第4話 嘘も方便 !?

*学部の友達に合コン参加を頼まれて、つくし初めての合コン参加。

さてどうなる?

-From 1-

*夏休みも終わり季節も秋の気配を見せ始めた。

私の周りでは何の変化もなく平和な日々が珍しく続いている。
道明寺との付き合いもそれなりに順調だ。
それが一番の平和の理由となるのは、かなり普通とは違うと思うけど・・・
法学部の学生は男子に比べて女子が少ない。
高校からのエスカレートで上がってくるお嬢様達がいないこともあり、結構みんなと仲良くやっている。
幾人かの男子とも友達になったがこのことは道明寺には内緒にしてある。
午前中の講義も終わり、いつも通り道明寺との待ち合わせのラウンジに移動しようと私は席を立つ。
その時、私は数人の女友達に周りを囲まれてしまった。
「つくし、私たちお願いがあるんだけど・・・」
時々講義の代弁やノートをみせることはあるが、この感じはそのどれとも違うことを敏感に私は感じとる。
自分に降りかかる危険な匂いをかぎわける能力が、道明寺と付き合いだして身についてきてるのでは?と思うのは気のせいだろうか・・・。
「なに?急に・・・微妙に嫌と言いたいんだけど・・・」
「ひどい、まだ私たち何も言ってないわよ!」
「私・・・急がないといけないから・・・」
立ち去ろうとする私は肩を押され強引に椅子に座らされてしまった。
「話はすぐすむから、どうせ道明寺さんとランチするだけでしょう」
それを言われると私は何も言い返せなくなる。
「明日の夜私たちに付き合ってほしいの、これはつくしにしか頼めないことなの!」
「「「「「お願い!」」」」」
声をそろえて頭を下げて私を拝み倒しにかかる。
こうなると友達を押しのけて教室を出ることもできず、結局、話を聞く羽目になってしまう。
「何を付き合えばいいの?」
ため息交じりに私がつぶやく。
「明日7時から合コンするから参加して、お願い!」
「合コン!?」
明日は確かに珍しく何も予定ない。
でも合コンは絶対無理!
道明寺に知られた日にはどうなるか考えても恐ろしい。
「別に彼氏のいるつくしに場を盛り上げてとは言わないわ」
「どうしても一人足らなくなって、頭数合わせるだけだから」
「別な人に頼めばいいじゃない」
「つくしだからいいの」
なんで私じゃなきゃだめなのかその理由が判らない。
不満そうな私に気がついて一人がもっともらしく説明しだした。
今度の合コンは本命彼氏ゲットが大前提であるらしい。
相手は一流大学の金持ちのボンボン6人組。
こっちは私を入れて6名だが、私には道明寺がいるので私を仲間に入れた方がみんなのカップル誕生の確立が上がる計算だ。
「私たちは在学中に彼氏を捕まえなきゃいけないんだから、彼氏のいるつくしにはわからないだろうけどね」
ただえさえ法学部の女子というのはお堅いイメージで男子に敬遠される?らしい。
そのため女子大生という響きが使えるうちに早めに彼氏を捕まえたいというのが彼女らの持論だ。
もちろん英徳大学の女子大生を売り物には使うが法学部と言うのは内緒らしいけど。
「いいわよね・・・
つくしはそんな心配しなくていいし・・・」
「それも彼氏は人もうらやむ道明寺財閥の御曹司その上イケメン!」
「だから、お願い!協力して!」
そのどこが人にお願いする態度なんだと思うが、断れる雰囲気ではないことは確かだ。

「すぐに帰っていい?」

なんで私が媚びた言い方で尋ねなきゃいけない。

「もちろん!」

喜ぶ彼女たちをしり目に早々と私は教室を出て行った。

-From 2-

ラウンジに行くと、もう道明寺が窓側の一番いい席で私を待っていた。

遠巻きで女子学生がキャーキャー騒いでいてくれるので、いつも私は道明寺のいる場所を探す手間が省けてしまう。
「ごめん、ちょっと教室出るの遅れちゃって・・・」
いつも通り道明寺の前の席に腰を下ろす。
「牧野、今日は弁当持ってきてないのか?」
「えっ?あっ!教室に忘れてきた!」
「お前が食いもの忘れるなんて珍しいな。なんか気が取られることあったか?」
一瞬、明日の合コンの事が頭に浮かぶ。
合コンのことは絶対道明寺には言えない極秘事項だ。
「べ・・・・べっに遅くなりそうだったから慌てて・・・」
そう思いながらもやっぱり顔に出てきそうだ。
私はまだ、何も嘘はついてない!
そう自分に言い聞かせる。
このまま道明寺が何も感づかなければ問題ないんだけど・・・
「取りに戻ってくるから待ってて」
慌てて私は席を立つ。
「待てよ!」
道明寺に立ち上がる私の手を掴まれた。
げーーーなんか・・・気がついた?
「もったいねえからいい、座れ。食事はおごるから」
「はあ?」
予想もしなかった道明寺の『もったいない』発言にちょっと戸惑う。
道明寺には何がもったいないんだろう?
私にとっては弁当を食べない方がもったいない。
「お前と話す時間が減るだろうが。ここからまた教室戻って帰ってくるまで俺は待てねえぞ」
ふてくされた様な態度ながら道明寺の顔は耳まで真っ赤だ。
「わかった・・・。それじゃあ御馳走になる」
「素直じゃねえか」道明寺が機嫌よくほほ笑む。
「たまにはね」と私もにっこりと笑顔で返す。
道明寺がウェーターに二人分の食事を注文する。
大学内なのにセルフサービスの学食ではなく、一流レストラン並みの食事が提供されるのはやっぱり英徳ならではの光景だろう。
「なあ牧野、明日暇?」
ちょうど食事が運ばれてきた瞬間、聞かれたくない質問を言われてしまった。
思わず体が硬直するように感じる。
「えっ!あした?暇?」
道明寺からの問いかけをまた問いかけ直すなんて、やましいことがありますよと自分で暴露しているようなものだ。
心臓の鼓動がバクバク悲鳴を上げている。
「久しぶりに夜に食事でもしねえか?」
道明寺は私の様子に何の違和感も持ってないようだ。
こんな時は道明寺の鈍感さに感謝してしまう。
「あしたは・・・ちょっと先約が・・・」
私は遠慮がちに小さく答えた。

-From 3-

「おう!なんか、機嫌悪そうだな?また牧野とケンカしたか?」
俺は牧野に今日のデートの誘いを断られた。
それに納得のいかない俺の前に、全然友達を心配してる様子などみじんもない薄情な総二郎とあきらがふってわいてくる。
こいつらはこんな時に限ってなぜか現れる。
「あーっ、解かってるなら聞くな!」
俺が睨んでもぜんぜん動ずるあいつらじゃねえ。
「まあ、そう言うな」
二人は俺をなだめにかかる。
大体いつもこんなパターンだが、そうわかっていても結局はこいつらにのせられる自分が情けない。
「あいつ・・・よりにも寄って俺の誘いを断りやがった!友達数人と食事の先約があるとか言いやがって・・・」
「普通、俺が誘ったら何をおいてもこっちを優先させるのが本当じゃねえか!」
それをあいつは1度約束したことは断れない。タダでさえあんたと付き合ってることで大学の友達少ないのにと、ぬかしやがった。
思い出したらまた腹がたってきた。
普段の俺なら断られようが強引に話を推し進めるとこだが、牧野と一緒に朝を迎えたあの日から、なぜかあいつの言いなりになってしまう自分がいる。
「ふ~ん・・・友達と食事ね・・・」
にんまりと総二郎が考え込む仕草を見せる。
「なんだよ、変な笑いするんじゃねえ!」
「いや、タダの食事だけかなと思って・・・」
総二郎の意味深な言葉に反応して、あきらまで一緒ににんまりしやがった。

「・・・」

二人は顔を見合わせ一瞬の間をはさむ。

「「もしかして合コンだったりして!」」
二人同時に同じ言葉を発して笑いあっている。

「・・・・・」

なんだ????その合コンて?
俺は思わず交互にこいつらの顔を眺めてしまった。


そしてまた一瞬の変な間が三人の間に流れる。

「もしかして・・・」
「司・・・合コン知らない?」
「馬鹿言え!そんくらい知っている。合同コンテスト!?」
自信はなかったが一応俺には精一杯の回答だ。

二人が腹を抱えて笑いだす。
「ククク・・・コンテストて何の審査するんだ?アーーー腹痛てえ」
「でも、確かにある意味間違いじゃないかもしれないぜ、コンテスト・・・」
「「恋人選びのな!」」
そしてまた、こいつらはにんまり笑った。
恋人選び・・・・・
「えーーーーっ!」
俺は目ん玉飛び出るぐらいの表情で驚きの声をあげてしまった。


なんで・・・・
そんなのに牧野が行く必要がある?
もしかして・・・
俺嫌われるような事でもしたか?
いや、あいつが俺を嫌うはずなんてあるワケねえじゃねえか。

司は一人ぶつぶつと自分の世界に入り込んでしまっている。

一人で青くなったり、赤くなったり、表情変化に慌ただしい司を見て俺達は思った。
このまま行けば司は牧野を拘束!牧野の食事会に乱闘する!そんな姿が俺達の脳裏に浮かぶ。
そうなれば、いつもと同じ結末な訳で・・・・
俺達としては非常にお面白くない!
時代劇のお決まりの結末を見せられるような感覚は真っ平御免だ。
「まあ、まあ、今のは俺達のジョークだ。気にするな」
「あくまでも世間一般論をしゃべっただけだから」とあきら。
「お前がいるのに牧野が合コンなんて行くはずないよな」と総二郎。
俺達はさっきとはうって変わって合コンの件を司の頭から追い出そうとする。
この矛盾すぎる俺達の対応は、この先の俺達の楽しみのためなのだけど・・・。
司はきっと何にも気がついてはいないだろう。

「イヤ、あいつは合コンに行く気だ!」

「「えっ!?」」

「牧野は合コンがどんなものか知らないんだ!」

司がいきなり叫んだ。

自分が合コンを知らないからって・・・・
牧野が知らないわけないだろう!
と、つ込みたいところを必死で抑える。
俺達は一つ忘れていた。
こいつの単細胞的思考回路の事をすっきりすっかりと・・・。

「もしかして牧野の食事会止めさせるつもりか?」
「司、よく考えろ!」
「合コンかどうかはっきりしてない状態で、お前が止めたとして牧野がそれを素直に聞くと思っているのか?」

俺達は合コンだと確信しているがそんな気持ちはみじんも出さない。

「そうだ、牧野の性格からすると意地でも参加しちまうぞ」

結論的には絶対そうなると俺達は踏んでいる。
このままではいつものパターンが始まって・・・
ふたり喧嘩して・・・・喧嘩して・・・喧嘩して・・・
牧野がきれて・・・
司もきれて・・・
司は俺たちに八つ当たり。
これでは全く俺達の今までの苦労は水の泡だ。
この時点では司をからって遊んでいるにすぎないのだが・・・

「じゃあ、どうすればいい?」
「俺は、牧野がほかの男と仲良く飯食ってる姿なんて絶対許せねえからな」

司って・・・
合コンがどんなものか知らないよな・・・
こいつの頭の中・・・
今、どんな妄想が渦巻いているのか・・・
想像しただけでおもしれーーーー。

「じゃあ、こんなのどうだ?俺達が今日の牧野の食事会の場所突き止める」
「その隣のテーブルに俺達も席をとって様子を眺める。こんな趣向だ」
「それじゃあ、牧野合コン参加しちまうじゃねえか!」
不満そうにな司を二人ではさんで、怒涛の説得作戦攻撃を俺達二人は交互に始める。

「牧野は合コンの事全くしらないんだろう?」

何度も念をおすが牧野が知らないはずはない。
どうせ友達に拝み倒されて断れなくなっただけの単純な理由だろうと見当は付いている。

「そこで、合コンの事を初めて知って戸惑う牧野を・・・司!お前が横からさらりと来て助けるわけだ」

別に助ける必要はないだろうけど・・・。

「そうなればこの後の展開、お前の思うままじゃねえか!」
「展開・・・」
何を想像してか司の顔がにやつきだす。
まあ何を想像してるかはおおよその見当はつくのだが・・・。
「司、ここだけは間違えいるな!」
「お前が飛び出すタイミングは俺達が教えてやる。これが一番大事だからな。」
「おう!」
やる気の出す司の背中で見えないように俺達はそっと握手を交わした。

-From 4-

約束の7時ちょっと前、私はほどほどのおしゃれをして教えられた場所へ着いた。
そこは住宅街の中にぽつんと立つ洒落た造りのイタリアンレストラン。
やっぱりおぼっちゃま主催となるとそれなりのところを用意するんだと妙な感心。
従業員に案内されたテーブルは一つのフロアーを四方に区切り、ほかのテ-ブルの客は見えない造りになっている。
もう、みんな集まって軽く自己紹介をしているところだった。
「ごめん、私が最後だったね」
私を見つめる12個の相手方の目を避けるようにちょこっと頭を下げ、私は入り口近くの席に腰を下ろした。
どこをどう集めたのか見た目はみんな及第点はとれるルックスの良さの男性陣だ。
みんなの本命彼氏ゲットはまんざら嘘ではないということが分かる。
すぐに、飲み物と料理が運ばれてくる。
それぞれ順番に名前、大学名、趣味といった私にはどうでもいい自己紹介が始まった。
「次、つくしだよ」
最後に横の友達から膝で合図を送られ慌てて名前を名乗る。
「牧野つくしです。趣味は特にないです・・・」
他の友達みたいに自分を売り込むつもりはないから1秒で私の話は終わってしまった。

「なんか緊張してる?つくしちゃんて呼んでいい?俺の事は寛人で構わないから」
目の前にいた一人の男性がにっこりとほほ笑んだ。
「ええ・・・まあ・・」
「確か・・・早川さんでしたよね?」
相手の自己紹介なんてほとんど聞いてなかったけど、一応礼儀として全員の名前だけは頭に入れている。
「あっ、名前覚えてくれていたんだ。うれしいな」
ちょっと照れた感じでまたにっこりほほ笑む。
「俺、思ったんだけど・・・・つくしちゃんてなんかほかの子とちょっと違う感じがする」
「えっ」
「なんか合コン慣れしてないって言うか、興味なさそうな簡単な自己紹介とか聞いたら逆に君の事、気になっちゃった」
「もっと知りたい、なんて思ってね」と軽くウインクしてきた。
いきなりナンパされている感じだ。
女性の扱い方は西門さんと美作さんに負けない印象を受ける。
慣れてないのはあたりまで、私にとって合コンは初めての体験だ。
自慢するつもりはないが自分には無縁のものだと思っていたのだから。
どうもこの雰囲気は好きじゃないと感じる自分がいる。
何が良くて初対面の相手といきなり食事して話を合わせなければいけないのだろう。
道明寺の誘いを断らなければきっと今頃は楽しい恋人の時間が持ててたはずだ。
私、彼氏いますと言えればそれで終わるのだろうけど・・・
私の横で『雰囲気壊さないでね』の光線が痛いほど発射され私の言動を抑制している。
それなりの対応でこの場を乗り切り早く帰ろうと私は覚悟を決めた。

-From 5-

「おい、何にも見えねえぞ!」

「当り前だろう。あっちが見えるてことは、こっちも見えるてことだ」
「牧野にばれたら何にもならないだろうが」
「別にばれても俺は構わない」

その方が早く決着ついていいと俺は本気で思っている。

「慌てるとこの後、牧野と喧嘩だぞ!」
「二人でいい雰囲気になる展開の方がいいだろうが」
「テーブルは隣なんだから、雰囲気とか話は漏れてくる。まずはそれで我慢しろ」

我慢なんて俺には無縁の言葉だ。
こいつらに言われた通りなぜ我慢してなきゃいけないという想いが心の半分を占めている。
あとの半分は、牧野とケンカはしたくないという想いだ。
今のところ、こっちの半分が俺の我慢の限界を抑え込んでいる。

約束通りこいつらは自分の持てる伝手をフル動員で今夜のレストランを見つけ出した。
今、俺は牧野と壁を挟んでお互い背中を向けて座ってる状態だ。
なぜかこいつらも俺の隣に並んで座っている。
別にそんなにくっつかなくてもテーブルの反対側に座ればいいと思うのだが、俺が突然飛び出ていかないように念のためガードしているということらしい。
見様によっちゃ男3人並んで座って、壁に聞き耳立てて異様な雰囲気だ。

壁越しの席では自己紹介が始まっているらしい。
「牧野つくしです・・・・」
「あいつ・・・名前言いやがった」
「当り前だろう、最初の挨拶みたいなもんなんだから」
なんで教える?
「別になんも言わなくてもいいだろうが」
「司!安心しろ!牧野は最低限しかしゃべってないぞ」
「ほかの女の子みたいに自分売り込んでないみたいだし」
俺達は馬の手綱を操るように言葉を選びながら司を落ちつける作戦だ。
「当り前だ!牧野は合コンなんて知らなかったんだから!」
嘘だろう・・・
この状態で・・・・
まだ牧野が合コンの事知らなかったと司が信じてるなんて!
わずかに司に対する同情心とも哀れとも思える心情が俺たちに芽生えた。
「あいつーーーー」
いきなり司が青筋たてて怒りだすのが総二郎とあきらにも伝わる。
「つくしちゃんて呼んでいい?・・・」
「気になった・・・もっと知りたい・・・」
男の声が壁越しに聞こえてきた。
「なんだあの野郎好きかって言いやがって」
「牧野が口説かれてるぞ」
司の額の青筋は1本から2本に増えた感じだ。
「まあ、まだ落ち着け」
椅子から立ち上がった司を俺達は両脇から押しとどめる。
やっぱりこの座席順は正解だったようだ。
まだまだ司の怒りはMAXに達してないと俺達は確信している。
俺達を殴り倒さず静かに言われるままに椅子に司は座りなおしたのだから。
「うまくいけば牧野といいムードつくれるからな」
そして、俺達は詰めのセリフを司に囁くことで念を押すことを忘れなかった。

-From 6-

時計の針は8時を過ぎた。
合コンが始まって1時間程度の時間しかまだ経過してない現実に私はため息しか出てこない。
お店の中のテーブルはほとんど埋まっているようだが、静かな雰囲気を壊すことなく落ち着いた感じに時間は流れている。
時々後ろの壁から男性の話声が聞こえてくる。
こんな店に男性だけ?なんてちょっぴり変な感じがした。
でも・・・なんだか聞き覚えのある声のように思えるのは気のせいだろうか。

隣の友達が洗面所に付き合きあう様に耳打ちする。
「ちょっと、失礼します」友達は明るく言うと私の腕を引っ張り、それにつられるように一緒にテーブルを離れた。

「つくし、気が付いてる?」
「えっ、なに?なんか私まずいことした?」
「気が付いてないの?今日の参加者の視線が全部つくしにいってる感じよ」
友達は呆れ顔で言葉を続ける。
「気が乗らないのは仕方ないんだけどね、それがどうも逆効果だったみたい」
「普通なら暗い子だなて感じで終わるところが、なぜかつくし受けがいいのよ」
「私たちの立場がないってわけ!」
「嘘でしょう!」
私はこの一時間、自分からしゃべることもなく、比較的席の近い男性3人程度と世間話程度の話をさし障りのないようにしていただけだ。
残り半分の男性とは目も合わせていない。
だから友達の言うことが信じられず疑ってしまうのは仕方ないと思うのだけれど・・・。
私と話してないはずの残りの男性は、友達から私の情報を聞き出す仕草を時々見せていたらしい。
「とにかく頼むからね」そう言って彼女は私を洗面所に一人残しさっさと席に戻って行った。
立場がないて言われてもこれ以上私にどうすればいいというのだ。
テンション上げろて、言われてもこれ以上は無理。
どこをどう気に入られたのか考えても解からないのにどう対処しろというのだろう。
このまま席に戻らず帰るというのもありだろうかと私は真剣に考え始めていた。

-From 7-

「おい、牧野が席立つぞ!」

俺は横でさえぎる総二郎の体を無理やりどかすとテーブルの入り口に向かった。
「こら!そこから出るな」とあきらがテーブルの反対側に慌てて出てくる。
「心配するな、ちょっと見るだけだ」
俺は入り口からそっと顔をのぞかせると洗面所までの通路が見えた。
すぐに友達に引っ張られるように歩く牧野の姿を確認する。

アイツ・・・なんかいつもよりかわいくねえか?

牧野から目が離せない・・・
そんな感覚に陥った。
俺は遠くからあいつをまじまじと眺めたのは久しぶりだということに気がつく。
最近はいつもあいつを見つけたらすぐに自分の胸に抱きしめてしまうから。

あいつのこと全部知ってるようで、知らなかったんだと今さらながの自分の鈍感さに腹が立つ。

いつも見慣れているはずのストレートの髪・・・
ミニスカートから延びるほっそりとした足・・・
真っ直ぐ見つめるきらっとした大きな瞳を長いまつげが伏し目がちに覆う。
ちょっとはにかんだように笑う横顔・・・
なんだかやけにドキとするのは、普段キス以上のお預けをくらってる欲求不満気味だけのせいじゃないはずだ。

友達に笑いかけるあいつを見ただけで、冷静に保てない俺がいる。

俺・・・
今、牧野と一緒にいる女にまで嫉妬してる・・・。

自分で、自分を笑ってみたが笑ってない自分が根本にいることに気がついただけだ。
全部のあいつの表情を一人占めしたいと本気で思った。

「なあ・・・俺が今、出て行って牧野を連れて帰ってもいいんじゃねえか」
俺は洗面所に消えた牧野の幻影を見つめながらぽつりとつぶやいた。


「あいつ出てくるの遅くないか?」
「女性の洗面所は時間かかっても仕方ないんじゃないの」
「まさか・・・司・・・洗面所の中を見にいくなんて思ってないよな!?」
「いくら俺でもそこまではしねえよ」
こいつら・・・
『司、大人になったな』なんて腕に両目を伏せ泣き真似なんかしてやがる。
俺ってそんなに見境なかったか?
いくらなんでもそこまではねえだろう。
1年前なら確実に店ぶっ壊していただろうけど。

視線の隅に牧野が携帯片手に洗面所から出てきたのがチラッと映る。
誰と電話してるんだ?
電話の相手がちょっと気になった。
その瞬間、長身の男に軽くぶつかるあいつが見えた。
飛び出そうとした俺の脚が止まる。

「類じゃねえか」

「俺達が呼び出しておいたの」
思わず、後ろを振り返り総二郎とあきらを見た。
「ちゃんと保険はかけとかないと、なにがあるか分かんねえからな・・・司の場合」
「なにが、保険だ。俺は車じゃねえよ」
「車よりあぶねえかもよ、破壊力!」
「牧野のことが、からむといまだに見境なくなるからね」

こいつら・・・俺のことなんだと思ってるだ。
あほらしくて怒る気にもならねえ。

ふと視線を牧野に戻すと、類に促されるようにあいつがこっちに顔を向けた。
俺に気がつき驚きの表情を見せる牧野と視線がぶつかった。

-From 8-

洗面所にはほかに人の気配はせず、ぽつんと一人残された感じに、ばかげた様な気持ちが湧きあがり無性に腹が立ってきた。
一応参加はしたのだから約束は守った。
なのに来たくもない合コンに参加させられ、立場がないだの、ちゃんとしろなど勝手なこと言われなければならない。
道明寺に対する罪悪感も手伝って、この怒りの火種が膨らむようだ。
テーブルに帰っても、とてもじゃないが相手できる気分じゃない。
私に無理やり参加させたのあんた達でしょう!と大声で叫びたい気分になった。
高校時代みたいに非常階段がないのが残念だ。
一言用事が出来たと言って帰ってしまおうと私は決めた。

洗面所を出ようとしたところで携帯のベルが鳴る。
もしかして道明寺から?とドキッとする。
覚悟を決めてフーと大きく一つ息を吐き携帯の着信名を読む。

花沢類の名前が表示されている。

こんな時に花沢類から電話なんて・・・
こっちはこっちで、やっぱりちょっと罪悪感を感じるのはなぜだろう。

「もしもし」
「あっ牧野、今Angeloてレストランにいるでしょう?」
「なっ・・なんで知ってるの!」

思わず通路で足を止めてしまった。
その拍子に入口からちょうど入ってきた人とぶつかりそうになる。
すいませんと頭を下げた瞬間、「今、俺もそのレストランに来てるから」と、携帯からじゃなく、頭の上から聞きなれた声が聞こえてきた。
うそでしょう!なんでこんなとこに花沢類がいるの!?
私の頭の中で、はてなマークが飛び跳ねる。

「司も来てるよ」
追い打ちをかけるような声が私の頭の中を反芻する。

「どっ・・・どうみょうじ!?」

見上げた花沢類の視線は、私を通り越しちょっと先に向けらている。
恐る恐るそっちに私も視線を移す。
じっと私を見つめる道明寺の視線とぶつかってしまった。


なんで道明寺がここにいるの?
道明寺が私を睨んでいるように見えるんだけど・・・

思わず私は片手を軽く上げ、にこっと笑顔を作る。
でも表情筋が固まってうまく笑うことができない。

道明寺の後ろで美作さんと西門さんがバツの悪そうな感じで私を見ているのに気がついた。
ついでに3人の席が私たちのテーブルの隣だということに変な違和感を感じる。

これって偶然?
あの二人がからんでるということは・・・
計画的な気がする。

もしかして・・・

ばれてる? 合コン!

道明寺から目をそらすつもりで下げた頭を上げるのがなんだか怖い気分だ。
「私、どうしたらいい?」
切羽詰まった状況に、気がついたら花沢類に聞いていた。
「えっ?」
本気で聞いてる?て、呆れた様な顔をされてる気がした。
「このまま、牧野が司以外のとこ行っちゃったら、司暴れるだろうね」
「それに、牧野は捕まえるまで追いかけられるだろうし・・・」
「やっぱりそうだよね・・・」

「牧野」
突然、私の左腕が掴まれた。
いつの間によってきたのか道明寺が、私の目の前にいた。
道明寺は掴んだ腕に強く力を入れ、無言のまま自分たちのテーブルへと私を連れ込む。
「きゃっ」私から短めの悲鳴を小さく漏らした。
私は放り投げられるように一角のソファーに座りこむ形になった。
その横にはふてくされる様に道明寺はドンと腰を下ろす。

道明寺の沈黙が怖くて、私から遠慮がちに口を開いた。
「あの・・・・私・・・友達に帰るって・・・言ってきたいんだけど・・・」
「あっ!」
私に目を合わせようとしなかった道明寺がようやく私に視線を移した。
やっぱり、すごく怒ってる。

「いや・・・いいです」と私は小さくつぶやく。

「総二郎!お前、牧野のテーブル行って断ってこい!」
「久しぶりの命令口調だね、でもなんで俺なの?」
「今さら牧野をほかの男に会わせたくねえ」
照れを隠すように司の口調が強くなる。
「お前が一番適任だろうが、合コンの」
「俺が得意なのは女性の扱いなんですけどね」
渋々ながらも総二郎は牧野のテーブルへと向かって行った。

「普通なら、ほっとけて言いそうな感じなんだけど、どうしちゃったの司」
「あきら、お前はいちいちうるせえんだよ」
「その・・・なんだ・・・牧野が後で友達に何か言われたと俺に文句言われちゃあ、かなわねえからな」
「司・・・お前がそんな人に気がつかえるなんて知らなかった」
またまたこいつ腕に両目を伏せ泣き真似なんかしてやがる。
「人というより、牧野だからなんだろけどうね」と、意味深な笑顔を類は司に向ける。
「うるせえ、類!きょうは全部お前が悪い」
「なんで」
「一番いいとこ、お前が全部持っていった」
「俺が、しっかり牧野をこっちに連れて来たかったのに・・・」
「お前のせいで全然、牧野にやさしくできなかったじゃねえか!」

こいつ・・・今度は類に嫉妬していたのか!
司って・・・忙しい奴。
そう思いながらあきらは必死に笑いをこらえていた。

-From 9-

「ちょっと、失礼」
こいつ誰だ?の視線を無視して、つくしの座るはずの席に総二朗は腰を落とす。
「君達、僕のこと知ってるよね」と隣に座る女子スターズに軽くウインク。
もちろん頬笑みも忘れない。
「「「「「西門総二郎さんです」」」」」
うっとり見入られるように女子の間から先を争う様に声が上がる。
こそこそなにか話し合っている男性陣はさっきから全く無視の総二郎だ。
「今そこで、牧野にあったから俺らに付き合ってもらうことにした。こっちには牧野戻らせないから」
「問題ないよね」
「全然、問題ないです」明るく声が返ってくる。
「勝手なこと言うな、こっちは6対6で会ってるんだからな、一人あぶれてしまうだろう」
一人の男性が慌てて立ち上がり総二郎を睨みつけた。
「そっちは牧野が減っても6対5だろうが、こっちはいつも牧野挟んで1対4だ」
それもいつも司と牧野に振り回されて、何の得にもなりはしない。
まあ、俺達のストレス解消にはなるけれど・・・
「どっちが割が合わないかサルでも解かるだろうが」総二郎はすごみを見せる。
文句を言った男性も押されぎみに引きさがる。
「それじゃあ、後は残りで楽しんで」
女子には誘惑の頬笑みを向けることを忘れずに、総二郎は自分たちのテーブルへ戻って行った。


「・・・怒ってる?・・・」
上目づかいでつくしはそっと司を盗み見る。
いつもの強気なつくしの性格は影をひそめ借りてきたネコの状態に陥っている。
「怒ってねぇ」
ソファのひじ宛てに乗せた片腕で頬杖をついたままの司はいまだに不機嫌そうな様子を見せる。
「・・・本当に?・・・」
「ああ」
「牧野、司はお前が合コンのこと知らないでこの場所にやってきて、きっと驚いているに違いないて、心配していたんだから。牧野のことは怒ってないと思うぜ」
「あきら、てめえまた余計のことを言うな!」
「そうそう、司自体が合コンのこと合同コンテストて思っていたくらいだからな」
「「合同コンテスト」」いつの間に帰ってきたのか総二郎があきらに付け足して言った言葉に、思わずつくしと類が一緒に反応してしまった。
合同コンテストて・・・何のコンテストするの?
でも・・
道明寺が合コンを知らなかったということで今回は私は助かったということなのかな?
でもなんだか、やっぱり信じられない。
ここまでくると道明寺の思い違いも国宝級だねと、つくしは思った。

「牧野・・・お前責任取れ!」
ホッとしていたのもつかの間、道明寺ぶっきらぼうな言葉とを裏腹に熱い瞳でつくしを見つめていた。
「責任て・・・何の?」
司の見つめられる瞳に、ドキッと、胸の高鳴りをつくしは覚えた。
「俺を心配させた責任、つまり・・・罪滅ぼし」
「ここで俺様にキスしろ!」
「き・・・す・・・、えーーーキス!?」
思わずつくしの声が裏返る。
「ここでって・・・本気!みんないるのに!」
慌てて立ち上がったつくしはまじまじと司の顔を眺めた。
周りでは面白そうに総二郎とあきらが、二人のやり取りを眺めている。
類の表情はつくしが背中を向けている格好になってるため、つくしには読み取ることができない。

「俺はいつでも本気だ」
「ここはちょっと・・・イ・・ヤ・・だ」
「何言ってるんだ、お前が嫌がることやらせなきゃ罰にならないだろうが」
「ここが嫌なら、俺はスクランブル交差点のど真ん中でもいいぜ」
司は嫌がるつくしの反応をわざと楽しんでいる。

「なんかすごく意地悪だね」すねるようにつくしは司を睨んで見せた。
「今頃気がついたか?」司は目の前に立っているつくしの腰に腕を回すと、自分の体に近づけるように両腕にグイッと力を入れた。
つくしは体のバランスを崩し、司の膝の上に乗せられる格好になてしまい顔から火が出るように真っ赤になっている。
「こうすれば逃げられねえだろう」
道明寺の両腕がつくしの背中をやさしく包み込む。
「いじわる」
観念したようにつくしは、両手で司の頬にそっと触れた。
目を閉じると自分の唇でそっと司の唇に触れるように軽くキスを落とす。
「そんなんじゃ、まだ許せねえ」
司はつくしを強く抱きよせ、自ら深く奪いつくすようにつくしにキスを繰り返す。
いつのまにか姿を消したF3に気がつくことなく、二人の甘い時間がこの空間に流れ込んでいた。

                                              END


最後にちょこっと甘い感じを盛り込んで終了です。
強制キッスの場面はusausaさんのコメント牽制キッスをヒントに追加させていただきました。
最後までお付き合いありがとうございます。