門前の虎 後門の狼 5
優紀ちゃんの悩みがつくしちゃんの悩みになるような展開。
門前の虎は間違いなく司ですね。
狼は誰だ?
「へぇ、よくできてるじゃん」
雑誌を手に持って眺める姿はとても大衆紙を眺めてるようには見えない気品を漂わせる。
それでもそんな感想を求めてるわけじゃないことは分かってるはずなのにこの余裕。
お茶を点てるような静かな空気感はいらないです。
これが道明寺なら確実に私は一発殴ってる。
優紀の相談事は思いもやらない方向へと私を押し流した。
週刊誌の雑誌を見せられた後、道明寺は西田さんからの連絡で仕事に呼びだされたのは不幸中の幸い。
西門さんと激写されたのが変装した私だとわかって優紀がほっと胸をなでおろしたのは言うまでもない。
「わかってるんだけどね・・・。西門さんが私に興味ないってこと」
その顔は寂しそうにため息をついた後に笑顔を作った。
「まあ、一ファンとして気になるってことで、つくしごめんね」
そのごめんねはきっと私に頭痛の種を植え付けたことを言ってるよね。
道明寺にばれたら・・・
言い訳なんて聞いてくれそうもなくて・・・
あいつの不機嫌を一気に機嫌よく変えることなんてとてもできそうにない。
どんな要求が出されるか想像が付かない域。
「なんで、俺と一緒にお前がいるときは撮ねぇんだ」
西門さんとは写真を取られたのは今度が初めてじゃない。
その時の道明寺の言ったセリフ。
怒るとこそこか?
大体私との婚約自体がマル秘扱い。
結婚するまでは騒がれたくないし、大学生活を静かに送りたい私の気持ちを汲み取って、道明寺の圧力で緘口令を日本中の出版社に手を回してくれたの道明寺だよね?
私と道明寺のことが記事になることはその出版社は倒産する道しか残されてないっていう強い圧力。
それに刃向う日本人がいるわけない。
優紀とも別れた後に私がとった行動は西門さんに連絡をとること。
そのそばには偶然にも花沢類や美作さんもいて、なぜか、今私のそばにいないのは道明寺だけという、極めて珍しい集団が出来上がってる。
この状況もすごくやばい気がする。
それに忙しい3人が私が連絡を入れたその時にその場にそろっていたというの出来過ぎだと疑いたくなる。
道明寺に一応連絡を入れておこうか?
思わずそんな一手を防衛的に打つことを考えてしまってる。
「この、牧野の隣、俺たちもいたんだよね?」
そうだよ、花沢類、あなたもいた。
私の右側に。
そして、左側には西門さんと美作さん。
撮られた写真にはたぶん二人も映っていたはず。
それなのに週刊誌に載せられた写真はどう見ても男女二人が寄り添って歩く写真。
「週刊誌を売るための常とう手段だろ」
美作さんが言うと美作さんの会社傘下の出版社やプロダクションもやってそうだって納得しそう。
「それなら俺たち3人と牧野で載せたほうが話題としてはいいんじゃないか?」
「ほら、F3を惑わす魔性の女・・・」
そこで西門さんの言葉が途切れる。
「牧野じゃ無理か・・・」
私の姿を足元から頭の先まで観察する数秒の間。
短いッ。
せめて数十秒の観察時間を置いて発言してほしい。
「でも、よく司にばれなかったね?」
にっこりとほほ笑む花沢類の笑顔に思わず心が和む。
「だって、かつらかぶってショートだし、目は隠してあるから」
優紀だって最初気が付かなかったんだから道明寺も気づかなかったんだって思う。
「どんなに変装してたって司が牧野のことわからないわけないでしょう」
花沢類のその確信に満ちた言葉と表情。
まっすぐにきらきらと輝く瞳はじっと私を見つめて捉えて動かない。
確かに・・・
あの時・・・
道明寺は・・・
「この女の身長・・・牧野と一緒くらいじゃないのか?」
って・・・言った。
あれって・・・
あの時点で道明寺は気が付いたってこと?
その割には私を追及することなくおとなしく会社に戻ったような・・・
「嘘つくよりすぐに、この写真の時のこと司に言ったほうがいいかもな」
落ち着いた声で私に語り掛けてきたのは西門さん。
私のミスみたいに言わないでよッ。
元をただせばこの3人の中じゃ、茶道の繁栄のためにって一番、芸能人ポイ活動してる西門さんがターゲットにされて、私はそれに巻き込まれただけなんだからッ。
説明責任があるのは西門さんだって私以上にあるって思う。
「司、今、会社にいるんだよな?」
「うん、西田さんに呼びだされてたから・・・」
美作さんの確認の言葉に小さくうなずく私。
3人が顔を見合わせての暗黙の会話。
そのあと・・・3人がじっと私を見てる。
憐れみを浮かべたような、その表情。
なななッ、なにッ!
いったい、なんなのよ!
そこから先を聞くのが怖い気がした。