第2話 抱きしめあえる夜だから 7
*-From 1-
つくしに会えるまであと5分・・・
そんな距離ならどんなにいいか。
はやる気持ちを押さえながら取引先の重役とにこやかに握手を交わして飛行機に飛び乗った。
「ずいぶんと仕事がはかどりました」
俺の横で涼しい顔を見せる西田を苦々しく見つめた。
てめぇが帰さないからだろうがッ!
なにが「嫉妬せず大きな気持ちでお見守りください。時としては寛容なお姿も魅力となります」だっ!
飛行機が飛び立つと同時にムカムカとした気持ちも立ち昇る。
嫉妬心を押さえつけるのは身体に悪い。
あいつらもつくしのことになるとなぜあんなに行動が早い?
おれには忙しいとか時間がないとかもったいつけるくせにッ!
気にくわねェーーーーッ。
収縮した時間は半日程度。
予定よりは丸1日帰国が早まる予定だ。
帰り着くのは土曜の昼前。
今までに溜まった鬱憤は1日程度じゃ収まらない。
満足するまで会社に出社しないとかもありか?
つくしにはあんまいい顔されないだろうけど・・・
類や総二郎にあきら・・・
俺の留守中に会ったこと突きつけたらどんな顔をするのだろう。
困って焦って「ごめんなさい」と謝ったらいい展開に持ち込めそうだ。
「嫉妬せず大きな気持ちでお見守りください。時としては寛容なお姿も魅力となります」
西田の言葉がふと頭をよぎって消えた。
空港につくしの迎えの姿はない。
驚かそうと帰国が早まったのは連絡を入れなかった。
そっと帰って後ろから目隠しして「ただいま」と抱き寄せて・・・
あいつの表情が驚きから喜びに変わる。
それを浮かべてニヤつく俺って・・・
まるでおっぱい恋しがってるガキじゃねーか。
或る意味あたってるかとまたニンマリ。
車の助手席に座る西田が「コホン」と見かねたように咳した。
いない・・・
いない!いない?
いねーーーーーッ!
ソファーの上のクッションまでずらして探し回る姿はハイエナの様だど西田が苦笑した。
「つくし様はご実家です」
「あっ!」
知ってるんだったら早く言え!
俺の反応を予測して対応する西田。
落ち着き払った顔がいつにもまして憎々しい。
「2日ほど前から里帰りされてます」
「なんで?」
「さぁ・・・・」
表情変えずに西田がつぶやく。
まさか・・・
おれがSPつけたのに怒って出て行ったとか?
逐一あいつの行動を報告させてたのがばれたとか・・・
あいつに知れたらへそ曲げられそうな負の作用。
そんなことあるはずねぇと否定しながら焦ってる。
「俺に愛想尽かして出て行ったんじゃねーよなッ」
なにを西田に確かめてるのか・・・
背中にツーッと汗が伝う。
「早くお迎えに行かれた方がよろしいかと思います」
訳知り顔で西田がつぶやく。
「お前・・・なにか知ってるだろう?」
「愛想はつかされてませんから御心配には及びません」
詰め寄る俺を能面見たいな読めない表情で西田がさらりと交わす。
「行ってくる」
「いってらっしゃいませ」
頭を下げる西田の唇が「クスッ」と微かに開いてすぐに閉まった。
-From 2-
いない・・・
いねぇーーーーーッ!
なんでここにもいない!
築20年以上は経ってるであろうこじんまりとしたアパートの2階を睨むように立っていた。
ドアのベルを鳴らして出てきたのは見知らぬおばさん。
「つくしはどこだ!」
言った途端に迷惑そうな顔してドアを閉められた。
「・・・あのう・・・司様」
「つくし様はここにはいらっしゃいませんが・・・」
「あっ!」
運転手の里井が小さくなりながら遠慮がちに口を開いた。
「お前知ってんのか?」
「私がご実家までお送りしましたから」
「里井なんでお前そんなに震えてるんだ」
今にも火を吹いて暴れ出しそうな雰囲気ですって・・・
俺はゴジラじゃねーぞ。
「久しぶりに手のつけられなかった頃の坊ちゃんに戻られたのかと・・・」
「今はそんな馬鹿じゃねーよ」
言った口元が苦笑する。
「さっさと案内しろ」
早送りで里井が運転手席に飛び乗る。
SPが開けた車の後部席にドカッと俺は腰を下ろした。
着いたところはチッセー2階建ての真新しい家。
前のアパートよりは広そうだが俺の部屋にスッポリと収まりそうな広さ。
玄関の表札に牧野の文字。
晴男・・・
千恵子・・・
進につくしって・・・・
なんでつくしの名前まで書いてあるんだ?
つくしの出戻りに対応してるなんてことはねぇよなッ。
不安と不満が顔に出そうになって隠す様に一息呼吸を整える。
ベルを押してインターホンの向こうから「は~い」の声が聞こえて固まった。
バタバタ、ドタッ!
何の音だ?
慌ててつくしがこけた!?
・・・・・そんな感じ。
おれが急に帰ってうれしくて焦ったとか?
かわいいよなぁ。
頬が自然と緩む。
開いたドアの玄関先現れたのお義父さんと義弟。
つくしは・・・
いない?
「つくしは来てませんか?」
にこりと笑みを作る。
「来てるけど・・・ここにはいません!」
なんか日本語おかしくないか?
来てていないってどういうこと?
俺に会いたくないとかぁぁぁぁぁぁ。
「つくしどこだッ!」
血相変えて家の中に飛び込む。
「兄さん!靴!」
「おう!スマン」
慌てて靴を脱いで玄関先に投げ捨てた。
探し回るのにたいした時間もかからない5LDK。
どこにもつくしの姿が見当たらない。
「そんなに焦らなくても・・・」
進が俺の靴を玄関に並べながらニヤリと俺を見た。
「あ・・・焦ってなんかねぇぞ」
「つくしはママと買い物に行ってるよ」
オヤジさんにまで笑われてしまってる。
こんなだらしねーとこ見せてどーすんだッ。
「兄さんが姉さんの事を愛してるのしっかり確認したから」
ませた口で進に肩を叩かれた。
情けねーッ!
-From 3-
久しぶりにママと並んで歩く。
洋服にバックにアクセサリー。
結婚前と違ったのは結構買い込んだこと。
値段が安いのを探し回ったのは一緒だけど。
進を荷物持ちに連れてくればよかったと二人でぼやいた。
進じゃなくてもいいかとママがつぶやいて、数メートル後ろのSPにカタカタと近づいて紙袋を差し出した。
「ついて来るだけじゃ暇でしょう」とにっこり笑ってSPに紙袋を渡す。
すんなり受け取るSPも素直だ。
両手が塞がって私の身を守る役目は達成できるのか?
私が襲われる心配は米粒ほどもないだろうけどね。
SP使うママって、どこか貫禄がついてない?
「ママすごい」
「折角だから」フフっとママが笑って紙袋を抱え込むSPに視線を向けた。
しかし・・・
SP引き連れて買い物してるわりにはブランドの紙袋は見当たらず・・・
私が持っているのは大衆御用立の全国チェーン店のロゴ入り。
行きかう人は誰を護衛してるのかとキョロキョロとそれらしき人物を探してる。
見つけ出せずにSPをじっと眺めて首をかしげる。
私達もその中に溶け込んでしまっていた。
この生活も明日までだ。
明日になれば道明寺が帰ってきて、普段の生活に戻る。
実家の生活はホッと一息付けて生き返った。
私の根本はここなんだと思い出させてくれる。
ただ側に道明寺が居ないのはぽっかりと心の奥で寂しさが穴を開けている。
この服・・・
道明寺の持っているのに似てる。
ゼロは三つほど少ないだろうけど。
進に服を選びながら道明寺を思い出す。
はしゃぎながら淋しさがフッと顔を出し、それをママにばれないように飲み込んだ。
「道明寺さんに会いたくなった?」
「えっ?」
「そんな顔してるから」
「まあねぇ・・・でも明日は会えるから」
照れくさく笑った私にうれしそうにママがほほ笑む。
「パパが聞いたら悲しむかもねぇ」
「今日はパパが好きな、鶏の皮のパリパリ揚げにしよう!」
「肉の方もお願いします」
わざとらしく頭を下げてママを見上げる。
「今日はごちそうだね」
二人で腕を組んで仲良く交差点を渡る。
アイスクリーム3段重ねで歩きながらほおばる。
行儀の悪さも今は解除中。
「プルッ~」
携帯への着信音。
道明寺?
NYは今夜中じゃないの?
「もしもし」
不思議に思いながらボタンをプッシュする。
「今!どこにいるんだッ!」
鼓膜が破れそうな声が飛び出している。
携帯を耳から離して目線30センチ先で眺めてしまってた。
続きは 抱きしめあえる夜だから 8 で
司は新しい家の事を知らなくて以前のアパートで呆然とする行動
ち**様のコメントよりいただきました。
次はようやく会えるのかな司君?