2010-02-19 天国と地獄 天河短編 天国と地獄(投稿小説より) 作 YUKIさん水面に漂う翳。見つけた! すぐさま冷たい身体を抱き上げる。海で冷え切った身体。 「ユーリ!」呼びかけるが返事は無い・・・。心臓を鷲掴みにされたように身体の内側から苦しくなる。あんなにも軽かった身体が今は意思を持たず腕に重い。 何故手離したりした?何故手離した!? 決して離さないと誓ったはずなのに!!「!!」 ここはどこだ!? ユーリは!? 周りをゆっくりと見渡して思い出す。 ここはウガリットの王宮。 まわりを占めるのは重苦しい静寂。 身体をつたう汗はじっとりと纏わりつき衣服を湿らせる。 あれが行方不明になってからどれくらいたっただろうか? 毎日見る夢、あれは何だろうか? わたしは海に漂うユーリを発見する。 海の中から抱き上げるがいつもその身体には意思の力が無かった。 いったいどれだけ待てば帰ってくるのだろうか? どこでとうしているのだろうか? 民衆の中にウルヒと思われる神官がいたというから命の危険も充分にある。あれを失ったらわたしはどうすればいい? 「陛下!陛下!どちらにおられますか!?」「こっちだキックリ!」 どうしたんだ?やけに騒がしいな。「陛下!ルサファが戻りました!!」 ここしばらく途絶えていた生存者! 何より戻ってきたのはユーリを守るために船に乗り込んだルサファだ。だがユーリの乗艦に乗っていた者からの報告では、船は瞬く間に沈み船乗りですらそのまま海の藻屑となった者も少なくなかった。余計な期待は禁物かもしれない。 だが、 「ルサファがもどったというのは本当か!?」 視界に映るのは側近たちに囲まれた元気なルサファの姿!「ルサファ!よくもどった!!」 とたんにルサファは平伏し姿勢を正した。「皇帝陛下!!近衛副長官ルサファただ今もどりました!! 長く任を離れましたこと申しわけございません!!」 そしてそこはユーリの姿は…無かった。 あたりまえだ、ユーリがもどったのであれば真っ先にその報告があるだろう。「いや本当におまえだけでも無事でうれしい…」 そうだ、生存者がひとりでも多ければ…「いいえわたしなどより…! ユーリ・イシュタルさまご無事でいらっしゃいます!!」 !! ユーリが…? 「ユーリが…無事で…!?」 側近たちがルサファにユーリの所在を確かめている間、わたしの頭にあったのはユーリが生きていたという事実だけだった。 そしてそのユーリがいると思われる場所は。「ルサファ その姿からするとおまえはエジプトからもどったようだな」 瞬間ルサファの顔色が変わる。 やはりユーリは…。「ユーリはラムセスのところか?」「御意にございます」 押し殺すようなルサファの声に更なる不安を覚える。「子は…どうした…?」一瞬の沈黙の後殺しきれない感情と共に出てきた答えは「…御子はご乗艦沈没が原因となってご流産なさいました」 流産!! ユーリが正妃の地位を捨てることになるとしても守ろうとした命。どれほど苦しんでいるだろう? どれだけ哀しんでいるだろう? だが… だがユーリは無事で生きている…!!生きている!!「ですがユーリさまはラムセス将軍のメンフィスの屋敷で手厚い看護をうけられお体の心配はございません」続く言葉を話すルサファの目は違っていた。「それと将軍より陛下に伝言をあずかってまいりました」あの男から伝言?「ユーリさまをあずかっている。欲しければとりもどしに来い。 とのことでございます」あずかっている? とりもどしに来いだと!? 「…あの男…」身体の奥から激情が立ち上る。 「もちろんユーリはかえしてもらう!!」引き離された距離。不安な時間。 どれだけ心細い思いをしているだろう? 一刻も早くおまえをこの腕に取り戻そう。 END