第1話 100万回のキスをしよう! 2
*-From 1-
「見せろ!」
つくしから書類を破くような勢いで奪い取る。
司法試験合格・・・・
最高裁判所・・・
司法修習生・・・
かたぐるしい四角ばった漢字が並んでた。
よくこんなの読めるなと途中で俺は解読諦めた。
でも4月から司法修習の名目で司法研修所で2か月の集合修習をうけるということは俺にも理解できた。
「2カ月か・・・それならなんとか我慢できる」
1日も離れられるか!
それが本音だが弁護士になるのはつくしの夢だ。
全部あいつの夢かなえてやると南の島で約束した手前ダメだとわがまま言えるはずがない。
ため息交じりに書類をつくしに返す。
「2カ月じゃないよ・・・カリキュラムあるし・・・試験もあるし・・・1年ちょっとかな」
「あっ!」
思わず耳を疑った。
「聞いてねえぞ!そんなこと!」
「今喋ったばかりだもん」
「お前知ってたのか?」
「司法試験うける前から解かっていたことだから・・・」
「言うタイミングがなかっただけ・・・かな・・・」
詰め寄る俺につくしが強張る顔で笑顔を作る。
「どこに電話するの!」
胸元から携帯を取り出してボタンを押そうとする俺の腕につくしがぶら下がるように両手をまきこんだ。
「首相!いや法務大臣がいいのか?」
思わず電話の相手をつくしに確認をとる。
「そんなの私に聞かないで!」
知ってても教えるもんかみたいな目で睨まれた。
「絶対だめ!そんなことしたら今すぐ実家に帰るからね」
さっきまでの甘アマラブモード完全無欠で終わってた。
「出来るもんならやってみろ」言ったらこいつ・・・
速攻出ていきそうな雰囲気だから胸の奥にギュっと言葉を押し込める。
部屋に押し込めてSP張りつかせるぞ!
凶暴な気分になっていた。
「会えないわけではありませんし、その間たまってる仕事を片づけるのにはいい期間かと思いますが・・・」
見かねたように西田が横から口を挟んだ。
「そんなに仕事たまってねえだろう」
「年中無休で頑張ってこられた代表が一月以上会社から離れていた訳ですから、数日で片づけられるような簡単なものではございません」
「そのへんは、ばばあとお前でやってたんじゃ・・・・」
「代表の代わりは務まりませんから」
感情出さずに笑顔を作って西田が頭を下げた。
西田が俺を坊ちゃんから代表に呼び名を変えた時は鋼鉄で出来た無類の仕事人間モードになっている。
感情よりも仕事優先。
明日からの俺のスケジュールが秒単位で西田の頭の中で埋められているところだろう。
つくしとの婚約を発表して結婚を決めた時、絶対しばらくゆっくり休暇をとって新婚旅行を優雅に楽しむ!
その計画で数カ月は必死で仕事をこなしてた。
それ・・・
結婚式前に全部使いとってしまったということだよな。
俺・・・
どんだけ仕事すればつくしとの時間取り戻せる?
時間を返せーーーーーー
「修習がはじまるまで数日は時間がありますから、その後から会社に代表には復帰していただくと言うことでスケジュールは組ませてもらいます」
仕事明日からじゃないのか・・・
まだ、しばらくはつくしとゆっくりと過ごせるということか?
西田にしては粋なはからいしてるじゃねえか。
さすがは俺の秘書!
臨時のボーナスでもくれてやるか。
今日の朝までの二人の関係思いだしニンマリ笑いがこみ上げる。
つくしと離れ離れの別居生活の俺の不満はまだ数日一緒にいられる蜜日の空想にしっかり塗り替えられてしまっていた。
「二か月程度では代表のたまった仕事は片付きませんから修習に専念できると思いますよ」
西田の言葉につくしが戸惑いながら「ありがとうございます」と礼を言う。
西田にお礼を言う必要あるのか?
お礼を言われるのは別居を許す気になっている寛大な俺様じゃないのか!
西田が俺に視線を送る。
こいつの目の中に「クス」とした笑いを見つける。
そして満足そうな表情を浮かべてた。
俺は・・・
西田に誤魔化されていたことにようやく気がついた。
-From 2-
「怒って・・・る・よ・ね?」
「怒ってねッ」
ソファーに足を組んで座って頬づえついて不機嫌そうにブッとつぶやく。
「機嫌・・・悪そうだよね?」
「悪くねッ」
彼は浮かない顔をしてプイと私から顔をそらした。
ご機嫌が服着て歩いてた・・・
そんな状況が1時間ほど前だったこと・・・
この人は覚えているのだろうか・・・
同じ場所で、同じ時間を共有して、同じ空気を吸っている。
それに居心地の悪さがプラスされてくる。
道明寺の不機嫌さだけが充満されるこの感じ・・・
どうすれば取り除くことが出来るのか。
簡単なことだ。
私が一言、修習を諦めると言えばいい事。
でも・・・
今さらそんなこと言ったら道明寺の不機嫌さに嫌悪感が重なるはずだ。
道明寺が私の夢を奪い取ることになるのだから。
いくら不機嫌でもここは道明寺に納得してもらうしかない!
解かりきった結論に行きついた。
考えたら・・・
去年の暮いきなり何の相談もなしに婚約を勝手にテレビ中継でぶちまけて!
勝手に卒業したらすぐに結婚!
私の存在を無視してドンドン話を進めてここまで来たようなものだ。
事前に相談されれば司法修習生としてと修習が待っていることもしっかり説明できたはずなのにッ!
あの後の信じられない様な世間の報道攻めにすっかり慌てて逃げ隠れしている状態に追い込まれて、大学に行くのも大変で、すっかり修習のこと忘れてしまっていた。
そして、結納の後の出来事で、道明寺との結婚に迷いが生まれてて・・・
喋るような状況があるわけないッーの!
「わーーーー」と叫びそうになって心の中にのみこんで「フッー」とため息ついていた。
「あのさ・・・笑ってくんない?」
道明寺の正面に顔を近づけて頬を両手で包んで上に持ち上げる。
「お前は平気なのかよ?」
「ん?」
「俺と離れ離れで・・・」
「結婚したばっかりなんだぞ。俺達・・・」
私の手のひらは道明寺の頬を押さえてつけているまんまで・・・
いつもキリッと閉じられてる形の良い唇はくちばし状態に形を変えていて・・・
喋る道明寺の声がふかふか漏れていた。
瞳だけがグヅってて・・・
甘えるような上目づかいにキュンと私の胸の奥で音が鳴る。
「その顔で言ったらギャグだね」
照れを隠すように強がってみる。
「クスクス」わざと笑って・・・
自分の気持ちを知られたくなくて・・・
自分の顔を隠すように道明寺の首に腕をまわして抱きついた。
それが・・・
限界だった。
「さびしいに決まってるじゃない・・・」
「私も我慢するんだから・・・司も我慢して・・・」
わーーーっ!
言った先から全身に羽毛があてられるようなこの感触。
まだ道明寺の名前呼ぶの慣れなくて・・・
それだけで・・・
照れてくすぐったくなってしまう。
「しょうがねぇ、我慢する」
甘えん坊のダダッ子は私をグッと抱きしめて観念したようにつぶやいた。
「その代わり俺が休みの間は二人っきりで俺のやりたいようにさせること」
「これだけは譲れない」
脅してるのか・・・
頼んでいるのか・・・
わがままの中に含まれる甘い匂いが充満して私を包む。
顔の見れない状態のまま道明寺の伸びた腕がゆっくり私の背中を移動して腰をしっかりつかまれた。
クルッと道明寺の膝の上に乗せるように絶妙に腕が動いて私を導いた。
「う~ん~ お手柔らかにお願いします」
腕を首に巻きつけたまま頬に軽くキスをおとす。
「わかんねぇ」
私の耳元を道明寺の声が小さくくすぐった。
道明寺の唇の感覚が耳元からゆっくり移動して私の唇をそっと塞さぐ。
そして・・・
「クス」と笑いあって・・・
二人で相手の瞳の中をのぞきこむ。
私が映る道明寺の瞳にやさしさがあふれ出し・・・
見つめ合って・・・
溶け合って・・・
愛しさしか見つけられなくなってきた。
やさしいキスが私の顔面に降り注ぐ。
とりあえず・・・
今は二人の時間を楽しもう。
-From 3-
久しぶりに自分のベットで眠りについた。
つくしを胸に抱いてぐっすりと。
今・・・
目を開ければ俺の腕に頭をおいてすやすや寝息を立ててるあいつがいるはずだ。
あいている片手をあいつの身体に回し、そして、また抱き寄せる。
えらく腕が軽くないか?
いつもの心地よい重さが見当たらない。
回した腕も空ぶった。
焦って目を見開いたまま飛び起きる。
「いねぇ・・・」
さっきまでそこにいたはずのあいつの体温の残りみたいな温もりだけが残像を残す。
逃げた?
消えた?
どこ行った?
今さらそんなはずある訳ないのに・・・
自分の焦りに苦笑する。
時計の針は8時を回っていた。
ベットから降りてそばに脱ぎ捨てていたジーンズを拾い上げて足を通した。
生地の冷たさがそのまま皮膚を刺激して細胞を目覚めさせる役目を担う。
そのまま自分の部屋を徘徊。
こんな時、部屋の仕切りの多さが無性に不愉快に感じた。
今までなかった壁のドア。
そこは・・・
俺の部屋と続きでつながるつくしの部屋だと昨日あいつに説明した。
「別に部屋なんていらないのに・・」
あいつはクスクス笑っていたっけ。
俺も実際そう思う。
別々に過ごす時間がこの屋敷の中である訳はないのだから。
少し開いたドアの向こうから柔らかい光が漏れていた。
あいつ・・・
なんか歌ってないか?
ハミングするような楽しそうな調べ。
俺の知ってる歌じゃないが機嫌のよさが♪になって流れてくる。
朝からえらく機嫌のいいつくしに俺までテンション上がってくる。
「朝から何やってんの?」
しっかり身支度を整えて薄化粧までしたつくしが驚くように振り向いた。
「あっ、おはよう」
驚いた表情はすぐに崩れてご機嫌な笑顔を俺に向ける。
「本当は昨日やりたかったんだけどね。荷物の整理」
「させて・・・くれなかったから・・・」
少し頬を膨らませ「クフッ」と照れたように笑った。
「俺だけのせいじゃないだろう」
「そうだっけ?」
「今日は邪魔しないでよ」
軽く睨んで俺に背中を向けて段ボールの中を覗き込んで作業を再開させる。
後ろから抱きついた俺に「キャッ」と小さくつくしが声を上げた。
「だから、邪魔しないでって言ってるのにッ」
「約束した覚えない」
「誰かほかの奴に頼めば済む」
「そんなわけにはいかないの!自分の物なんだから」
不満そうな口元をキスで塞ぐ。
もごもご言ってる口元に舌を滑らせ静かになるまで吸いついた。
力が抜けるの確認して唇を離してニヤリと笑う。
「強情な奴」
「バカッ」
俺に向けて段ボールの中から本を投げてきやがった。
当たんねぇ。
「ゲラゲラ」大声で笑ってやる。
「なんで上何んも着てないの?早く着替えたら」
「すぐ脱ぐかもしれないだろう?」
「もう!ヤダ!無理!」
また頬が膨れ出す。
今日はずーとこいつのふくれっ面を見ていたい。
「真面目に俺も手伝ってやるから」
こみ上げる笑いを押さえてあいつの側に膝をつく。
つくしと並んで段ボールを開ける。
床に膝ついて段ボール開けてるなんて俺を知ってるやつが見たら仰天するに違いない。
たまにはこんな単純な時間があってもいい。
つくしと一緒なら。
とりあえず・・・
今は二人の時間を楽しもう。
100万回のキスをしよう 3 へ続く
From 2、From 3 は時間をずらして二人の時間を描いてみました。
ここから先は試練が待っている~のかな?
最後は『今は二人の時間を楽しもう』と言うことで同じ言葉で締めくくっています。
けして手を抜いて同じ文章を使った訳ではありませんので(^_^;)