第1話 100万回のキスをしよう!16

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-From 1-

一足先に一人で車に乗り込む。

迎えの車に辺りをきょろきょろ見回しながら乗り込むって・・・

どう見ても挙動不審だ。

昼間の噂のせいで敏感に反応してた。

社内をうろついただけの道明寺に浮足立っていたビル内の騒動。

それを考えれば私の事がばれても問題ないと言われても身構えるのは仕方がないと思うのだけど。

学生時代みたいに表立っての嫌みを言われることはないと思うが、私の事で道明寺の評価を落とすことだけはしたくない。

だからなおさら身構えてしまう。

「代表は仕事で遅くなります。あまり甘い顔をすると歯止めが利かなくなりそうですから」

西田さんに「お世話かけます」と、謝る私は道明寺の保護者の心境にさせられていた。

今日の昼間どれだけ貴重な時間をロスしたのか・・・

ビル内を歩き回っていた重要人物は鬼ごっこの標的にされていた様な節がある。

誰も捕まえきれない標的だったろうけど、情報だけは出現場所を明確に発信していたらしい。

本人が全く知らないところでこんな騒ぎが起きていると知ったら道明寺はどんな顔をするのだろう。

言っても鼻で笑われそうな感じが濃厚。

だだっ広い部屋の片隅で机の上で書類を眺める。

私だってすることはいっぱいある。

覚えないといけないことはまだまだたくさんある勉強中の身だ。

それでも・・・

気がつくと道明寺の帰りを待ちわびている自分がいる。

考えてみればこの屋敷で一人で夜を過ごす事って初めてだと気がついた。

仕事から帰る道明寺を一人で待っている時間を更新記録中だ。

私も道明寺の事を笑えない状況に陥ってしまっている。

照れくささは隠しようがない。

明日へと日付が変わる頃、聞きなれた足音が響いてきた。

なんだか帰ってきたぞと無理やり音を立ててる様に思えるのは気のせいだろうか。

「おかえり」

道明寺の部屋につながるドアを開けて明るく顔をのぞかせた。

「まだ寝てなかったのか?」

ネクタイをゆるめながら道明寺はソファーに腰を下ろしていた。

「帰ってくるの待っていたの。勉強していたし・・・」

「それに帰り遅くなったのは少しは私の責任あるだろうしね」

道明寺の隣に寄り添うようにソファーに座る。

「いいもんだな」

「えっ」

「待っていてくれる奴がいるってこと」

疲れが吹っ飛ぶと、こぼれそうな笑顔を向け私の肩を道明寺の腕が包み込む。

「もうあんな騒ぎ起こさないでよ」

「騒ぎになっていたか?」

その無邪気すぎる反応・・・

無頓着すぎないか?

「キャーキャー」上がっていた騒ぎが聞こえてなかったってことはないはずだ。

それとも学生時代から騒がれているから慣れてしまっているとか?

アイドル並みの人気だって自覚はなさそうだ。

頭痛の種はここにもあったと気がついた。

「必要以上にビル内を探索しないでよ」

「お前が従順なら問題ない」

悪戯っぽく道明寺の表情が変わる。

「なあ・・・?」

「新婚てさぁ・・・」

「夫が家に帰ってきたら、『お風呂にする?食事にする?それとも私?』みたいな事を聞くんだろう?」

いきなりなにを言いだしてる?

それって・・・

どっからの情報だーーーーーッ。

「さ・・・あ・・・聞いたことないけど・・・」

それに聞かなくても道明寺の返事は決まっているに違いない。

尾っぽ振ってねだるような子犬の表情はやめてくれーーーーーッ。

だから・・・

ダメだって・・・

甘えるなぁッ・・・

「うっ・・・」

負けた・・・

どんな顔して言えばいい?

完全に強張って硬直状態の頬を必死で緩めてみる。

「食事に・・する?お風呂に・・・する?」

「抜けてるぞ」

意地悪だ。

アタフタしている私を見て喜んでいるのが丸見えだ。

ヒビがピキッと顔面に入って崩れ落ちた。

恥ずかしさでこのまま溶けちゃいそうだ。

「・・・まずは・・・どっちかでしょう・・・」

迫ってくる道明寺から思わず視線を外して眼球は左右に浮遊中。

落ち着ける訳がない。

「一緒に風呂なッ」

「なぁにッ!」

抱きあげられた私は抵抗も空しくズルズルとシャワールームへと連れ去られてしまっていた。

 

-From 2-

チャポン。

ブクブクッ。

俺の目の前。

鼻から下を湯船に沈めたつくしに上目づかいで睨まれた。

「もうお風呂入ったのに」と、ふくれ面。

その割には髪が濡れないようにアップしてるんだから十分その気じゃねぇのかよ。

大人二人が入っても足の伸ばせる湯船。

狭い方が密着できると最近噴出してきた不満。

腕を伸ばして胸の中へつくしを引っ張りこむ。

すっぽり素直に収まった。

胸元に感じる素肌の温もり。

抱きしめてその存在を確かめる。

今日は疲れたとか・・・

岬所長は頼りになるとか・・・

なんとかなりそうなんて色気のない話が必要か?

甲斐さんが私の教育担当の言葉・・・

おもしろくねぇ。

ここで男の名前を出すな。

昼間の不快な思いまで浮かんでしまう。

「なあ・・・なんで一緒に風呂入ってんの?」

「えっ?道明寺が無理やり引っ張りこんだから・・・」

キョトンとした目で下から俺の顔をつくしが見上げる。

「そうじゃなくって、そんな話を聞くためじゃねぇ」

反論してきそうな唇に吸いついた。

微かに開いた唇から舌を差し込む。

腰にまわしていた腕を動かし二つの胸のふくらみを包み込み柔らかい感触を楽しむ。

チャポンと水面の音がはねるたびに鼓動の動きが激しさを増す。

火照る身体は湯船の中ではもてあまし気味だ。

「の・・ぼせ・・・そう」

真っ赤になった顔のつくしの首がカクンとなって頭が垂れ下がる。

「おい!大丈夫か?」

「う・・ん・・・なんとか・・・」

慌てて抱きあげ湯船を出た。

バスローブでくるんでベットに運ぶ。

絨毯は俺の水滴で足跡を作っている。

本来ならもっと甘く囁いてベットまで直行の予定。

冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出してつくしを介抱する俺はあまりの予想外。

「生き返った 」と、長めにため息ついたつくしにホッとする。

健気だよな・・・俺。

「すぐにのぼせるなッ」

「だって・・・急にあんなことするから・・・」

「俺、なんかした?」

「バカッ」

枕がポクンと一発、頭に飛んできた。

相変わらずの反応。

繰り返そうとする腕の動きを抑え込む。

照れまくった顔に煽られた。

「それだけ元気があれば大丈夫だよな」

狙いすましたように抑え込み自分の身体の下に組みしいた。

観念したようにつくしの身体から力が抜け、筋肉の柔らかさが増して行く。

重なり合う唇が根負けしたように開いた。

舌を誘い出し息も出来ないほどにからめとる。

指先を絡めあい重なった手のひら。

寄せあう肌のぬくもり。

重なり合う吐息。

つながるすべての場所から愛しさがこみ上げる。

欲望と願望に支配され理性だけがはぎ取られていく感覚に身をゆだねる。

欲するままに突き動く。

愛しさもせつなさまでも飲み込んで・・・

押し寄せる欲望のすべてをつくしに注ぎこんだ。

波のように押し寄せてきた欲望が、引き潮のように引いていく余韻の中、「これでぐっすり眠れそうだ」

と、つぶやく俺に「疲れた」って、何なんだ?

ムッとする俺の胸元に顔をうずめたつくしはすやすや寝息を立て始めていた。

 

-From 3-

今日は支店に顔出してから出社だからと道明寺に見送られて車に乗り込む。

道明寺が手をふって見送るなんてこと今までにあったのだろうか?

それをさせる私って・・・

変な気分だ。

見送る使用人の視線は私よりも道明寺に移っていた。

昨日の噂はどこまで進展しているのだろう。

増長されていることがないことだけをただただ祈る。

そろって出社しなくていいことにホッと胸をなでおろす。

昨日の今日で西田さんも考えたとか・・・

たぶんそうに違いない。

助かったと思える心境、道明寺には分かるまい。

しばらくの猶予をもらっただけにすぎないけどね。

車から降りて足早にビルの中にかけ込む。

車の停車で歩みを止めていた女性社員が落胆の表情に変った。

きっと道明寺が降りてくると思っていたに違いない。

それでなくても黒塗りの運転手付きの車は目立ち過ぎだ。

その車で送られる私って十分な注目を浴びているじゃないか。

昨日は道明寺と一緒だった訳だしね。

すぐにばれるじゃん。

そろそろ諦めないと・・・

そう思っても諦められないなんて覚悟が足らないのだろう。

1階フロアー先から見つめられる視線は足を進めるたびに増えているような気がするのは必然的現象か。

私が注目浴びる要素は完全的だ。

つかの間の自由を満喫しよう。

それは今日まで?

明日までか?

気がつかないうちに口元からはため息が漏れる。

「おはよッ」

「あっ、おはようございます」

明るい調子で甲斐さんにポンと肩をたたかれる。

上に上がるエレベーターは出勤する社員ですぐにいっぱいになった。

「昨日はつかれなかった?」

「大丈夫です。体力だけは自信がありますから」

「女の子が体力自慢するの初めて聞いた」

「ほかに自慢するとこありませんから」

「そんなことないんじゃんない?」

「つくしちゃん、かわいいし、それに浮いた噂一つなかった代表を射止めたん・・・」

「わーーーッ!止めてください」

甲斐さんの口元を手で覆って言葉をさえぎる。

周りの怪訝そうな視線に慌ててもとの体勢に戻った。

「十分に魅力的だと思うけど」

笑いを含んで小声でそう甲斐さんが付け加える。

「からかわないでください」

「いーや、君の反応楽しくて、心がなごむよ」

エレベーターの到着音に反論を止められた。

たいした意味もないかけ合いの様な言い合いは事務所の中まで続く。

「仲いいのね」

玲子さんの言葉に話が止まる。

「孝太郎、代表に睨まれても知らないわよ」

言った先から二人で笑い合っている。

焦っているのは私だけ。

完全に遊ばれいる状態って・・・

ここでも私はポジションこんなものなのだろうか。

西門さんと美作さんがこの二人に変っただけの様なもの。

それが居心地がいいと感じるなんてどれだけならされてきてるんだか。

常に道明寺が側にいない分だけ楽かもなんて事まで考え出していた。

つづきは 100万回のキスをしよう!17 で

たまには新婚気分を味あわせてあげないと♪

短時間で終わらせないと明日がきついぞ~

余計なお世話?

必要なし?

ですよね・・・。

・・・ところで司君のその情報は誰からなのだろう?

西田さんという意見が一歩リード気味。

あとはF3にタマさん。

お話が出来あがったらその場面を短編で~とは考えております。