第11話 花に嵐のたとえもあるが・・・ 9

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-From 1-

昨日あれからどうだったかなんて聞く気もおきないほど崩れてる。

朝食の為に集まった一室。

目の前のテーブルに牧野と司が並んで腰を下ろす。

その真ん前に俺。

座るんじゃなかった。

司は時々牧野に視線を送っては頬を緩めっぱなしだ。

「おっ!昨日はうまくいったか?」

司の背中越しにあきらが声をかける。

目の前で司のアホ面を見れば一目瞭然だと言いたくなった。

「まあ、なッ」

うれしさ100倍的な機嫌の司の声。

横では耳まで真っ赤な顔になった牧野が目を伏せている。

「テッ!」

「なにすんだ!」

どうやら牧野に足を踏みつけられたようだった。

無言の批難的な牧野の目が司の口をふさぐ。

舌打した司が口の中にパンをひとかけら放りこんだ。

男同士なら問題なく夜の情事を追及してやるところだが、昨日の余韻の残ったままの相手が側にいたんでは冗談にもなりはしない。

他人の前でべたべたしたい奴としたくない奴。

牧野はどう考えても人前でベタベタできるタイプじゃない。

司はなにも考えてはいないだろうけど。

思ったことをそのままあっさり行動に移すタイプだ。

良く言えば自由奔放、悪く言えば傍若無人

はっきり言えば後者の方が色合いが強い。

思わず苦笑する。

「総二郎、なに笑ってんだ!」

八つ当たり気味に司が俺を睨みつける。

あほらしくなってきた。

「司・・・お前だけいい思いしてるよな」

「最高の休みじゃねぇのか?」

本音半分からかい気味に嘯く。

「お前らも楽しんでるだろうがッ!」

「まあ、楽しんではいるがお前ほどじゃないぞ」

あきらが冗談ぽく司の首に腕をまわした。

「えっ・・・そうか?」

ポッと頬を赤くしてニンマリ。

なにを思いだしているのか・・・

分かりやすい奴。

バレバレだ。

我慢できないように牧野がガタンと立ちあがって部屋を飛び出した。

「おい!待てっ」

つられる様に司が立ち上がり牧野の後を部屋を飛び出し追いかける。

「「ブハハハハ」」

湧き上がる笑い声。

全くこの二人は予想通りの反応を示してくれる。

「なあ、今日の予定はなんなの?」

類の声にあきらと二人で顔を見合わせた。

予定なんてなにも考えてはいない。

しいて上げるとすれば・・・

「司と牧野の見学会」

「プッーーー」

見合わせていたあきらと二人で噴き出していた。

 

-From 2-

「なに逃げてんだ」

俺の声は届いているはずなのに振り向きもしないでドンドン足早になっている。

立ち止ったのは俺達の部屋の前。

カードキーを差し込んで牧野がドアを開いた。

軽く俺に視線を送ってパタンと部屋の中へと牧野の身体は吸い込まれていく。

「おい!」

「こら!」

パンツのポケットからカードキーをとりだし慌てて差し込む。

赤から青に解錠のランプが変わるのを待つのももどかしい。

乱暴すぎるぐらいにドアを開けて部屋に飛び込んだ。

「もう!なんなのよ!」

俺の方がなんだと言いたい。

「・・・恥ずかしすぎる・・・」

手には真四角の花がらクッション抱きかかえ、ソファーに頬を膨らませたままブスっと牧野は腰をおろしてる。

そのクッション・・・

俺に投げんなよ!

「なんで?」

警戒しながら牧野に近寄る。

ぶつけられないクッションに気が緩む。

「あいつらも俺達の事は知ってるんだし、意味が分かんねぇ」

当り前のように牧野の横に座りこむ。

微妙な位置で牧野が横に腰をずらした。

俺が側によるのを拒否するかのような態度にムッとなった。

「この顔!」

俺に顔を向けて牧野の手のひらがギュっと俺の両頬を挟んだ。

「緩みっぱなしだよ」

真っ赤に頬を高揚させた牧野が見つめてる。

ついさっきまで俺の腕の中には牧野がいて、抱きしめあって眠った夜。

耳元で聞いた口から洩れる牧野の喘ぎ声。

俺にしか見せない反応。

求めあって、与えあって、つながりあう心と身体。

・・・そして流された。

「だからなんだ?」

出来れば1日中ベットの中から出たくなかった。

うれしくて、幸せな気持ちを隠す必要なんてどこにもない。

これから数日は牧野はいつでも手を伸ばせば抱きしめられる距離にいる。

付き合って初めての出来事。

二人っきりでないのは少々残念。

が・・・

頬が緩んでしまうのは仕方がないことだ。

お前はうれしくないのか?

俺の頬に触れる牧野の指先。

それだけでも今朝の余韻を思い起こさせる。

牧野の手首を自分の手のひらで包み込む。

恥ずかしがる必要なんてどこにもない。

「逃げんなよ」

手首を離して両腕を牧野の背中に回し抱きしめた。

「べ・・・別に逃げてる訳じゃないけど・・・」

困ったように口をとがらせる。

「二人っきりの時だけでいい」

「あっ?」

「道明寺の・・・」

「でれっとした顔をあんまり人に見せたくない・・・」

「・・・もったいないし・・・」

照れるように言って牧野が顔を俺の胸元の寄せ付けた。

「俺は全部お前のもんだぞ」

俺に甘える素振りのお前も誰にも見せられねェ。

もうしばらくこうしていよう。

このまま部屋を出たらさっき以上に顔が緩んで戻らなくなりそうだ。

あいつらにからかいのネタをまた一つ提供してしまう。

そしてまた牧野がふくれたら元の黙阿弥、どうどうめぐり。

今は気持ちを落ち着かせよう。

身体に流れる牧野の体温、程よい重さ。

微かに伝わる胸の膨らみ。

落ち着くどころかもっと感じたくて牧野を抱く腕に力が入る。

うるさいくらいに高鳴る鼓動。

「く・・・くるしいよ・・・」

途切れるように形を変える唇。

触れたくなってしまってた。

 

-From 3-

このまんまではヤバイ。

流されそうない雰囲気にギュっと両腕に力を込めた。

この調子では逃げ出した意味がなくなってしまう。

道明寺の抜けきった顔に身が置けなくなってどうしようもなくなったさっきの雰囲気。

私たちの間柄をみんなが知ってるからこそ恥ずかしいと思う気持ちが湧きあがる。

・・・なんて道明寺はこれっぽッちも感じてないんだと思う。

それがなんだんだと言われればそれまでで・・・

結局抱きしめられてつかまった。

「く・・くるしいよ」

切羽詰まって出た言葉。

身体を離したいのに抱きしめられて道明寺の手のひらがそっと私の髪に触れる。

顔を上げたくないのに、道明寺の指先が私のあごのラインをツーッとつかんだ。

そして私の唇を形のいい指先がそっと触れてなぞる。

「わーーーっ!待った!」

場には不似合いな奇声じみた声を上げてしまってた。

「なっなにっ!」

すっとぼけたような表情で道明寺が見つめてる。

私の反応は予想外でどうにも受け入れられないようだった。

「なに考えてんだ!」

「それが俺に見せる態度かっ」

「朝からすることじゃないでしょう!」

「ただでさえ、朝方まで寝かせなかったくせに!」

自分で言って真っ赤になって言葉がつまった。

「と・・・とにかく今は・・・落ちつこう・・・」

道明寺に言っているのか自分に言い聞かせてるのか分からなくなってくる。

道明寺から飛びのいて抱きしめられない位置を確保した。

「とにかく、今日はなにをするの?」

気分をそらすつもりで話題を変えた。

「なにも考えちゃいねェよ」

「お前と過ごせればいい・・・それだけだ」

声のトーンが少し低めで不機嫌さを含んでる。

「二人きりでいるのは夜までお預けだ」

「・・・だから・・・」

「もう少しお前を感じていたい」

「ただそれだけ・・・」

「・・・ダメか?」

愁いの帯びた目で見つめられて道明寺が1歩、足を進める。

拒否している自分が悪者になってる気分。

うまい具合に甘えて来ては道明寺は自分の気持ちをグッと私に押しつけている。

「それじゃ・・・1分だけ・・・」

「ダメだ・・・10分・・・」

道明寺の腕が私の身体を囲い込む。

そして・・・

力強く抱きしめられた。

逃げられないようにソッとギュッと。

続きは 花に嵐のたとえもあるが・・10 で

甘アマを期待されていた方には申し訳ない。

だらだらと流れているような気配もあるような・・・・(^_^;)

大体この手の場面を書くのって普段の倍はかかるんです。

これだけでも疲れるわ~

拍手コメント返礼

nanako様

帰省お疲れさまでした。

もともと地元の私は実家も車で30分程度で夏休み中は行ったり来たりとしております。

うちの子は小学5年です。

花男のドラマもしっかり見てましたが最近は韓国のドラマにはまっていますね。

夏休みももう一頑張りお互いに頑張りましょう!

ありがとうございました。無事書き直すことができました。

koko様

応援メッセージありがとうございます。

これからもがんばります。