルの自慢の後ろ髪をひっぱった。
「こら、デイル。それはおもちゃじゃない」
「ぶう」
「文句を言うな。おまえには、向こうに着いたらもっと良いモノをやろう」
「あぶぶ、ぶうう」
「そうか、おもちゃより母が恋しいか」
 不思議に会話を成り立たせているカイルの姿に、戦車を御すキックリも感無量だ。
(陛下も、父親らしくなられた・・・)
 息子と同レベルでユーリの歓心を奪い合っていたころを考えると、大した進歩だ。
「もうすぐ、アリンナです。ひとまず離宮の方に参ります。
ユーリ様は、ハッティの居住区におられるようですが」
「生ぬるい・・・」
「はあ?」
 カイルは腕を後ろにまわした。
「デイル!!用を足したいなら、そう言え!」
 いつの間にか濡れている背中に、顔をしかめる。
叱られたのが分かったのか、単に気持ち悪いだけなのか、皇太子は泣き始めた。
 カイルは慌ててあやしはじめる。赤ん坊はますます声を張り上げた。
「・・キックリ、急げ。デイルにいつまでも濡れた服を着せているわけにはいかない」
「は、はい」
 わんわん泣きわめく赤ん坊にせかされて、皇帝一行は速度をはやめた。
伝令を走らせてあらかじめ開いてあったアリンナ市街に走り込む。
 そのまま離宮の前にのりつけた。
「これは、皇帝陛下・・」
 うやうやしく頭を下げる、市長と高官の前を足早に通り過ぎながら、カイルはデイルをおんぶひもから外した。
「よーし、よーし。父さまが、風呂にいれてやろうな。それとも、ミルクがいいでちゅか?」
 あとには呆気にとられた市長一行が取り残された。

第19話  カイル父様の子守唄             作  那美さん

「ふう…やっと終わった…次は…ああミルクを飲ませないと…」
アリンナへユーリを連れ戻しに来たカイルは背中にデイルをおぶっていたのだが、見事に背中で用を足されたのである。
離宮につき次第、わんわん泣きつづける息子と一緒にお風呂に入って、可愛い我が子もやっとさっぱりしたのか落ち着いたのにまた泣き出した。
お腹がすいたらしい。
「あーーん!!わーーん!!」
「ああ!頼むからちょっと待ってくれ~どうしたらいんだ?」
この時代に粉ミルクなんてあるわけない。
デイルに一番いい食事はそりゃあユーリの母乳である。
しかし当のユーリはアリンナ神殿で今もふてくされている
一応乳母がいるのだがカイルは自分が乳母の乳で育ったので、出来れば我が子は母親の母乳で育てたいと考えていたのだ。
哺乳瓶もない時代…カイルは困りきってしまっていた。

「わぁぁーーん!!まんまーー」
「困ったな~仕方がない。誰も見てないよな…」
カイルは周りをキョロキョロと見回す。
そして誰もいないと確認するとリンゴを手に取り口に入れて噛み砕きその果汁をデイルに口移しで与え始めた。
「ンクッ…ンクッ…ゴク…ゴク…」
デイルは泣きわめくのをヤメて母乳代わりのリンゴの果汁をしっかりと飲んでいました。
デイルは満腹になって満足したのか やっとキャッキャッと笑い始めました。
「ごめんな~デイル~早く母様に会いたいだろう?
母様に会ってミルクを腹いっぱい飲ましてもらおうな~」
「ぶぅ~あぁ~~」
「よしよしいい子だな~さあそろそろ寝ようか?母様には明日会いに行こうな~」
本当は今日ユーリに会いたかったのだが、アリンナ神殿からの連絡によるとユーリはもう眠ってしまったらしいので明日会いに行くことになったのだ。

カイルは夜着を着てベットに腰をかける。
もちろん腕にデイルを抱いて・・・・・
「ぶぅ~ぶぅ~~」
「なんだ?…あっ!そうか…子守唄か…」
デイルがいつも眠る時はユーリが子守唄を歌っている。
それを聞かなければデイルはいつまで立っても寝ない。
かといって日本の子守唄なんてカイルが歌えるはずがない。
「ふぅ…デイル~父様は母様の国の歌は知らないのだ。
だから父様が子供の頃聞いた曲でいいよな~」
「ぶぅ?ああ~」
カイルはデイルを両手で抱いて眠りを誘うように前後に優しく揺らしながら子守唄を聞かせた。

『闇夜に月が輝く時、温かな温もりの中で眠る愛しい我が子よ♪
 その罪なき愛らしい笑みよ…いつも我を癒す笑み♪
 みてごらん…輝く星空と優しき夜の闇を~
 可愛い我が子よ…また明日もおまえの優しい笑顔を見せておくれ♪
 さあ…ゆっくりおやすみ…愛しい愛しい我が子よ』

カイルはまるで鈴を転がしたような美しい声で子守唄を聞かせた。
デイルはすでに夢の中。
母が聞かせてくれる子守唄ではなかったが、新しいまるで鈴の音のような優しい声にデイルはすっかり眠ってしまったのだ。
カイルの指をしっかり握って…
カイルは微笑むと身体を壁に寄りかからせた。
指を握られていないほうの手でデイルの頭を優しく優しく撫でてやる。
そして思い出したようにクスッと笑った。

「そういえば…私は父上に抱かれた事なんてなかったな…」
カイルは父親のシッピルリウマに別に愛情を注がれていなかった。
それはザナンザ達他の兄弟も同じことだ。
だからカイルはユーリとの間に授かった我が子の子育てを喜んでやっていた。
自分のように父親と話すこともあまりなかった幼子の時期を過ごさせないためにも。
「デイル…父様は母様もおまえのことも愛しているからな」
カイルはそう言ってデイルの額に軽くキスをする。
一瞬だがデイルが微笑んだ。
「いい夢を見るんだよ…お休みデイル…」

本当に皇帝とは思えないほどカイルは息子の面倒を見ていた。
お風呂に入れて、口移しで離乳食を食べさせて、子守唄を歌って。
そんな父子の仲睦ましい現場を見ていた二対の瞳。

「やれやれ…陛下もやっと父親らしくなられたなキックリ…」
「そうですねイル・バーニ様…陛下のあの微笑みはまさしく父親のものですよ」
「キックリ…明日の朝一番にアリンナ神殿に使者を送ってくれ。
『皇妃・ユーリ様の元に皇帝陛下とデイル殿下が伺う』とな……」。
「かしこまりましたイル・バーニ様…」

こうして夜は過ぎていく…


第20話  ご対面                      作 しぎりあさん

「デイルが来るって!?」
 ユーリが飛び起きた。風を送っていたリュイが慌てて、背中を支える。
 胸から滑り落ちた布を拾い上げて、シャラがそれを水に浸してしぼった。
「はい、陛下とともにこちらに」
 冷えた布を胸に当てながら、ハディがうなずく。
「カイルと?」
「陛下はデイル殿下をおぶわれてこちらまでいらっしゃったそうですよ。
とても仲むつまじいご様子で」
 ぱんぱんに腫れあがったユーリの胸を痛ましげに見る。
「少し、しぼったほうが、ようございますね」
「いいよ、もうすぐデイルが来るんだから!!それよりカイルがデイルと仲むつまじいって・・」
「はい、なんでも、御入浴から、お食事までご自分で世話されているとか」
「カイルが・・?」
 信じられない。後宮にいるときは、まるで自分の子供じゃないみたいに邪魔にしていたのに。
「陛下にも、ようやく父君らしい自覚が出てこられたのだと思います」
「陛下を、お責めにならないで下さい。
通常なら、皇帝の御子は母方の実家で育てられて、御父君に対面されるのはある程度大きくなられてからなんですから」
 もう一度布を取り替えながら、リュイとシャラが言う。
「そうなの?じゃあカイルの父様は、シュッピルリウマ皇帝は、赤ちゃんだったカイルを抱いたりしなかったの?」
「それが、皇族では普通なんです」
 ユーリは黙り込んだ。
デイルが生まれてから、カイルはデイルを抱き上げてあやそうとはしなかった。
赤ん坊の鳴き声を聞くと、いらいらしているようだった。ユーリがデイルと過ごしていると、何度も二人を引き離そうとした。
カイル自身が父親から、慈しまれなかったのだから、接し方が分からなかったのだ。
「・・なんだか、かわいそうだね・・」


     ※  ※  ※  ※  ※


「ユーリ!!」
 広間に姿を見せたユーリの姿に、カイルは叫んだ。
腕にはしっかりデイルが抱かれている。
椅子から立ち上がると、駆け寄ってくる。
「デイル!」
 思わず、息子の名前だけを呼んでしまったユーリだが、カイルは気にしたふうはなかった。
デイルを差し出す。
「ほら、かあさまだぞ、デイル」
 反射的に受け取ったユーリは、健康そうな息子を見て、安心した。
いつの間にか、首がすわっている。母親の姿に、デイルがきゃっきゃと歓声を上げた。
部屋に入ってくる前に、物陰から親子の姿を盗み見ていたユーリである。
カイルがデイルを揺すりながら、歌を歌って聞かせていた。
カイルの本心を知りたくて、そうしたユーリだったが、我慢できなくなって飛び込んだ。
「ああ、デイル」
 強く、抱きしめる。とたんに胸に走った痛みに、小さく声をあげた。
「どうした、ユーリ?」
よろめいたユーリを息子ごと支えると、カイルが心配してたずねた。
「うん、大丈夫・・・胸が・・」
「え?」
カイルが聞き返してきたが、もう耐えられなかった。
デイルを抱え直すと、素早く胸をはだけた。押しあてる。
デイルが、むしゃぶりついた。長い間、おあずけだったのだ。
カイルはしばし、呆然としていた。
「なんというか・・大きくなったなユーリ」
おそるおそる、デイルが吸い付いていない方の胸に手を伸ばす。
触れたとたん、しぶきが飛び散りカイルの指先を濡らした。
「あ・・」
 不思議そうに自分の指先を見たカイルは、やがてそれを口に運んだ。
「・・おいしい、カイル?」
「う・・む・・たいしたものだな・・」
 ユーリは笑った。カイルの顔が神妙すぎたのだ。
「だって、あたし、お母さんだもん」
 デイルが離れ、すぐにもう一方にとりかかる。
いままで満たされなかった分を取り戻そうというのか。
「ああ、そうだな」
 かいるが、デイルの頬をつついた。無心のデイルはそれにも気が付かない様子だ。
「カイルは・・お父さんなんだよ?」
「ああ、そうだな。だけど、この父親は、息子にずいぶん我慢を強いていたようだ」
 カイルが、ユーリの頬に触れた。
いつの間にか、自分でも気が付かないうちに、ユーリの頬は涙で濡れていた。
「帰ってきてくれ、一緒に暮らそう。私も息子も、お前の不在には耐えられない」
 ユーリはうなずいた。涙が、あとからあとから流れて止まらない。
カイルは当惑の表情を浮かべた。
「困ったことに・・お前に口づけようと思ったが、デイルが邪魔でできない」
「・・もう、カイルったら!」
 泣き笑いのユーリを背後から抱きしめると、頬に唇を押し当てた。 
  

第21話  初めての言葉?            作 マユさん

カイルとユーリとの夫婦喧嘩(?)も終わりを迎え皇帝一家はハットゥサへ帰還した。
久しぶりの我が部屋にちょっと懐かしさを覚えるユーリ。
「久しぶりの自分の部屋って以外にも懐かしいのね~」
しみじみ空想にふけっていたユーリだが、いきなりカイルが抱いていたデイルが泣き声を上げ始めた。
「どうしたんだデイル!?どこか痛いのか??」
あれ以来すっかり父親が定着したカイルが慌ててデイルを身体を撫でている。
ユーリはクスッと笑うとデイルを自分で抱き上げた。
「違うわよ ただお腹が空いただけよ は~いデイルお食事ですよ~」
ユーリが胸元を開けるとデイルは一目散にユーリの胸にしゃぶりつく。
チュバチュバと音を立てながら嬉しそうに吸っている。
何故かデイルを羨ましそうに見ているカイル。
「どうしたのカイル?」
「いや…お前の豊かな胸を独占しているデイルが羨ましいなと…」
「もう!カイルったら~」
笑い声が絶えないカイル・ユーリ夫妻。

「あ~ぶぅ~」
デイルがユーリの服をいきなりひっぱった。
「あら?どうしたのデイル?おしめかな?」
ユーリはデイルのおしめをさっと換えてやる。
「へんねぇ…どうしたのかしら?」
デイルの行動に訳がが分からず?マークが浮かぶユーリ。
デイルは更にユーリの服をひっぱる。
「…かー…しゃま‥」
!!!!!
「えっ!?デイルが喋った!?」
「なに!?」
カイルとユーリはデイルを凝視する。
「デイル!もう一度言ってごらん」
デイルはキャッキャと笑いながら、まだたどたどしい言葉を紡ぐ。
「かー‥しゃま…とー…しゃま…」
まだ所々おかしいがデイルは間違いなく「かあさま、とうさま」と喋った。
ユーリは嬉しさにデイルを抱き締めた。
カイルはデイルごとユーリを抱き締める。
「頭の良い子だな 将来が楽しみだ」
カイルはそう言ってユーリからデイルを抱き取ると、高い高いをするようにデイルを高く低く上げてやっていた。
ユーリはその光景を微笑ましく見ていた。


第22話  イル・バーニの誤算!?       作 華蓮さん

カイルは、次の日、さっそく、キックリやイル・バーニに報告していました。
「昨日、デイルが、とうしゃま、かあしゃまってしゃべったんだ。
あの子は、賢いぞ。これは将来が楽しみだ!」
「陛下、すっかりデイル殿下と仲良くなられて。ユーリさまとも仲直りされてよかったですね。」
「あぁ。」
カイルはとてもうれしそうでした。
イル・バーニは、これで政務もきちんとしてくれると喜んでいました。
しかし、カイルは、政務の途中でよくデイルのところに行くようになりました。
「どうだ、ユーリ?デイルは何か話したか?」
「カイルったら。さっき来たばかりでしょ!そんなにちょっとの間で話すわけないでしょ。」
「でも、子供は成長が早いって言うから、いつ、新しい言葉を話すかわかんないだろ。」
「カイルったら、すっかりデイルに夢中ね。ちょっと前まで、邪魔者扱いになってたのに。」
カイルは、すっかり親ばかになっていました。
ユーリは、カイルがデイルを大切にしてくれているのでうれしかったです。
しかし、イル・バーニは、ユーリが戻ってきたら、カイルが政務をきちんとやってくれると思っていたので、これは大きな誤算でした。
(今度は陛下とユーリさまではなくて、陛下とデイル殿下を離さないといけなくなったみたいだな。)
と、イル・バーニは思いました。


第23話     馬鹿馬鹿しい用事        作 ひねもすさん

色ボケ皇帝にして親ばか皇帝の尻拭いを今まですべてやってきたイル・バーニー。
今度の親ばか皇帝への対策を練るのも彼だ。

「キックリ、ご苦労だが、また我々で対策を練らなくてはならない。デイル殿下の場合は・・・・・」
イルは言葉をとぎらせた。
不思議に思ったキックリがイルに近寄ると、イルは真っ青な顔をして、その場に崩れ落ちた。

≪バサ≫

イル・バーニー・・・・。
ヒッタイトにおいて皇帝夫妻の次に重要人物であろう。そんな彼が、とうとう倒れた。
いっつも、いっつも皇帝陛下の馬鹿馬鹿しい用事で走りまわされ、その頭脳をそんなことのためにばかり使い、ストレスが限界にきていたのだ。

馬鹿馬鹿しい用事・・・
ほとんどが皇妃に関することだ・・・。
「ユーリが私をどれくらい愛してるか確認したい」とか「ユーリが私を拒否する。他に好きな男ができたのでは」とか「ああ、春になると不安だ・・ユーリが還ってしまうのではないか!」とか・・

そのたびに、策を練り、理路整然と説くのがイル・バーニーの仕事だった。
「皇妃様は、陛下への愛のため家族を捨てられたのです」と言って宥め、「皇妃様は華奢な方ですので、陛下の毎夜の愛情にお応えするのはお体の方が・・でも、お心は陛下の下にございましょう」と言ってヨイショし、「あの泉はもう、ございません。決してお還りになることはできません。」と分かりきったことを言う。

だが、イルは、時には言ってみたかった。
「ああ、そうですね。陛下が嫌になったんではないですか?
 そこまで、嫉妬深くて、スケベなら嫌になるかも知れませんね」と・・・。

第24話    決心                  作 あかねさん


「何!?イル・バーニが倒れただと!?」
元老院議長イル・バーニが倒れてことは瞬く間に王宮中に知れ渡った。
カイルとユーリも例外ではない。
「イル・バーニが?いったいどうして・・・・。」
「はい、そのぉ・・・ストレス・・・だ、そうで・・・・。」
報告に来たキックリはひどく言いにくそうに言った。
「ストレスか・・・・ン~、何がそんなにあいつを悩ませていたんだ・・・?」
「カイルでしょ。」
キックリの心の内を知ってかしらずか、ユーリは真実をつぶやいた。
そう、原因は皇帝カイル・ムルシリにあった。
(まぁ、元々はユーリ様がいなくなるのがいけないんだけど)

カイルとユーリは、デイルを置いてイル・バーニの部屋に来ていた。
そこには真っ青なイル・バーニが・・・・・。
「ねぇ、カイル。きっとイルは、カイルが政務をしないから倒れたのよ。
 いつもイルにまかせていたよね?この頃は、デイルの所にばっかり来て・・・。
 ねぇ、これじゃぁかわいそうだよ!」
真剣に、悩みこむカイル。
今まではイル・バーニがいたからはめをはずせた。
しかし、こんなになるまで疲れ切っていたなんて・・・・・。
「分かった。・・・政務をしよう。」


第25話  ねぎらい                作 しぎりあさん

カイルはイル・バーニの元を訪れた。
 寝台にふせっているイルの枕元で、心を込めて語る。
「イル・バーニ、ゆっくり休んでくれ。心配しなくていい、後のことは私に任せておけ」
 言葉だけ聞くと、カイルがイルの仕事を肩代わりしてやるようなのだが、もともとカイルの仕事だったものをイルが肩代わりし、それを本来やるべき本人が片づけることになっただけである。
「陛下、申し訳ありません」
 イルが、弱々しくつぶやく。
「気にすれな、イル。お前にはいつも助けてもらっている」
 全くだ。
「時に、デイルなのだが、あいつはなかなか賢い。父親の仕事ぶりを間近で見せてやろうと思っているのだが」
 デイル皇子は、よちよち歩きの乳児である。
「とはいっても、デイルはまだ幼いからな、母親と離れるのも不安だろう。なに、ユーリも執務室に来ればいい、良いアイデアだとは思わないか?」
 カイルは、親馬鹿ついでに嫁馬鹿な笑顔で、病床のいるに言った。 

第26話   執務室の床の上            作  ひねもすさん

執務室には親子三人の微笑ましい姿があった。

転がる粘土板。散らばるパピルス

「ほら、デイル、これが粘土板だ。いろいろな決裁事項が書いてあるんだぞ」
カイルがデイルを腕に抱き、頬にキスをしながら言う。
「だ~~。ばぶ」
「分かるのか!デイル!さすが、未来のヒッタイト皇帝だ。
さすが私とユーリの子だ。何て賢いんだ。
エジプトを我がヒッタイトの領土とするのはデイルの代だな。」
戦争のないオリエント・・・
そんな理想があったはずなのに、子供には他国を占領しろとは、ずいぶんな物言いだが、親馬鹿は気がつかない。
「カイル。まだ、早いよ。政治のことなんて!
その前にデイルのお嫁さんはどんな人かな?」
カイルの理想を尊敬していたはずのユーリも、占領発言に疑問も持たない。
嫁の心配だって、十分早いが未来の姑にとっては気になるらしい。
「ああ、私がおまえを手に入れるのに苦労したように、こいつも苦労するのかな?」
「いやだ・・・////。カイルってば」
「2年も待ったんだ。その間、どんなに苦しんだか、おまえは知らないだろう?」
「ごめんね。だって・・・・」
「これから埋め合わせしてもらうよ」
デイルをベビーベットへ寝かせ、熱いキスを交わす二人。
いくら赤ん坊でも、息子が隣で寝てるのに・・・。
でも、そんなことはお構いなしで、執務室の床の上に転がってことを進めてしまっている。

転がる粘土板、散らばるパピルス

転がる皇帝夫妻、散らばる衣装。

仕事は進まず、かといって誰も執務室に入ることなどできなかった。
イルの復帰を皆が天に祈った。


第27話  勤務中              作  しぎりあさん

ベビーベットに寝かしつけられたデイルが、ぐずりだした。
「おや、デイルのヤツ、もうお腹が空いたのかな?」
 カイルが床の上で、ユーリの髪をすきながら言った。
「ミルクには、まだはやいでしょ?きっとおしめだわ」
 言うとカイルの腕を抜け出し、デイルに寄る。
「ん~デイル、どうしたのかな~」
「おい、ユーリそんな格好でうろうろしたら風邪をひくぞ」
 脱がせたのは自分のくせに、服を拾うとユーリを後ろから抱きしめる。
肩にあごを載せると、息子をのぞき込む。
「まったく、困った母さまだよな、デイル」
 一見、ほほえましい家族の団らん風景に見えるが(両親が服を着ていないことは別にして)、ここはオリエント最強を誇るヒッタイト帝国の中枢、皇帝執務室である。
「カイルこそ父さまなのに、そんな格好をして」
 二人は顔を見合わせると、ふふふと笑った。馬鹿者である。
「さあ、デイルおしめを替えましょうね」
「ユーリも服を着ような」
 病床のイル・バーニのことなど失念して、なごやかに時は過ぎてゆく。

「さて、仕事をしようか。デイル、父さまは忙しいんだぞ」
「そうね、デイル、父さまはみんなが幸せになるために毎日働いていらっしゃるのよ」
 満ち足りたカイルは、ようやく執務机についた。
 ユーリの腕の中でデイルが小さい手を伸ばした。
「おや、未来の皇帝陛下は国の仕事に興味があるらしい。こっちへおいで」
「だめよカイル。引っかき回しちゃうわ」
「お前が抱いていれば大丈夫だよ。さあ、こっちに来て私の膝にすわりなさい」
「そうね、とてもいい考えだわ」
 こうして、ようやく仕事を始めたカイルの膝にはユーリが座り、ユーリの腕の皇太子は、手を伸ばして書簡を掴んでは舐めたりし始めた。
 仕事をすると言っても、カイルの手は始終息子の頬をつついたり、愛妃の身体を抱き締めたりでまともに働いてはいない。

 執務室の扉に張りついていた書記官からその様子を報告されたイルは絶望的な気分になった。
 
第28話  荒療治                作 ひねもすさん 

書記官から報告を受けた病床のイル・バーニーは考えた。

お見舞いに来て下さったと思ったら、子供の自慢話を延々と聞かされ、真面目に仕事をやっているかと思えば、違うことに忙しいらしい。
他の側近すら、執務室へ入れないのでは何もしないでいてくれた方がましだ・・・・。
だが、それでは、この国の政治体制を崩してしまう。
それに、陛下は無能ではない・・・。
単に親馬鹿で嫁馬鹿なだけだ。

この二つを治さなければ!
いま、ヒッタイトを揺るがす病。
それは陛下の親馬鹿と嫁馬鹿だ。

このまま行けば、ヒッタイトはどうなるのか・・・・。
いつもはこんな時、「私がしっかりしなくては」と気力で病を吹き飛ばし、がんばってきた。
しかし、このままでは、いつか過労死する!
そうなったら、いよいよもって、どうなるのだ!

ここは、荒療治といこう。

 **************************

執務室の扉の向こうから、大きな声がした。
「た、大変です!皇帝陛下!
 イル・バーニー元老院議長がお亡くなりになりました。」

執務室で、今日もいちゃいちゃしていた皇帝夫妻に悲しい知らせが届いた

第29話  イルの誤算            作 ポン子さん

「なに?!イルが・・・?」
「う・・・・そ・・・・?!」
はじかれたように起き上がり、声をあげる。
「そ、そんな・・・。だって、ただの疲労だって聞いていたからしばらく休めば大丈夫だと思っていたのに。」
呆然とした顔でつぶやくユーリ。
「・・・・・・・・・。」
カイルは黙ったまま何か考えている。
2人は全裸のまましばらく固まっていた。
皇帝夫婦が全裸のため、側近と言えども近づくことができない。
困ったハディが寝台の布の向こうから遠慮がちに言った。
「あの・・・。できれば何かお召しになって今後の指示をいただきたいのですが・・・。」
はっと我にかえる二人。
「そうだ、こうしてはおれぬ。イルは今どこにいるのだ、ハディ」
すばやく服を身につけながらカイルが言った。
「はい、誠に残念ながら、イル・バーニ元老院議長は今、天への階段を上られている途中かと思われます。」
ハディは事前にいるから今回の作戦について聞いているのでついふざけてしまう。
こんな機会でもない限り、この色ボケ夫婦に言いたいことをいえない。
もちろん、二人は今気が動転しているので、失言にも気が付かないだろうと
そこまで計算している。さすが、女官長ハディ。
「それは魂の話だろう。イルの亡骸はどこにあるのだと聞いているのだ」
いらただしげにカイルが言う。
「はい・・・イ、イル・バーニ元老院議長の部屋に安置されております」
ハディが目に涙を浮かべながら言う。すごい演技力だ・・・。
「カイル、イル・バーニのところに行こう」
ユーリはそういうと部屋を飛び出していった。
もちろん服はもうきている。
「まて、ユ-リ。イルのところに行くだと?まさかおまえ・・・。イルのあとを追う気なのか?」
カイルはかなり気が動転しているらしい。
冷静に考えればユーリは後追い自殺をするような人ではないとわかるはずなのに。
しかしユーリに導かれ、なんとかカイルもイル・バーニの部屋へたどり着いた。

寝台に寝かされているイル・バーニを見つめる2人。
「イル・・・。本当に死んでしまったの?まるで寝ているみたい。」
(いえ、生きております。そして寝てもいません)
「イル・・・・何てことだ。
おまえは私と一緒にこのヒッタイトをオリエント一の国にすると言っていたではないか。
なぜ先に行ってしまうのだ。」
(それは陛下が政務をなさらずにいちゃついてばかりおられるからです)
「イル。おまえの身体はいつでも魂が戻ってこれるように一流のミイラ職人の手によって安置してやる。安心しろ。」
(ミイラになる前に戻りますので。)
「ハディ、エジプトのラムセスに書簡を贈りミイラ職人を貸してくれるように言ってくれ。
ヒッタイトには、腕のいいミイラ職人はいないから、あいつに頼むのは癪だがここはイルのためだ。
我慢しよう。」
(陛下、その外交能力を政務に使っていただきたい)
「ねぇ、カイル。私このきれいなイルの髪でカッシュのバンダナじゃないけど何か作りたいな・・・。
イルがいつでも見守ってくれていると感じられるように・・・。」
ユーリがイルを見つめながら言った。
(?!)
「そうだな。イルは私たちにとってかけがえのないやつだった。
イルが一番大切にしていたものを私たちが引き継いで大切にすれば、イルの魂も癒させるだろう・・・。」
(な、なんと!か、髪を・・・?陛下、それだけは止めてください!!!)
「ハディ、鋏を持ってきてくれ。今から、私たちだけで斬髪式を行う。」
(おい、なんとかしろ!三隊長!三姉妹!止めさせるんだ!!!)
面白がってみていたものの、イルの顔が微妙に変化しつつあるのに気がついた。
ハディはばれてはいけない、と思い助け舟を出した。
「恐れながら陛下に申し上げます。
イル・バーニは、陛下のおっしゃられたように髪をとても大切になさっておりました。
ですから、髪もイルに持たせてやったほうがよろしいのではないかと思います」
「うむ、たしかに魂が身体に戻ったときに髪がなければショックを受けるだろうな・・・。」
(よし!その調子だ、頑張れハディ)
「そうだな、私もイルの髪はむさくるしいと思ったこともなくはなかったが好きだった。
残念だが、イルに持たせてやろう。」
(ふぅ~、助かった・・・。)
「ねぇ、イルに一番いい洋服を着せてあげようよ。
これは昨日仕事をしていたときにきていた服のままだよ。
私の国ではきれいに身体を洗ってあげて、一番好きだった服とかを着せてお化粧をしてあげるんだ。だから・・・。」
涙をこらえながらユーリが言う。
ユーリにめろめろのカイルが反対するわけもなく
「そうだな、それでおまえの気が済むのならそうしてやれ。」
と、やさしく言った。
「こんなんで、気が済むわけないよ。でも、私にできることと言ったらこれくらいしか今は思いつかない・・・。ハディ、身体を拭く布をもってきてくれる?」
そういうと、ユーリはイル・バーニの服に手をかけた。
(な、なに?!ユーリ様が私の身体を拭くだと??)
一難去ってまた一難。
陛下に自分が政務をしっかりやらなければ、という自覚を持ってほしいだけなのに・・・・
何でこんなことに。
さすがの策士、イル・バーニもこんな展開は予想していなかった。
カイルとユーリをぎゃふんと言わせるはずが、イルのほうが、今にもぎゃふんと言いそうだ。
「カイルも手伝って・・・。」
涙声のユーリ。
「あぁ、もちろんだ。」
そしてカイルの手がイル・バーニの腰紐にかけられた。

第30話   策略・・・うらがえし。          作 あかねさん

(おい、ハディ!この状況を何とかしろ!!)
目で・・・いや、気迫で訴えているイル・バーニ。
そんなこととはつゆ知らず、カイルとユーリは服を脱がしていく。
体を拭かれたら、心臓が脈打っていることがばれてしまうではないか!!
「・・・あぁ!!そうだ!!!陛下、ユーリ様。それ、ちょっと待ってください。
 先にイル・バーニ様の遺言状を開けましょう!!」
ピタ・・・っと、2人の手が止まった。
「遺言状だと!?イル・バーニはそんなものまで残していたのか・・・・・。」
「カイル、読んで・・・・グスッ。」
ユーリは目から大粒の涙を流している。
(あ~あ、きっとユーリ様は泣いておられるのだろうな・・・・。どうしよう・・・。
 実はウソですなんていったら、陛下に殺されそうだ。本当に、天への階段を上る
 ことになってしまうかもしれない・・・・・・・。)
一瞬、イルの心に不安がよぎった。
これで失敗したら、きっと陛下は・・・・・。
「では、読み上げる。『陛下へ。このたびは、この遺言状を開けていただきありがとうございます。
では、私の遺言です。陛下、しっかりと政務なさってください。
私が死ぬのはきっと、過労死でしょう。陛下、私がいなくなってしまえば代わりに政務してくれる人などいませんよ。それでは、がんばって、誓ってください。
                      イル・バーニ』以上だ。」
ユーリはさっきよりもひどく、しゃくりあげていた。
「イル・バーニ。遺言状にまで政務のこと書いてる・・・・・。
 カイル、ここは一つ・・・・・。」
「・・・・・・・・あぁ。そうだな。
しかしそれは、イル・バーニをミイラにしてから にしよう。さて、ラムセスに知らせは出したか?さぁ、ユーリ。体を拭いてあげよう。」
(・・・私をミイラにしてから!?なんということだ!!私の作戦では、この場で誓い
 そして私が生き返りまるくおさますはずだったのに・・・!!!!)
三姉妹はおろおろしている。
もちろん、事情を知っているものはすべて。
しかしカイルだけは、様子が違った。
乳兄弟がなくなったというのに・・・なんか、こう・・・・・。
「カイル、悲しくないの?」
「何をいっている・・・イル・バーニが本当にいなくなったら悲しいさ。」
「本当にいなくなったよ、カイル・・・・・。」
カイルの今の一言に、動揺しているユーリは気がつかなかった。
しかし、イル・バーニは気がついた。
(陛下は、私は生きているのを知っている!?)


第31話   お帰り            作 ひねもすさん

カイルはこの状況をもう少し楽しむことにした。
イルがどんなに焦っているか、考えると楽しくて仕方なかったのだ。

「遺言も読んだことだし、さあ、ユーリ。イルの体を拭いてあげよう。
私は、まだイルが死んだとは信じられないんだよ。それくらいショックなんだ。」
「そうだね、カイル。あたしもだよ・・」
泣きながら、再びユーリがイルの服に触れようとした時、ふと、日本にいた時の祖母の葬式を思い出した。
「そうだ・・。カイル!死んだ人は、体から、いろんな液体が出てきちゃうんだよ。
私のおばあちゃんが亡くなった時も、鼻や耳に綿を詰め込んでたよ。
イルにもつめてあげなきゃ!」
「そんなものなのか?」
「うん、そうだよ。早くしないと、体の中身が鼻から出てきちゃうよ!」
「ああ、わかった。誰か何かつめるものを・・・」
「大丈夫だよ、布を小さくちぎって・・・」
≪びり≫
「これでいいや、イルの鼻につめてあげなきゃ。
せっかく、こんなに綺麗な死に顔なのに、鼻から体の中身が垂れてきたら可哀想だよ。」
ユーリは小さく裂いた布をイルの鼻に詰め込んだ。
≪ぐいぐい、≫
「カイルはイルの服を脱がしてあげて。カイルは脱がす方が得意でしょ。」
「・・・・・・・・・・・・・」
カイルは、男の服を脱がすのなんて得意じゃない!
と言いたかったが、下手に突っ込まれると困るので、黙ってイルの服を脱がすことにした。

一方、イルは絶体絶命の窮地に追い詰められていた。
(このままでは、全裸で窒息死してしまう。)
(陛下、なんてすばやい手の動き。もう上着がするすると・・・・・まずい)
(うっ、ユーリ様、両方の鼻に詰めるのはおやめください・・・っく、苦しい・・・)

「陛下!ユーリ様!おやめください!」
イル・バーニーは、鼻から布を勢いよく飛ばし、起き上がってしまった。

「やあ、イル・バーニー。冥府から還ってきたようだな。お帰り。」
楽しそうな、それでいて意地悪な目つきをしたカイルが、にっこりと微笑みながら言った。


第32話 騙された人                  作 しぎりあさん


イルが口を開きかけたとき、はだけた胸元に(はだけられた、の間違い)飛び込んできた者がある。
「イル・バーニ!!」
 取りすがって号泣するのは、ユーリだ。
「よ、良かった~」
「・・・・」
 とまどい、困惑の目をカイルに向けると、ますます窮地に追いつめられてしまったのを知る。
 カイルの目つきは険悪だ。自分の目の前で、ユーリが他の男の半裸姿にすがって泣いているのだから。(繰り返すが、イルを脱がせたのはカイル)
 そんな男性二人の葛藤も知らず、つくづく罪な女のユーリは、泣き濡れた色っぽい目でイルを見上げた。
「生き返ったのね?戻って来てくれたのね?」
「は、はあ」
 最初から死んでも逝ってもいないイルは苦り切って答えた。カイルの視線がめちゃくちゃ痛い。
「ユーリ、イルは病み上がりだ。あまりムリをさせてはいけないよ」
 さも親切げに言うと、カイルはユーリを抱き上げた。
「さあ、イルを一人にしてしばらく休ませてあげよう」
「良かったわ、本当に良かった・・・」
 今度はカイルの首にしがみつくと、ユーリは繰り返した。
「へ、陛下・・」
 また、籠もるつもりか?引き留めようとしたイルに冷たい一瞥をくれると、カイルはさっさと背中を向けた。
(また振り出しに戻ったのか?)   

第33話 返す言葉もございません。            作 あかねさん

「カイル良かったね!イル・バーニが生き返って!!
もう、本当にイルが死んだらどうしようかと思っちゃったんだよ!良かったよ!!」
「・・・あぁ、そうだな。良かった良かった。(こいつ、気がついてないのか?)」
カイルの気持ちのこもっていない喜び方に、ユーリはいささか不振を抱いたが、
今はいる・バーニが生き返った喜びの方が勝っていた。
気にもとめなかった、カイルの事なんて。

翌朝。
イル・バーニは、いらいらしていた。
自分の生半可な覚悟のせいで、自分のたてた完璧な計画を180度狂わせてしまった
のだから。
きっと真実に気がついたカイルは、三日くらい籠もるだろう。
なんて事だ!!!!!!逆効果もいいところだ!
「しょうがない、私一人で政務をしよう・・・・・(泣)」
とぼとぼと、政務室に向かうイル・バーニ。
重い扉が、いつもよりも重く感じて・・・・・。
しかしそこで待っていたのは、キックリではなく、カイルだった。
しかし政務に手をつけているのではなく、仁王立ちで待っているようだ。
「やっときたな、イル・バーニ。
あんなうそをついて、何をしようとしていたのかは知らないが、休暇をやろう。
よし、それでいいな?一週間ばかり、休め。」
「は?そんなにお休みをいただいてもデスね・・・・。」
どうしようもないのですが・・・・・・・?
「ふん。お前が、私とユーリを引き離すためにあんなうそをついたことくらいお見通しだ。
だから、休暇ですましてやろうというのだ。」
つまり、早い話が一週間ばかりのやっかいばらいだ。
しかし今のイル・バーニには、返す言葉が見つからなかった。

第34話 イルよ、そんな服どこからみつけてきたんだ??     作 リヨンさん

「ど、どうしたらいいんだ…。陛下を怒らせてしまった。
しかし、私がいない一週間のあいだ陛下は政務をきちんとやりおおせるだろうか?
もし陛下にその力無くば、我が帝国は衰退し、あのかたに皇統を継いでいただくために多くの者たちが流した血と汗は‥
そして命を落とした者達は…。
いや、私は陛下を信じよう!
ヒッタイト帝国を統べる皇帝陛下ムルシリⅡ世にはきっとその力がおありだ!!」
 高い城壁のバルコニーから遠く地平線を見つめ、イル‐バーニはそう思った。
しかし、そのとき気がついた。
「…ということは…。私は必要ないということか…?!」
 イルの額にひとすじ冷や汗が流れた。
「何てことだ、私は無用の長髪‥じゃなかった、無用の長物ということではないか。
大変だ!陛下にお詫びしなければ…
そしてユーリ様とのいちゃいちゃを、今後も御存分にお続け下さるようにお願いしよう!」
 慌てて宮殿の中へと走り去るイルであった。
 そのころ政務室ではカイルとキックリが山と積まれた政務の中でてんやわんやだった。
「キックリ!この書簡の返事はいつまでに出さなければならないのだ?」
「さあ…。それはイル‐バーニ様がやっていたので、私は存じません…。」
「今度の祭事の準備はどこまで進んでいるのだ?」
「それもイル‐バーニ様がご存知だと…。」
「う~ん‥あれもこれもイル‐バーニか!
あいつがいないと何もできないなんて!イルに暇をやるんじゃなかった…。
しかし、これも寵姫におぼれた私の不明ということか。」
 ここで己のふがいなさに気がついた皇帝であった。(やっぱりカイルはこうでなくっちゃ。へにょへにょのカイルなんてカイルじゃないゎ)
 と、そのとき政務室の扉が開きイル‐バーニが入ってきた。
「陛下」深々と頭を下げるイル。
「ん?イル‐バーニか、ちょうどよかった今呼びにやろうと…」
そういいながら振り向いたカイルは、イルのうしろにユーリがいるのに目をとめた。
なにやら体にマントをまいている。
「ユーリどうしたんだ?外出でもするのか?」
「え?ううん、どこも行かないよ。
だってイルが急に政務室に一緒に来てくれって…。
それに着替えてくれって、こんな服よこすんだもん。私のほうこそ、どうしたのって聞きたいよ」
そう言ってマントを少し開き、肩口を見せるとそこにはラムセスの妹ネフェルトのネグりジェのような(皆さん覚えていますか?)透け透けの服があった。
「え――!ということは、その透け透けが全身を覆っているのか?」
想像しただけでクラクラしてしまうカイルであった。
しかし、かろうじて威厳を取り戻したカイルはイルに尋ねた
「どういうことだ?イル‐バーニ」
「はい、陛下。今回のことは大変申しわけありませんでした。
私としたことが、自らの本分を忘れ、恐れ多くも陛下をだまそうとしたばかりか、途中で見破られ危うく全裸で窒息死しそうになりました。
私ごときが陛下に御進言申し上げるなど百年早いと身にしみてわかりました。
陛下、これからはご存分にユーリ様を愛し、本能のままにユーリ様を押し倒し…ではなく、その~ぉ…慈しみ、御子をたくさん儲けられてわが国の永久の繁栄のためにお力をお尽くし下さいます様に…。
政務のほうは、私イル‐バーニが微力ながら精一杯勤めさせていただきますゆえ。
――ということでさっそく、陛下の大切なユーリ様には、これまた陛下のお好みのお召し物を着て頂きましたので、ここは私どもにお任せくださいまして‥さ、さ、ユーリ様と御寝所でも池のほとりでもその辺の隅っこでもご自由にどうぞ…。」
 カイルは一瞬ポカンとしていたが、忠臣イルのせっかくの配慮を無下にするのも気が引け、本当はユーリのスケスケ姿が気になって気になって……
「うん、私は良き家臣に恵まれたことをヒッタイト幾千の神々に感謝せねばなるまいな。ではユーリ、イルのせっかくの計らいだ。遠慮なくそうさせてもらおう。」
と、言うが早いかヒョイとユーリを抱き上げた。


第35話  おいおいおい              作 真美藍さん

執務室からカイルの部屋へむかうユーリは・・・
(カイル?ほんとにこのままベットにばたーんなの?
・・・だいたいイル・バー二がこんなこと許すはずないじゃない!!!
これはきっとイルの作戦だわ!
・・・そうよ!どうせイルがまた、カイルに政務をやってほしくて何かたくらんでるのよ!!!
そうでも思わないとやってらんないわ!
きっとそーなんだから。きっとあとでカイルが痛いめにあうだけよ!
はやくきずいて!カイル!そしてはやくおろして!!!!!)
そう思っているうちに、もうカイルの寝室に・・・。
「カイル~~~~~~!!!これはきっとイルのたくらみよ!
あとであなたが痛いめに あうわよ!!!!!!!!!!!!!」  と、ユーリは言ったが・・・
「そんなことはどうでもいいんだよ、ユーリ。せっかく2人きりなんだから・・・」
と、にやっと笑ったカイルは、そのままユーリを、押し倒して・・・・
そのあと、4日ほど2人は寝所からでてこなかったことは想像できるだろう。
このことについてイル・バーニは、
(あ~~~~あんなことするんじゃなかった!!!こんどこそ本当に私は過労死してしまう~~~~~~~~~!!!!!)
と頭を抱え込む。
これじゃあーーーーまた元の黙阿弥・・・堂々巡りと・・・。