第11話 花に嵐のたとえもあるが・・・ 4
*-From 1-
一部屋にみんな集まって顔を並べる。
テーブル一面に並べられた色とりどりの浴衣に目を輝かせるのは私と優紀の二人のみ。
「女性の浴衣姿は色っぽくていいよな」
「牧野じゃなぁ・・・」
「祭りに行けば楽しめるかもな」
美作さんと西門さん・・・
相変わらずの反応だ。
二人の反応は了承済みというのも情けない話だ。
「別に美作さんや西門さんに見てもらわなくてもいいから」
慣れているせいか怒る気にもなれない。
「司が見てくれればいいってわけか」
「べ・・別にそんなつもりもないわよ」
慌ててうち消す私の横で道明寺がニンマリ。
私の慌てぶりは目に入ってないらしい。
「これなんか、いいんじゃねぇ?」
淡いピンクの生地の浴衣を選んでそわそわと私に渡す。
視線ははるか彼方に飛んでいて緩みがちな表情・・・
私の気持ちなんて把握してなくて、完全に浴衣着て祭りを楽しんでいる妄想状態に一人で陥ってる様だ。
「着付けは俺がやってやろうか?」
「着せるより脱がせる方が得意だけど」
「誰が牧野に触れさせるかッ」
悪戯っぽく笑顔を作る西門さんにピクッと素早く反応して道明寺がくってかかった。
「着せるんなら俺が着せる」
「着せるって、お前・・・着物なんて着られねえだろう」
「確か・・・前に自分で帯を結ぼうとしてこんがらがって身動きとれなくなってたよな?」
思い出してかクククと小さく笑い声を上げる西門さん。
「うるせっ、根性で着せてやる」
「いいだろ牧野」
いいだろうと言われも自分で着物着られない様な状況でどうすると言うのだろ。
根性でやれるものじゃないはずだ。
いいわけないでしょう!
「浴衣くらいなら優紀が着せてくれるよ」
優紀は西門さんと知り合ってからお茶を習ったり着物の着付けを習ったり健気なことやってるんだよな。
思い出して優紀に助けを求めた。
「つまんねェ」
不満そうにつぶやく道明寺。
素肌に近い状態で道明寺に着付けなんてさせる訳にはいかない。
そのまま部屋から出てこれなくなる可能の方が高い!
心の中で突っ込んだ。
それぞれが浴衣に着替えて集まる夕暮れ時。
すらっとした長身4人組。
ゆかた姿がこれまた容姿を引きたてて夕映えに映える。
いつも見慣れている私服とはまた違った男の色気。
「さすがだわ」
優紀と二人で見惚れてしまってた。
どこにいても、どんな格好しても、人目を引くオーラーは欠けることがない。
花火より目立つんじゃないか?
なんてことを本気で思った。
モデル集団に囲まれてホテルを出る。
そろそろと集団が増えているのは会場が近づいたせいだと思いたい。
「わーッ、お店がいっぱい並んでいるよ。道明寺!」
笑顔でふりかえるその先にキョトンと周りを見回す花沢類の姿しか見つけ出せなくなっていた。
-From 2-
せっかくの楽しみを奪われた。
二人で浴衣の着付けなんて滅多にできねェぞ。
「こんなんじゃ浴衣が着れな~い」
なんて・・・
牧野が言いながらすねて甘える。
「もうこのまま朝までいよう」
・・・・・と、俺が反応。
楽しいじゃねぇかぁ~。
鼻血が出そうになっていた。
これじゃ、欲求不満の思春期だ。
予定時間ぴったりに全員が集合。
髪をアップして浴衣で現れた牧野に見惚れてた。
白いうなじに微かにかかるおくれ毛がなんともなまめかしい。
俺を見つけると牧野が照れたように笑って表情を崩した。
「似合う?」
俺の選んだ黒生地に桃色の花がらのあしらった浴衣。
帯をほどいてこのまますぐに牧野の髪を乱してみたい。
「ああ」
邪心な考えを見抜かれない為にぶっきらぼうな態度しか出来なくなってしまってた。
二人並んで歩く海岸沿い。
カラン、コロンと聞こえる下駄の音もうれしそうだ。
後ろにあいつらがいなければなおさらいいのだが・・・
どこかであいつらをまいて牧野と二人っきりになってやろう。
邪な考えがプクッともたげる。
牧野に言えやしない。
俺の袖口をつかんでは楽しそうに牧野が口元をほころばす。
祭りの思い出や金魚すくい、射的をやろうなんて一人で喋ってはしゃぎまくっている。
クルックルと変わる牧野の表情が愛しくて、うれしくて、飽きなくて・・・
こいつのわがままにとことん付き合うのも悪くないと思っていた。
花火の会場に近づくにつれ人込みは混雑をましていく。
周りで「キャー」とか「F4?」なんて言葉がささやかれだしていた。
大学に入って高校の時よりも騒がれて知名度は高くなっている。
総二郎に至っては次期家元と言う事で頻繁に顔を売り出しているから下手なアイドルより知名度は上昇中だ。
ばれないはずがなかった。
時々光るフラッシュ。
にっこりほほ笑んで愛想を振りまくのは総二郎とあきら。
俺はうだったくて睨みつけて「うるせぇ!ブス」と叫んでた。
いつもならここで牧野が「失礼だよ」なんて口をとがらせて文句をたれだす。
そして・・・
固まって泣きそうになっている女に「すいません」と必死で頭を下げる。
こんな奴らほっときゃいいんだ。
やさしくしたらきりがない。
俺がこれ以上惚れられて困るのはお前だろうがぁッ。
・・・・・・・
やけに牧野の声が聞こえない。
「・・・」
「・・・・・?」
「まきの?」
「牧野!」
さっきまで俺の袖を握っていたほっそりとした小さな指先がなくなっていた。
キョロキョロとこれ以上伸びないくらいに首を伸ばして周りを見渡す。
黒なんて着せるんじゃなかった。
似たような浴衣に目を奪われて牧野を見失っていた。
この俺が牧野を見失うなんてありえない実態。
これも邪な考えで目が曇っていたせいなのか、罰なのか・・・。
「あれ?牧野は?」
「類もいねェぞ」
俺の心を波立たせるには充分なこいつらの反応。
絶対にニヤついてるに違いない。
「類がついてれば大丈夫だな」
「だなッ」
なにが大丈夫だッ。
もし類がその気になったらどうする!?
夏はあぶねぇ季節と言うし・・・
開放的になって・・・
迫られて・・・
・・・・・?
類が牧野に迫る構図・・・
想像できねェッ。
だからって安心できるかぁああああ。
類と牧野。
二人肩を並べて花火を眺める。
それだけでも我慢できるものではない。
牧野が俺の傍で花火を眺めて「綺麗だね」ってほほ笑む。
そして俺は牧野の肩を抱き寄せる。
これが本当だろうがぁぁぁッ。
いたらぬ妄想にとりつかれそうだ。
俺の牧野を呼ぶ声は届くはずもなくざわめきの中に溶け込んでしまっていた。
-From 3-
「みんなどこ行ったの?」
キョロキョロとあたりを牧野が見回す。
「はぐれたみたいだね」
俺の言葉にしょうがないと牧野はバツの悪そうな顔でほほ笑んだ。
「こんな人ごみじゃ、なかなか探し出せないよね」
「そんなにすぐに諦めていいの?」
牧野の決断力の早さに内心驚いてしまってた。
「こんな時はじっとしているのがいいんだろうけど、折角の祭りがもったいないしね」
「帰るところは決まっているから」
「それに一人じゃないし」
クスッと照れたように笑って「道明寺が機嫌を崩しているとは思うけど」
そう言って視線を歩いてきた方向に向けてじっと見つめている。
強がってみても結局は司を諦めていないんだと微かに心がチクッとなった。
「俺からはぐれないようにしないと」
手を伸ばし牧野の指先に触れる。
たじろぐ指先を逃がさないように絡め取った。
「これではぐれない」
牧野は無言のまま耳まで真っ赤になっている。
そのまま牧野が手を離すのを拒否するようにギュっと握って引っ張って歩き出す。
「俺、祭りって初めて、こんなギュギュの人込みも初めてだ」
「浴衣も初めてとか?」
「そう」
「それじゃ楽しまなきゃね」
俺を物珍しそうに見つめてほほ笑んでいつもの調子で牧野の声が弾んでいた。
花火がはじまるまでまだ間があると牧野はクスクス笑って立ち並ぶ露天の前に俺を連れて行った。
たこ焼き、焼きそば、いか焼き、お好み焼きに焼き鳥、かき氷。
連れられて行くところが全部食べ物なんて牧野らしいと表情も緩む。
「どれ食べたい?」
俺に聞かれても経験ないから決められる訳がない。
「牧野が好きなものならなんでもいい」
「どれも食べたいから困るの」
顔を膨らませてブツブツと本当に悩み始める。
こんな反応・・・
俺の周りで見せるのってやっぱり牧野ぐらいだ。
全部買い占めても構わない。
取り巻く女達なら鼻で笑って目もくれないだろう。
心の底から笑いがこみ上げる。
想像できない反応だからおもしろくて、飽きない。
ようやく決まって買ってきたのは綿菓子。
これなら二人で食べれるし浴衣を汚す心配もないって袋を開け始める。
袋には俺の知らないアニメキャラクターの絵。
どうみても子供が喜ぶお菓子じゃないの?
それがなぜか牧野に似合って見える。
指先でつまんだ薄いピンクの綿菓子を「ハイ」と口元に差し出された。
どうするんだ?
じっと綿菓子を見つめる俺に「おいしいから食べて」と、牧野が催促する。
躊躇しながらも牧野の指先ごと綿菓子を口の中に含んだ。
「・・甘い・・・」
「でしょ」
俺の口の中から消えた指先はそのまま袋の中の綿菓子をつかんで牧野の口元に消えていく。
牧野・・・
無防備過ぎだ。
あどけない表情でそんな仕草されたら・・・
司・・・
たまんないだろうなぁ。
「まだあるよ」
また一つ綿菓子をつまんで俺の目の前に差し出した。
「俺が食う」
口に含もうとした瞬間、嫉妬交じりの目を俺に向ける司が腕組みをして現れた。
顔面汗だらけで浴衣も多少乱れ気味。
必死で牧野を探していたのは明白で隠しようがない。
後ろの方には総二郎もあきらも優紀ちゃんも見える。
「牧野、俺も綿菓子食べたい」
総二郎の言葉に素直に牧野が指でつまんだ綿菓子を差し出す。
横からガブッと司が食いついていた。
「俺以外に食べさせるな」
「離れるな」
「心配した」
牧野をしっかり自分の腕の中へ確保しながら俺達にまで威圧感をまき散らしぎみに司がしっかりガードしている。
「呆れるね」
「ああ」
「でも飽きねぇ」
総二郎とあきらは相変わらずだ。
本来の状況に戻った。
もう少し牧野と二人でいたかった。
そのくらい司も許してくれるはずだ。
心の奥底の根っこの部分。
司は俺の気持ちを理解してくれているはずだから。
海辺の砂浜。
浅瀬の底に見える一つの白い貝殻を見つけた。
手を伸ばせば取れる筈なのに、どんなに伸ばしても届かない。
やっと指先が触れたと思ったら波にさらわれてコロッと転がる。
手に入れることないその貝殻をただ見つめる。
変わりない姿でそこにあるのを確かめるように。
ただただ、じっと見つめていよう。
可能な限り・・・
海の奥底に捕われて見つめることもできなくならないように。
続きは 花に嵐のたとえもあるが・・・5 で
久しぶりに類観点で書いてみました。
このお話の題名から言ったらやはり類は欠かせません。
そんな訳で一つ追加UPしてみました。
いかがだったでしょうか?
たまには気分を変えて♪
拍手コメントお礼
マリエ様
司の嫉妬今のところはぼちぼちですね。
類とのエスケープ短時間で終了させてしまいました。
栞様
F4との時間を長く共有できるのはつくしかもしれませんよね。
確かにつくしが羨ましい………
ゆみん 様
>せつなさ一等賞ょ類さん…片恋がこんなに似合うキャラに同情より称賛ですゎ~♪
片思いが似合う類の話って・・・どれ?
思わず悩んじゃいましたが、このお話でしたか・・・(;^ω^)
思わず私も読み返しちゃいました。(^^♪