第2話 抱きしめあえる夜だから 24
*-From 1-
ようやくベットから抜け出したのは太陽が真中に移動した昼過ぎ。
折角の旅行なのにと着替えを終えたつくしは口をとがらせる。
「新婚旅行はこんなもんだろう」
つぶやいたら枕が飛んできた。
「これじゃ家での休日と変わんない」
お前も楽しんでるはずじゃないのかよ。
口にしたらもう一つ枕が飛んできそうだ。
部屋を出て遅めの朝食じゃなく昼食をとる。
ホテルを出るのも億劫で選んだのはホテル内の和食レストラン
なんでも食べるあいつが「和食が恋しい」なんて冗談にしか聞こえない。
まだ日本を離れて3日目だぞ。
それでもあいつの希望をかなえる俺は言いなりだ。
ホテルをチエックアウトするつもりでフロントに向かう。
渡された伝言メモ。
西田からのものだった。
「必要なものはすべて別荘に揃えてあります」
必要最低限の何の表情も見せない文字が並ぶ。
ホテルに届ければいいものをそうしないのは西田らしい策略だ。
やっぱり抜け目ない。
これで俺たちの行き先は別荘に決まったようなもの。
俺たちの今日の居場所は西田の手の中。
きっと居場所が把握できなくなる前に手を打ったに違いないのだ。
ホテルを出れば迎えのリムジンが目の前に現れる用意周到さ。
顔なじみの運転手が車のドアを開ける。
ったく・・・
いいようにされてるじゃねぇか。
これ以上なんかしかけてきたら日本に帰らねえぇぞ。
ほざいてみても負け犬の遠吠えだよな。
つくしと24時間離れなくても済むことで妥協するしかねぇのかな。
なに弱気になってんだぁぁぁぁぁ。
Loa Ridge。
ワイキキから車で東へ約30分、小高い丘にあるハワイ有数の高級住宅地。
地区の入り口には警備員が24時間常駐で安全面もトップクラス。
「は~すごい」
つくしは感激してるのか呆けてるのかわかんない顔で街並みを眺めてる。
「ここ・・・めったに来ないんだよね」
「金持ちの考えはわかんないわ」
別荘についてからのつくしの反応。
「使わないと損だね」
損得の話じゃねぇだろう。
世界中にセカンドハウスいくつあると思ってんだ。
つくしの反応は予想通りだがいつも俺に笑いを提供してくれる。
オーシャンビューのお部屋から広がる海はマウナルワ湾
5ベッドルームに広々とした30畳の程のリビングにプール付き。
一番広いベットルームのClothes roomいっぱいの色とりどりのドレスにバックに靴に装飾品。
「こんなに必要ないじゃない」
呆れたように見入るつくし。
「選ぶのも大変そう」
困惑気味につぶやいてる。
「俺が選んでやるよ」
「夫婦で出席する世界への初めてのお披露目だからな」
「そんな緊張する様なこと言わないでよッ」
大きな目を必要以上に見開いてそして頬を膨らます。
「俺がついてるから心配すんなぁ」
「いつものお前でいればいいだけだ」
膨れた頬を両手で包み込む。
「タコになってんぞ」
「バカッ」
膨れた頬が弾けてほころんだ。
*-From 2-
夕暮れを見ながらリムジンが滑るように走る。
タキシードを着こんだ俺の横にはシルクのクリーム色の優しい色合いのドレスに身を包んだつくし。
左手の薬指には結婚指輪が光る。
ダイヤをちりばめた結婚指輪は目立ってしょうがないとつくしは仕事中は外してる。
俺ははめてるけどなッ。
うれしそうに指輪を見つめて指でそっと触って確かめてつくしがほほ笑んだ。
初めて結婚指輪をはめてやった時と変わらない表情。
その仕草がたまらなく愛しい。
ワイキキを東に進んで見えるダイヤモンドヘッド。
高級住宅地が立ち並ぶ一角。
似たような高級車が次々に門をくぐる。
「どこが小さなパーティ―なのよ」
騙されったって顔に表情が変わる。
「折角、可愛くなってるのにそんな顔すんな」
「でも・・・新婚旅行なのに・・・」
「まあ、今日ぐらいならいいんじゃねぇか?」
「西田にはもう邪魔すんなって言っといたから」
玄関に横付けされた車からつくしをエスコートして降りる。
俺たちを招待したフランス人の初老の男性が大げさすぎるぐらいの笑顔で出迎えた。
つくしも緊張の面持ちで軽く握手を交わして庭園のほうへと案内を受けた。
芝生の周りを囲むように植えられたパームツリーが南国の情緒を作り出している。
目の前にはダイヤモンドヘッド。
眺めながら腕を組んでゆっくりと歩く。
「俺たちが出席するのを聞き付けて予定より人が増えたらしい」
「それって・・・注目浴びてるってことだよね?」
「いつものことだろうが、慣れろ」
顔色が少し悪くなってんぞ。
余計なこと言ってしまったか・・・俺。
「俺の横でニコッと笑顔作ってればいいだけだ」
「笑えない・・・」
ひきつるように口角を上げるつくし。
「チュッ」
わざと音を立てるように唇を吸う。
「なに!突然」
「これで顔色良くなったぞ」
「緊張もほぐれたろう?」
「だからって・・・いきなりキスしないでよ」
顔色が青から赤に完全に変わった。
「Domyoji!」
緩みかけた俺の表情を力を入れて元に戻す。
握手を求めてきたのは知らない顔。
そしてまた握手を求められる。
形ばかりのあいさつに自己紹介を繰り返す。
俺の横に立つつくしの腰を抱いて妻だ紹介する。
高揚する気持ち。
知らない相手にも妻だと紹介する気分は半端じゃなく、飛び上がるぐらいに上昇しそうだ。
今までこんな機会なかったもんな。
表情を引き締めることなんてできなくなっていた。
つくしも慣れたようで握手とあいさつの言葉を英語で繰り返す。
にこやかな笑顔で対応。
それを見つめてニンマリなる俺。
腰にまわす腕にも力が入る。
人込みから抜けるように歩いてパームツリーの木陰に身を隠す。
「うまく、やってるじゃないか」
「同じこと繰り返してるだけだと気がついたからねぇ」
フォーッとつくしが息を吐く。
「まあどこでもそんなもんだ」
「でも・・・疲れる。ひっきりなしに人が来るんだもん」
木の幹に背中を預けてつくしがつぶやく。
「一つだけ、いい方法があるぞ」
「相手しなくていい方法」
「何?」
パッと明るい色がつくしの顔を彩る。
「俺たちがひとが近づけないくらいイチャイチャしてれば遠慮するだろう」
「新婚だしな」
「あっ」と言って、開いた唇にそのままキスを重ねて抱きしめた。
逃がさねぇよ。
続きは 抱きしめあえる夜だから 2525 で
最近こちらのお話思うように更新できていません。
なかなか思いつかなくて・・・・
少し焦り気味。
まだ旅行は終わんないんだよな(^_^;)