下弦の月が浮かぶ夜 48

*

本当に好きなものは諦められない。

それは恋愛には当てはまらないと思っていた。

想いを強いてしまえばそれは独りよがり。

一方通行。

押し付けるだけの気持ちなんて相手無視の低俗だ。

恋を楽しむことなんて出来なくなる。

楽しむだけが恋じゃない。

司と牧野を見ていて初めてそう知った。

思う気持ちは自分でどう足掻いても思い通りにすることなんて出来ないのだから。

『しのぶれど 色に出でにけり わが恋(こひ)は

     ものや思ふと 人の問ふまで』

平兼盛の詠んだ歌を自分にあてはめる。

今気になるのは東條葵。

一之瀬にはわかるほど表情には出てたんだろう。

「恋の想いごとでもしているのですか?」

歌の様に人に尋ねられて気がつく。

本当に好きになったものは諦めきれるものではないと。

ここから俺と葵の関係は変れるのだろうか?

「俺もこっちの席にする」

東京発香港行き朝の便。

ビジネスクラスの葵の席の隣に座る男にファーストクラスのチケットとの交換を申し出る。

なんなくその席を勝ち取った。

「なに考えてるんですか?」

葵は眉の間にしわを寄せる。

そこまで迷惑そうな表情作る必要有りか?

知らない男が香港までの数時間一緒って方が迷惑だろう?

迷惑じゃないって言われたらそれまでだと言葉を飲み込む。

「一緒のクラスにしようと言うのを断ったのはお前だ」

「経費削減ですから、ビジネスクラスも本当は断りたい気分なんです」

うつむき加減に下がる葵の頭頂部。

膝の上に置かれた指先は落ち着きなくもじもじしてる感じで動いてる。

隣に座る俺から腰を右にずらす葵。

座席にそこまで余裕のある幅はない。

戸惑いの中にうれしそうな表情を見つけてドクンと心音が一つ聞こえる。

なんとなく。

こいつの俺に見せる態度、表情が愛しく思えるのだからそれがやけに新鮮だ。

「だから俺がランクを落とした」

「ファストとビジネスを交換する人ってよっぽどの奇特な人ですよ」

「それに、経費削減にはなってません」

非難する様な色合いじゃなくしょうがないとでもいう様に葵の口元がわずかにほほ笑む。

滑走路を動きだす飛行機。

窓から景色を眺めるふりで葵の横顔を自然と眺めてた。

俺の視線に気がついたように首を横に向けた葵がなに?と問いかけるように首をかしげた。

「・・・朝の返事を聞いてない」

今までならこんな場面で告白の返事を問いたださない。

言葉が出てきたのはそのことがずーと心の大半を占めてたからにほかならない。

なにを血迷ってるのか。

言った言葉を呑み込みたい!

そんな気分になった。

「えっ!」

「あっ・・・」

「返事って・・・ここで?いま?」

緊張した面持ちの色気のない顔が困ったように口をつぐむ。

どうやら嫌われてはいないようだと感じた瞬間に生まれる心の余裕。

肘かけに置かれた葵の手のひらを覆う様に自分の手のひらを重ねた。

一瞬びくっとなった手のひらは抗おうともせずそのまま互いの温もりを伝えあう。

まるで心音まで重なったように感じてた。

飛行機が上昇して離陸した後にぽつりと葵の声が聞こえた。

「私も・・・好きかも・・・」

俺の重ねた下の葵の手のひらがその中でギュっと拳を作る様に形を変えた。

そのままそれを包み込むように俺の手のひらも形を変える。

「今から仕事って言うのが残念だ」

俺の言葉にうつむいたままの葵の顔が真正面に上がって俺を凝視する。

仕事じゃなきゃどうなる?みたいに考えてるのが簡単に分かる。

焦ったように目を白黒させていた。

やっぱおもしれぇ奴。

ここまで気分を盛りあげて♪

香港ではきな臭いことを考えてる私。

あっ・・・

ここでこの話を一旦終了。

一応両想いにはなったと言う事で♪

強引かな(^_^;)

拍手コメント返礼

b-moka

いつもみたいに終わりました~じゃないんでよね。

今回はまだまだ続きそうなのでここで一区切りと言う感じでしょうか。

続きは新章でUPしましたので同様に楽しんでもらえるといいのですが(^_^;)

hanairo様

そうなんです。

きな臭いお話が~

どうなるの?みたいなハラハラ感で楽しんでもらえればいいでしょうか。

まあ私の書くものは根本的にはhappyなんですけどね。

しずか様

あきらも普通の恋愛してますね。

司の様に反対はされないし、気持ちが固まればゴールは見えてるんですけどね。

続きも始まってるので楽しんで頂けると嬉しいな。