第2話 抱きしめあえる夜だから 3

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-From 1-

乗り込むのは運転手つき黒塗り高級車。

その後ろにはSPが乗ってるセダンが1台。

なに変わらぬいつもの出勤風景。

ただ一つ私の隣に道明寺がいないことを除けばだけど。

助手席にはなじみの顔のSP一人。

「今日は抜け駆けしないでください」

やんわりニコリとくぎを刺すその瞳は笑っていない。

「事務所の中にまでは入ってこないでくださいね」

こちらも負けじと自分の要求を言ってみる。

「大人しくしてもらえれば」

そう言ってSPはコクリと頷いた。

道明寺と比べれば大人しい方だと思うんですけど・・・。

タマ先輩に聞いてみれば道明寺はSPを相当てこづらせたらしい武勇伝。

走っていなくなるのはいつもの事。

仕方なく手足を縛られて抑制的、強引に保護したことも多々あるらしい。

けがをさせない程度の抑止力は大変な重労働だと身の危険を感じたSPは長続きしなかったとタマ先輩は言っていた。

会社の経営に携わるようになってからは自分の立場をわきまえたのか、自覚したのか、自重するようになって落ち着いたらしいが・・・・。

長かったと昔から残ったSPは涙を流して抱き合ったらしい。

「私たちはここまでで」

事務所の前でSP4人は立ち止る。

「お出かけになる時は連絡をお願いします」

杓子定規に頭を下げる男達。

「信用しています」

丁寧な言葉で決め台詞のように威嚇する。

スキがない態度に思わず萎縮して何度もうなずいてしまってた。

ここぞとばかりに強気になれないのは私の人の良さ。

昨日SPさん達の仕事を全うさせなかったことへのお詫びの気持ちに、後悔の懺悔の気持ちが頭をもたげてる。

少し我慢をすれば済むこと。

そんなに長い訳ではない。

需要出来るように頭の中では考え出していた。

事務所の中では相変わらずのせわしさで仕事の準備が始まっている。

「昨日は楽しかったわね」

玲子さんのほほ笑みにつられる様に「楽しかったです」と声を和らげた。

「えーッ、なに?」

私たちの会話に甲斐さんが割った入る。

「男には聞かせられないなぁ」

茶目っ気たっぷりの玲子さん。

「俺は仲間はずれですかぁーー」

朝からテンション高めに相手をする甲斐さんに頬も緩む。

「SPはどうなったの?今日はドアの前にはいないみたいだけど」

不思議そうに甲斐さんが事務所の中を見回す。

「会社の中では不要と言う事で納得してもらいました」

「行き帰りだけでいいと言う事で交渉成立です」

中に入ってし切ってくれたのはタマ先輩。

タマ先輩の迫力にSPの「代表の御命令」という言葉は徐々に小さくなる。

「坊ちゃんの言うことは子供じみた嫉妬心だから付きあわなくてもいいよ」

「それとも若奥様がぼっちゃんを裏切る真似をすると本気で思ってる者がいると言うなら別だけどねぇ」

「それはそれで、坊ちゃんの機嫌は損ねるだろうけど・・・」

SP達は顔を見合わせ黙りこむ。

道明寺古参の威力はまだまだ捨てたものではない。

でも・・・

道明寺の命令は子供じみているから守る必要ないと一刀両断気味に切り捨てるタマ先輩の迫力。

道明寺家最大ではなかろうか。

「それじゃ、昨日みたいな緊張感はなくなるね」

「結構おもしろかったんだけど」

「つまんねぇ」

「本気で思ってないですよね?」

ククッと笑いを押さえながら甲斐さんが今日の仕事の分と私に書類を渡した。

「あんまりからかうと仕事しませんからね」

「それは勘弁」

おどけたように甲斐さんが言って周りの笑いを誘う。

こうして道明寺のいない二日目がはじまった。

-From 2-

お昼を数分過ぎた頃、携帯の着信音が鳴りだした。

花沢類?

表示される着信名。

珍しい事もあるものだ。

学生時代は道明寺以外なら花沢類からの連絡は2位を占めていた。

結婚してからは初めての快挙?

いつものように社員食堂に向かう廊下。

玲子さん達に遅れて事務所を後にした。

行きかう社員に軽く頭を下げながら片隅によって携帯に出る。

「もしもし、元気」

「珍しいね、花沢類から電話なんて」

携帯から漏れる懐かしい声。

花沢類の声ってトーンがやさしくて昔からホッとした。

「今なにしてるの?」

「お昼を食べに行くところ。花沢類は?」

「今一緒のビルにいるんだけど」

「えっ!?ビルって道明寺本社ビル?」

「そっ、仕事でね用事があったんだ。司は出張らしいね。今どこにいるの?」

「社員食堂の真ん前」

「じゃあ行くよ」

「ちょ・・・ちょっと!」

反論する間もなく携帯からの声が途切れる。

来るって・・・

ここに来るの!?

道明寺での騒ぎもなんとか最近落ちつきだしたばかり。

ここでまた花沢類なんて出現したら大騒ぎだ。

花沢物産の御曹司その顔を容姿も道明寺と同様売れてるのだから。

落ちつかずうろうろするばかり。

これも結構人目を引いている。

私の事もこのビル内では1番の有名人となって早2か月。

訝しげに視線を向けられていた。

「やぁ」

「牧野いつもここでお昼食べてるの?」

「大体ね」

「じゃあ俺も」

人を引き付けずにはおかない顔でにっこりとほほ笑んだ。

「本気?」

「ああ」

すたすたと社員食堂の中に一人で歩いて行く。

「待ってーーー」

慌てて後ろから花沢類について行く。

ざわざわとした食堂内のざわめきに徐々に違う色合いがプラスされてきた。

花沢・・・物産・・・

御曹司!

キャー。

ウッ・・・

やっぱり・・・

道明寺の時と同じような反響。

こちらは正真正銘の独身だから女性の色めき度は熱を帯びている。

注目を浴びながら見つけた玲子さん達と同じテーブルに花沢類を引っ張っていく。

「SPの次は花沢さん?つくしちゃんも忙しいわね」

「お久しぶりです」

玲子さんと甲斐さんがぺこりと花沢類に頭を下げる。

この前の私の披露宴でみんな顔みしりになってる関係。

「ねぇ・・・マジでここで食事する気?」

「えっ、ダメなの?」

「いや・・・落ち着けないかと・・・」

「いいじゃん、司も牧野と一緒にここで食べたんでしょう?」

「なんで知ってるの!?」

「楽しそうに司が話してたから」

「うまくはないけど楽しいって」

クスッとこぼれる笑顔を向けられた。

道明寺と花沢類。

普段どんな会話してるのか・・・。

どんな流れで社員食堂での昼食会の話題になるんだーーーーッ。

その流れが見えてこないんですけど・・・。

「なに食べようかな・・・」

「牧野はなにを食べるの?」

壁にかけられたメニューに目をやる花沢類。

似合わない・・・。

そんな思いを浮かべながらも見惚れてしまってた。

-From 3-

セルフの並びを私の後ろにちょこんと並んで順番が来るのをしっかりと待っていた花沢類。

道明寺の時みたいに列がなくならなかったのにはホッとした。

少しは道明寺の社員食堂利用で社員も慣らされてきた結果ということか。

周りの視線が遠慮なく注がれるのは変わりないけれど。

道明寺を見る様な恐る恐る盗み見る様な遠慮がちな感じでないのは花沢類が他社の人という観念からか。

「みんなこうやって並んで食べたいもの取るんだ」

物珍しさに感心しきりの花沢類に心がなごむ。

「560円・・・俺、持ってないぞ!」

「私がおごってあげるよ」

社員証を読みこませて二人分の支払いを済ませて席に着いた。

「牧野のおごってもらったの久しぶりだね」

「安いものしかおごったことないですけどね」

うどんをすする私の真ん前で花沢類はカレーをスプーンで口に運ぶ。

「ところでさっきのSPってなに?」

「あぁ・・・道明寺が私の事を心配してSPを手配してたの」

「昨日なんてこの食堂までSPが張り付いていたんだから」

思いだしてうんざりした気分が私を包む。

「焼き魚定食突っついてる私の横を囲んでるSPを想像してよ」

「イメージ合わないでしょう」

ふくれっ面になってしまってた。

せめて焼肉定食ぐらいにしとけばよかったかなんて思ってみてもたいした違いが生まれた訳ではないと思う。

「ククッ、司らしいね」

小さく花沢類の口元から笑いが漏れる。

その表情に心を奪われてポッと頬が赤くなる女性社員数名。

私の方までつられて赤くなりそうだ。

「牧野の事が心配でしょうがないんだ」

「本当はうれしいんじゃないの?」

どうしようもなく私の心の奥底は花沢類にはばれてしまってる。

花沢類の鋭い読みはいつも私を躊躇させる。

「冗談!迷惑してます」

「慣れるしかないね」

俺の前では強がらなくていいよなんて見透かされた様なやさしい光を帯びた瞳で見つめられている。

コクリと素直に頷いていた。

「・・・あの・・・花沢さんはなんでつくしちゃんのこと牧野って呼ぶんですか?」

「牧野ってつくしちゃんの旧姓だよね」

私たちの会話を何気に横で聞いていた甲斐さんが私たちの会話に割って入る。

「司は俺達がつくしって呼び捨てにするの嫌がるんだよね」

「結婚するまで牧野ってあいつも呼んでいたし・・・」

「だから俺達の間ではそのまんま牧野かな」

「呼び捨てにしただけで殴られたらたまんないだろう」

冗談には聞こえない感じにさらっと花沢類は言ってのけるから笑えない。

「花沢類!あんまり変なこと言わないでよ」

道明寺の嫉妬心、子供じみた幼稚な理由に身体が熱くなってくる。

「えっ!それじゃ、もしかして俺がつくしちゃんって呼んでることも代表の機嫌損ねてるの!」

「俺も牧野さんて呼ぼうかな・・・」

「甲斐さん!大丈夫ですから、気にしないでください」

「大丈夫だと思うよ、俺達・・・あっ、西門と美作は知ってるよね」

甲斐さんと玲子さんは二人で視線を合わせてコクリと頷いた。

「俺達3人は司を除いたら牧野に近い存在だからだと思うよ」

「牧野に手を出そうとするやつがいたらそれは別だと思うけど」

強い視線を花沢類が甲斐さんに投げつける。

「それは絶対にありません!」

力強く甲斐さんに否定されていた。

「今度は俺がおごるから」

「じゃあ、また連絡するよ」

夢見ごこちの女性達の視線に見送られながら、さわやかな笑顔を残して花沢類は帰っていった。

続きは 抱きしめあえる夜だから 4

やっぱりF3との絡みが欲しいと思いつつ。

いきなり3人!いや一人づづ・・・

どこから攻めるか考えてやっぱり1対1の方がなにかとおもしろいかと行きつきました。

まず最初はやはり類!

というのが私の結論です。

この後どうなる?どうする?

拍手コメント返礼

ヤンバー様

コメントありがとうございます。

おもしろいと言ってもらえてうれしいですね。

書いてるうちに更新するお話が増えて来て結構なプレッシャーですが、毎日来てますと言う言葉に奮起させてもらっています。

9月になったら更新は昼過ぎになりそうですが頑張りますね。

『ピンチな人の立場に立って立ち向かう』つくしですね。

お話が浮かべば書いてみたいですね。

これからもよろしくお願いいたします。

mebaru様

キャーーー久しぶりの書き込みうれしいです。

お待ちしておりました♪

お話進めさせてもらってます。

私も最近iphone4が欲しいと思っています。

旅行楽しんできて下さいね

類の次は、お祭りコンビの予定ですが、司を登場させないとさびいしいので少し寄り道しています。

つくしの庶民ライフを楽しませつつお話を進めさせていただきますね。