いつもの風景 その4

注)いつもの風景 その3 第17話からの分岐点からのリレー小説です
   いつもの風景 その3をお読みになった方は18話からどうぞ

 第1話いつもの風景             作 ひー  


* 夜が白みはじめ、小鳥のさえずりが聞こえ出す頃、目覚めたユーリは自分を優しく抱くその腕の中からそっと抜け出した。
「もう起きたのか?」
自分の腕を外されたことに気がつき目覚めたカイルは不満そうに言った。
「ごめん・・・起こしちゃった?」
「今日は政務も少ないからもう少し寝ていよう。」
謝るユーリをカイルは強引に引き倒そうとした。
「ほんとにごめんなさい、今日は私忙しくて・・・」
その腕からスルリと抜け出しユーリは、寝室から出てさっと行ってしまった。
薄情な妻の後姿を見つめながら、もてあました身体をベットに投げ出し、カイルは舌打ちした。

第2話 いつもの風景その後           作 匿名さん

「ユーリ、今日は忙しいと言っていたが、何をしているのだ?
ユーリのしていることは私は全部把握していると思ってたが・・・・」とカイルは、ユーリの匂いの残るベットの中で体を横たえた。
それから、カイルはフト目を覚ました。
すると目の前にいつも見なれた瞳が二つ覗いていた。
カイルははっと息のを飲み、我を忘れた。
「カイル、御誕生日オメデトウ」
すると部屋の中がざわざわと騒がしくなった。
「皇帝陛下、お誕生日おめでとうございます」
イル・バーニ、キックリ、ハディ、リュイ、シャラ、カッシュ、ミッタンナムワ、ルサファ、ギュゼル姫、ジュダ皇子、そしてラムセスとラムセスの妹の姿も・・・・
「おいっ!何をぽか~んとしてるんだ。
こうして俺様がわざわざエジプトから妹と一緒に祝いに来てやったんだぞっ!御礼の一つでも聞かせてもらてないもんだなっ!」
と、ラムセスがカイルの横に立ち、肘でカイルのわき腹を小突いていた。
それを見ていた、ユーリはくすくすと笑っていた。
いつぞやは、あんなにオリエント覇権の為に戦っていた二人が、今はこうして・・・・・
ユーリの目から一粒の涙がこぼれた。。。。
「さぁさぁ、ユーリ様、おめでたい席で涙は禁物ですわ。
さぁ涙をふいて皇帝陛下の誕生日をあんなに盛り上げようっておしゃってらしたでしょ」とギュゼル姫がそっとユーリの目から涙を拭いてくれた。

第3話 パーティー開催                 作 ひー

にぎやかにパーティーがはじまった。
「まさかお兄様の元婚約者が、ヒッタイトの皇妃様に納まってるとは思わなかったわ」
そう言ってユーリに話し掛けたのはラムセスの妹であった。
「久しぶりね、ネフェルトさん、おかわりなくお元気そうで・・・」
ユーリは懐かしそうにネフェルトと軽く抱き合った。
「おいおい女たちだけで盛り上がるとは薄情だなゆーり」
「元婚約者に再会のキスでも贈ってくれないか」
そう言ってラムセスはニヤリと笑いユーリの手をとった。
「ばか・・・何言うの」
そう言ってユーリの手のひらがラムセスの頬をかすった。
「相変わらずの反応だな」
「相変わらずはお前の方だ、人の妃に手を出さないでもらいたい」
カイルとラムセスの間に再度火花が散っていた。

第4話 仲良し、こよし?                作 あかねさん

「人の后たって、もしかしたら俺の物かもしれなかったんだぞ」
ラムセスと、カイル。
おめでたい席だというのに相変わらずけんかばっかり。
そんな2人をはじめはみんな無視していたのだが、一向に終わる気配はない。
「何を言っているんだ。ユーリがお前なんかを選ぶはずないだろう」
「はっ!わかんねぇーじゃねーか」
「今はわたしの后だ!」
「じゃぁ、あと一年したら俺の后な!」
2人の間には、火花がバチバチ・・・・・。
そんな2人を見るに見かねたユーリ。
「もー、けんかは止めなよ。おめでたい席なんだし・・・」
「「いや!こいつをしとめるまでは!!」」
ユーリは2人に向けて、ふと言葉を放った。
「けんかするほど、仲がいいってね」


第5話  永遠に・・・                   作 金こすもさん

「冗談じゃない! ユーリ」
「そうだぞ~、ユーリ。
この喧嘩は、本気なんだ。おれの輝かしい未来を賭けているんだ~。
それなのに、仲良しとはなんだ! 」
ふたりの険しい表情に、ユーリは小さな舌を出して笑った。
「だって! おふたりさん。顔を見合わせれば、楽しんでいるんですもの。
あたし、 うらやましいな~と思ってさ」
「・・・・・! 」
見つめあったふたりは、ふんと顔をそらし、共にワインカップを持ち高くかかげた。
「おれたちの女神、ユーリに乾杯! 」
「おまえは関係ない。私の永遠な后ユーリに乾杯!
 イシュタルの愛とご加護が、我らヒッタイト帝国に注がれるように~」
「永遠な后か。ちぇっ、キザな奴。おいユーリ。
明日おれは帰るが、おまえを連れて行くつもりだからな。用意しておいてくれよ」
「きさま~!! 」
ふたりの大いなる喧嘩は、永遠に続いていくようだ。
ユーリもネフェルトも、側近たちも深い溜め息を吐いていた。

第6話 仲好し2                      作 友美さん

「あほらし・・・・・、かってにいってなさいよ・・・。まったく・・・・・。
ねえ、ネフェルトさん、ハディ達と向こう行って,はなしましょう。
おばかさんたちはほっといて。」
「そうね、ユーリ様、兄様と、皇帝陛下は、2りでなかよくやってるから、ほっといても大丈夫よね」
「ユーリ様、ネフェルト様、あちらのほうに、お席をご用意しております。
どうぞ、あちらへ」
「おいこら、俺を無視するなっ!」
わすれられて、怒るラムセス・・・・。
「そうだっ!ユーリ!おばかさんとはなんだ!すくなくとも、おまえよりかは、頭は良いつもりだっ!」
「ごめん、冗談よ・・・・・。ごめん、カイル。」
「わかればいいんだよ・・・・かわいいやつだな・・・・・・・」
「いやだわ、みんないるのに・・・・。」
みんないるのに、イチャつく、二人・・
「あほくさ・・・・、おいこらっ!ムリシリぃ!俺のユーリと、
 いちゃつくんじゃねえっ!」
「だれが、おまえのユーリだっ!」
「だれが、あんたの、ものなのよっ!」
こえをそろえて、怒る二人・・・・・・。
「相変わらず、なかがいいわね、カイル・・・・・。おぼえてますか・・・・・?
 母よ・・・・・・。」
「・・っ母上・・・・、どうして・・・・・・・・・ここに・・・・・・・・・??」

第7話  ・・・はじめまして・・・              作 あかねさん


「・・・まずは、初めまして。そして、久しぶり。
今日、わたくしがここに 現れたのは・・・ちょっと、あってね。」
カイルが『母上』と呼んだ存在を見るのは、ユーリはもちろんエジプトからの2人もはじめてだ。
しかし、それ意外の人たちは、声をそろえて呼んだ。
「ヒンティ・・・皇妃様・・・。」
と。
「わたくしはもう、”皇妃”ではありません。・・・ユーリ、初めまして。
 そして、カイル。久しぶりですね。」
みんな、唖然としていた。
とっくになくなったはずの、前々帝の皇妃、ヒンティーが目の前にいるのだから。
特に、唖然としていたのはカイルだった。
「・・・母上・・・。どうして・・・・。」
「今日はあなたの誕生日でしょう。
・・・わたくしからも、特別にプレゼントをもってきましたの・・・。
ユーリ、カイル。いつまでも、幸せに。・・・そして、側近の
方々・・・。いつまでも、2人をよろしく・・・・ね・・・・。」
そういうと、ヒンティー皇妃は消えてしまった。
なにがおこったかわからない、その場にいた人たち・・・・。
呆然としていて、何分経ったかもわからない。はじめに口を開いたのは・・・。
「母上に、もう一度会えた。そして、ユーリを見せることができた。それだけで、
 わたしにとって何よりのプレゼントだ・・・。」
カイルは、目を潤ませながら言った。

その何日かご、ユーリ・イシュタルはムルシリ2世の子を懐妊した。

第8話 デイル皇子ご誕生                   作 まゆさん

「ずいぶん大きくなったな」
カイルは大きくなったユーリのお腹に耳をへばりつけてそう言う。
そう…ヒンティ皇妃が現れた数ヵ月後ユーリはカイルの子を妊娠した。
そして3日後には出産予定日である。
「おっ!動いた!!元気がいいな」
嬉しそうなカイルにユーリも微笑む。
「ユーリ…よくここまでがんばったな」
「ありがとうカイル…あなたの子供が産めるなんて私しあわ…っつ!!」
ユーリは急にお腹を抱えて苦しそうなうめき声を上げた。
カイルはハッと気が付くとすぐにユーリを抱き上げた。
「まさか陣痛なのか?」
「う…ん…もうすぐ産まれてくるみたい…」
カイルは慌ててユーリを寝室に運び3姉妹を呼びつけて侍医を呼んだ。

「ユーリがんばれ!」
カイルはユーリの手を握り締めて言う…カイルは自ら立会い出産に望んだ。
仲睦ましい夫婦を引き離すわけにもいかず侍医も産婆も3姉妹も黙っていた。
そして…
「ほぎゃゃ!ほぎゃゃ!ほぎゃゃゃ!!」
(産まれた?……)戸惑うカイル。
「陛下!おめでとうございます男の子でございますよ!」
産婆が産まれた赤子を母体と離し湯で洗い産着を着せてカイルに渡した。
カイルは産婆に言われたとおり…赤子の首に手を当てて腕に抱いた。
可愛らしい母親似の黒髪…
瞳の色は漆黒…
皇太子デイル・ムワタリ誕生。
初めての我が子の泣き声にカイルの瞳からは嬉しさからの涙が落ちている。  
第9話 知らなかった               作 ヒロさん

赤ん坊がこんなに手がかかるものだったなんて。
ため息がでる。
カイルは知らなかったのだ。

二人で食事をしていてもデイルが泣けばユーリは「デイルが泣いているわ」と、とんでいってしまう。デイルがいつまでも寝なければ、ユーリはなかなか寝室に、戻って来てくれない。
侍女はたくさんいる。
でも「私できる限り自分の手で育てたいの」とユーリは言って、ほとんどのことは、自分でやっている。それは、かまわない。かまわないのだが・・

デイルを抱いてあやしながらカイルは言った。
「なあデイル、今日はとうさまにかあさまを貸してくれないかなあ」
デイルは不思議そうな瞳で父親を見つめていた。

第10話  妻から母へ               作 ひめもすさん 

「まだ赤ちゃんなのよ。なに言ってるの?!」
ユーリは呆れ顔でカイルに言った。
「ユーリ、そこにいたのかい」
愛妃の姿を見て微笑むカイルであったが、ユーリはデイルをカイルの手から取り上げると、
「お父様は子供みたいね~~。デイルはうんと甘えていいのよ。
お母様がずっと一緒にいてあげるから!(ちゅ)」

妻から母に変わってしまったユーリは、カイルのことなど二の次である。
少なくともカイルはそう感じていた。そして今、ひしひしと実感している。

あぁ・・・。帝国の安定のためには皇太子が生まれたのは嬉しい限りだ。
いや、帝国の安定なんて関係ない。
デイルが生まれた事は本当に幸せだ。
「でも、でも!!!!!!」悩む皇帝の政務は当然はかどらない。

一番の被害者はいつものメンバー。
イル・バーニーは、子持ちのキックリに尋ねた。
「子供が手がかからなくなるのはどのくらいになってからだ?」
「え?うちは二人母親がいますから~。
 そう、手がかかるようには見えませんが・・・。
 でも、子供はいくつになっても手がかかるものですよ。
 そこが可愛いいんですけど。(でれ)」
「・・・・・《ぶち》
 そうか、手がかかっても幸せか!
 それでは手のかかる政務をお願いしようじゃないか!!!」

切れたイル・バーニーは叫ぶキックリの声を背にして執務室から出て行った。

第11話 ユーリ争奪戦!?            作  妃 瑠佑華さん

「カイル、イル・バーニが、カイルが政務しないって困ってたよ。
政務しに行ってきたら?デイルが可愛いのはわかるけど。」
「確かにデイルも可愛いが、お前の方がもっと可愛いよ。
だから、今ユーリを独り占めしてるデイルに、ユーリを貸してくれるように頼んでるんだよ。
政務より、お前の方が大事なんだ!」
「な、何言ってるのよ!////ね、政務終わったら今日だけは、三姉妹たちに、デイルを任せるから…。
政務してこなきゃ、そうしないよ。」
「本当だな!!後で嘘だったなんて言わせないからな。
じゃあ、政務しに行ってくる。あ、そうだ今夜は寝かせないから覚悟しておくんだな。」
「もう…////」
相変わらずの2人である。
一方、カイルの執務室では・・・
「陛下、どうなさったのですか?喜ばしい事に、陛下が、自分から政務をバリバリこなされるとは…
皇妃陛下が立后なされてからというものの、皇妃陛下に没頭されて、デイル様がお生まれになってからは、お二方に没頭されて、私が引きずってこなければ、自分から政務をこなされた試しがなったのに。」
「うるさいぞ!イル。ほら、政務はこれで終わりじゃないだろう。次は?」
「「さては、皇妃陛下が…。」」
「こら!また余計な事を考えていただろう。」

第12話 気持ちの問題                   作 あかねさん

・・・時間は刻々と過ぎていって・・・夜。
カイルは今日、凄いスピードで政務を終わらせた。
これも、すべてユーリのお・か・げ・・・?

「ユーリ、デイル。」
後宮のユーリの部屋へ一直線に向かったカイル。
そこには、愛しい姫と愛しい子供の姿が当然のように・・・・なかった。
「~~~~!?ユーリ、ユーリはどこだ!」
とうぜんぱにくるのはあたりまえのこと。
カイルは後宮中を探し回ろうとした・・・・が・・・。
「ユーリ様でしたら、デイル様を連れて陛下のお部屋にいますよ」
・・・ほっ。
なんだ、先に自分の部屋に帰っていれば良かったのではないか。
そうと決まったら、すぐに自分の部屋へと戻る。
ばたんっ。
「ユーリ、デイル」
「カイル、おかえりなさい!」
今度はちゃんと、2人ともいてくれた。
「ユーリ、ちゃんと政務は終わらせたよ。・・・約束は、守ってくれるよな?」
「(//////////////)そりゃ、まぁ・・・」
「そうと決まれば、三姉妹!デイルをよろしく!!・・・さぁ、て、ユーリ」
ユーリは思った。
「「カイルって、何か目的があるとちゃんと政務ができるんじゃない。
  気持ちのもんだいよ~!!」」


第13話   反省してね                    作 しぎりあさん

「ユーリ、会いたかった・・」
 抱きつこうとするカイルから逃れると、ユーリは用意した粘土板を取り上げた。
「・・・なんだ、それは?」
むっとしてカイルが訊ねる。
今日一日、どれほど頑張ったか。ご褒美くらいくれてもいいだろうに。
「ね、カイル、誓約書、書いて」
せいやくしょ?」
 いったいなんの誓約だ?
不承不承、渡されたそれを手に取った。
なんの誓約でもいいから、とりあえずさっさと済ませて、ユーリとの時を楽しむつもりだ。
「ん~とね、『私、ヒッタイト皇帝カイル・ムルシリは、公務をしっかり果たします』」
「ユーリ?」
 なんの、冗談だ。カイルの眉がつり上がる。ユーリは澄ました顔で続ける。
「『公務の最中は、後宮を覗きに来たりはしません』」
「別に、公務の最中ってわけじゃないぞ」
「『息子にヤキモチ焼いたりしません』」
「ヤキモチだと?
違う、お前があまりデイルにかかりっきりで、私の妃としての役目を忘れているのではないかと・・・」
「とりあえず以上のことを守れないと、私、デイルを連れて出て行っちゃうからね」
出ていく、という言葉にカイルが反応した。
「出ていく、だと?そんなことは、許さん!」
粘土板を投げ捨てる(あ~あ)。
粘土板は生だったので、ぺちゃっという音をたてて床にへばりついた。
「あっ、ひどい」
かがみ込んで拾おうとしたユーリの身体をやすやすと抱き上げると、そのままベットに連れ込む。
「ひどいのは、どっちだ?私の心臓を止める気か?」
「・・あのね、カイルが政務をほっぽりだすと、私が『皇帝を堕落せしめた』とか、言われちゃうんだからね」
ユーリは、カイルの両頬をぶにぶに引っ張った。(おいおい)
「お前となら、落ちてもかまわない・・」
「違うでしょ~っ!!」
叫んだユーリの声に被さるように、大きな声・・・。
「・・・まさか・・」
の、まさか、赤ん坊の泣き声だ。
「・・デイル!」
言うが早いか、ユーリはカイルのそばをすり抜けて戸口に駆け寄った。
「ハディ、どうしたの!?」
取り残された皇帝陛下は、シーツの中に沈没した。 


第14話  強硬手段                    作 ひねもすさん

デイルの泣き声で部屋を飛び出たまま、ユーリは明け方近くまで戻ってこなかった。
戻ってきて後も、すぐに眠ってしまったのだ。

一人、悶々とする若き皇帝は、強硬手段に出ることにした。
なんと言ってもカイルはこの国の最高権力者である。

次の日、カイルは勅書を出した。
『皇妃は、皇帝の許可なく皇子に会うことはできない。』

賢帝とも思えぬ勅書であるが、皇妃以外の人間にとっては何の害もない勅書のため、反対する者もいなかった。
当の皇妃を除いては。

勅書を見たユーリは激昂して執務室までやってきた。
「カイル、この馬鹿げた勅書は何なの!母親と子供を引き離すなんて、あなた何に考えてるのよ。」臣下の前であるのも忘れて夫婦喧嘩の臨戦体制に入っている。
「おまえが昨日、約束を破るのが悪い。」
「本当にデイルと私を会わせない気なの!?」
怒りのため声が低くなっているユーリ。
しかし、昨日のお預けにかなり不満のあったカイルは動じなかった。
「皇帝の命だ。おまえだとて従ってもらう。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・分かりました。
 許可していただけるまで、デイルには会いません。そして陛下にもね!」

ユーリはそう言うとその場を離れて行った。
離れ、離れて、アリンナまで行ってしまったのだ!!!


第15話  ため息                  作 匿名さん


イル・バーニはため息をついた。
いったい、どうしてこんなことになってしまったんだ。
人の上にたつ器量、自制心、自戒心を持った女性を皇妃に迎えれば帝国は安泰だと思っていたのに。
皇帝が皇妃を愛しすぎるのがいけないとは、言えないが限度というものがあるんじゃないのか?
そういえば・・・・とイルバーニは思い出していた。
デイル皇子が生まれたときも、子供のことよりもユーリ様のことを心配していたっけ。
「お生まれになりました」と告げた医師は当然「男か女か」と聞かれると思っていたのに、
「ユーリは無事か」と聞かれて驚いていた。
はあ 再びため息をつく
歴代の皇妃は、こんなに子育てにかかわろうとしなかったしな。
ユーリ様は自分で育てるのが当たり前のように思っておられるが、・・・
もう少し陛下のこともかまってくださらないと・
ユーリ様、デイル皇子も大切でしょうが、陛下のこともお忘れなく・・・・・

第16話  サイテー!!!!!          作 友美さん

「なんなのよっ!!陛下は!!!
子供が泣いたら母親は普通は飛んでいくわよっ!!!
バカじゃないの!!!!あーもー何考えてんだろ・・・あの人は・・・・・。
それより・・・・ディルはどーしてるかなー・・・・・
(何よ・・・やっと無事に生まれてきた子なのに・・・・・陛下は嬉しくなかったの・・・・・)」
「ユーリ様。大丈夫ですわよ。
後宮には沢山の女官がおりますもの。
それにしても今回の陛下のなさりようは非道ございますわね。」
一緒に付いてきたハディが言う。
「ですから,陛下のかご自分の過ちに御気づかれるまで,
アリンナでゆっくりお過ごしくださいませ・・・・・。」
リュイとシャラが声をそろえて言った。
「そうね。でも・・・サイテーナ考えを,間違えって気づかなかったら・・・・・・
私・・・、ディルといっしょにアリンナでお世話になってもいいかなー?????」
「それはかまいませんが・・・って・・そんなことありませんわ。大丈夫!!
陛下は絶対気づいてくださいますわよ。」
「-・・わかんないよ・・・。ハディ、ほんッッとに気づくと思ってんの????」

第17話  なんとかに、つける薬          作 しぎりあさん

カイルは、切れそうだった。
ついでに、泣きそうだった。
けれど、皇帝が泣くわけにもいかないので、ただ執務室の中をうろうろ歩き回っていた。
 イル・バーニは切れかけていた。
泣き言をいう余裕はすでになかった。
ただ、黙って、無言で皇帝を圧迫しつつ、本日のノルマを積み上げていた。

「・・・陛下」
「なんだ!!」
 冷たく危険をはらんだ空気に、部屋にいた書記官は本当に泣いていた。
泣きながら、記録を取っていた。
「ご裁可を」
「・・そんなもの・・」
適当にやっておけ、と言いそうになって、カイルは次の言葉を飲み込んだ。
考えてみれば、現状を打破する策は、イルぐらいにしか出せないだろう。
ここで、彼の機嫌をこれ以上そこねるのは、よろしくない。
「う、うむ」
 どっかりと腰を下ろすと、涙で顔をゆがめた書記官からタブレットを受け取った。
泣きたいのはこっちだと思いながら(泣かせたのは、誰だ)。
 小麦の輸送についての許可証に印章を押しながら、イルを盗み見る。
平然としているように見えて、じつは青筋がたっている。
なんとかして、イルをなだめて、ユーリを取り戻すのだ。
そうでないと、ヒッタイトは大丈夫かも知れないが、自分がほろぶ。
「あ~イル・バーニ」
「陛下。今日中に、すべて、目を通してください」
 きっぱりと、イルが言った。あまり、きっぱり言われたので、かちんときた。
「皇妃が不在なのに・・・国政が滞り無く済むと思うか?」
「皇妃陛下は、ご不在ではありません。
アリンナの太陽神殿にて神事の執行と、鉄の管理をなされておいでです」
 書記官が耐えきれなくなって、椅子から転がり落ちて、床に突っ伏すと、声をあげて泣き始めた。2,3日うちに辞表を出すかもしれない。
「皇太子は幼い、皇妃は宮中にあるべきではないのか?」
「陛下の許可なくば、皇太子殿下には拝し奉れないのであれば、皇妃陛下が宮中にあらせられる必要もない、と存じ上げますが?」
 慇懃無礼な態度に、タブレットを投げかけたが、カイルは秘かに10数えて、耐えた。
ユーリを取り戻すためなら、どんなことにも耐えて見せよう。
砕けんばかりにタブレットを握りしめると、吐き出すように言う。
「…もうよい、イル。ユーリを連れ戻す方法を、考えろ」
「政務を、済ませられましたならば」
「策が、あるのか?」
「・・・陛下次第ですな」


第19話  危険思想              作 ひねもすさん

「イル。策があるのか!?あるなら教えろ!!」
「ただ今、申し上げたように、政務の進み具合次第ですね。
お口を動かすより、手と頭を動かして下さい」美形だが人相がいいとは言い難いイルの顔がますます無表情になる。
「イル。そう言う物言いはかえって気になるんだ。頭が働かなくなる。策があるのか、ないのかだけでも申せ!」
堪え性のなくなったカイルはそれでも食い下がる。

イルは思わず危険な考えに捕われてしまった。
(皇子であられた頃はもっと堪え性があったはずなのに。
あの頃、陛下は自制心、自戒心を持つ未来の皇妃捜しをしていたが、今じゃ、ユーリ様に自制心、自戒心を持つタナバル捜しをしてもらった方がいいんじゃないのか?!)
忠臣とも思えぬ危険思想がイル・バーニーの心にちょこっと浮かんだが、これも、カイルが政務を溜めすぎたためである。その皺寄せがすべてイルにきてたんだからしょうがない・・・。
彼の理性も限界点だったのだ。

「もちろん、ございます。必ずや、皇妃陛下が戻られる策がございます」
「本当か!」
「はい。ですから手と頭を動かしてください。」再びイル・バーニーのこめかみがぴくつきだした・・・・。


しばらくの間、カイルはおとなしく政務に励んだ。
とにかく政務を片付けなくては身動きのとりようがない。
食事も睡眠も政務室で取るカイル。
その甲斐もあって、ユーリがアリンナへ行ってから12日目の朝、政務はほぼ片付いた。

その日の朝、王宮にカイルの声が響き渡った。
「イル!イル・バーニーはいるか?」
早朝からきっちり髪を結ってイルが現れた。
「陛下。お呼びでございましょうか。」
「約束だ!ユーリ奪還の策を聞かせろ!」
「・・・・・・・・・・・・・(奪還?皇妃様はご自分でアリンナへ行かれたのだが・・)」
「イル!よもや策がないとは言わせぬぞ!!」
睡眠不足のせいか?はたまた欲求不満のせいか?
目が血走っているカイルはなかなかの迫力である。

「皇帝陛下、私めがアリンナへ皇妃陛下をお迎えに上がります。」

第20話      失地挽回                              作 しぎりあさん

「皇妃さま、ハットウサより皇帝陛下の御使者が参られました」
皇帝と聞いて、ユーリが露骨に不機嫌そうな顔をした。
「・・・お会いしません」
「皇妃さま!!」
 そばに控えていたハディも咎めるように見上げる。
「ユーリ様、よろしいのですか?」
「いいよ、あたしカイルの話なんか聞かないから」
 つんと、顔を背ける。
ハディはため息をついた。
母親になっても、意地っ張りなところは変わっていない。
問題なのは、皇帝までもが意地っ張りになってしまったということか。
一種の赤ちゃん返りかも知れない。
「ですが、このままではいつまでもデイル様に会えませんよ」
「うっ・・」
 デイルの名を聞いて、ユーリの表情が曇った。
「どうしているんだろう・・・まさかカイル、いじめてないよね?」
 カイルとて父親なんだから、赤ん坊をいじめるはずはない、のだが、ユーリは真剣に心配していた。
「だめだわ、このままじゃ。うまいこと後宮からデイルをさらって、そのまま身を隠さないと」
 皇太子誘拐計画を真剣に考えているのは、まぎれもなくこの国の皇后だった。
「・・・とにかく、御使者にお会いなさいませ。そうすれば、後宮の情報も得ることができるでしょう」
「そ、そうよね。作戦実行には、綿密な下調べがいるもんね」
 ハディは、ため息をついて女官を振り返った。
「それで、御使者はどなた?」
 犬も喰わない夫婦喧嘩の仲裁役だ。
使者には側近が立っているはず。
こんな、馬鹿馬鹿しいことに、あのイル・バーニが他の者を使うとは思えない。
 賢帝と評判の現皇帝と、女神の化身と評判の現皇后の実体を他人に知られるわけにはゆかないのだ。
「はい、イル・バーニ様です」
「まあ・・」
 なんと言おうか。
皇帝の懐刀、別名尻ぬぐい役のイルが動くとは。
いよいよ、真剣に事態の収拾がはじまったらしい。
皇后陛下はお会いする、とお伝えして」
「はい」
 女官が退出すると、ユーリの衣装を整えながら、ハディは言い聞かせた。
「イル・バーニ様なら、必ず良いお知恵を貸して下さるでしょう」
「それって、デイルを連れ出せるってこと?」
 ユーリの頭には、デイル誘拐計画しか無いらしい。
自分が後宮に戻ることは、考えないのだろうか?
「・・・はあ、それもあるかもしれませんね・・」
 すべては、イルの手腕にかかっている。
皇帝を説き伏せ、皇后をなだめる。
二人に、以前と同じ、目も当てられないくらいラブラブに戻ってもらわなくてはならないのだ。 

第21話  以前と同じには            作 妃瑠佑華さん

イルバーニは、ハディとは、少し違う事を考えていた。
早くもとのお二人に…戻ってもらっては困るのだが、
(あんなラブラブ状態に戻られたら政務が進まないのは同じだ。)
しかし、それにはどうしたらいいものか…
あの皇帝陛下は、ほっといてもラブラブ状態にもっていくし…
ここはひとつ、皇后陛下に、何か策をお伝えして実行していただかなければ。
どんな策がよいものか。

「イルバーニ様、皇后陛下がお会いになられるそうです」
部屋にきた女官が、そう伝えた。

皇后陛下、お久しぶりでございます。本日は、皇帝陛下のご伝言を持ってまいりました」
「皇帝陛下はなんて?」
「自分が悪かった。早く王宮に戻ってきてほしいとの事にございます」
「デイルの事についてはなんて言ってる?まだ、勝手に会っちゃだめとか言ってるの?」
「はあ、その事については何も・・・」
「じゃあ、戻らない。それとも、あなたが私がデイルに勝手に会っちゃいけないとかいうわけのわからない勅書を取り消せる策があるっていうんなら話は別だけど…。」
「そうおっしゃると思って、策を持ってまいりました。」


第22話    はかりごと多きは、勝ち    作 しぎりあさん

「策って・・・なに!?」
 身を乗り出すユーリの姿にほくそ笑む。
 要するに、カイルが政務の時間の間は、ユーリに会えないようにしてしまえばいいのだ。
そうすれば、いやでも政務に集中せざるを得なくなる。
それ以外には、おおいにいちゃついてもらって結構。
帝国に皇嗣を与えることは、皇帝夫妻の重大な義務でもある。
「まず、皇帝陛下に明文化した要求を出されるのです」
「明文化って・・・字を書けってこと?」
「はい、法にのっとった、正式な文書です」
 イル・バーニはうなずく。すでに袖口からは筆記用のペンを取りだしている。
「まず要求なさるのは、先の勅命の撤回」
「そ、そうよね。母親が子供に自由に会っちゃいけないなんて!!」
 ユーリは、顔を紅潮させてうなずいた。
「つぎに、太陽が出ている間は、皇妃は誰に許可を得ることもなく、御子と過ごせること」
「デイルと過ごすのはいいけど・・陽の出ている間って・・」
「こちらからの提示条件として、日没から、日の出の間までは皇帝の許可無くお会いすることはない、と」
「夜、デイルと会えないってこと!?」
 憤慨してユーリは立ち上がった。
「なによ、それ!!」
「ユーリ様、譲歩無くして和議などあり得ませんぞ。それに、殿下に全く会えないわけではありません。皇帝陛下の許可さえあれば」
「カイルが許可するはず無いわ!」
 腹立たしげにいうと、ユーリは歩き回り始めた。
「カイルはあたしがデイルといると、いやな顔をするの、自分の息子なのに!あたしはカイルの子供が出来て嬉しかったのに、カイルはあたしの子供はいやなんだわ。いつだって、邪魔者にして、ふたりっきりになりたい、ってばっかり!」
「陛下のお気持ちもご拝察なさいませ」
 粘土板にペンを走らせながらイルは言った。
「殿下がお生まれになるまでは、陛下方は片時も離れずご一緒でした。それが、ユーリ様は母親になられると殿下にかかわりっきりで、陛下にお顔をお見せにならない。ようやく、お二人の時間を持たれたと思っても、すぐ殿下のために飛び出してゆかれる。これでは、陛下がユーリ様の変心を疑われても仕方がないことですよ」
「変心って・・あたしが!?」
 ユーリは立ち止まる。憤慨してイルをにらむ。
「あたしが、カイルを嫌いになった、って言うのね?ええ、嫌いよ!こんなことするカイルなんて。あたしはカイルの子供が欲しかったし、カイルの子供しか欲しくなかったわ、それなのに」
「その御子にお会いしたくはないのですか?」
 ユーリは、唐突に座り込んだ。ハディがあわてて駆け寄る。
「・・会いたいよ」
 イルが、粘土板をさしだす。
「では、サインを。昼の間は陛下は御政務があって、お二人を邪魔されることはありません、折れるのは、夜だけです」


結局ユーリはイルの提案にサインをしたのであった。
「本当にこれで、馬鹿げた勅書は取り消せるのかしら?」
と、ユーリは不機嫌に言う。
「大丈夫です。これなら皇帝陛下もわかってくださるでしょう」
と、イルは自信を持ちながら言うが本当にカイルは納得するだろうか・・・・。
「では、これを陛下にお届けしますので、私はこれで・・・・」
と、イルはハットゥサに帰っていった。
そして、カイルは・・・・・・・?

第23話  おおごと                 作 しぎりあさん

さて、ハットウサに戻るとすぐにイルは元老院会議を招集した。
皇后から皇帝への要求書を突きつけるためである。
正式な書式にのっとった要求書。
いかな皇帝であるとも拒めない。
 以前にカイルの出した勅命でも、どうでも良かった議員達だ。
皇后の要求など、論議するまでもない。
 夫婦喧嘩は勝手にやってくれ。
 ユーリの要求は満場一致で裁可され(皇帝のみ反対)、華々しく令として施行されることとなった。
「どうせ、夜はユーリ様、ご一緒されるのですから」
 イルがささやくと、カイルは苦虫をかみつぶしたように黙り込んだ。
『皇后は、日中は皇太子と過ごし皇帝はこれを邪魔できない。ただし、日没後は皇帝と過ごし、許可なく皇太子と会うことは出来ない』
 これで、カイルは昼は職務に専念せざるをえなくなる。
 
 さっそく、アリンナに伝令が走り、すぐさま皇后一行がハットウサにむけて発った。

 城門で出迎えたカイルを、ユーリはつんと無視し、さっさと後宮のデイルの部屋に行ってしまった。日中だったからだ。
カイルがどんなに悔しがろうが、二人がいる部屋に入ることは出来ない。 

    
第24話    そして日が暮れて           作 ポン子さん

ユーリはデイルと久しぶりに母子の幸せな時間を過ごした。
デイルもとてもうれしそうだ。
カイルはもちろん政務に追われている。

そして日が暮れてきた。
カイルが部屋に入ってきた。
「さぁ、約束の時間だ。ここから先は私の許可なくデイルに会うことは許されない。」
フフン、ここからは大人の時間だ・・・
カイルが心の中でそくそほほえむ。
「デイルをこっちへよこすんだ。ハディ、ハディはいるか?デイルを連れて行ってくれ。」
もちろんユーリがすんなりデイルを渡すわけがない。
「ちょ、ちょっと待ってよ。デイルは渡さないわよ。ほら、デイルだってまだ私といたいみたいだし・・・」
「それに、それに・・・」
久しぶりに会えたデイルと別れなくてはならないかと思うとユーリは泣き出しそうになった。
大事なユーリの悲しい顔は見ていられなかった。
「私だって、おまえと一緒にいたい。デイルとだけべたべたするのは面白くない。」
子供のようにすね始めるカイル。
「・・・・・・。そんなこと言ったって、カイルは父親なんだよ・・・。」
そうだ、いいことを思いついた。カイルの顔がにやけてくる。
「日没後の面会は私の許可が要る。何も一緒にいてはいけないとは言わない。私に
10回キスをしたら、デイルを10分抱くのを許可する。」
「ふ~ん、1キス1分な訳ね・・・。」
となるとデイルと1時間一緒に過ごすためには60回のキス。
朝までとなると・・・。気が遠くなる。
「まとめて払うこともできるぞ。私と2回愛し合ったら一晩のボーナスだ。」
これは我ながらなかなかいい考えだ。
「2回?う~ん、1回じゃだめ?」
ユーリが交渉を始めた。
「だめだ、2回だ。3回でもいいくらいなのを2回といっているんだ。これで合意しろ。」
「じゃあ、1キス10分。」
「大負けに負けて、1キス5分だ。」

久しぶりにユーリとたくさん話せてうれしいカイル。
どのあたりで譲歩してやろうかな?
あまりやりすぎるといけないし・・・。
そんなことを考えながら、まだ1キスもしないまま30分間デイルはユーリに抱かれているのであった。

第25話   カイルの幸せの時間            作 華蓮さん

30分後、デイルが眠ったので、ユーリはハディにデイルを渡した。
「さぁ、ユーリ。デイルと30分一緒にいたわけだから、約束どおりキスを6回してもらおうか。」
カイルは、ユーリにうれしそうに言った。
「・・・本当にやらないといけないの?」
「それが日が暮れてから、デイルと一緒にいる条件だと言っただろう。
別にキスじゃなくてもいいんだぞ。私と2回愛し合えばいいわけだから。」
「・・・わかったわよ。キスをすればいいんでしょ。」
ユーリは、顔を赤くしながら、カイルにキスをし始めた。
カイルは、ユーリのいつまでたっても顔を赤くする初々しい態度がとても好きた。
そして、ユーリが3回目のキスを終えると、カイルがユーリにキスをしかえしてきた。
「カ、カイル!」
「わたしにキスしてもらってばかりじゃ悪いから、お返しをしてやる。」
と言って、カイルはユーリにキスの雨を降らせた。
結局、こうなるんだから。
カイルって自分の欲求を抑えられないのかな。
自分の子供のデイルにまで、嫉妬しちゃってるし。
明日も、夜デイルと会うには、カイルにキスしないといけないんだよね。
どうしよ~!!
ユーリが頭の中でいろいろ悩んでいたとしても、カイルは、とても幸せだった。
(明日は、何分、デイルと一緒にいると言うかな?)

第26話   ユーリの幸せの時間              作 しぎりあさん

今日は、日中デイルに水浴びをさせた。
最初は怖がっていたデイルだったが、やがて水をはね上げてはしゃいだ。
きらきら光るのが嬉しかったらしい。
 いつもはユーリがあやして歌わないと眠らないのに、今日はミルクを飲む途中から、すやすやと寝息をたてはじめた。
(せっかくだし、今日のうちに明日の夜の分をかせいでおこう)
 ユーリは思った。
ある種の、下心である。
 珍しくドレスアップをしてカイルを迎える。
「今晩は、いつにもましてと美しいな」
 カイルは満足そうだ。
ベッドに倒れ込みながら、カイルの首に腕をまわす。
 デイルは、ミルクの途中で眠ってしまった。
だから、夜の間に空腹で目を覚ます心配があった。
そのため、隣室でハディをつけて待機させている。
 デイルが泣いたら、カイルにキスをして、抜け出すつもりでいた。
(それに、上手くしたら・・・・終わってるかもしれないし)
 というわけで、今夜はカイルに早く満足してもらえるよう、積極的だった。
 カイルは驚いた。
(ど、どうしたんだユーリ?なんか、すごく・・・いいぞ!?)
 ここで、本末転倒。
いつもより熱の入っているユーリに、カイルもいつもより熱が入ってしまうのは当然のこと。

「まあ、殿下。すぐにお母様がいらっしゃいますからね」
 泣き出したデイルをなだめながらハディがささやいたが、その晩ユーリが寝室から出てくることはなかった。

第27話     愛の軌跡を刻んで       作  ひねもすさん



(ああ~、作戦は失敗だった)
ユ-リは昨日の夜の(いいや、朝方までだけど)張り切ったカイルの姿を思い出し、クタクタの朝を迎えながら後悔した。

(気のない素振りをすれば、やる気が削がれるかしら?)
今日は「気のない素振り作戦」(ひねりなし)でいってみた。
失敗した。今日のユーリもクタクタだ。

(どうすれば、いいのかな?その気にさせないようにするには?
でも、デイルが生まれる前から、やる気満々は変わらないし。
ハレブで初めて愛し合って以来、カイルといて何もない夜なんて過ごせたかな?
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・!!
そうよ、キスもそれ以上のことも、し放題だったんじゃない!
そのときのツケがまだ、たっぷり残ってるはず。)

ユーリは早速、粘土板に二人の愛の軌跡を刻み始めた。
「え~と、この日は2回やったから、デイルと一晩中いられる!それと、キスは一晩平均、何回かな?唇以外も含めれば凄い数よね!
そうだ、本当の側室になる前のキスの回数も含めれば、もっと凄い数になる!
ああ、でも、あんまり昔のことは正確に覚えてないや!
まあ、大丈夫かな?カイルもそこまで数えてないだろうし・・・」

一人ぶつぶつ言いながら、粘土板と格闘するユーリをベビーベットの中からデイルが不思議そうな目で見ていた。
「待っててね、デイル。
 母様、がんばって夜もデイルと一緒にいられるようにするから!」

第28話  裏付け                作 あかねさん

「おい、イル・バーニ。ユーリはいったい何をやっているんだ?」
ユーリがせっせと考えていた頃、カイルはちょうどご機嫌伺いに来ていた。
「・・・さぁ、私にはさっぱり。しかし陛下もお優しいのですな。
あんな書簡を作ったのに、夜も条件を出してデイル様と一緒にいる時間を作ってさしあげるとは・・・・。」
「ユーリにできそうもない条件だよ」
カイルはそういって、そっとユーリの部屋へ忍び込んだ。
ユーリは熱心に何かを作っているので、気が付かない。
「ユーリ、いったいなにをつくっているんだ?」
「カっ、カイル!!!???」
妙に裏返った声。
急いで書簡をしまう。
ここでばれたら、きっと何か言われる・・・・・。
「ユーリ、何を作っているかはしらないが・・・・・。きっと、あの条件に関する事なのだろうな?」
ぴくっ。うそのつけない性格のユーリ。それを知っているカイル。
「そうか、お前のことだからまえの事でも考えていたんじゃないか?」
ぴくぴくっ。
「たとえば、ハレブでの後とか・・・。側室になるまえの事なんて、私が覚えてないと思って適当に考えているのかも・・・・・。」
ぴくぴくぴくっ。
『なんでカイル、こんなに詳しいの?だれにもいってないのに!!』
「だけど、それは無駄だな。いいか、まえの事はダメだよ。」
「なんでよ!!!!!!そんなのずるいわ!!!」
「・・・・やっぱり、そういうものを作っていたのか」
カイルは、半信半疑で言っていたのだ。
ユーリの今の発言は、そのカイルの考えを裏付けた。
「カイル、知らなかったの!?」
とっくに知っているものだと思っていたユーリ。
「あぁ、あたりまえだろう。」
しかし、カイルにばれてしまった後は・・・・・。
もう、きっと何をいいわけにしても無駄だろう。

第29話  履行確認                  作 しぎりあさん

「条約が有効なのは、締結後だ」
 ゆーりの悪戦苦闘の結果の粘土板をながめながらカイルは言った。
「締結後って・・・そうだ、あたし二晩つきあったんだからね、り、両方とも2回愛し合ったし、デイルと二日は過ごせるはずよ」
 ユーリは食い下がった。
そんなユーリを見て、カイルは悲しそうな顔をした。
「デイルがかわいいか?」
「あたりまえでしょ!!」
 カイルは、心が痛んでならない、という風に胸を押さえた。
「私もデイルがかわいい。だから、これはデイルのためなのだ」
「母親から引き離して、どこがデイルのためよ」
「よく考えてみろ。デイルはやがては皇帝になる」
 そりゃね、現皇帝の長男だし。
ユーリは疑いながらもうなずいた。
「私には私を助けてくれる兄弟がいる。デイルが皇帝になったとき、それを補佐してくれる者がいるだろうか?」
 いや、いやしない。おおげさに手を拡げながらカイルは続けた。
「デイルに必要なのは、腹心の弟だ。たしかに、今は淋しい思いをさせるかもしれない。しかし、私は一日も早くデイルに兄弟を与えたいのだ!!」
 感極まってカイルは叫ぶと、ぽかんと口を開けているユーリを抱きしめた。
「わかるだろう?辛いが、いっしょに子作りにはげもう」
「・・・・」
 ユーリは、開いた口を閉じることすら思い浮かばなかった。
あきれすぎて。 

第30話   夜中の出来事                 作 あかねさん

「・・・なんか、うまくだまされたような気がする・・・・・。」
あの後、ユーリはカイルにベットに運ばれいつもの通り。
ユーリは夜中にふと目が覚めてぽつりとつぶやいてみた。
隣でカイルは、満足そうに寝ている。
「うん、絶対にだまされた・・・・・いや、確かにカイルの言うことももっともだけど
 ・・・・いやいやしかし・・・・・。」
ぶつぶつつぶやいていると、カイルがうるさい!!
というように、寝返りを打った。
ユーリはその姿を見て、そっと寝所を抜け出し中庭まで出た。
眠気は覚めてしまったし、どうもこの感じが嫌だ。
また、だまされたような感じ・・・・・。
「そういえば、いつもカイルにいいようにだまされてるよなぁ・・・・・。
 カイルのお父さん、前々帝も言ってたっけ。えっと確か・・・・・・・・。」
「こいつは人の心を丸め込む。」
「そうそう、それ!!!」
後ろでボソッと、誰かがつぶやいた。
ユーリは、不思議に思った。
今は夜中だ。繰り返すが夜中だ。
夜明けにも近くない、夜更けって訳でもない。
こんな時間に起きていて、しかもユーリのは以後から声をかける・・・
というよりは話しかける人などユーリには一人しか思いつかなかった。
「何をそんなこと、思い出しているんだ。」
「カイル!!」
やっぱり、カイルだった。

第31話   態度で示そうよ!           作 ひねもすさん

振り向くとカイルが立っていた。
「ユーリ、何をしているんだ?」
「あっ、カイル・・・・」

ユーリは思った。
(このままじゃ、また「体が冷えてるぞ、暖めてやる」とか言ってベットに逆戻りだ。
ああ、ゆっくり考える時間もないわ。
どうしてこんなに元気なんだろう?
カイルには、悩みがないのかな・・・・皇帝のくせに。
あたしは夜もデイルに会うために、こんなに悩んでるのに!)

丸め込まれたことやデイルに会えないことがユーリを意地悪モードにしてしまった。
下心ありありで両手を広げるカイルを見て、ユーリは、意地悪攻撃を準備し始めた。

「ユーリ、体が冷えているぞ」
案の定、お決まりの台詞を言うカイルにユーリは先回りして答えた。
「‘暖めてやる’って言うんでしょ。カイルってば最近マンネリだね。」
ちょっとびっくりした顔をしたカイルを見て、ユーリはしてやったりと言葉を継いだ。
「カイルって昔はすごく素敵な言葉を囁いてくれたのに、今じゃ2回やったらデイルに 1晩会わすだのロマンのかけらもないじゃない。
 ああ・・・、昔みたいに甘い言葉で丸め込まれたい!でも今のカイルじゃ無理ね!」
なんとか気を取り直してユーリに甘い言葉を囁こうとするカイルは、「何を言っているんだ。おまえが腕の中にいないと・・」
「‘飛んで行ったかと思った’って言うんでしょ?それもマンネリ。
 あたし、もっとロマンチックな言葉を囁いてもらわないとデイルの弟妹なんて作れな い! 
カイルがマンネリ脱出しなきゃ、デイルは一人っ子だよ。あたしはもう寝るからね」

ショックを受けるカイルを一人残し、ユーリは寝所へと戻っていった。



後宮の中庭には、「マンネリ男」と言われた皇帝が呆然と立ち尽くしていた。
かつてハットゥサ一のプレーボーイと言われたカイル・ムルシリがマンネリ男・・・。
言霊テクニシャン、カイル・ムルシリにかかればどんな深窓の姫も三日と持たずに落城だ!
そんな過去の輝かしい戦歴が脳裏を過ぎった。

「マンネリ、マンネリ・・・・・。あっ!」
カイルに天啓が与えられた。
「そうか、そうか。ユーリ、マンネリは嫌か」
言葉の不足は態度で補えばいい!
マンネリ解消は態度で示そう。
自分に都合のいい天啓が与えられ、頭の中をいろんなことが駆け巡るカイルは、軽い足取りで寝所へ戻って行った。

第32話  ミッション                     作 あかねさん

「いやよね、男のマンネリ。本当に、パターンが一緒ってつまらないわよ。」
ぶつぶつぶつ・・・・・。
ユーリはカイルの寝室ではなく、自分の寝室に来ていた。
多分カイルのことだから、言葉で足りない分は態度で示そうとするに違いない!
そう踏んだユーリは、そうそうに自室に引き上げていた。
「あぁぁぁぁ!もう、眠いわ!」

翌朝。
「やぁ、ユーリ。おはよう」
いつくるのかな?と、内心期待をして待っていたのだが、結局カイルは来なかった。
そして、何事もなかったかのような朝の挨拶。
・・・・??
ユーリの頭の中は?でいっぱいだ。
カイルは昨日の夜、考えた。
『どーせあいつは、もう自室に戻っているな。
マンネリだと?まぁ、このごろは、そうかもしれないが・・・。
新鮮さを出すには、やはり、離れるのが一番。
 ちょっとつらい(かなりつらい)が、ユーリのためだ!』
と、カイルはユーリと離れていた。

カイルとユーリが離れている。
そこでイル・バーニがハディに聞いてみた。
「おいおい。皇帝陛下とユーリ様はどうしたんだ?離れているように見えないか?」
と、ハディが・・・
「見えますね・・。また、喧嘩したと思いますが・・・・」
と、ハディはため息をつく。

「御二方はまた喧嘩か」
フゥとため息交じりにイル・バーニが言った。
ユーリはストレス(?)などでついに(また?)キレた!
そして大声で叫んだ
「カイルのマンネリ男!!」
ハディは恐ろしいもの(?)を目のあたりにした!!
「あの陛下がマンネリ男!? ・・・・クスクス・・・」
「なんとあのイル・バーニ様が、私の前で笑ってる!?」
イル・バーニはハディの目の前でウケていたのだった!
ユーリもそれに気付いて近づいてきた
「イル・バーニ?」
イル・バーニはやっと気付いた
「これは!!ユーリ様、失礼しました。」
イル・バーニかしこまった
「いいよ別に。
 それより、カイルをなんとかして!!」
「は!?」
ユーリは昨日のことを全部話した
そうすると、イル・バーニは「そうですか」としばらく考えこんだ。
「ユーリ様、私にいい案がございます。」
この後カイルにとんでもない災難(?)がふりかかるのだった!!