第12話 ないしょ?ないしょ!ないしょ!? 1

*

-From 1-

西田さんからの私への携帯コール。

道明寺になにかあった?

んな訳ないか。

ついさっき道明寺と別れて見送った。

「会長がお会いしたいと、今から迎えに上がります」

突然の呼びだし。

身も凍る?

いや・・・

身が細る思いとはこのことか。

道明寺のお母様を目の前にしてギュと身体に力がはいる。

未だに緊張感のバリアが体中を包むのはどうしようもない。

「・・・あの・・・何のご用でしょうか?」

目の前でにっこりほほ笑むその顔をまんま信用できないから身構える。

敵対していた時の方が楽だった・・・

そう思えるようになった今日この頃。

最近急に私に対する要求が高度になったと思うのは気のせいか。

「お前を気にいってるからだ」

道明寺の言葉を素直に受け入れるほどまだ単純にはなれそうもない。

「たいしたことじゃないのよ」

道明寺のお母様がたいしたことじゃないと言って切りだして簡単だったためし・・・

あったっけ?

「もう一つ花嫁修業を加えていただこうと思っているの」

簡単でしょう?の重圧、威圧的な存在感が目の前に立ちはだかる。

私に最初から拒否権なんて存在しないのだ。

これまでもお茶にお花に英会話、一般教養の花嫁修業。

まだまだ道明寺の嫁になるには足らないらしいが、これでも学業に邪魔にならない程度の配慮はしてくれてるとは道明寺の言い分。

軽く笑う道明寺に「誰の為だぁぁぁぁぁ」と声を出さずにぼやいてる。

「2週間程度、道明寺の関連会社でつくしさんには働いてもらおうと思っているのだけど」

それがなんの花嫁修業?

会社で働けと言われても2週間でなにができると言うのだろう。

仕事も覚えられないままに終わるのがおちだ。

それで道明寺の嫁としては落第なんて言われたらどうする?

今さら妨害はないだろうけど・・・

何となく不安だ。

「司の婚約者としてではなく、裏から会社を見てもらおうと思ってるのだけど・・・」

「その方が普段見えないものが見えてくるでしょう?」

「はぁ・・・」

バイトの感覚で構わないからとにっこりほほ笑んで「司には内緒よ」と付け加えられた。

「心配いりませんから」

西田さんの配慮の態度にホッとしながら家路についた。

「ウソッ!」

どこが関連会社?

道明寺の本社ビルじゃないかぁぁぁぁぁぁ!

西田さんに連れてこられたビルの前。

あんぐり間抜け顔で大口開けてそびえ建つ巨大ビルを眺めてた。

これでどうやって道明寺に気がつかれずに仕事しろというのだろうか・・・。

最近は大学より本社で仕事していることの方が道明寺は多い。

すぐにばれそう・・・

不安げに西田さんを眺める。

「坊ちゃんには滅多に会わないと思いますから」

人の感情を読み取るのはさすがだ。

西田さんに促されてビルの中に足を踏み入れた。

行きかう社員が立ち止って軽く西田さんに頭を下げる。

向かったのは地下1階。

与えられた仕事はビル内の清掃だった。

勤続30年のベテラン清掃員のおばさんに西田さんの姪っ子のふれこみ。

「よろしくお願いします」

道明寺トップの第一秘書に頭を下げられておばさんが目を見開いて固まった。

「秘書さんの姪御さんならいくらでもバイトあるだろうに・・・」

「姪と言ってもうちは貧乏でバイトしないと生活できないんです」

取り繕う様に言い訳してた。

・・・まあ貧乏なのは嘘ではないし清掃のバイトなら経験積みだ。

事務の仕事を回されるよりは私には合っていそうな気がしてきた。

「何でもやりますから、よろしくお願いします」

元気だけがとりえみたいな必死さで頭を下げる。

作業着に着替えて頭に三角布巾。

かぶれば道明寺総帥の婚約者なんて誰も思わない。

着替えなくても誰にも認識はされないだろうけど。

モップと掃除用品の入ったコンテを持って戦闘開始。

道明寺には会いませんように祈る気持ちでおばさんの後を追いかけた。

*

-From 2-

最初に向かったのは洗面所。

ホテルの洗面所に引けを取らない立派な造り。

「慣れてるね」

掃除婦の先輩からお誉めをいただき一人で大丈夫そうだからとあとを任された。

高校の時からいろいろやったバイトがこんなところでも役に立つ。

洗面所の鏡を布で拭いて仕上げに入る。

そこに数人の女性社員が楽しそうに喋りながら入ってくる。

邪魔にならないように隅っこに移動した。

「きょう見た?」

「見た!」

「いいな~見れて」

鏡の前でうっとりした表情を作ってる一人の女性。

なにを見た?

会社の中で見て喜ぶものがあるのだろうか。

「司様~」

一瞬身体がカックとなった。

どうみょうじ?

耳をダンボにしながらも手はしっかりと働かす。

「エレベーターに乗り込むところがチラッと見えたの~」

「いつ見てもカッコイイよね」

「目の保養~」

ノリの会話はアイドルの賛美を聞いてる様だ。

「司様の彼女ってどんな人なのかな?羨ましい」

「学校の後輩でしょう?」

「英徳かぁ・・・」

「お嬢様、お金持ち、美人って感じだよね」

話が私に移動してドキッとなった。

お嬢様・・・

お金持ち・・・

美人・・・

全然違う道明寺の彼女の想像図。

洗面所を掃除してる私が正真証明の彼女でそれも婚約者。

豚に真珠?

ばれることはないのだから焦る必要はないのだがドッと汗が吹き出しそうだ。

誤魔化す様に鏡の面を力いっぱい拭きあげる。

出て行きたくても話の続きが気になって洗面所の中を掃除のふり。

「大人の魅力で対抗?」

「あなたじゃ無理でしょう?」

「わ~ひどい」

「まあ見てるだけでいいんだけどね」

キャハハと笑いながら化粧を直し終えた女性社員は出て行った。

へたりこむ様な喪失感。

道明寺の彼女が私だとばれたらやばくないか。

対抗意識満々になられそうだ。

くたくたな気分で次の掃除場所へと向かう。

モップで拭きあげる10階の廊下。

まだビルの建物の内部は把握中。

どこがどこかなんて分かる訳がない。

さっきと同じような会話が聞きたくもないのに耳の中に飛び込む。

結構な人気者の道明寺。

道明寺が今どこにいるかは聞こえる会話から割り出せるほどの情報網。

今10階の会議室って・・・

それを知ってどーすんだ。

給湯室の前では誰がお茶を運ぶかで会議中。

なんだかムッとなった。

きっとここで道明寺に会ったら無視してしまいそうな気分だ。

そんでもって道明寺はいま10階の会議室。

会議室は給湯室と横につながっている。

私はその廊下を掃除中。

ゲーーーーーッ!

ヤバイ!

会ったら大変!

初日からご対面でバイトのことがばれる展開?

でも・・・

なんでここのバイトのことがばれたらヤバいのだろう。

今の状態じゃ、道明寺にばれるより給湯室で火花を散らし合っている女性陣に私の存在がばれる方が危なそうだ。

遠くに見えるエレベータ。

チンと開いて降りてくる10名程度のスーツ軍団。

先頭には見なれたクルックル天パー。

真面目な顔した道明寺!?

ーーーーーーー迫っていた。

まだ会議室の中に入ってなかったのかぁーーーーッ。

モップ片手に思わず飛び込んだ給湯室。

黄色い声がぴたりと止まり気まずさ漂う無言地帯。

誰?なに?どうした?

邪魔っ!

驚きが非難気味の目線にかわっていくつもの冷たい視線を向けられていた。

-From 3-

「給湯室の掃除が終わってなくって、すぐ出て行きます」

道明寺が会議室に入ったらだけど・・・。

それまで後何秒?何分だ。

どう取り繕って時間を稼ぐ?

「邪魔だからどいてくれる」

返事をする間もなくドンと給湯室の奥の方に追いやられる。

目の前には隣の部屋に続くドア。

廊下側のドアは薄く数センチに開けられて下から上に頭が4つ並んでた。

どうみても盗み見状態。

横から金槌でポンと打って転がすゲームなかったけ・・・

「キャー!来るよ」

「しぃッ!」

騒ぎだす一番上の頭を下の方からたしなめる声。

「わーっ!目の前1メートルを通った」

「これだけでも満足だわ~」

バタンと閉まった給湯室の中で手をとりあって飛び上がって喜んでる。

呆れるようにポカンと見てしまってた。

「コホン」

私の後ろのドアが開いて咳ばらいが一つ。

振り返ってギョッとする。

「なにをしてるんです?」

その声にサッと色が変わったのは私よりも女性社員集団。

こそこそと気まずそうに隣の部屋へとクモの子を散らす様に移動する。

私の目の前には西田さん。

「道明寺にばったり会いそうだったから咄嗟に・・・」

「もう心臓が持ちませんよ~」

「鉢合わせしなくてよかったですね」

何でもない様な顔でさらりとかわされた。

「どうして道明寺にバイトの事ばれたらいけないんですか?」

「分かりませんか?」

私に道明寺の御母さんの考えなんて読める訳がない。

西田さんにからかわれてる様な気分になってきた。

「このビルでバイトをしてるって坊ちゃんが知ったら自分の秘書につけろとダダをこねられそうですから」

「そうなったら私の仕事がなくなります」

仕事がなくなる?

そんなことあるはずない!

西田さんの笑えないジョークに私の顔が強張る。

笑えない・・・

西田さんのジョークも、私がこのビルでバイトをしてると知った道明寺の予測出来る反応。

ありえそうじゃないかぁぁぁぁぁ。

ソウナッタラ・・・

私の横に道明寺が四六時中張り付いて・・・

好き放題ベタベタされても困るというもの。

周りの注目かき集め、羨望!誹謗!中傷!学生時代の噂話以上に翻弄されそうだ。

バイトになんかなりそうもない。

「ばれないように頑張ります」

思わずガッツポーズで拳に力を入れる。

「よろしくお願いします」

「今は坊ちゃんは会議室にいますから見つかりませんよ」

西田さんが給湯室前のドアを開く。

・・・と同時に「西田!」と聞きなれた声に背中が凍る。

「只今参ります」

返事をしながら西田さんが早く行くようにと視線で合図を送った。

続きはないしょ?ないしょ!ないしょ!?  2 

mebaru様のリクエストにお答えしたバイト編です。

よく他で見かけるOL編、司の秘書編、と一緒ではおもしろくないのでこんな設定にしてみました。

司に見つからないように逃げ回るつくし~

どんなお話になる事やら~

楽しめそうと思われたらひとつ応援のプッチをFC2 Blog Rankingによろしくいたします♪

拍手コメント返礼。

リゲル様

司に秘密で働いているというのが重要です。(爆

つくしの反応どうするか楽しみなところではあります。

アンニョン様コメントありがとうございます。

励みになりました。

頑張ります!

ゆみまま様

今回はつくしちゃん&西田さん対司君の攻防戦と言う感じでしょうか。

楽しくハラハラな感じでお話が作っていけたらと考えいます。