イルの憂鬱 2

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-From 1 -

はぁ~やっと息がつける。

そうとでもいう様にユーリは澄みきった青空に届けとでも言う様に思い切り腕を伸ばした。

結婚式も済んで正式な『タワナアンナ』となった。

妊娠も分かって物語ならこれでハッピーエンドのはずなのに・・。

物語みたいに単純には行かないものだとつくづくユーリーは思った。

今の自分の置かれてる状況を後悔するつもりは毛頭ない。

カイルは優しすぎるくらい優しいし・・・

毎晩のように麝香の香りに包まれながら眠る夜。

耳元をかすめる規則正しい寝息に安心しきってる眠る幸福。

どれもがすべて待ち望んでいたことだ。

でも・・・

束縛される感覚!

やだーーーーー。

周りの心配の度合いに押しつぶされそうになる。

下手したらどこに行くにもカイルが抱き上げて連れて行こうとする。

何か自分やろうとするたびに察知して動こうとする女官たち。

その筆頭は言うまでもなくハディーだ。

少し腰を浮かすだけで飛んでくるんだもんなぁ。

今日も朝から浮かした身体をすぐに沈めてユーリはため息をつく。

「少し散歩する」

このままじゃ体がなまると後宮から出したがらないハディーを説得してユーリは部屋を出た。

「それじゃお伴します」

「あのね、一人でゆっくりしたいんだけど」

「遠くには行かないから、お願い」

「少しだけですよ」

甘えた様な幼い表情を見せるユーリにハディは妹を甘やかす姉の心境になってしまう。

「何かかったらすぐに呼んで下さいね」

念を押しながら一人で部屋を出るユーリを見送った。

後宮の中の庭園。

色とりどりに植えられた花。

時折聞こえる鳥の鳴き声。

行動派のユーリーにとってはすぐに飽きてしまう空間でしかない。

おとなしくしてるって限界がある。

正直言って花にも鳥の鳴き声にも興味がない。

ただ穏やかだと平穏な日々を感謝するだけだ。

ふと目の前に見える後宮との境目の入り口。

そこを抜ければカイルが政務をとりしきる空間。

人の出入りも多くなる。

もう少し歩いても大丈夫だよね。

宮廷の中なら問題ないはず。

そんな軽い気持ちで距離を一人伸ばして後宮の外へとユーリは向かった。

目の前に広がる草原。

馬の群れが牧場を駆け巡る。

黒く輝くすらりとした体躯。

ユーリを見つけたアスランがうれしそうに大きく一声いなないた。

「ユーリ様」

ユーリの出現に慌てたようにキックリが駆け寄り膝をついた。

アスランに会いたくなってきちゃった」

「お一人ですか?」

キックリがユーリの周りに女官がいないことを確かめて怪訝な表情をつくる。

「皆忙しそうだから・・・」

「女官はユーリ様のお世話をするために居るのですから、抜け出したら大変な騒ぎになりますよ」

「ハディには散歩するって言ってきたから」

「散歩にしては遠すぎます」

やっぱりユーリ様だと深くキックリはため息を漏らした。

二人の合間に入る様に柵の向こう側からアスランが長い顔を突き出す。

そしてユーリに甘えるように鼻先をユーリの頬に寄せた。

「現金だなこいつ、ユーリ様を見ただけで機嫌が良くなる」

アスラン

ユーリがアスランのたて髪に顔を埋める様に頬づりして手のひらでアスランの長い首をなでる。

アスランが馬で良かった」

「人間なら陛下に殺される」

キックリの真面目な言い回しにユーリが小さく笑いもらした。

アスランがユーリの乗れと言う様に首をブルッと2、3度大きく振り上げる。

「乗れっていうの?」

ユーリの言葉にアスランは上下に首を動かす。

「少しくらいなら大丈夫かな?」

「ユ・・・ユーリ様ダメです!」

キックリが止める間もなく颯爽と馬上に身を置くユーリ。

「ユーリ様!!!!!」

「少しだけアスランに付き合うね」

慣れた手綱さばきでアスランを操り駆けだすユーリ。

ユーリを追いかけようとしても追いつけるものではない。

見る見る遠ざかるユーリを茫然と見送るキックリの表情から顔色が消えていた。

すいません(^_^;)

天河の更新はのんびりになってます。

最近「姉系プチ」連載の「夢の雫 黄金(きん)の鳥籠」は舞台が16世紀オスマントルコです。

【あらすじ】

16世紀、ウクライナのルテニアという貧しい村の教会の娘として生まれたアレクサンドラ・サーシャ。

ある日、村が突然タタールの盗賊に襲われアレクサンドラは奴隷として捕まってしまう。

アレクサンドラは奴隷として売られるのが嫌で奴隷商人の元を逃げ出し、マテウスというギリシャの商人と

名乗る男に会い、奴隷商人の元へ戻ったほうがいいと言われ連れ戻される。

その後、アレクサンドラは奴隷市場で競りに出され2000アクチュという高額で買ったのがマテウスだった。

マテウスの屋敷に連れて行かれたアレクサンドラは知識と教養を学ぶチャンスを与えられる。

次第にマテウスに好意を抱くアレクサンドラ。

ある日、マテウスはアレクサンドラにヒュッレム(朗らかな声)という名を与え、アレクサンドラを自分の主に献上する言う。

マテウスを好きなアレクサンドラはショックを受けるがその主とはオスマン帝国皇帝のスレイマン10世。

マテウスはイブラヒムと皇帝から呼ばれており、彼の側近だった。

そして、アレクサンドラは皇帝の側室となり、後継争いに巻き込まれていくことに~

携帯でも読めるみたいです。

少し天河に近いのかなと期待気味です。