第9話 杞憂なんかじゃないはずだ 9

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-From 1-

「すごいよね」

「大学に行っても未だにF4の人気は健在なんだ」

牧野が驚いた表情を俺に見せる。

「4人いると目立ちすぎだろう」

だから俺一人で満足しとけと心の中でつぶやいた。

「なあ?このまま二人きりになれる所にいかないか?」

牧野の肩を抱いて耳元で小さくつぶやく。

身体の体温が一気に急上昇したみたいに牧野が真っ赤になっていた。

「えっ・・・でも・・・」

「みんないるし・・・悪いし・・・」

「・・・・・」

「いやなのかよ」

煮え切らない態度を見せる牧野に少しイラつく。

「嫌というか・・・」

「みんなにバレバレなのは・・・」

・・・照れる ・・・」

最後は消え入りそうな声になってうつむいた。

こいつの性格忘れてた。

素直じゃないあまのじゃく。

必要以上に人の目を気にするところ。

ここに時間をかけたらあいつらから逃げ切るのは無理だ。

なにも言わずに無言で牧野を引っ張って走りだせばよかったと自分の判断ミスを呪った。

「大丈夫だ、あいつらもそこまで野暮じゃない」

「すぐにここから離れないとまた遊ばれるだけだぞ」

「司、牧野としけ込む算段なんてしてんじゃねぇッ」

後ろから総二郎に腕をつかまれた。

「牧野は俺達を置き去りにする様な薄情な奴じゃないよなぁ」

あきらがわざとらしく牧野の肩に腕を回す。

「牧野に触んじゃねっ」

飛びつくようにあきらから牧野を奪いとる。

その横で類にクスッと笑われた。

明らかに俺の反応を楽しんでのが解かるのに、その反応しか出来ない俺は自分でもバカだと思う。

牧野に触れるのも・・・

牧野の側にいるのも・・・

牧野が笑いかけるのも・・・

自分以外は許せない。

そんな心情、嫉妬心。

今さら変れるかぁーーーーーーッ。

「朝まで邪魔するつもりはないから」

総二郎っーーー クスクス笑うんじゃねッ。

お前の考えなんて全部わかってる見たいな顔しやがってーーーーー。

不満だけがどんどん膨らんでムカつく気持ちが増殖する。

「ど・・みょう・・・じ?」

牧野からハラハラと心配そうな視線を向けられて、俺は冷静さを取り戻そうと息を吐いた。

「心配するな」

「こいつらとやりあう気はねぇから」

上目使いで俺を見つめてクスと牧野の口元が小さく笑う。

この表情がたまんねッーーーーーー。

だから抱きしめたくなってしまう。

俺の動きを止めるように人目を引きすぎとあきらに促される。

こんな時に限って冷静な判断を見せるあきらが憎らしく思えてきた。

「それじゃあ、今度は静かな場所で飲み直そう」

逃げられない様に周りを囲まれたまんま背中を押される感じに渋々と夜の街を歩き出していた。

-From 2-

ネオンがにぎやかなビルの入り口。

じゃれあってるように見える男女数人に目が止まる。

どこかで見た顔・・・

どこだっけ?

派手な化粧の女性に軽薄そうに男子3人。

男女比の割合の不安定さは結構目を引く。

男女比で言ったら4対1の私達も相当なものだ。

別な意味で目立ってはいるけれども・・・

スタイル抜群の男性にスッポリ周りは隠されて、振り向く女性たちに私の姿は目に入らないようだ。

ところでどころでカッシャッとシャッター音とストロボが光る。

写メとられてる・・・。

全く気にせず歩いてる色男4人組み。

私一人だけドキドキ心音が高まってくる。

人に見らえることに慣れている人種には私の気持ちなど解からない事だろう。

そんなことより気になるのはさっきの男女4人組。

気になる視線を送りながらビルの入り口を通り過ぎてはみたが、なんだか気になって数歩先で足が止まって振り返って思わず2度見をしてしまってた。

聞き覚えのある声に家庭教師をすっぽかした張本人、田崎京香だと気がついた。

無視だ・・・

もう関わりを持つつもりもない相手だと言い聞かせる。

だけど・・・

昼間の田崎京香の両親の項垂れた姿が目に浮かんで離れない。

親に心配かけて、夜遊びなんて10年早い!

バカみたいな正義感。

振りかざしても徳にはならないはずなのに、見つけてしまったら黙っていることが出来なくなっていた。

「牧野どうした?」

立ち止った私に道明寺が視線を向ける。

「先に行っててくれるかな?」

「知り合いを見つけたから少し話してきたいんだ」

「男じゃねぇだろうな?」

こんなところで何の心配してるんだと思わず苦笑する。

「女の子だよ」

「家庭教師してた子、今日で止めること伝えてなかったから、それだけ伝えてくるの」

説教したい気持ちは隠したまますぐに済むからと、ついて来そうな道明寺を押しとどめるように踵を返した。

ビルの入り口のドアをそっと開ける。

ややうすぐらいライトに照らされてダーツを楽しむ人影が見えた。

しばらくすると薄暗さにも目が慣れて中の状況もようやく把握でき始める。

奥のテーブルで一人の男性に肩を抱かれほほ笑んでいる田崎京香を見つける

ほとんどはカップルかグループでの状況に女性一人ではやばい感じがして田崎京香に近ずくことにためらいが浮かぶ。

このまま帰った方がいいかも・・・

入り口に引き返そうと思った瞬間人影に押される様に奥に押しやられてしまってた。

「あっ!先生じゃん?」

「先生もこんなとこ来るんだ?」

「この人私の家庭教師なの?英徳の女子大生だよ」

勝手に私の自己紹介を楽しそうにはじめてくれていた。

「ねぇ、女性は私一人だから先生・・・つくしちゃんも一緒にどう?」

なんであんたにつくしちゃんなんて呼ばれなければならない。

これでも一応年上だぞ!

見た目はどう見ても私の方が幼く見えそうだけれども・・・

「私一人じゃないし、あなた達に付き合うなんて真っ平御免だから」

上から目線で完全になめられている態度にムッとする。

「誰も一緒じゃないようだけど」

クスッと田崎京香がバカにしたように笑った。

「つくしちゃんて言うんだ」

いつの間に湧いてきたのか後ろから二人の男に挟まれる状況に追い込まれていた。

「こんなとこ女子高生の来るところじゃないでしょう!」

「ご両親も心配してたよ」

真面目なんだと周りを囲んだやつらはゲラゲラ笑わう。

「俺達と付き合うと楽しいよ」

「人生観変るかも~」

「真面目な学生生活はつまんないし、もっと遊ばなきゃね」

「京香だって今日初めて知り合ったけど楽しんじゃってるんだから、つくしちゃんも楽しもうよ」

ついていけない感覚に絶句する。

無理だ・・・

こんな相手に話が通じる筈がない。

人種が違う。

話にもならない。

「あんた達には付き合えない」

「この程度の男と過ごすのが楽しいなんて私には思えないから」

「京香ちゃん、あんまり自分を安売りしない方がいいと思うよ」

「言ってくれるじゃん」

お酒とたばこの混じった嫌な匂いが鼻をつく。

さっき田崎京香の肩を抱いていた男が立ちあがり逃げられない感じに腕をつかまれていた。

「離してよ」

睨みつけて腕を振り払おうと躍起になる。

男の力にかなうわけはなく私の反応を楽しんでるように男は片唇を上げて笑っている。

いやしい笑いに緊張が走って、助けてと心の中で道明寺に叫んで震えてた。

「俺がたのしいこと・お・・し・」

男が言い終わらないうちに顔がゆがんでテーブルの上に転がり落ちた。

「気易くさわんなッ」

右拳を振り下ろしたままの道明寺が私をかばう様に立ちふさがってくれていた。

-From 3 -

「先に行って」と、言いのこされて「分かった」なんて夜の街中に牧野一人を残す神経は持ち合わせていねーぞ。

返事も聞かずに走り出すあいつを見失なわない様に追いかける。

上品とは言えない店の入り口。

よくこんなとこ女一人で入っていけるものだと警戒心のなさに舌打ちする。

込み合っている店内。

充満する酒の匂いと煙草の混じった匂いに顔をしかめた。

薄暗い光の中で牧野の姿を求めてさまよう。

たいした広さのない店内も人込みにまぎれた牧野を探すのは容易ではなかった。

牧野と呼んではみても派手な音楽でかき消された。

店の奥の一角、男数人に囲まれている牧野を発見する。

だから言わないこっちゃない。

軽薄そうな奴に簡単に近づくからそんな目にあう。

これで少しは懲りればいいんだが・・・

お灸をすえる意味で少し見学・・・と・・・

あいつ!牧野のうでに手を伸ばしやがった!

腕をつかんだぞ!

薄笑い浮かべた顔を牧野に近づけるんじゃねぇーーーーッ。

アドレナリンが放出して爆発寸前の極限状態。

気がついたら殴り倒してた。

背中に牧野をかばって周りの奴らににらみを利かせる。

「牧野、大丈夫か」

俺の背中に頭を寄せてコクリと牧野が小さく頷いた。

背中に添える手の震えが牧野の恐怖心を俺に伝える。

「こいつに指一本触れてみろ二度とナンパなんて出来なくしてやる」

倒れている男を襟ごと持ち上げて拳を上げる。

「司、それぐらいにしとけ」

後ろから上げた拳の動きをあきらがつかんで止めた。

「お前らもついてきたのか」

「当り前、お前らに逃げられたら困る」

総二郎が軽めの笑いを向ける。

「先生の彼氏はどっち?」

呆けたように俺らをソファー座っていた女が見渡した。

「こいつがお前の言っていた家庭教師先のガキか?」

「う・・ん・・・」

牧野が小さくつぶやいた。

「俺達みんな牧野に惚れてんの」

類!

真顔で言うなーーーーッ

本気にされるぞ!

類の場合は本気かもしれねけど。

ムッとこめかみに血管が浮かび上がってきた。

「牧野にかすり傷一つ付けてねえだろうな」

あきらが指をボキボキ鳴らす感じにすごみで迫る。

冗談じゃない本気のあきらに男たちはその場を逃げだしていた。

「だらしねッー、拍子抜けだよな」

詰まんなそうにあきらがつぶやく。

「情けねえな、女を置いて逃げ出すなんて」

「彼女、男見る目ないね。男は選びな」

身動きを忘れた女に、にっこりと余裕のほほ笑みを総二郎が投げかける。

こんな時まで女を惚れこまそうとしてるような総二郎の態度。

こいつはやっぱり生まれながらの女たらしだと感心する。

「こんなとこでナンパしないで」牧野に怒られたやがんのとプッと噴き出した。

「ほどほどにして帰るんだな」

俺の言葉を無視するように女が立ちあがり牧野の側に歩み寄る。

「先生、真面目に家庭教師受ける」

突拍子もない言葉に牧野がこれ以上に大きくならないぐらいにまん丸目玉を見開いた。

「・・・ムリ・・・」

「あなたの興味は勉強じゃなくてこの人たちでしょう?」

「性格なんてそんなにすぐ変わるとは思えないから」

「今のあなたじゃ無理」

なにか言いたげな女を無視して牧野が背中を向ける。

「道明寺・・・行こう」

俺の腕に手を回す牧野の腰をそっと抱き寄せる。

「心配かけるな」

ごめんと謝る牧野を守る様に店の外に歩いて行った。

そろそろ家庭教師のトラブルでなにか考えなきゃと無理やりつくしちゃんを猪突猛進ぎみに動かしてみました。

F4揃えば敵なし。

守られているつくしがうらやましい(>_<)